部屋の隅に長年しまい込んでいる古い道具はありませんか?
実は、古くなった道具には魂が宿り、妖怪に変化することがあると昔の人々は信じていました。
特に恐ろしいのが、修行者が使っていた道具が化けた姿です。山伏の背負い箱が、炎を吐く恐ろしい妖怪に変わったという伝説があるんです。
この記事では、道具の怨念が形になった付喪神「笈の化物」について、その奇怪な姿と恐ろしい伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

笈の化物(おいのばけもの)は、山伏や行脚僧が使っていた笈(おい)という道具が、古くなって妖怪に変化したものです。
笈というのは、修行者たちが仏具や衣服などを入れて背負う、脚と両開きの扉が付いた箱のこと。現代で言えば、特殊なバックパックのようなものですね。
この妖怪が記録されているのは、『本朝続述異記』や『絵本武者備考』といった江戸時代の文献です。
笈の化物は付喪神(つくもがみ)の一種とされています。付喪神とは、器物や道具が百年を経て霊を得て、心を持つようになったもののこと。中世の書物『付喪神記』には「器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心をたぶらかす、これを付喪神という」と記されているんです。
つまり、長年使われた道具が持ち主に忘れられたり、粗末に扱われたりすることへの悔しさや無念さから、妖怪に変化してしまうというわけですね。
伝承
足利直義の館に現れた恐怖の姿
笈の化物にまつわる最も有名な伝承が、足利直義(あしかがただよし)の館での出来事です。
足利直義は室町幕府を開いた足利尊氏の弟で、鎌倉時代から室町時代にかけて活躍した武将。そんな権力者の館の寝室に、この奇妙な妖怪が現れたというんです。
笈の化物の恐ろしい姿
記録によると、笈の化物の姿はこのようなものでした。
笈の化物の特徴
- 頭部: 笈(背負い箱)の形をしている
- 顔: その上に山伏のような人の顔がある
- 脚: 鷹のような猛禽類の脚を持つ
- 武器: 口に折れた刀をくわえている
- 能力: 火を吐く
まるでいくつもの要素が組み合わさった、異形の存在だったんですね。
修行に使われた道具だけあって、山伏の要素が残っているのが興味深いポイントです。
なぜ妖怪に変化したのか
笈の化物が現れた理由は、おそらく長年の放置や粗末な扱いにあります。
人間の都合で家の奥にしまわれたり、放置されたり、あるいは捨てられると、道具たちはその悔しさと無念さで化けて出るのです。
昔の人々は、使い終わった道具に感謝し、定期的にお祓いをして清める習慣がありました。もしこれを怠ると、道具が怨念を抱いて付喪神になってしまうと考えられていたんです。
笈の化物も、きっと長年の修行で山伏と共に歩んできたのに、役目を終えた後は忘れ去られてしまったのでしょう。その無念さが、あのような恐ろしい姿を生み出したのかもしれません。
まとめ
笈の化物は、道具に対する感謝と敬意の大切さを教えてくれる妖怪です。
重要なポイント
- 山伏が使う背負い箱「笈」が化けた付喪神
- 足利直義の館に出現したという記録が残る
- 笈の形の頭に山伏の顔、鷹の脚という異形の姿
- 口に折れた刀をくわえて火を吐く恐ろしい能力
- 道具が百年経って化ける「付喪神」の一種
- 粗末に扱われた道具の怨念が形になった存在
物を大切にするという日本人の精神は、こうした付喪神の伝説からも読み取れます。今でも古い道具や人形を供養する習慣が残っているのは、こうした考え方が根付いているからかもしれませんね。
あなたの家にも、長年使っていない道具はありませんか? たまには感謝の気持ちを込めて手入れをしてあげると、妖怪に化けることはないでしょう。


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