海辺の家で夜を過ごしていたら、窓の外に怪しい目が光っていた…そんな恐ろしい体験をしたことはありますか?
日本の沿岸地域には、海から現れる不気味な女の妖怪の伝説が数多く残されています。
その中でも特に印象的なのが、赤ん坊を抱きながら人間を襲う「海女房(うみにょうぼう)」なんです。
この記事では、島根県出雲地方を中心に伝わる恐ろしい海の妖怪「海女房」について、その正体や特徴、語り継がれてきた伝承を詳しくご紹介します。
概要

海女房(うみにょうぼう)は、島根県出雲地方を中心とした日本の沿岸地域に伝わる海の妖怪です。
「海夫人(うみにょうぼう)」とも呼ばれ、磯女(いそおんな)という海辺に現れる女の妖怪の仲間に分類されています。
海女房の基本的な特徴
最も大きな特徴は、赤ん坊を抱いているという点なんですね。人間の言葉を話すことができる個体もいるとされています。
外見については、いくつかの描写が残されています:
水木しげるによる描写
- ずんぐりと太った体型
- 全身に鱗(うろこ)がある
- ひれを持つ半魚人のような姿
- 魚を食べている姿で描かれる
民間伝承での描写
- 長い髪を持つ
- 人間のような顔つき
- 全身が鱗で覆われている
- 指の間に水掻きがある
- 陸上でも数日間は生き続けられる
海女房の正体
海女房の正体については、いくつかの説があります:
- 海で溺れ死んだ女性の化身
- 海坊主の妻
- 人魚の異名(ただし、これは別物とする指摘もある)
磯女の仲間には凶暴な性質を持つ妖怪が多いのですが、海女房は人間を食べようとするという特徴があります。他の磯女は人を殺しても血を吸うだけとされているので、海女房は特に危険な存在なんですね。
伝承

海女房にまつわる伝承は、どれも背筋が凍るような恐ろしい話ばかりです。
島根県十六島の伝説
最も有名なのが、島根県平田市(現在の出雲市)の十六島(うっぷるい)という漁村に伝わる話です。
塩漬けサバを狙う海女房
ある漁師の家は、サバの豊漁に恵まれていました。保存のために樽にサバを塩漬けにして、上に重石を乗せて保管していたんです。
ある夜の出来事
老人が一人で留守番をしていると、明かり取りの窓のあたりに、何やら怪しい目が光っているのに気づきました。
ただならぬ気配を感じた老人は、急いで屋根裏へ逃げ込み、息を殺して様子をうかがうことにしたんです。
海女房の侵入
やがて、赤ん坊を抱いた化け物が家の中に入ってきました。それが海女房だったのです。
海女房は辺りを見回すと、サバの塩漬けが入った樽の前にやってきました。そして驚くべきことに、片手に赤子を抱いたまま、もう片方の手で重い重石を軽々と持ち上げたのです。
「子供にも食べさせなければ」と言いながら、自分も食べ、赤ん坊にもサバを食べさせていました。
恐怖の一言
やがて腹いっぱいになった海女房は、こう言い残して去っていきました。
「あの爺はどこへ行った。口直しに取って食ってやろうと思ったのに」
つまり、老人は海女房に食べられる寸前だったということです。屋根裏に隠れていなければ、命はなかったでしょう。
岩手県三陸海岸の悲劇
海女房の伝説は、遠く離れた三陸海岸にも残されています。
漁師たちの生首
ある村で、海に出た漁師たちが帰ってきませんでした。心配した妻たちが待っていると、人間に化けた海女房が現れたんです。
海女房が持参した風呂敷包みを開くと、そこには漁師たちの生首が入っていました。
「海で事故に遭って溺れ死んだので、運んできた」
この言葉を聞いた妻たちは悲鳴を上げ、悲嘆のあまり海へ身を投げてしまいました。
そして彼女たちもまた、海女房に化身したと伝えられているんです。
母と子の再会
海女房の伝説の中には、少し切ない話もあります。
離ればなれになった親子
ある少年の両親が事情があって離縁し、母親が家を去りました。残された息子は成長し、漁師となりました。
海での再会
ある日、彼が海へ出ると、海女房が現れました。
その海女房は、彼を目にすると涙を流しながらこう言ったのです。
「よく育ったな」
つまり、この海女房は海で亡くなった彼の母親だった、ということなんですね。
まとめ
海女房は、日本の海辺に伝わる恐ろしくも悲しい妖怪です。
重要なポイント
- 島根県出雲地方を中心に沿岸部に伝わる海の妖怪
- 赤ん坊を抱いた女の化け物の姿
- 磯女の仲間で、人間を食べようとする危険な存在
- 海で溺れ死んだ女性の化身とされる
- 人間の言葉を話し、怪力を持つ
- 鱗や水掻きを持つ半魚人のような外見
- 陸上でも数日間生き続けることができる
海女房の伝説は、海の怖さと、海で命を落とした人々への哀悼の気持ちが混ざり合った物語なのかもしれません。
もし夜の海辺で不思議な気配を感じたら…それは海女房が近くにいる証かもしれませんね。海での安全には、くれぐれも気をつけましょう。


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