静かな火山湖の水面に、突然現れる黒い影の群れ。
中国と北朝鮮の国境にまたがる天池という湖では、100年以上も前から「テンシー」と呼ばれる謎の巨大生物が目撃され続けています。
ある時は数十人の観光客が同時に目撃し、ある時は20頭もの群れで現れるという、このミステリアスな存在。
スコットランドのネス湖に棲むとされる「ネッシー」になぞらえて「チャイニーズ・ネッシー」とも呼ばれるこの生物は、果たして本当に実在するのでしょうか?
この記事では、標高2,000メートルを超える山頂の湖に棲むとされる謎の生物「テンシー」について詳しくご紹介します。
概要

テンシーは、中国東北部の長白山脈にある天池に棲息するとされる未確認生物(UMA)です。
天池は、中国と北朝鮮の国境付近に位置する白頭山のカルデラ湖で、標高約2,190メートルの山頂にあります。
「天池水怪(てんちすいかい)」という中国語名でも知られ、英語では「Lake Tianchi Monster」と呼ばれています。
ネス湖のネッシーと同じく湖に棲む巨大生物という特徴から、「チャイニーズ・ネッシー」という愛称もついているんですね。
目撃報告の歴史は長く、100年以上前の清朝時代の文献にもその記録が残されています。
特に1962年以降の現代では、ここ50年間だけで30件以上の目撃報告があり、時には数十人が同時に目撃するという事例も発生しました。
姿・見た目

テンシーの外見については、多くの目撃証言が寄せられていますが、その描写は報告によって若干異なります。
主な身体的特徴
- 体長:3〜10メートル(一部では20〜30メートルという証言も)
- 体色:黒っぽい色、または黒光りする背中
- 頭部:ウシ、ウマ、またはイヌに似た形状
- 顔の特徴:方形の頭頂部、角がある、カモのような口
- 首:長い首(約1メートル程度)、基部に白い環状の模様
- 胴体:ワニのような体つき
- 腹部:白い色
- その他:頭部や背中にこぶのような突起がある
興味深いのは、複数の動物の特徴を組み合わせたような姿だという点です。
日本の妖怪「鵺(ぬえ)」のように、いろいろな動物のパーツが混ざったような不思議な外見なんですね。
ただ、水中にいる姿や遠くから見た様子の証言が多いため、正確な姿を把握することは難しいのが現状です。
特徴
テンシーには、他の未確認生物とは少し違う独特の特徴があります。
群れで行動する
最も特徴的なのは、単独ではなく群れで現れることが多いという点です。
2003年7月の目撃例では、なんと20頭もの個体が一度に水中から現れたという報告があります。
2007年9月には、中国のテレビ記者が6頭の個体が並んで泳ぐ様子を20分間にわたってビデオ撮影したそうです。
記者の証言によると、「まるで誰かが号令をかけているかのように、すべてが同じペースで行動していた」とのこと。
ヨットのような速さで泳ぎ、時には全員が一斉に水中に消えるという、見事に統率された行動を取るんですね。
目撃者の多さ
テンシーは、未確認生物の中でも特に目撃者が多いことで知られています。
累計で1,000人以上が目撃したという記録もあるほどです。
2003年7月には、50分間に5回も姿を見せ、10人以上が同時に目撃しました。
2005年7月には、中国吉林省林業庁の幹部や多数の観光客が湖面に複数の点を発見し、同年8月には約40人の観光客が水中を泳ぐ生物を目撃しています。
これほど多くの人が、それも複数人が同時に目撃しているという点が、この生物の大きな特徴なんです。
観察された行動パターン
目撃者たちの証言から、テンシーの行動にはいくつかのパターンがあることが分かっています。
テンシーの行動
- 水面に頭や背中を出して泳ぐ
- 水中から複数回浮上と潜水を繰り返す
- 波紋を作りながら移動する
- ヨットのような高速で泳ぐことができる
- 群れ全体が同じ動きをする
伝承

テンシーの記録は、意外にも歴史が古いんです。
清朝時代の記録
最も古い公式記録は、1908年に書かれた『長白山江岡志略』という文献に残されています。
この書物を著した劉建封という清朝の役人は、天池を実際に調査し、次のような目撃談を記録しました。
数年前、4人の猟師が天池のほとりにいた時、水中から金黄色の生物が現れた。
その生物は頭が大きく、方形の頭頂部に角があり、長い首と多くのひげを持っていた。
頭を下げて水を吸うような動作をしていたため、皆が恐れて丘を登り始めたところ、轟音とともに姿を消した。
人々はこれを龍だと考え、天池を「龍潭」とも呼ぶようになった。
また、同じ文献には別の興味深い記録もあります。
1903年(光緒29年)5月、6人の猟師のグループが天池で鹿を追っていた時、水牛のような大きさの生物に遭遇しました。
その生物は耳をつんざくような吼え声を上げ、人に襲いかかろうとしたため、猟師の一人が銃で撃つと、生物は腹部に被弾して池に沈んだそうです。
すると突然、大きな雹(ひょう)が雨のように降ってきたといいます。
この不思議な現象も、伝説に神秘的な色彩を加えています。
現代の目撃事例
20世紀後半から21世紀にかけて、目撃報告は増加しました。
主な目撃事例
- 1962年8月21〜23日:望遠鏡で2頭が追いかけ合う様子を観察、100人以上が目撃
- 2003年7月:50分間に5回出現、10人以上が目撃、時には20頭が同時に現れた
- 2005年7月1日:中国吉林省林業庁幹部と観光客が複数の点を目撃
- 2005年7月7日:発電所職員が親子らしき黒い物体が3回水面に現れ、波紋を作る様子を目撃
- 2005年8月23日:約40人の観光客が水中を泳ぐ生物を目撃
- 2007年9月6日:中国のテレビ記者が6頭の生物を20分間ビデオ撮影
2007年の映像では、アザラシのようなひれを持ち、そのひれ(または翼)が体より長かったという証言もあります。
マスコットとしてのテンシー
興味深いことに、1993年には現地の長白山のマスコット・キャラクターとして「吉利」という名前で「天池怪獣」が選ばれました。
1995年には「地元民によって吉祥の神と崇められている」という説明とともに、「天池聖獣」の置物が制作・発売されたそうです。
恐ろしい怪物から、いつの間にか地域の守り神のような存在になっていったんですね。
起源
では、なぜ天池にこのような怪物伝説が生まれたのでしょうか?
天池の地理的特徴
天池は、火山活動によって形成されたカルデラ湖です。
その誕生時期については諸説あり、約300年前という説と、約1万年前という説があります。
いずれにしても、地質学的には比較的新しい湖なんです。
天池の基本データ
- 標高:約2,190メートル
- 水深:最大373メートル
- 面積:約9.8平方キロメートル
- 特徴:冬は氷に覆われるが、温泉帯があり部分的に氷が解ける
- 水温:温泉部分は常に42度を保つ
「冬は氷がなく、夏は浮き草がない」という言い伝えがありますが、実際には冬は厚さ1.2メートルもの氷に覆われます。
ただし、温泉帯では真冬でも湯気が立ち昇り、氷が解けているため、「温涼泊」という別名もあるんです。
なぜ怪物伝説が生まれたのか
高山の火山湖という特殊な環境が、伝説を生み出す土壌となりました。
伝説を生んだ要因
- 人里離れた神秘的な場所:標高2,000メートル超の山頂にある湖という特別な立地
- 視界の問題:霧や湯気が立ち込めやすく、見間違いが起こりやすい
- 生態系の変化:近年の魚の放流により、大型の生物が実際に生息するようになった
- 文化的背景:龍や神獣を信じる中国の伝統的な世界観
特に注目すべきは、朝鮮が1960年から魚の放流を行っていたという事実です。
2007年、当時77歳だった金理泰氏(朝鮮の専門家)は、1960年7月30日に自身が天池でマス9匹とフナ16匹の放流に参加したと証言しています。
その後も何度も魚が放流され、孤立した環境で独自の進化を遂げた可能性があるというんです。
2000年の調査では、体長85センチ、重さ7.7キログラムの「天池マス」が確認されましたが、湖の深い場所にはさらに大型の個体がいる可能性も指摘されています。
まとめ
テンシーは、中国と北朝鮮の国境にある天池に棲むとされる未確認生物です。
重要なポイント
- 100年以上の目撃の歴史を持ち、清朝時代の文献にも記録がある
- 体長3〜10メートル、黒い体色で、ウシやイヌに似た頭部を持つとされる
- 群れで行動するという珍しい特徴があり、時には20頭が同時に出現する
- 1,000人以上が目撃しており、未確認生物の中でも目撃者が特に多い
- 標高2,190メートルの火山湖という特殊な環境に生息するとされる
- 正体は巨大化したマスという説が科学的には有力
科学者たちは、火山活動の歴史がある湖で大型生物が生存できるか懐疑的な見方をしています。
実際には、放流されたマスが巨大化したもの、湖面を泳ぐクマ、水鳥の群れ、あるいは浮遊する火山岩の見間違いなど、さまざまな説明が可能です。
しかし、これほど多くの人々が、それも複数人が同時に目撃しているという事実は、単純に否定できない不思議さがあります。
もしかしたら、天池の深い水底には、私たちがまだ知らない何かが本当に潜んでいるのかもしれませんね。


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