雨の夜、神社の近くで不気味な火の玉が飛び回っているのを見かけたら、あなたはどう思いますか?
それはただの自然現象ではなく、罪を犯した老婆の亡霊かもしれません。
江戸時代の人々を恐怖に陥れた怪火「姥ヶ火」は、神社の油を盗んだり、幼い子供を売り飛ばしたりした老婆が、死後に火の玉となって現れたものだとされています。
この記事では、大阪府と京都府に伝わる恐ろしい怪火「姥ヶ火」について、その正体や各地の伝承を詳しくご紹介します。
概要

姥ヶ火(うばがび)は、河内国(現・大阪府)や丹波国(現・京都府北部)に伝わる怪火の妖怪です。
江戸時代の古書『諸国里人談』『西鶴諸国ばなし』『古今百物語評判』、そして鳥山石燕の妖怪画集『画図百鬼夜行』など、数多くの文献に記録されている有名な妖怪なんですね。
基本的な特徴
姥ヶ火の主な特徴は以下の通りです:
- 大きさ:約一尺(約30センチメートル)の火の玉
- 出現場所:主に河内国の枚岡神社周辺
- 出現時間:雨の降る夜
- 正体:罪を犯した老婆の亡霊
興味深いのは、この怪火の正体について諸説あることです。炎の中に老婆の顔が浮かび上がるという記述もあれば、実は鶏のような鳥だったという目撃談もあるんです。
妖怪研究家の水木しげるさんは、「正体は鳥だった可能性がある」と指摘しています。
伝承

姥ヶ火には、大きく分けて河内国(大阪府)と丹波国(京都府北部)の二つの伝承があります。
河内国・枚岡神社の伝承
最も有名なのが、大阪府東大阪市の枚岡神社に伝わる話です。
油泥棒の老婆
昔、枚岡神社に毎晩のように神灯の油を盗みに来る老婆がいました。
神社の灯油は神聖なものですから、それを盗むのは大変な罪です。やがて老婆は死んでしまいましたが、その罪のせいか、亡霊が怪火となって現れるようになったというんです。
不思議な目撃談
ある時、地元の人が夜道を歩いていると、どこからともなく姥ヶ火が飛んできて顔に当たりました。
驚いて倒れた人がよく見ると、火に見えたものは鶏に似た鳥だったそうです。
しかし、その鳥が遠くへ飛び去る姿を見ると、やはり火の玉のように見えたといいます。
もしかすると、青鷺のような大きな鳥が光を反射して、火の玉のように見えたのかもしれませんね。
恐ろしい言い伝え
『西鶴諸国ばなし』によると、姥ヶ火にはさらに恐ろしい特徴があります:
- 驚異的な速度:一里(約4キロメートル)をあっという間に飛ぶ
- 死の予兆:人の肩をかすめて飛ぶと、その人は3年以内に死んでしまう
- 消し方:「油さし」と叫ぶと消える
「油さし」という言葉で消えるのは、元々が油泥棒だった老婆の亡霊だからかもしれません。
姥ヶ池の伝説
現在の枚岡神社には、「姥ヶ池(うばがいけ)」という池があります。
これは油を盗んだ老婆が、その罪を恥じて身を投げたという伝説に由来するものです。
一度は土砂に埋もれて失われていましたが、大阪のボランティア団体が中心となって復元し、老婆の悲しい物語を後世に伝えています。
丹波国・保津川の伝承
京都府北部の保津川にも、別の姥ヶ火の伝承が残されています。
人攫いの老婆
亀山(現・京都府亀岡市)の近くに、ある老婆が住んでいました。
この老婆は恐ろしい商売をしていたんです。「あなたの子供を良い家に斡旋します」と親から金銭を受け取っておきながら、実際には斡旋などせず、子供を保津川に流して殺していたというのです。
天罰
やがて天罰が下ったのか、ある時の洪水で老婆は溺れ死んでしまいました。
それ以来、保津川には夜ごと怪火が現れるようになり、人々はこれを「姥ヶ火」と呼んで恐れたといいます。
この伝承からも分かる通り、姥ヶ火は罪を犯した老婆がなるものという共通点があるんですね。
まとめ
姥ヶ火は、江戸時代の人々に広く知られた恐ろしい怪火です。
重要なポイント
- 大阪府と京都府北部に伝わる有名な怪火
- 約30センチの火の玉として雨の夜に現れる
- 枚岡神社の油を盗んだ老婆の亡霊が正体
- 鶏に似た鳥だったという目撃談もある
- 人の肩をかすめると3年以内に死ぬとされる
- 「油さし」と言うと消える
- 罪を犯した老婆が火となって現れる伝承
- 枚岡神社には「姥ヶ池」が今も残る
神聖な場所の油を盗む、罪のない子供を殺すといった重い罪を犯した者への戒めとして、この物語は語り継がれてきました。
もし雨の夜に不思議な火の玉を見かけたら、それは姥ヶ火かもしれません。もしそうなら、すぐに「油さし!」と叫んでみてくださいね。


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