穏やかな春の海に、突然現れる巨大な影。島のように見えたり、大きな魚のように見えたり…でも近づこうとすると、まるで蜃気楼のように消えてしまう。
新潟県の粟島周辺の海では、古くからこんな不思議な現象が目撃されてきました。
地元の漁師たちが「うきもの」と呼んで恐れるこの怪異は、一体何なのでしょうか?
この記事では、海に浮かぶ謎の存在「うきもの」について、その特徴や伝承を詳しくご紹介します。
概要

うきものは、新潟県岩船郡粟島周辺の海に現れる怪異です。
5月から6月にかけての花曇り(桜の咲く頃の薄曇りの日)のような穏やかな日に、海上数里の沖合に突然姿を現すんです。
うきものの特徴
見た目の特徴
- 島のような巨大なものに見える
- 大きな魚のようにも見える
- 海面に浮かんでいるように見える
不思議な性質
- 出現する場所はほぼ決まっている
- 近づこうとすると消えるように見えなくなる
- 5〜6月の特定の天候の日によく現れる
地元では、魚群や海鳥の群れではないかという説もありますが、近づくと消えてしまうため、正体は謎のままなんですね。
海上の蜃気楼のような現象かもしれませんが、決まった場所に決まった時期に現れるという規則性が、ただの自然現象とも言い切れない不気味さを醸し出しています。
伝承

武士が遭遇した謎の影
江戸時代、新潟村上に松野純之進という侍がいました。
ある年の5月、純之進は粟島へ渡る用事があり、船頭に船を出させることになりました。
その日は薄曇りで波も静か。順調に海上を進んでいたときのことです。
突然、船頭が「あっ」と声をあげました。
「あんなところにうきものが……」
純之進が見ると、確かに海上に何か大きなものが浮かんでいるんです。
「島か?」
純之進が問うと、船頭は首を横に振りました。あんな場所に島はないというのです。
「巨大な魚かもしれません」
純之進は興味を持ちました。
「ふむ。見届けよう。近づいてくれ」
船頭は躊躇しましたが、純之進の命令には逆らえません。
船は徐々にうきものに近づいていきます。あと一息というところまで来たとき…
うきものは、まるで霧が晴れるように、跡形もなく消えてしまったのです。
うきものの出現パターン
地元の漁師たちの間では、うきものについてこんなことが語り継がれています。
出現条件
- 時期:5月〜6月が中心
- 天候:花曇りのような薄曇りの日
- 場所:出現する場所はほぼ決まっている
出てくる時期や場所が決まっているということは、海坊主のようなはっきりとした妖怪とは違うようです。
むしろ、ある特定の自然条件が揃ったときに発生する、海の不思議な現象なのかもしれませんね。
似た怪異との関係
実は、新潟県の他の地域にも似たような海の怪異が伝えられています。
佐渡市小田の「タテエボシ」
佐渡市小田では「タテエボシ」と呼ばれる怪異があります。
得体の知れない高さ20メートル以上のものが突如立ち上がり、船に倒れ掛かってくるというんです。うきものよりも積極的に船を襲う恐ろしい存在ですね。
北小浦の「タテオベス」
北小浦には「タテオベス」という怪魚が伝えられています。
剣のようなひれで船を突き破るという危険な存在で、見つけたら黙って逃げなければいけないそうです。
追い払うには節分の豆を投げつけるという、ちょっと意外な対処法があるんですよ。
シャチとの関係
興味深いことに、粟島ではシャチのことを「タテエビス」と呼ぶそうです。
このことから、タテエボシやタテオベスといった怪異は、実はシャチを見間違えたものではないかとも言われています。
うきものも、もしかしたらシャチや他の海洋生物の群れが、特殊な気象条件下で不思議な姿に見えたのかもしれませんね。
まとめ
うきものは、新潟県粟島周辺の海に現れる謎多き怪異です。
重要なポイント
- 新潟県岩船郡粟島周辺の海に現れる怪異
- 5〜6月の花曇りの日によく出現する
- 島や巨大な魚のように見えるが、近づくと消える
- 出現場所はほぼ決まっている
- 魚群や海鳥の群れという説もあるが正体不明
- タテエボシなど類似の海の怪異との関連が指摘されている
科学的には海上の蜃気楼や、特殊な気象条件下での視覚的錯覚という説明ができるかもしれません。
でも、昔から同じ場所で同じような現象が目撃され続けているという事実は、単なる偶然とは思えない不思議さがありますよね。
もし春の穏やかな日に粟島周辺の海を船で渡ることがあったら、海の彼方に目を凝らしてみてください。
もしかしたら、あなたも「うきもの」に遭遇するかもしれませんよ。


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