亡くなった人は死後の世界で、本当に10人もの裁判官に裁かれるって知っていましたか?
その中でも最後の最後、三回忌という節目に現れる裁判官が「五道転輪王(ごどうてんりんおう)」なんです。
この王様の前に立つということは、それまで何度も再審を重ねてきた、いわば「最後の望み」をかけた亡者ということになります。
この記事では、地獄の十王の中でも特別な存在である五道転輪王について、その役割や特徴、そして亡者にとってどんな意味を持つ存在なのかを詳しくご紹介します。
概要
五道転輪王は、仏教の十王信仰における10番目の裁判官で、死後三年目(三回忌)の審判を担当する地獄の王様です。
十王の中で最後に登場することから「最終審判者」とも呼ばれ、これまでの審判で行き先が決まらなかった亡者や、現世で大罪を犯しながらも遺族から熱心な供養を受けている亡者に対して、最後の救済チャンスを与える存在として知られています。
本来、亡者の裁判は七回(四十九日)で終了するはずでした。しかし中国に仏教が伝わった際、平等王、都市王とともに「亡者への救済」を願う形で追加されたのが、この五道転輪王なんです。
姿・見た目
五道転輪王の姿は、他の十王と同じく中華風の文官の格好をしています。
五道転輪王の外見的特徴
- 服装:中国の役人が着る法服(公服)
- 座り方:机に向かい、椅子に座った姿
- 特徴的なポーズ:両手を合掌して構える
- 表情:威厳があり、慈悲深い顔つき
特に注目すべきは「合掌」のポーズです。これは他の十王にはあまり見られない特徴で、五道転輪王が持つ「最後の慈悲」を表現しているといわれています。
特徴
五道転輪王には、最終審判者ならではの特別な役割があります。
裁判所の位置
五道転輪王の裁判所は、なんと地獄の刑場のすぐ近くにあるんです。
裁判中も、亡者の後ろでは罪人が極卒(地獄の鬼)たちに責められ、苦しみもがいている様子が見えてしまうという、まさに恐怖の法廷。これは「次はあなたの番かもしれない」という最後の警告でもあるわけです。
最後の救済措置
ここまで来る亡者というのは、特別な事情を抱えています。
五道転輪王の前に立つ亡者の特徴
- 現世で大罪を犯した
- でも遺族から熱心に供養されている
- 何度も再審を受けてきた
- まだ反省の余地がある
五道転輪王は、こうした亡者に対して遺族の祈りの強さを考慮し、もし本人に反省の色が見えれば、極楽往生への最後の機会を与えることができるんです。
五道への振り分け
「五道転輪王」という名前の「五道」とは、仏教でいう輪廻転生の行き先のことです。
五道(または六道)の種類
- 地獄道:最も苦しい世界
- 餓鬼道:飢えと渇きに苦しむ世界
- 畜生道:動物として生まれ変わる世界
- 人間道:私たちが今いる世界
- 天道:神々の世界
五道転輪王は、車輪が回り続けるように、亡者をこれらの世界へと送り出す役割を持っています。
本地仏
五道転輪王の本地仏(ほんじぶつ)、つまり本来の姿は阿弥陀如来(あみだにょらい)です。
なぜ阿弥陀如来なのか
阿弥陀如来といえば、仏教界でも最高クラスの慈悲深い仏様として知られています。
「南無阿弥陀仏」という念仏でも有名ですよね。この仏様の特徴は、どんな悪人でも、心から念仏を唱えれば救ってくださるという無量の慈悲を持っていること。
面白いことに、仏教には「五逆罪(ごぎゃくざい)」という最も重い罪があります。
五逆罪の内容
- 父親を殺すこと
- 母親を殺すこと
- 阿羅漢(聖者)を殺すこと
- 仏の身体を傷つけること
- 僧侶たちの和合を破壊すること
こんな重罪を犯した者でさえ、阿弥陀如来なら最後には救うとされているんです。
逆に考えれば、「阿弥陀仏にすがる以外に救いようがない亡者が来る場所」ともいえます。だからこそ、五道転輪王は阿弥陀如来を本地仏として、最後の審判にふさわしい立場にいるんですね。
伝承
五道転輪王にまつわる伝承で重要なのは、十王信仰の成り立ちです。
中国での発展
もともと仏教発祥の地インドでは、死後の裁判は四十九日で終了していました。
しかし、仏教が中国に伝わると、道教の影響を受けて変化が起きます。中国では『地蔵菩薩発心因縁十王経』という経典が作られ、そこに五道転輪王が登場するようになったんです。
日本での信仰
日本では平安時代末期から鎌倉時代にかけて、十王信仰が広まりました。
特に『往生要集』を書いた源信(恵心僧都)の影響が大きく、地獄の恐ろしさと極楽への道を詳しく説いたことで、人々は死後の世界を強く意識するようになります。
三回忌の意味
なぜ三回忌なのか、これには深い意味があります。
三回忌が持つ特別な意味
- 死後三年という長い期間の供養
- 遺族の思いが試される最後の節目
- 亡者にとって最後の救済チャンス
- これ以降は基本的に転生先が確定
実際、多くの仏教宗派では三回忌を重要な法要として位置づけています。これは五道転輪王の審判と深く関係しているんですね。
救済のシステム
五道転輪王の裁判には、興味深いシステムがあります。
もし亡者が地獄道・餓鬼道・畜生道の「三悪道」に落ちていても、遺族の供養次第では救い上げることができる。逆に、人間道・天道などの良い世界にいる亡者は、さらに徳を積むことができるというんです。
つまり、五道転輪王の審判は「罰を与える」だけでなく、「救済する」ことに重点を置いた、慈悲深いシステムなんですね。
まとめ
五道転輪王は、地獄の十王の中でも特別な「最後の審判官」です。
重要なポイント
- 十王の10番目で、死後三年目(三回忌)の審判を担当
- 阿弥陀如来を本地仏とし、無量の慈悲を持つ
- 最後の救済チャンスを与える慈悲深い存在
- 遺族の供養の力を重視する裁判官
- 地獄の刑場近くで審判を行う恐ろしくも慈悲深い王
- 中国で追加された「救済のための王」
三回忌という節目に、亡くなった方のために法要を行う意味。それは単なる儀式ではなく、五道転輪王の前で最後の審判を受ける故人を、現世から応援する大切な機会なのかもしれません。
私たちが故人を思い、手を合わせることが、あの世での救いにつながる。そんな優しい教えが、五道転輪王という存在に込められているんですね。


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