山道を歩いていると、突然現れた大きな猿のような生き物が、あなたの弁当を欲しそうにジェスチャーしてきたら…どう思いますか?
江戸時代の越後(現在の新潟県)では、そんな不思議な生き物が実際に目撃されていたんです。
しかも、この生き物は食べ物をあげるとお礼に重い荷物を運んでくれるという、なんとも義理堅い存在でした。
この記事では、越後の山中に現れた謎の生物「異獣(いじゅう)」について、その奇妙な姿や特徴、心温まる伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

異獣(いじゅう)は、江戸時代に新潟県の魚沼郡の山中で目撃された謎の生物です。
豪商の鈴木牧之が1841年に出版した『北越雪譜』という書物に、その出現記録が詳しく書かれています。
「猿に似て猿に非ず」という不思議な表現で形容されるこの生き物は、単なる野生動物とは思えない知性と優しさを持っていました。
面白いのは、この地方特産の織物「縮(ちぢみ)」の生産者たちの間で語り継がれてきた話だということ。山を行き来する商人や織物職人たちと、特別な関係を築いていたようなんです。
. 伝承

竹助と異獣の出会い
最も有名な話は、竹助という男性の体験談です。
ある夏の初め、竹助は十日町から堀内まで、約28キロメートルの山道を大荷物を背負って歩いていました。途中の山中で休憩していると、谷間の根笹をかき分けて奇妙な獣が現れたんです。
その姿はこんな感じでした:
- 頭の毛が背中まで垂れるほど長い
- 猿に似ているが人間より大きい
- 人懐っこい様子で近づいてくる
獣は竹助の弁当の焼き餅を欲しがるそぶりを見せました。最初は警戒した竹助でしたが、思い切って餅を投げ与えると、獣は嬉しそうに食べ始めたそうです。
ここからがすごいんですが、竹助が「明日の帰り道でもまた餅をあげるよ」と言って荷物を背負おうとしたら、獣が先に荷物を軽々と担いで、道案内を始めたというんです!
目的地の近くまで来ると、獣は荷物を下ろして、疾風のような速さで山へ帰っていきました。
機織り娘との心温まる交流
もう一つの感動的な話は、池谷村の機織り名人の娘のエピソードです。
雪が残る季節、家族が外出して一人で機を織っていた娘の前に、異獣が現れました。最初は怖がった娘でしたが、獣は危害を加える様子もなく、ただ飯櫃を見つめて食べ物を欲しがっていただけ。
娘は噂を聞いていたので、握り飯を作って与えました。それ以来、異獣は娘が一人の時を狙って現れるようになり、次第に仲良くなっていったそうです。
最も驚くべき出来事は、娘が月水(生理)で機織りができなくなった時のこと。納期が迫る中、憂いを獣に語ると、その夜なんと月水が一時的に止まり、無事に仕事を完成させることができたというんです。
娘は異獣が助けてくれたのだと信じ、村人たちもこの不思議な出来事に驚きました。
その他の目撃情報
『北越雪譜』によると、40~50年間にわたって山を通る人々が頻繁に異獣を目撃していたようです。
時には:
- 人家を訪れて食べ物をねだる
- 山仕事をする人々を手伝う
- 困っている人を助ける
といった行動が報告されています。
まとめ
異獣は、越後の山に住む人間に友好的な謎の生物として語り継がれています。
重要なポイント
- 江戸時代の越後(新潟県)で多数の目撃例がある
- 猿より大きく、頭の毛が長い独特の姿
- 食べ物をもらうお礼に荷物運びを手伝う
- 人間の言葉を理解し、困った人を助ける知性がある
- 『北越雪譜』に詳細な記録が残されている
妖怪というより、むしろ山の守護者のような存在だった異獣。
もし今も新潟の山中を歩いていて、大きな猿のような生き物に出会ったら…焼き餅を分けてあげてみてください。きっと素敵なお返しがあるかもしれませんね。


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