静かな霧の夜、漁をしていると突然ガラガラッと岩が崩れ落ちるような大音響が響いてきたら、あなたはどう感じるでしょうか?
長崎県の海で語り継がれる「石投げんじょ」は、漁師たちを恐怖に陥れる不可解な怪異現象です。
翌日その場所を確認しても何も変わったことはない…この説明のつかない現象の正体は、いったい何なのでしょうか。
この記事では、九州北部の海に現れる謎の妖怪「石投げんじょ」について、その特徴や伝承をわかりやすくご紹介します。
概要

石投げんじょ(いしなげんじょ)は、長崎県西彼杵郡江島の近海や佐賀県鳥栖市江島町の海域に伝わる怪異現象です。
九州北部の島々が多い海域で、特に旧暦の五月ごろ(現在の6月中旬の梅雨時期)によく現れるとされています。
この妖怪の最大の特徴は、音だけの怪異だということ。姿は見えないけれど、確かに岩が崩れ落ちるような轟音が聞こえてくるんです。
石投げんじょの基本情報
- 出現場所:長崎県や佐賀県の沿岸海域
- 出現時期:梅雨時期の霧深い夜
- 現象:大岩が崩れるような音が響く
- 確認結果:翌日見ても何も変化なし
民俗学的には、磯女(いそおんな)や海姫といった海の女妖怪の仲間とする説もあります。名前の「じょ」が「女」に通じるという解釈もあるんですね。
一方で、『広辞苑』では「じょ」に「尉」の字を当てて、海で石を投げる老人としています。ただし、この説を裏付ける古い資料があるかは疑問視されているんです。
伝承
漁師たちの恐怖体験
石投げんじょの典型的な出現パターンはこうです。
梅雨時の靄(もや)が深くかかった夜、漁師たちが釣りに出かけます。海は静かで、いつもと変わらない夜のはずでした。
ところが突然、ガラガラッという岩が崩れ落ちるような大音響が響いてくるんです。まるで近くの小島の岩が崩壊したかのような音。
驚いた漁師たちは慌てて船を返して港に戻ります。そして翌日、晴れ間を見計らってその場所を確認しに行くと…何も変わったところはないんです。岩も崩れていないし、新しくできた島もない。
他地域の類似現象
実は、石投げんじょと似た怪異は日本各地の海に存在しています。
奄美大島の幻の山
- 海霧の中を漕いでいると突然山が現れる
- 目をつむって念仏を唱えると消える
- 石投げんじょと同じく実体のない幻影
佐渡島のタテエボシ
- 海上に突然立ちはだかる巨大な存在
- 船ごと消されてしまうという恐ろしい妖怪
- より危険度の高い海の怪異
これらの共通点は、海霧や靄という視界不良の条件下で起きること。海上では方向感覚を失いやすく、音や光の屈折も起きやすいため、様々な怪異現象が生まれやすいんですね。
正体についての諸説
石投げんじょの正体については、いくつかの解釈があります。
妖怪説
- 海の天狗の仕業
- 磯女などの女妖怪の一種
- 海で石を投げる老人や老婆の霊
自然現象説
- 漁師の錯覚や幻聴
- 海上での音の屈折現象
- 潮流による岩礁での異音
柳田國男の『妖怪談義』では、磯女と同系統の妖怪として分類されています。海には女性的な妖怪が多いのは、海を母なる存在として捉える信仰があったからかもしれません。
漁師たちへの影響
石投げんじょは、直接的な害を与えるわけではありません。しかし、その存在は漁師たちに大きな影響を与えていました。
心理的影響
- 霧の夜の漁を避けるようになる
- 海への畏敬の念を持つ
- 仲間同士で体験を共有し警戒する
実際的影響
- 怪異を避けて早めに帰港する
- 特定の海域を避ける
- お守りや魔除けを身につける
このような怪異の伝承は、危険な海での安全意識を高める役割も果たしていたのかもしれません。霧の夜は視界が悪く、実際に事故が起きやすい条件ですからね。
まとめ
石投げんじょは、九州北部の海に伝わる音だけの不思議な怪異現象です。
重要なポイント
- 梅雨時期の霧深い夜に現れる海の怪異
- 岩が崩れるような大音響だけが聞こえる
- 翌日確認しても何も痕跡が残らない
- 磯女などの海の女妖怪の一種とする説がある
- 日本各地の海に類似の怪異現象が存在する
- 漁師の錯覚説と妖怪説の両方がある
霧に包まれた海というのは、人間にとって最も不安を感じる場所の一つです。
石投げんじょは、そんな海への畏怖と、説明のつかない現象への恐れが生み出した存在なのかもしれません。
もし霧の夜に海へ出ることがあったら、岩の崩れる音が聞こえてこないか、耳を澄ませてみてください。それは石投げんじょの仕業かもしれませんよ。


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