夜道を歩いていると、木の上から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたら、あなたはどうしますか?
もし助けようと木に登ったら、それは取り返しのつかない恐怖体験になるかもしれません。
青森県、特に津軽地方に伝わる妖怪「イジコ」は、まさにそんな恐ろしい存在なんです。
この記事では、木の上から真っ赤に燃えながらぶら下がる不気味な妖怪「イジコ」について、その姿や特徴、背筋が凍るような伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

イジコは、青森県の津軽地方を中心に語り継がれる火の妖怪です。
本来「イジコ(嬰児籠)」とは、赤ちゃんを入れる藁製の籠のことを指しますが、妖怪のイジコは、この籠が真っ赤に燃え上がった姿で現れるとされています。
地域によっては「エジコ」「エンツコ」「イヅコ」など、さまざまな呼び名があるんですね。
青森県の作家・北彰介の著書『青森県の怪談』などにも記録が残されており、特に木のある場所に必ず現れるという特徴から、木霊や樹木信仰と深い関係があると考えられています。
姿・見た目
イジコの姿は、とにかく不気味で恐ろしいものです。
イジコの外見的特徴
- 形状:藁で編んだ赤ちゃん用の籠(イジコ)の形
- 色:真っ赤に燃え上がっている、火の玉のような赤色
- 出現場所:必ず木の枝にぶら下がっている
- 大きさ:実際の嬰児籠とほぼ同じサイズ
- 動き:ゆらゆらと不気味に揺れる
目撃証言によると、まるでだるまのように真っ赤で、杉や檜、アカシアなどの木の枝から、火の玉のようにぶら下がっているそうです。
遠目には提灯や灯籠のようにも見えますが、近づくとそれが燃える籠だと分かって、見た人は恐怖で凍りついてしまうんだとか。
特徴

イジコには、他の妖怪とは違う独特の行動パターンがあります。
イジコの主な特徴
- 赤ちゃんの泣き声:「オギャー、オギャー」という声で人をおびき寄せる
- 男の呻き声:苦しそうな男性の声を出すこともある
- 変身能力:助けようとした人に化け物の姿を見せる
- 出現時間:主に夜中、特に小雨の降る夜に現れやすい
- 木との関係:必ず樹木のある場所にしか現れない
恐ろしい習性
最も恐ろしいのは、イジコが人の善意を利用するということ。
籠の中から赤ちゃんの泣き声がするので、心優しい人が助けようと木に登ると、中の赤ちゃんがにっこり笑ったかと思うと、突然恐ろしい化け物に変身。長い真っ赤な舌で顔を舐められるという、ゾッとする話が伝わっています。
伝承
イジコにまつわる伝承は、青森県各地に残されています。
浪岡町羽黒平の恐怖体験
青森市(旧浪岡町)の羽黒平という場所には、昼でも暗い杉林がありました。
ある冬の日、赤ん坊をおぶって帰ってきた村人が杉林を通ると、突然「オギャー、オギャー」という張り裂けるような赤ちゃんの泣き声が。振り返ると、杉の枝に真っ赤なイジコがゆらゆらと揺れていたといいます。
神社での馬の異変
ある老人が弟と一緒に馬ソリで弘前から帰る途中、神社の近くで馬が突然立ち止まってしまいました。
いくら手綱を引いても、それまで元気だった馬が全く動かない。不思議に思って周りを見ると、神社のイチイの木に真っ赤に燃えたイジコがぶら下がっていたそうです。
兄弟は恐怖のあまり、馬を置いて逃げ帰ったといいます。
常盤村の屋敷での怪異
南津軽郡常盤村(現・藤崎町)のある家では、樹木好きの主人が庭に多くの檜を植えていました。
ところが主人が病気になると、不思議なことが起こり始めたんです。
- 檜の木が「ギィギィ」と音を立てて揺れる
- 庭石が「うーん、うーん」と唸り声を上げる
- 夜中になると檜の頂上からイジコが下がり、中で赤ん坊が泣く
ある勇敢な人が赤ん坊を助けようとしたところ、先ほどお話しした恐ろしい変身を目撃することになったそうです。
学校近くでの目撃談
浪岡から青森市に向かう国道沿いの中学校のそばでも、イジコの目撃談があります。
小雨の降る夜更けに、アカシアの木の茂る場所を通ると、苦しそうな男の呻き声とともに、木の上から火の玉のようなイジコが現れたといいます。
起源

イジコという妖怪が生まれた背景には、いくつかの要因が考えられます。
実在する道具との関係
まず、イジコ(嬰児籠)は実際に使われていた育児道具でした。
藁で編んだ籠に赤ちゃんを入れて、農作業中は木の枝に吊るしておくという使い方をしていたんですね。この日常的な光景が、妖怪伝説の下地になったと考えられています。
類似する妖怪との関連
イジコは、他の地域の妖怪と共通点があります。
- 釣瓶火(つるべび):木から降りてくる火の玉の妖怪
- 釣瓶落とし:木の上から落ちてくる妖怪
- 提灯小僧:提灯の姿をした妖怪
特に釣瓶火は、江戸時代の『古今百物語評判』にも記載されており、木から火の玉がぶら下がるという点でイジコと非常に似ています。
樹木信仰との結びつき
イジコが必ず木に現れることから、古代からの樹木信仰や木霊信仰との関連も指摘されています。
木には霊が宿るという信仰は日本各地にあり、特に東北地方では山の神や木の神への信仰が根強く残っていました。イジコは、そうした信仰と子育ての不安が結びついて生まれた妖怪なのかもしれません。
育児の不安と恐怖
昔は乳幼児の死亡率が高く、子育ては常に不安と隣り合わせでした。
イジコに籠を使うこと自体が、赤ちゃんを外に置いておく危険性を暗示しているとも考えられます。親たちの「子どもを失うかもしれない」という恐怖心が、この妖怪を生み出したのかもしれませんね。
まとめ
イジコは、青森県津軽地方に伝わる、火と木に関わる恐ろしい妖怪です。
重要なポイント
- 赤ちゃん用の籠が真っ赤に燃えた姿で現れる
- 必ず木の枝にぶら下がって出現する
- 赤ちゃんの泣き声で人をおびき寄せる
- 助けようとすると恐ろしい化け物に変身する
- 樹木信仰と育児の不安が生んだ妖怪の可能性がある
- 釣瓶火など、他地域の火の妖怪との類似性もある
現代でも、青森県の一部地域では「夜中に木の近くで赤ちゃんの声が聞こえても、絶対に近づいてはいけない」という言い伝えが残っているそうです。
もし青森を訪れた際、夜道で木の上から赤い光や赤ちゃんの声を感じたら…それはイジコかもしれませんので、くれぐれもご注意を。


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