夏の闇夜、池のほとりに突然現れる不思議な火の玉を見たことはありますか?
それが「パッパッパッ」という音とともに動き回り、不思議な話し声まで聞こえてきたら、あなたはどう思うでしょうか。
兵庫県伊丹市に伝わる怪火「油返し(あぶらがえし)」は、まさにそんな不可思議な現象として、江戸時代から地元の人々を震え上がらせてきました。
この記事では、摂津国昆陽に現れる謎の怪火「油返し」について、その奇妙な特徴と興味深い伝承をわかりやすくご紹介します。
概要

油返し(あぶらがえし)は、兵庫県伊丹市の昆陽(こや)地域で語り継がれている怪火の一種です。
怪火というのは、正体不明の火の玉や光る現象のことで、日本各地にさまざまな言い伝えが残っているんです。油返しもその一つで、特に昆陽池(こやいけ)の周辺に現れることで知られています。
この怪火の特徴は、ただ光るだけじゃないところ。火の中から不思議な音や声が聞こえるという、とても珍しい特徴があるんですね。地元では江戸時代から明治時代にかけて、実際に目撃談が多く残されていました。
油返しという名前の由来は、中山寺の油を盗んだ者の魂が火となって現れるという説が有力です。油は昔、とても貴重なものだったので、それを盗むことは大罪とされていました。その罪人が成仏できずに、火の姿となって彷徨っているというわけです。
伝承
油返しの出現パターン
油返しには、決まった出現時期と経路があるんです。
出現する時期:
- 初夏の闇夜(梅雨時期の暗い夜)
- 寒い冬の夜
移動ルート:
- 千僧(せんぞ)の墓から出現
- 昆陽池の堤を通過
- 瑞ヶ池(みずがいけ)の堤を経由
- 天神川のほとりを通る
- 中山(現在の宝塚市)へ向かって上る
まるで決められた道を巡回しているかのような動きなんですね。
不思議な音と声
油返しの最大の特徴は、火の中から聞こえる奇妙な音です。
民間伝承によると、こんな風に表現されています:
- 「パッパッパッパッ」という火がつく音
- 「オチャオチャオチャ」という話し声のような音
- 「トボトボトボ」という歩くような音
- 「セングリセングリ」という謎の音(後ろを振り返らずに進む様子)
これらの音が組み合わさって聞こえるというから、本当に不気味ですよね。特に「オチャオチャ」という部分は、まるで誰かが話しているようにも聞こえたそうです。
正体についての諸説
油返しの正体については、地元でいくつもの説が語られてきました。
主な説:
- 中山寺の油泥棒説
- 中山寺(宝塚市にある有名なお寺)から灯明油を盗んだ者の霊
- 罪を償えずに成仏できない魂が火となって彷徨っている
- だから最後は必ず中山寺の方向へ向かうのだとか
- 狐の嫁入り説
- 北堤に住む狐たちが嫁入り行列をする時の提灯の火
- 狐火の一種として考えられていた
- 音や声は狐たちの話し声
- 狼の灯火説
- 千僧の墓地に住む狼が灯す火
- 当時はまだ狼が生息していた可能性がある
- 墓地から出現することと関連づけられた
関連する不思議な場所
油返しが出現する昆陽池の周辺には、他にも不思議な言い伝えがある場所があります。
ノボセマの森という場所が、昆陽池の北堤下の田んぼの中にありました。美しい松の森だったそうですが、そこへ行くと「フイー」という声とともに転んでしまい、最悪の場合は死んでしまうという恐ろしい言い伝えがあったんです。
このように、油返しの出現地域全体が、なんとも言えない不思議な雰囲気に包まれていたようです。昔の人々にとって、昆陽池周辺は畏怖の念を抱く特別な場所だったのかもしれません。
まとめ
油返しは、兵庫県伊丹市に伝わる独特な怪火の伝承です。
重要なポイント
- 摂津国昆陽(現在の伊丹市)に出現する怪火
- 初夏や冬の闇夜に、決まったルートを移動する
- 「パッパッ」「オチャオチャ」など特徴的な音を発する
- 中山寺の油泥棒の霊、狐の嫁入り、狼の灯火など複数の正体説がある
- 千僧の墓から昆陽池を経由して中山寺へ向かう固定ルートがある
- 地域全体に不思議な言い伝えが多く残る土地柄
現在では都市化が進み、昆陽池も整備された公園となっていますが、かつてこの地に現れたという油返しの伝承は、地域の貴重な文化遺産として今も語り継がれています。もし夜の昆陽池を訪れることがあったら、ひょっとしたら今でも、どこかから「パッパッ」という音が聞こえてくるかもしれませんね。
 
  
  
  
   
               
               
               
               
              

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