戦で命を落とした武将の馬具が、野原でずっと主人の帰りを待ち続けていたら…どうなると思いますか?
江戸時代の人々は、そんな忠義深い道具が妖怪になると考えていました。
それが今回ご紹介する「鐙口(あぶみくち)」という不思議な存在です。
この記事では、江戸時代の妖怪絵師が描いた武具の付喪神「鐙口」について、その姿や誕生の背景を分かりやすく解説します。
概要

鐙口(あぶみくち)は、江戸時代の妖怪絵師・鳥山石燕が『画図百器徒然袋』に描いた付喪神の一種です。
この妖怪は、武将が馬に乗る時に足を掛ける道具「鐙(あぶみ)」が化けたものなんですね。
付喪神ってなに?
付喪神(つくもがみ)というのは、長い年月を経た道具や器物に霊が宿り、妖怪化したものの総称です。室町時代の『付喪神絵巻』では、煤払いで捨てられた古道具が人間に復讐する話が描かれています。
鐙口も、この付喪神の仲間として創作された妖怪だと考えられています。
伝承

鐙が妖怪になるまで
鐙口が生まれる背景には、戦国時代の悲しい物語があります。
武将と運命を共にした鐙の運命:
- 主人である武将と共に戦場を駆け巡る
- 主人が戦死すると、野原に捨てられる
- 忠犬のようにいつまでも主人の帰りを待ち続ける
- 帰らぬ主人を思う念が宿り、妖怪化する
つまり、主人への強い思いが道具に宿って、妖怪になってしまうんです。
鳥山石燕の創作背景
鳥山石燕は『画図百器徒然袋』で、この鐙口を絵解きとして描きました。絵には次のような言葉が添えられています。
「鐙の口(あぶみのくち)」
ぶかにいさせてあぶみを越しておりたんとすれども…
これは、鐙という馬具の一種が妖怪化した様子を表現したものです。石燕は古い道具が持つ「念」や「思い」を妖怪として視覚化したんですね。
他の付喪神との共通点
日本各地には、道具が妖怪になる話がたくさんあります。
身近な付喪神の例:
- 沖縄の「キジムナー」:古い木が精霊になる
- 昔話に登場する古い木槌や食器の妖怪化
- 百年を経た道具に魂が宿るという信仰
鐙口も、こうした日本人の「物を大切にする心」から生まれた妖怪だと言えるでしょう。
武具の付喪神としての特殊性
鐙口は、他の付喪神と違って特別な意味を持っています。
それは、戦で使われた道具だということ。命をかけた戦いの中で使われた武具には、普通の道具とは違う強い念が込められていると考えられたんです。
主人と生死を共にした鐙だからこそ、その思いも格別に強いものになる。そんな武士の時代ならではの感性が、この妖怪には込められています。
3. まとめ
鐙口は、主人を失った馬具の悲しみと忠義心が生んだ妖怪です。
重要なポイント
- 江戸時代の鳥山石燕が『画図百器徒然袋』に描いた付喪神
- 武将の馬具「鐙」が妖怪化した存在
- 主人への忠義心と帰らぬ人を待つ悲しみが妖怪化の原因
- 日本の「物を大切にする文化」を象徴する存在
- 武具という特殊な道具ならではの強い念が宿っている
現代の私たちも、長く使った道具に愛着を感じることがありますよね。鐙口は、そんな道具への思いが極限まで高まった時に生まれる、ちょっと切ない妖怪なのかもしれません。
 
  
  
  
   
               
               
               
               
              
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