「インターネットってどうやって繋がってるの?」
「IPアドレスって何のためにあるの?」
「データがどうやって目的地に届くのか知りたい」
普段何気なく使っているインターネット。その裏側では、驚くほど精巧な仕組みが動いているんです。
その中核を担うのが「インターネット層」。この層のおかげで、あなたのメッセージは世界中のどこにでも正確に届けられます。この記事では、インターネット層の役割から具体的な仕組みまで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
読み終わる頃には、ネットワークの世界がもっと身近に感じられますよ!
インターネット層とは?データの「宅配便」を担当する階層

インターネット層は、TCP/IPモデルにおける4つの階層のうちの一つです。
TCP/IPモデルって何?
TCP/IPモデルとは、インターネット通信を4つの階層に分けて理解するための枠組みのこと。
4つの階層:
- アプリケーション層(メール、Webなど)
- トランスポート層(TCP、UDP)
- インターネット層(IP、ICMP)← 今日の主役
- ネットワークインターフェース層(イーサネット、Wi-Fiなど)
実例:
メールを送るとき、各層が順番に働きます:
- アプリケーション層:メール内容を作成
- トランスポート層:データを分割して送る準備
- インターネット層:どのルートで届けるか決める
- ネットワークインターフェース層:実際に物理的な電気信号に変換
インターネット層の役割
インターネット層の主な仕事は、データを正しい宛先に届けること。
郵便配達に例えると:
- 住所を書く(IPアドレスの付与)
- 最適な配達ルートを決める(ルーティング)
- 途中の配送センターを経由する(ルーターでの転送)
インターネット層の3つの重要な役割
役割1:アドレッシング(住所付け)
すべてのデバイスにIPアドレスという固有の識別番号を割り当てます。
IPアドレスとは:
ネットワーク上のデバイスを特定するための「住所」のようなもの。
実例:
送信元:192.168.1.10(あなたのPC)
宛先:172.217.175.46(Googleのサーバー)
この情報があるから、データは正しい相手に届きます。
役割2:ルーティング(経路選択)
データが宛先に到達するための最適な経路を決定します。
仕組み:
インターネットは無数のルーター(中継機器)が網の目のように繋がっています。インターネット層は、これらのルーターを経由する最適な道筋を判断するんです。
実例:
東京から大阪にデータを送る場合:
東京のPC → 東京のルーター → 名古屋のルーター → 大阪のルーター → 大阪のサーバー
このように、複数の中継地点を経由して届けられます。
役割3:パケット化(小包に分ける)
大きなデータをパケットという小さな単位に分割します。
パケットとは:
データを小さな塊に分けたもの。手紙を複数の封筒に分けて送るようなイメージです。
なぜ分けるの?
- 大きなデータを一度に送ると、ネットワークが混雑する
- 一部が失われても、その部分だけ再送すればいい
- 複数の経路を使って効率的に送れる
実例:
1MBの写真を送る場合、約700個のパケット(1パケット約1500バイト)に分割されます。
インターネット層の主要プロトコル
インターネット層では、いくつかの重要なプロトコル(通信ルール)が働いています。
1. IP(Internet Protocol)
インターネット層の中核となるプロトコル。データの宛先指定と配送を担当します。
2つのバージョン:
IPv4(Internet Protocol version 4)
- 現在最も広く使われているバージョン
- アドレス形式:192.168.1.1のような4つの数字
- アドレス総数:約43億個(不足気味)
IPv6(Internet Protocol version 6)
- 次世代のバージョン
- アドレス形式:2001:0db8:85a3:0000:0000:8a2e:0370:7334のような16進数
- アドレス総数:事実上無限(340兆の1兆倍の1兆倍)
2. ICMP(Internet Control Message Protocol)
ネットワークの診断やエラー報告を行うプロトコルです。
主な用途:
- pingコマンド(相手に到達できるか確認)
- traceroute(経路を表示)
- エラーメッセージの送信
実例:
「宛先に到達できません」というエラーメッセージは、ICMPが送っています。
3. ARP(Address Resolution Protocol)
IPアドレスからMACアドレス(物理アドレス)を調べるプロトコル。
MACアドレスとは:
ネットワーク機器に固有の物理的な識別番号。変更できないハードウェアの「シリアル番号」のようなものです。
なぜ必要?
IPアドレスは論理的な住所ですが、実際のデータ送信には物理アドレス(MACアドレス)も必要だからです。
実例:
「192.168.1.10というIPアドレスを持つ機器のMACアドレスは何?」と問い合わせて、「AA:BB:CC:DD:EE:FFです」という返事をもらいます。
4. IGMP(Internet Group Management Protocol)
マルチキャスト通信(一対多の通信)を管理するプロトコルです。
実例:
オンライン動画配信で、一つのストリームを複数の視聴者に効率的に届けるときに使われます。
IPパケットの構造:データの「封筒」の中身
IPパケットは、以下のような構造になっています。
IPヘッダー(宛名ラベル部分)
パケットの先頭にある制御情報で、主に以下が含まれます:
バージョン(4ビット)
- IPv4かIPv6かを示す
ヘッダー長(4ビット)
- ヘッダーのサイズ
サービスタイプ(8ビット)
- 優先度や遅延要求を示す
全体の長さ(16ビット)
- パケット全体のサイズ
識別子(16ビット)
- 分割されたパケットを識別する番号
フラグとフラグメントオフセット
- パケットの分割に関する情報
生存時間(TTL: Time To Live、8ビット)
- パケットがネットワーク上に存在できる最大時間(ホップ数)
- ルーターを通過するたびに1減り、0になると破棄される
プロトコル(8ビット)
- 上位層のプロトコル(TCP、UDPなど)を示す
ヘッダーチェックサム(16ビット)
- ヘッダーの誤り検出
送信元IPアドレス(32ビット)
- 送信元の住所
宛先IPアドレス(32ビット)
- 宛先の住所
ペイロード(データ部分)
実際に届けたいデータ本体が入っています。
実例:
メールの本文、Webページのデータ、動画ファイルの一部などです。
ルーティングの仕組み:データが目的地に届くまで

インターネット層の最も重要な機能、ルーティングについて詳しく見てみましょう。
ルーティングテーブル
各ルーターはルーティングテーブルという「道路地図」を持っています。
実例:
宛先ネットワーク 次のルーター インターフェース
192.168.1.0/24 直接接続 eth0
10.0.0.0/8 192.168.1.254 eth0
0.0.0.0/0 203.0.113.1 eth1(デフォルトルート)
この表を見て、「この宛先には、こっちのルーターに転送すればいい」と判断します。
ホップバイホップ転送
データは、ルーターからルーターへ一歩ずつ転送されます。
実例:
1. 自宅のPC(192.168.1.10)
↓
2. 自宅のルーター(192.168.1.1)
↓
3. ISPのルーター1
↓
4. ISPのルーター2
↓
5. Googleのルーター
↓
6. Googleのサーバー(172.217.175.46)
各ルーターは「次にどこへ送るか」だけを判断します。最終目的地までの全経路を知っている必要はありません。
TTL(Time To Live)の役割
パケットがネットワーク上で無限にループするのを防ぐ仕組みです。
仕組み:
- パケット送信時、TTLに初期値(通常64や128)を設定
- ルーターを通過するたびにTTLが1減る
- TTLが0になったら、パケットを破棄してエラーメッセージを送信元に返す
実例:
経路設定が間違っていてパケットがループしても、TTLが0になれば自動的に破棄されます。これにより、ネットワークの混雑を防げるんです。
実践:インターネット層を体験してみよう
実際のコマンドで、インターネット層の動きを確認してみましょう。
pingコマンド:相手に到達できるか確認
Windows/Mac/Linux共通:
ping google.com
結果例:
PING google.com (172.217.175.46): 56 data bytes
64 bytes from 172.217.175.46: icmp_seq=0 ttl=116 time=10.5 ms
64 bytes from 172.217.175.46: icmp_seq=1 ttl=116 time=9.8 ms
読み方:
icmp_seq:パケットの順番ttl=116:まだ116ホップ分の寿命が残っているtime=10.5 ms:往復にかかった時間(10.5ミリ秒)
traceroute:経路を可視化
データがどのルーターを経由しているか確認できます。
Windowsの場合:
tracert google.com
Mac/Linuxの場合:
traceroute google.com
結果例:
1 192.168.1.1 (192.168.1.1) 1.234 ms
2 10.0.0.1 (10.0.0.1) 5.678 ms
3 203.0.113.1 (203.0.113.1) 12.345 ms
4 172.217.175.46 (172.217.175.46) 15.678 ms
各行が一つのルーター(ホップ)を表しています。データがどんな道筋を辿っているか一目瞭然ですね。
IPアドレス確認
自分のIPアドレスを確認してみましょう。
Windowsの場合:
ipconfig
Mac/Linuxの場合:
ip addr show
または
ifconfig
プライベートIPアドレス(192.168.x.xなど)が表示されます。
IPv4とIPv6の違い
インターネット層の中核であるIPには、2つのバージョンがあります。
IPv4の特徴
アドレス形式:
192.168.1.1
4つの数字(0-255)をドット区切りで表現。
メリット:
- シンプルで覚えやすい
- 現在最も広く普及している
- 対応機器が多い
デメリット:
- アドレスが約43億個しかなく、不足している
- ヘッダーが複雑でオプション機能の追加が難しい
IPv6の特徴
アドレス形式:
2001:0db8:85a3:0000:0000:8a2e:0370:7334
8つのグループを16進数で表現。
メリット:
- アドレスが事実上無限(340兆の1兆倍の1兆倍)
- ヘッダーが簡潔で処理が高速
- セキュリティ機能が標準搭載(IPsec)
- 自動設定機能が充実
デメリット:
- アドレスが長くて覚えにくい
- まだ完全には普及していない
移行の現状
現在はデュアルスタック(IPv4とIPv6の両方に対応)という方式で、徐々にIPv6への移行が進んでいます。
実例:
多くのWebサイトは、IPv4とIPv6の両方のアドレスを持っています。あなたのデバイスがIPv6に対応していれば、自動的にIPv6で接続します。
プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレス

IPアドレスには、2つの種類があります。
プライベートIPアドレス
家庭や会社のローカルネットワーク内で使われるアドレス。
範囲:
10.0.0.0 ~ 10.255.255.255
172.16.0.0 ~ 172.31.255.255
192.168.0.0 ~ 192.168.255.255
特徴:
- インターネット上では使えない
- 同じアドレスを他の家庭でも使える
- 無料で自由に使える
実例:
あなたの自宅のWi-Fiに接続したスマホは、192.168.1.10のようなプライベートIPアドレスを持っています。
グローバルIPアドレス
インターネット上で使われる世界で唯一のアドレス。
特徴:
- 世界中で重複しない固有のアドレス
- ISP(インターネットサービスプロバイダ)から割り当てられる
- インターネットに直接接続できる
実例:
あなたの家のルーターには、ISPから割り当てられたグローバルIPアドレス(例:203.0.113.45)があります。
NAT(Network Address Translation)
プライベートIPとグローバルIPを変換する仕組みです。
仕組み:
- 家のPCからインターネットにアクセス(プライベートIP使用)
- ルーターがアドレスをグローバルIPに変換
- インターネット上ではグローバルIPで通信
- 返信が来たら、ルーターがプライベートIPに戻して配送
これにより、一つのグローバルIPアドレスで複数のデバイスがインターネットを使えるんです。
インターネット層のセキュリティ
インターネット層にも、セキュリティ上の課題があります。
IPスプーフィング
送信元IPアドレスを偽装する攻撃。
危険性:
- なりすましが可能
- DoS攻撃(サービス妨害攻撃)に利用される
対策:
- ファイアウォールでのフィルタリング
- ingress/egressフィルタリング
IPsec(IP Security)
IPレベルでの暗号化と認証を提供するプロトコル。
機能:
- データの暗号化
- 送信元の認証
- データの改ざん検出
使用例:
VPN(仮想プライベートネットワーク)でよく使われます。
よくある質問
Q1. インターネット層とOSI参照モデルの違いは?
OSI参照モデルは7層構造で、インターネット層に相当するのは「ネットワーク層」(第3層)です。TCP/IPモデルは実用的な4層構造を採用しています。
Q2. ルーターとスイッチの違いは?
ルーター:インターネット層(レイヤー3)で動作。異なるネットワーク間を接続。
スイッチ:通常はデータリンク層(レイヤー2)で動作。同じネットワーク内でデータを転送。
Q3. IPv6に移行しないといけない?
徐々に移行は進んでいますが、当面はIPv4とIPv6の両方が使われます。一般ユーザーは特に意識する必要はありません。
Q4. 自分のIPアドレスを隠せる?
VPNやプロキシを使えば、実際のIPアドレスを隠して別のIPアドレスで通信できます。ただし、完全な匿名性は保証されません。
まとめ:インターネット層はネットワークの心臓部
インターネット層は、データを正しい宛先に届けるための重要な階層です。
インターネット層の重要ポイント:
- TCP/IPモデルの4層構造の一つ
- アドレッシング、ルーティング、パケット化を担当
- IPプロトコルが中核
主要プロトコル:
- IP:データの宛先指定と配送
- ICMP:診断とエラー報告
- ARP:IPアドレスとMACアドレスの変換
- IGMP:マルチキャスト管理
3つの重要な役割:
- アドレッシング(IPアドレスの付与)
- ルーティング(最適経路の選択)
- パケット化(データの分割)
IPアドレスの種類:
- IPv4:現在の主流(約43億個)
- IPv6:次世代(事実上無限)
- プライベートIP:ローカルネットワーク用
- グローバルIP:インターネット用
実用コマンド:
- ping:到達確認
- traceroute/tracert:経路表示
- ipconfig/ifconfig:IPアドレス確認
インターネット層の仕組みを理解すると、ネットワークトラブルの解決やセキュリティ対策にも役立ちます。普段は意識しないこの層が、あなたのデータを世界中に届けているんです。
快適なネットワークライフを!

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