【火星の地下に眠る植物神】ヴルトゥームとは?クトゥルフ神話の忘れられた旧支配者

神話・歴史・伝承

火星の地下深く、千年の眠りについている巨大な花があるとしたら、あなたは信じますか?

それは美しい妖精のような姿をしているのに、実は恐ろしい宇宙の邪神だったとしたら?

クトゥルフ神話の世界には、有名なクトゥルフやハスターの陰に隠れて、ほとんど知られていない恐るべき存在がいます。それが火星の地下世界ラヴォルモスに潜む「ヴルトゥーム」という旧支配者なんです。

この記事では、1935年にクラーク・アシュトン・スミスが生み出した、神秘的で恐ろしい植物状の邪神ヴルトゥームについて詳しく解説していきます。

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概要

ヴルトゥーム(Vulthoom)は、クトゥルフ神話に登場する旧支配者の一体です。

太陽系外から火星にやってきた宇宙生命体で、現在は火星の地下深くにあるラヴォルモスという洞窟世界に潜伏しています。地上の火星人たちからは、もはや伝説上の悪魔としてしか認識されていません。

ヴルトゥームの基本情報

  • 種族:旧支配者(グレート・オールド・ワン)
  • 居住地:火星の地下世界ラヴォルモス
  • 活動周期:1000年ごとに覚醒と休眠を繰り返す
  • 能力:幻覚性の芳香、高度な科学技術、不死の付与
  • 目的:老いた火星から若い地球への移住

面白いのは、他の旧支配者と違って、ヴルトゥームは圧倒的な暴力ではなく、科学技術と知識で火星人を支配したという点なんですね。

系譜

ヴルトゥームの系譜については、実は後から付け加えられた設定があります。

創作の歴史

もともと1935年のスミスの作品では、ヴルトゥームは単に太陽系外からやってきたエイリアンでした。しかし、1976年にリン・カーターという作家が、ヴルトゥームをクトゥルフ神話の系譜に組み込んだんです。

神話における家系

カーターの設定によると、ヴルトゥームは:

  • 父親:ヨグ=ソトース(時空を超越する外なる神)
  • 兄弟:クトゥルフ、ハスター、ツァトゥグァ

つまり、あの有名なクトゥルフの弟にあたる存在なんです!ただし、兄たちと比べると知名度は圧倒的に低く、「忘れられた弟神」と呼ばれることもあります。

姿・見た目

ヴルトゥームの姿は、とにかく奇妙で美しくも恐ろしいんです。

外見の特徴

  • 全体像:巨大な球根植物のような形
  • 本体:青白い色をした植物の幹
  • :無数に枝分かれした根が地中に広がる
  • :朱色の萼(がく)を持つ真珠色の花
  • 最大の特徴:花の中央から、美しい妖精のような人間の上半身が生えている

想像してみてください。巨大な植物の花から、妖精のような美しい姿が生えているんです。一見すると幻想的で美しいのに、その正体は恐ろしい宇宙の邪神。この美と恐怖のギャップがヴルトゥームの魅力なんですね。

特徴

ヴルトゥームには、他の旧支配者とは違う独特の能力があります。

主要な能力

1. 幻覚性の芳香
花から放つ香りで相手を魅了し、自在に操ることができます。この香りを嗅いだ者は、ヴルトゥームの奴隷になってしまうんです。

2. 千年周期の生態
1000年ごとに眠りと覚醒を繰り返すという、特殊な生命サイクルを持っています。この長命の秘密を、配下の者たちにも分け与えることができるそうです。

3. 高度な科学技術

  • 星間航行技術
  • 永久機関の製造
  • 不死を与える技術
  • 時空を超えた知覚能力

4. 理性的な知性
暴力的な他の旧支配者と違い、ヴルトゥームは理性的で温厚な口調で話します。でも、その裏には冷酷な本性が隠されているんです。

伝承

火星への到来

遥か昔、ヴルトゥームは執念深い敵に追われて太陽系にやってきました。宇宙船で火星に不時着したヴルトゥームは、当時の火星文明と接触します。

最初は科学技術や不死の秘密を教えることで、火星人の一部を味方につけました。しかし、火星全土の征服には興味を示さず、配下と共に地下世界ラヴォルモスに引きこもってしまったんです。

忘却の神話化

地上から姿を消してから長い年月が経ち、火星人の間では次第にヴルトゥームの存在は忘れられていきました。今では:

  • 一般市民には「古代の悪魔」として神話の中だけの存在
  • 下層階級の一部では悪魔崇拝の対象
  • 大半の火星人は存在すら信じていない

地球侵略計画

しかし、ヴルトゥームは諦めていませんでした。老いた火星に飽きた彼は、若々しい地球への移住を計画し始めます。

スミスの物語では、地球人の宇宙船員2人を誘拐し、地球侵略のスパイにしようとします。しかし、勇敢な地球人たちの機転により、ヴルトゥームは再び千年の眠りに落ちることになったのです。

出典

ヴルトゥームが登場する主な作品を紹介します。

原典

  • 「ヴルトゥーム」(1935年) – クラーク・アシュトン・スミス著
  • 初出:『ウィアード・テイルズ』誌1935年9月号
  • 日本語訳:『呪われし地』(国書刊行会、1986年)

クトゥルフ神話への編入

  • 「湖畔の住人」(1964年) – ラムジー・キャンベル著
  • 「グラーキの黙示録」にヴルトゥームの名が記載
  • 「陳列室の恐怖」(1976年) – リン・カーター著
  • ヨグ=ソトースの息子という設定を追加

現代の登場作品

  • TRPGクトゥルフの呼び声:旧支配者としてデータ化
  • 各種クトゥルフ神話アンソロジー:様々な作家による二次創作

まとめ

ヴルトゥームは、クトゥルフ神話の中でも特異な存在です。

重要なポイント

  • 植物と妖精が融合した奇怪で美しい姿
  • 千年周期で眠りと覚醒を繰り返す特殊な生態
  • 暴力ではなく科学技術と知識による支配
  • クトゥルフの弟という後付けの系譜
  • 火星の地下で今も地球侵略の機会を狙っている

知名度は低いけれど、その設定の奥深さと独特の魅力から、コアなクトゥルフ神話ファンに愛される存在。それがヴルトゥームなんです。

もしかしたら、人類が火星に到達したとき、地下深くで眠る巨大な花を発見するかもしれません。そのとき、美しい妖精のような姿に騙されないよう、気をつけてくださいね。

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