深い森の奥から、何かがざわめく音が聞こえてきたら、それは普通の動物ではないかもしれません。
木々の間を這うように動く黒い影、山羊のような蹄の音、そして不気味な触手のうねり…それは「黒い仔山羊」かもしれないのです。
20世紀のアメリカの作家H.P.ラヴクラフトが生み出したクトゥルフ神話には、人知を超えた恐ろしい存在がたくさん登場しますが、その中でも特に不気味な眷属として知られているのがこの生き物なんです。
この記事では、豊穣の女神から生まれた奇怪な眷属「黒い仔山羊」について、その正体や特徴、神話での役割を分かりやすくご紹介します。
概要

黒い仔山羊(Dark Young)は、クトゥルフ神話に登場する異形の眷属です。
「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」という異名を持つ外なる神シュブ=ニグラスの落とし子として、無限に生み出され続けている存在なんですね。
面白いことに、この生き物は単なる怪物ではなく、豊穣の女神の側面を持つシュブ=ニグラスから生まれるため、ある種の「恵み」としての側面も持っています。実際、太古の昔には人類の貴重な食料源として利用されていたという説もあるんです。
系譜
黒い仔山羊の母親は、外なる神の一柱であるシュブ=ニグラスです。
シュブ=ニグラスとは?
シュブ=ニグラスは「千匹の仔を孕みし森の黒山羊」と呼ばれる存在で、以下のような特徴があります:
- 外なる神:宇宙の外側から来た、人知を超えた神格
- 豊穣の女神:地母神や大地の母としての性格を持つ
- 生命の創造者:絶え間なく新たな生命を生み出し続ける
ラヴクラフトの設定では、シュブ=ニグラスはヨグ=ソトースの妻とされることもあり、ナグとイェブという恐ろしい双子の母でもあるとされています。
なぜ「仔」なのか?
「黒い仔山羊」という名前の「仔」は、シュブ=ニグラスから見れば子供だからなんです。母なる神から無限に生み出される分身のような存在として、常に「仔」として扱われているんですね。
姿・見た目
黒い仔山羊の姿は、まさに悪夢から抜け出してきたような異形です。
身体的特徴
主な特徴
- 全体の形状:巨大な樹木のような胴体
- 脚部:山羊のような蹄を持つ太い脚(複数本)
- 触手:黒くうねる無数の触手が体から生えている
- 色:全身が不気味な黒色
- 大きさ:人間よりもはるかに巨大
特に印象的なのは、樹木と動物が融合したような姿です。遠くから見ると黒い木のように見えるけれど、近づくとそれが生きていて、山羊の蹄で歩き回っているという恐ろしさがあります。
毒性のある触手
黒い仔山羊の触手には麻痺毒が含まれています。この毒は地球上には存在しない物質で作られているため、解毒方法は知られていません。獲物を捕らえる時はこの触手で巻きつけて麻痺させるんですね。
特徴

黒い仔山羊には、普通の生物にはない特殊な能力があります。
生存能力
驚異的な生命力
- 再生能力:傷ついてもすぐに回復する
- 光合成器官:激しく動かなければ光だけで生きていける
- 強靭な消化器官:あらゆる有機物を分解してエネルギーにできる
- 食料保存袋:長期間食事をしなくても活動できる
これらの能力のおかげで、どんな過酷な環境でも生き延びることができるんです。
行動パターン
黒い仔山羊は知能がそれほど高くありませんが、嗅覚と聴覚が異常に発達しています。
主人であるシュブ=ニグラスの声を遠く離れた場所からでも聞き分けることができ、その命令に従って行動します。普段は森の奥深くに潜んでいますが、召喚されると姿を現すことがあるんです。
伝承
古代の崇拝
クトゥルフ神話の設定では、古代ムー大陸やハイパーボレアといった失われた文明で、シュブ=ニグラスへの崇拝が行われていました。
崇拝の形態
- 豊穣祈願:農作物の実りを祈る儀式
- 生贄の儀式:黒い仔山羊を呼び出す召喚儀式
- 食料としての利用:飢えた時の貴重なタンパク源
興味深いのは、黒い仔山羊が「恵み」として与えられることもあったという点です。シュブ=ニグラスは飢えた信者に黒い仔山羊を食料として与えることがあり、これが崇拝の始まりになったという説もあります。
サバトとの関連
中世ヨーロッパの魔女集会(サバト)で崇拝されたという「黒山羊」は、実はシュブ=ニグラスや黒い仔山羊がモデルだったのではないかという解釈があります。
深い森で行われる秘密の儀式、山羊の姿をした悪魔への崇拝…これらはすべて、太古から続くシュブ=ニグラス信仰の名残かもしれません。
現代の目撃談
クトゥルフ神話の世界観では、現代でも時折、黒い仔山羊が目撃されることがあるとされています。
深い森の中で、巨大な黒い樹木が動いているのを見た、山羊のような蹄の音が聞こえた、といった報告が、世界各地の森林地帯から寄せられているという設定になっているんです。
出典
黒い仔山羊が登場する主な作品:
- H.P.ラヴクラフトの諸作品(シュブ=ニグラスへの言及)
- ロバート・ブロック『無人の家で発見された手記』(樹木状の怪物として)
- クトゥルフ神話TRPG(詳細な設定と能力値)
まとめ
黒い仔山羊は、クトゥルフ神話における豊穣と恐怖が混在する不気味な存在です。
重要なポイント
- シュブ=ニグラスの眷属として無限に生み出される
- 樹木と山羊が融合したような異形の姿
- 麻痺毒を持つ触手で獲物を捕らえる
- 驚異的な生命力でどんな環境でも生存可能
- 古代文明では食料として利用されていた可能性
- サバトの黒山羊の原型かもしれない
豊穣の女神から生まれながら、その姿は恐怖そのもの。恵みでありながら脅威でもある。この二面性こそが、黒い仔山羊という存在の本質なのかもしれません。
もし深い森で、動く黒い樹木を見かけたら…それは太古から生き続ける、黒い仔山羊かもしれませんよ。


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