自宅やオフィスで、パソコンやゲーム機にケーブルを挿してインターネットに接続したことはありませんか?
その「ケーブルでつなぐネットワーク」の技術がイーサネット(Ethernet)です。
この記事では、有線LANの標準技術として世界中で使われているイーサネットについて、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。Wi-Fiとの違いや、どんな時に使うべきかも理解できますよ!
イーサネットとは?
イーサネット(Ethernet)は、コンピュータをケーブルでつないでネットワークを構築する技術の名前です。
名前の由来
「Ether(エーテル)」は、かつて「光を伝える媒質」として想定されていた架空の物質です。
イーサネットの開発者たちは、「データを伝える共通の媒質」というイメージから、この名前を付けました。
開発の歴史
1973年:誕生
- Xerox社のロバート・メトカーフが発明
- 研究所内のコンピュータをつなぐために開発
1980年代:標準化
- IEEE 802.3として標準規格に
- 企業や学校で広く採用される
現在:
- 家庭から企業まで、世界中で使われている
- Wi-Fiと並ぶ、最も一般的なネットワーク技術
イーサネットの基本構成
イーサネットネットワークは、いくつかの要素で構成されています。
主な構成要素
1. LANケーブル(イーサネットケーブル)
- データを伝送する物理的なケーブル
- 銅線を使ったツイストペアケーブルが一般的
- コネクタはRJ-45という規格
2. ネットワークカード(NIC)
- パソコンやサーバーに搭載されている
- LANケーブルを挿す口(ポート)
- データの送受信を担当
3. スイッチ(またはハブ)
- 複数の機器を接続する装置
- データを適切な相手に届ける
- 交通整理役
4. ルーター
- 異なるネットワーク同士をつなぐ
- インターネットへの出入口
- 家庭用ルーターには、スイッチ機能も内蔵
接続イメージ
インターネット
|
ルーター
|
スイッチ
|
├── パソコン1
├── パソコン2
├── プリンター
└── NAS(ストレージ)
LANケーブルの種類
イーサネットケーブルには、いくつかの規格があります。
カテゴリ(Category)による分類
LANケーブルは「カテゴリ」という規格で分類されます。
カテゴリ | 最大速度 | 最大帯域幅 | 用途 |
---|---|---|---|
Cat5 | 100Mbps | 100MHz | 旧規格(現在は非推奨) |
Cat5e | 1Gbps | 100MHz | 一般家庭向け |
Cat6 | 1Gbps | 250MHz | オフィス・企業向け |
Cat6A | 10Gbps | 500MHz | データセンター |
Cat7 | 10Gbps | 600MHz | 高速ネットワーク |
Cat8 | 40Gbps | 2000MHz | データセンター専用 |
選び方のポイント:
- 家庭用なら Cat5e または Cat6 で十分
- ゲームや動画編集など高速通信が必要なら Cat6 以上
- 将来を見越すなら Cat6A
ケーブルの形状
ストレートケーブル:
- 最も一般的
- パソコン ⇔ スイッチの接続に使用
クロスケーブル:
- 特殊な用途
- パソコン同士を直接つなぐ時に使用
- 現在はあまり使われない(Auto-MDI/MDI-X機能で不要に)
コネクタの種類
RJ-45コネクタ:
- イーサネットの標準コネクタ
- 8本のピンがある
- 電話線のコネクタ(RJ-11)より少し大きい
イーサネットの速度規格
イーサネットには、速度によっていくつかの規格があります。
主な速度規格
10BASE-T:
- 速度:10Mbps
- 1990年代に主流
- 現在はほぼ使われていない
100BASE-TX(Fast Ethernet):
- 速度:100Mbps
- 2000年代に主流
- まだ一部で使われている
1000BASE-T(Gigabit Ethernet):
- 速度:1Gbps = 1000Mbps
- 現在の標準
- 家庭やオフィスで最も一般的
10GBASE-T:
- 速度:10Gbps
- データセンターやサーバー向け
- 高価だが、企業では普及しつつある
規格名の読み方:
1000BASE-T
↓ ↓ ↓
速度 変調方式 媒体
- 速度:Mbps単位(1000 = 1Gbps)
- BASE:ベースバンド伝送
- T:ツイストペアケーブル
速度の体感
10Mbps:
- メール送受信は問題なし
- 動画は低画質なら視聴可能
100Mbps:
- 通常のWebブラウジングは快適
- HD動画も視聴可能
- 大容量ファイルのダウンロードは時間がかかる
1Gbps:
- 4K動画もスムーズに視聴
- 大容量ファイルも高速転送
- 複数台同時使用でも快適
10Gbps:
- 業務用レベルの超高速
- 非圧縮動画の編集も可能
- サーバー間のデータ転送に最適
MACアドレス
イーサネットでは、MACアドレスという識別番号が使われます。
MACアドレスとは?
MAC(Media Access Control)アドレスは、ネットワーク機器に割り当てられた固有の識別番号です。
特徴:
- 48ビット(6バイト)の番号
- 16進数で表記される
- 世界中で一意(重複しない)
表記例:
00:1A:2B:3C:4D:5E
または
00-1A-2B-3C-4D-5E
MACアドレスの構造
00:1A:2B:3C:4D:5E
↓ ↓
OUI 固有番号
OUI(最初の3バイト):
- メーカーを識別する番号
- IEEE(国際標準化団体)が割り当て
固有番号(後ろの3バイト):
- メーカーが製品ごとに割り当て
MACアドレスの確認方法
Windows:
ipconfig /all
# 出力例:
# 物理アドレス: 00-1A-2B-3C-4D-5E
Mac/Linux:
ifconfig
# または
ip link show
IPアドレスとの違い
項目 | MACアドレス | IPアドレス |
---|---|---|
階層 | データリンク層 | ネットワーク層 |
変更 | 基本的に固定 | 変更可能 |
範囲 | 同じネットワーク内 | インターネット全体 |
例 | 00:1A:2B:3C:4D:5E | 192.168.1.10 |
MACアドレスは「住所」、IPアドレスは「郵便番号」のようなイメージです。
CSMA/CD:衝突回避の仕組み
イーサネットには、データの衝突を防ぐ仕組みがあります。
CSMA/CDとは?
CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)は、複数の機器が同時に通信しようとした時の制御方式です。
動作の流れ:
- Carrier Sense(搬送波検知)
- 誰かが通信中かチェック
- 空いていれば送信開始
- Multiple Access(多重アクセス)
- 複数の機器が同じ媒体を共有
- Collision Detection(衝突検出)
- 同時に送信して衝突したら検出
- ランダムな時間待ってから再送信
例え話:会議室での会話
会議室で複数人が話す場面を想像してください。
CSMA/CDのルール:
- 誰かが話している時は待つ(Carrier Sense)
- 誰も話していなければ、自分が話し始める
- もし同時に話し始めたら(衝突)、お互い気づいて止まる
- ランダムに少し待ってから、また話し始める
イーサネットでも、同じような仕組みでデータの衝突を避けているんです。
現代のイーサネット
スイッチの登場で変化:
現代のイーサネットでは、スイッチが普及したため、CSMA/CDはほとんど使われなくなりました。
全二重通信:
- 送信と受信を同時に行える
- 衝突が起きない
- より高速で効率的
Wi-Fi(無線LAN)との比較
イーサネットとWi-Fi、どちらを使うべきでしょうか?
イーサネットのメリット
1. 速度が速い
- 理論値通りの速度が出やすい
- 安定した高速通信
2. 安定性が高い
- 障害物の影響を受けない
- 通信が途切れにくい
3. セキュリティが高い
- 物理的に接続しないとアクセスできない
- 傍受されにくい
4. 遅延が少ない(低レイテンシ)
- オンラインゲームに最適
- リアルタイム通信に有利
Wi-Fiのメリット
1. 配線不要
- ケーブルを引く必要がない
- 見た目がすっきり
2. 移動の自由
- 部屋中どこでも使える
- スマホやタブレットに最適
3. 設置が簡単
- 工事不要
- すぐに使い始められる
使い分けの目安
イーサネットを推奨:
- デスクトップパソコン(動かさない)
- ゲーム機(PS5、Xbox、Switch)
- スマートTV(動画視聴)
- NAS(ファイルサーバー)
- オンラインゲーム
- 動画編集・配信
Wi-Fiを推奨:
- ノートパソコン(持ち運ぶ)
- スマートフォン
- タブレット
- Webブラウジングのみ
- ケーブルが邪魔になる場合
ベストな選択:
固定で使う機器はイーサネット、移動する機器はWi-Fiという使い分けが理想的です。
実際の使用例
例1:ゲーマー向けの接続
オンラインゲームをプレイする場合、イーサネット接続が推奨されます。
接続構成:
インターネット
|
ルーター(Wi-Fi機能付き)
|
├── [LANケーブル] → ゲーミングPC
├── [LANケーブル] → PlayStation 5
└── [Wi-Fi] → スマートフォン
理由:
- 低遅延(Ping値が低い)
- 安定した通信
- パケットロスが少ない
例2:在宅ワーク環境
リモートワークでは、安定した通信が重要です。
接続構成:
インターネット
|
ルーター
|
├── [LANケーブル] → デスクトップPC(仕事用)
├── [Wi-Fi] → ノートPC(会議用)
└── [Wi-Fi] → スマホ・タブレット
ポイント:
- メインの作業PCはイーサネット接続
- ビデオ会議も安定
- ファイルの送受信が高速
例3:小規模オフィス
複数のパソコンをネットワークでつなぎます。
接続構成:
インターネット
|
ルーター
|
スイッチ(8ポート)
|
├── PC1(経理)
├── PC2(営業)
├── PC3(総務)
├── プリンター
└── NAS(共有ストレージ)
メリット:
- 全員が高速でファイル共有
- プリンターも共有
- 安定したインターネット接続
イーサネットのトラブルシューティング
よくある問題と対処法です。
問題1:インターネットにつながらない
確認項目:
- ケーブルの接続を確認
- LANケーブルがしっかり挿さっているか
- コネクタのツメが折れていないか
- ランプの状態を確認
- NICのランプが点灯/点滅しているか
- 消灯している場合は物理的な問題
- IPアドレスを確認
ipconfig
# 正常な例:
# IPv4 アドレス: 192.168.1.10
# 異常な例:
# IPv4 アドレス: 169.254.x.x(自動割り当て失敗)
- 別のケーブルで試す
- ケーブルの断線の可能性
問題2:速度が遅い
原因と対処:
1. ケーブルの規格が古い
- Cat5以下 → Cat5eまたはCat6に交換
2. 100Mbps接続になっている
# Windowsで確認
コントロールパネル
→ ネットワークと共有センター
→ アダプターの設定の変更
→ イーサネットを右クリック → 状態
→ 速度を確認
3. ネットワーク機器が古い
- 100Mbpsのハブやスイッチを使っている
- ギガビット対応製品に交換
問題3:接続が不安定
対処法:
- ケーブルの長さを確認
- イーサネットは最大100メートル
- それ以上だと信号が弱くなる
- ノイズの影響を確認
- 電源ケーブルと並行に配線しない
- シールド付きケーブルを使う
- ポートを変更
- スイッチやルーターの別のポートに接続
問題4:特定のサイトにつながらない
確認方法:
# Pingテスト
ping google.com
# DNSの確認
nslookup google.com
# 経路確認
tracert google.com
DNSの問題なら、DNSサーバーを変更します(GoogleのDNS:8.8.8.8など)。
PoE(Power over Ethernet)
最近注目されている技術です。
PoEとは?
PoE(Power over Ethernet)は、LANケーブルで電力も供給する技術です。
メリット:
- 電源ケーブルが不要
- 配線がシンプルに
- 設置場所の自由度が高い
対応機器:
- 監視カメラ
- Wi-Fiアクセスポイント
- IP電話機
- スマート照明
PoEの規格
規格 | 供給電力 | 用途 |
---|---|---|
IEEE 802.3af | 15.4W | IP電話、小型カメラ |
IEEE 802.3at | 30W | Wi-Fiアクセスポイント |
IEEE 802.3bt | 60W / 100W | PTZカメラ、デジタルサイネージ |
導入例
オフィスの監視カメラ:
PoE対応スイッチ
|
└── [LANケーブル] → PoEカメラ
(データ + 電源を同時供給)
電源コンセントがない場所でも、LANケーブル1本でカメラを設置できます。
よくある疑問に答えます
Q. イーサネットとLANの違いは?
LANは概念、イーサネットは技術です。
- LAN(Local Area Network):限られた範囲のネットワーク全般
- イーサネット:LANを構築する具体的な技術の一つ
LANの中で最も普及している技術がイーサネットです。
Q. 長いケーブルは速度が遅くなる?
100メートル以内なら影響ありません。
イーサネットは最大100メートルまで、速度低下なく使用できます。100メートルを超える場合は、中継機器(スイッチ)を挟む必要があります。
Q. 古いケーブルも使える?
規格による違いがあります。
- Cat5以上なら1Gbpsに対応(ただしCat5eを推奨)
- Cat5未満は100Mbpsまで
- 10Gbpsを使いたいならCat6A以上が必要
将来性を考えると、新しく買うならCat6以上がおすすめです。
Q. Wi-Fiルーターにもイーサネットポートがある理由は?
有線接続も必要だからです。
Wi-Fiルーターには、通常4つ程度のイーサネットポートがあります。これは、デスクトップPCやゲーム機など、固定で使う機器を有線接続するためです。
まとめ:安定した通信の基盤、イーサネット
イーサネットは、ケーブルでつなぐ有線ネットワークの標準技術です。
重要ポイントをおさらい:
- イーサネットは有線LANの標準規格
- LANケーブル(RJ-45コネクタ)で機器を接続
- 速度規格は100Mbps、1Gbps、10Gbpsなど
- 家庭ではCat5eまたはCat6のケーブルが一般的
- MACアドレスで機器を識別
- Wi-Fiより安定性・速度・低遅延が優れている
- 固定で使う機器はイーサネット接続がおすすめ
- PoEなら電源もLANケーブルで供給できる
Wi-Fiが便利な時代ですが、安定性と速度が必要な場面では、イーサネットが今でも最良の選択です。
デスクトップPCやゲーム機は、ぜひイーサネットで接続してみてください。通信の快適さに驚くはずですよ!
コメント