ロードバランサーとは?仕組みから選び方まで徹底解説

Webサイトのアクセスが増えて、サーバーが重くなってきた…そんな悩みを抱えていませんか?

ロードバランサーは、複数のサーバーにアクセスを分散させて、システム全体の性能と可用性を向上させる技術です。大規模なWebサービスやクラウドシステムでは、必須の基盤技術となっています。

この記事では、ロードバランサーの基本的な仕組みから、種類や選び方、実際の構成方法まで分かりやすく解説していきます。専門用語も丁寧に説明するので、初めて学ぶ方も安心して読み進められますよ。

システムの安定性とパフォーマンスを向上させる、ロードバランサーの世界を一緒に学んでいきましょう。


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ロードバランサーとは?基礎知識

ロードバランサーの定義

ロードバランサーは、アクセスの負荷を複数のサーバーに分散する装置やソフトウェアです。

Load Balancer の意味:

  • Load:負荷、負担
  • Balancer:バランスを取るもの
  • 日本語では「負荷分散装置」

基本的な役割:

  • クライアントからのリクエストを受け取る
  • 複数のバックエンドサーバーに振り分ける
  • サーバーの負荷を均等にする
  • システム全体の安定性を保つ

ロードバランサーは、いわば「交通整理係」のような存在なんですね。

なぜロードバランサーが必要なのか

大規模なシステムで、ロードバランサーが欠かせない理由を見てみましょう。

主な必要性:

  1. 処理能力の向上
  • 1台のサーバーでは処理しきれないアクセス
  • 複数台で分担することで全体の処理能力アップ
  1. 可用性の確保
  • 1台が故障しても他のサーバーで継続
  • ダウンタイムを最小限に抑える
  1. スケーラビリティ
  • サーバーを増やして処理能力を拡張
  • 需要に応じて柔軟に対応
  1. メンテナンスの容易さ
  • サーバーを順番に停止して作業可能
  • サービスを止めずにメンテナンス

ロードバランサーがない場合の問題

ロードバランサーなしでは、どんな問題が起きるのでしょうか。

想定される問題:

  • アクセス集中時にサーバーがパンク
  • 1台故障したらサービス全体が停止
  • メンテナンス時はサービス停止が必須
  • ピーク時間に対応できない

例えば、ニュースサイトで大きな事件が起きた時、アクセスが集中してサーバーダウン…という事態を防げます。


ロードバランサーの動作の仕組み

基本的な動作フロー

ロードバランサーがどのように動作するか、流れを見てみましょう。

処理の流れ:

[ユーザー1]
[ユーザー2]    →  [ロードバランサー]  →  [サーバー1]
[ユーザー3]                              [サーバー2]
[ユーザー4]                              [サーバー3]

ステップ:

  1. ユーザーがWebサイトにアクセス
  2. リクエストがロードバランサーに到着
  3. ロードバランサーが適切なサーバーを選択
  4. 選ばれたサーバーがリクエストを処理
  5. レスポンスがロードバランサー経由でユーザーに返る

ユーザーからは、どのサーバーで処理されているか分かりません。

トラフィックの振り分け

どのようにサーバーを選択するのでしょうか。

振り分けの基準:

  • 現在の負荷状況:CPU使用率、メモリ使用量
  • 接続数:現在処理中のリクエスト数
  • 応答速度:レスポンスタイムの早さ
  • ヘルスチェック結果:サーバーが正常に動作しているか
  • 地理的な距離:ユーザーに近いサーバー

これらの情報を元に、最適なサーバーを選びます。


ロードバランサーの種類

レイヤー4(L4)ロードバランサー

ネットワーク層(トランスポート層)で動作するタイプです。

L4の特徴:

  • IPアドレスとポート番号で振り分け
  • TCPやUDPレベルでの処理
  • 高速で軽量
  • HTTPの内容は見ない

動作イメージ:

接続元: 192.168.1.100:52000
接続先: サーバーIP:80

→ サーバー1(192.168.10.1)に転送

適している用途:

  • シンプルな負荷分散
  • 高速処理が必要なシステム
  • 非HTTP通信(データベース、メールなど)

レイヤー7(L7)ロードバランサー

アプリケーション層で動作する高機能なタイプです。

L7の特徴:

  • HTTPの内容を見て振り分け
  • URL、ヘッダー、Cookie等で判断
  • SSL/TLS終端が可能
  • 柔軟な振り分けルール

動作イメージ:

リクエストURL: https://example.com/api/users

→ APIサーバー群に転送

リクエストURL: https://example.com/images/photo.jpg

→ 画像配信サーバー群に転送

適している用途:

  • 複雑な振り分けルールが必要
  • マイクロサービスアーキテクチャ
  • SSL/TLS証明書の一元管理
  • URL単位でサーバーを分ける

ハードウェア vs ソフトウェア

ロードバランサーには、専用機器とソフトウェアの2種類があります。

ハードウェアロードバランサー:

  • 専用の物理装置
  • 高性能で安定
  • 高価(数百万円〜)
  • F5 Networks、Citrix、A10 Networksなど

ソフトウェアロードバランサー:

  • サーバー上で動作するソフト
  • 柔軟で導入が容易
  • 低コスト(無料〜)
  • Nginx、HAProxy、LVSなど

現代では、クラウド環境の普及もあり、ソフトウェアロードバランサーが主流になっています。


負荷分散アルゴリズム

ラウンドロビン

最もシンプルな振り分け方法です。

仕組み:

  • サーバーに順番に割り当てる
  • A → B → C → A → B → C…
  • 実装が簡単

メリット:

  • 理解しやすい
  • 設定が簡単
  • サーバー性能が同じ場合に有効

デメリット:

  • サーバー性能の差を考慮しない
  • セッション管理が難しい

設定例(Nginx):

upstream backend {
    server server1.example.com;
    server server2.example.com;
    server server3.example.com;
}

重み付けラウンドロビン

サーバーの性能差を考慮した方式です。

仕組み:

  • 各サーバーに重み(weight)を設定
  • 性能が高いサーバーに多く振り分ける

設定例:

upstream backend {
    server server1.example.com weight=3;  # 高性能
    server server2.example.com weight=2;  # 中性能
    server server3.example.com weight=1;  # 低性能
}

6回のリクエストのうち、server1に3回、server2に2回、server3に1回割り当てられます。

最小接続数(Least Connections)

現在の接続数が少ないサーバーを選ぶ方式です。

仕組み:

  • 各サーバーのアクティブな接続数を監視
  • 最も接続数が少ないサーバーを選択
  • 処理時間が異なるリクエストに有効

適している場面:

  • リクエストの処理時間が不均等
  • 長時間接続が発生するアプリ
  • WebSocketやストリーミング

設定例:

upstream backend {
    least_conn;
    server server1.example.com;
    server server2.example.com;
}

IPハッシュ

クライアントのIPアドレスを元に振り分ける方式です。

仕組み:

  • クライアントIPからハッシュ値を計算
  • 同じIPは常に同じサーバーに接続
  • セッション維持が自動的にできる

メリット:

  • セッション管理が不要
  • ユーザーごとに固定のサーバー
  • キャッシュ効率が良い

デメリット:

  • サーバー追加・削除時に再配分
  • 一部のサーバーに偏る可能性

設定例:

upstream backend {
    ip_hash;
    server server1.example.com;
    server server2.example.com;
}

最速応答時間

レスポンスタイムが最も速いサーバーを選ぶ方式です。

仕組み:

  • 各サーバーの応答時間を測定
  • 最も速く応答するサーバーを選択
  • 動的に最適化される

適している場面:

  • サーバー性能が不均一
  • ネットワーク環境が変動
  • 最高のパフォーマンスが必要

主要なロードバランサー製品・サービス

Nginx

最も人気のあるオープンソースのロードバランサーです。

特徴:

  • 高速で軽量
  • L7ロードバランシング
  • HTTPSにも対応
  • 設定ファイルがシンプル

基本設定例:

http {
    upstream backend {
        server 192.168.1.10:8080;
        server 192.168.1.11:8080;
        server 192.168.1.12:8080;
    }

    server {
        listen 80;
        location / {
            proxy_pass http://backend;
        }
    }
}

HAProxy

高性能な負荷分散に特化したソフトウェアです。

特徴:

  • 非常に高いパフォーマンス
  • L4/L7両対応
  • 詳細な統計情報
  • ヘルスチェックが充実

適している用途:

  • 大規模なトラフィック処理
  • 高可用性が必要なシステム
  • 細かな制御が必要な環境

AWS Elastic Load Balancing

AWSが提供するマネージドロードバランサーです。

種類:

  1. Application Load Balancer(ALB)
  • L7ロードバランサー
  • HTTP/HTTPS向け
  • パス・ホストベースのルーティング
  1. Network Load Balancer(NLB)
  • L4ロードバランサー
  • 超高速・低レイテンシ
  • TCP/UDPトラフィック
  1. Classic Load Balancer(CLB)
  • 従来型(非推奨)

メリット:

  • 完全マネージド(保守不要)
  • 自動スケーリング
  • AWSサービスとの統合

Google Cloud Load Balancing

GCPのロードバランサーサービスです。

特徴:

  • グローバルロードバランシング
  • 単一のIPアドレスで世界中に配信
  • 自動的に最寄りのリージョンへ振り分け

Azure Load Balancer

Azureのロードバランサーです。

種類:

  • Basic Load Balancer(無料)
  • Standard Load Balancer(高機能)
  • Application Gateway(L7)

ヘルスチェック機能

ヘルスチェックの重要性

サーバーの状態を監視する機能です。

目的:

  • 故障したサーバーを検出
  • 異常なサーバーへの振り分けを停止
  • 自動的にサービス継続
  • 復旧したら自動的に再開

ヘルスチェックがないと、故障したサーバーにもリクエストが送られてしまいます。

ヘルスチェックの種類

複数のチェック方法があります。

アクティブヘルスチェック:

  • 定期的にサーバーに問い合わせ
  • 応答があるか確認
  • HTTPステータスコードをチェック

パッシブヘルスチェック:

  • 実際のリクエストを監視
  • エラーが続いたら異常と判断
  • より実態に即した判断

設定例(Nginx):

upstream backend {
    server server1.example.com max_fails=3 fail_timeout=30s;
    server server2.example.com max_fails=3 fail_timeout=30s;
}

3回失敗したら30秒間そのサーバーを使わない、という設定です。

チェック内容の設定

どのような確認を行うか設定できます。

チェック項目:

  • Ping応答:サーバーが起動しているか
  • ポート接続:サービスが動作しているか
  • HTTP GET:特定のURLにアクセス
  • HTTPステータス:200 OKが返るか
  • レスポンス内容:期待する文字列が含まれるか

より詳細にチェックすることで、確実な判断ができます。


セッション管理とスティッキーセッション

セッション管理の課題

ロードバランサー使用時の問題点です。

問題:

ユーザーAが最初はサーバー1で処理され、次のリクエストはサーバー2に振り分けられると、ログイン状態などのセッション情報が引き継がれません。

解決方法:

  1. スティッキーセッション
  2. セッション情報の共有
  3. セッションレス設計

スティッキーセッション

同じユーザーを同じサーバーに固定する仕組みです。

実現方法:

Cookie方式:

upstream backend {
    ip_hash;  # または sticky cookie srv_id expires=1h;
    server server1.example.com;
    server server2.example.com;
}

メリット:

  • セッション情報を共有不要
  • 実装が簡単

デメリット:

  • サーバー障害時にセッション消失
  • 負荷分散が不均等になる可能性

セッション情報の共有

全サーバーでセッションを共有する方式です。

実現方法:

  • Redis/Memcached:インメモリDB
  • データベース:セッション専用テーブル
  • 共有ストレージ:NFS等

メリット:

  • どのサーバーでも処理可能
  • サーバー障害に強い
  • 真の負荷分散が可能

デメリット:

  • 別途インフラが必要
  • 管理が複雑

ロードバランサーのメリット・デメリット

メリット

1. 高可用性の実現

  • サーバー障害時も継続運用
  • ダウンタイムの最小化
  • SLA(サービスレベル契約)の向上

2. スケーラビリティ

  • サーバー追加で処理能力向上
  • 需要に応じた柔軟な拡張
  • コスト効率の良いスケーリング

3. パフォーマンス向上

  • 複数サーバーで処理を分担
  • レスポンスタイムの短縮
  • ユーザー体験の改善

4. 保守性の向上

  • ローリングアップデート可能
  • サービス停止なしでメンテナンス
  • 計画的な作業が可能

デメリット

1. 複雑性の増加

  • システム構成が複雑になる
  • 運用・保守の難易度上昇
  • トラブルシューティングが困難

2. 単一障害点(SPOF)

  • ロードバランサー自体が故障点
  • 冗長化が必要
  • コストが増加

3. コスト

  • ハードウェア購入費用
  • ソフトウェアライセンス
  • クラウドサービス料金

4. セッション管理

  • セッション維持の仕組みが必要
  • 設計・実装の工数

ロードバランサーの構成例

基本構成

最もシンプルな構成です。

構成図:

[インターネット]
      ↓
[ロードバランサー]
      ↓
   ┌──┼──┐
   ↓  ↓  ↓
[Web1][Web2][Web3]

特徴:

  • シンプルで分かりやすい
  • 小規模〜中規模向け
  • ロードバランサーが単一障害点

冗長化構成

ロードバランサー自体も冗長化した構成です。

構成図:

[インターネット]
      ↓
[VIP(仮想IP)]
   ↙    ↘
[LB1]  [LB2] ← Active/Standby
   ↓    ↓
[Webサーバー群]

特徴:

  • 高可用性を実現
  • VRRPやKeepalivedで冗長化
  • 大規模サイト向け

多層構成

用途別に複数のロードバランサーを配置します。

構成図:

[インターネット]
      ↓
[外部ロードバランサー]
      ↓
  [Webサーバー群]
      ↓
[内部ロードバランサー]
      ↓
  [APIサーバー群]
      ↓
[DBロードバランサー]
      ↓
 [データベース群]

特徴:

  • 役割ごとに最適化
  • 柔軟なスケーリング
  • エンタープライズ向け

ロードバランサーの選び方

選定のポイント

自社システムに適したロードバランサーを選びましょう。

検討項目:

  1. トラフィック量
  • 予想される同時接続数
  • ピーク時の負荷
  1. 必要な機能
  • L4かL7か
  • SSL/TLS終端の必要性
  • 振り分けアルゴリズム
  1. 予算
  • 初期費用
  • 運用コスト
  • ライセンス費用
  1. 運用体制
  • 社内の技術力
  • 保守・監視体制
  • マネージドサービスの利用

クラウド vs オンプレミス

環境に応じた選択が必要です。

クラウドの場合:

  • AWS ELB、GCP Load Balancing推奨
  • 完全マネージド
  • 従量課金
  • スケーラビリティが容易

オンプレミスの場合:

  • Nginx、HAProxyが人気
  • 自社で保守が必要
  • 初期投資が必要
  • 柔軟なカスタマイズ

まとめ:ロードバランサーでシステムを強化しよう

ロードバランサーは、現代のWebシステムに欠かせない技術です。

この記事の重要ポイント:

  • ロードバランサーは複数サーバーに負荷を分散
  • 高可用性とスケーラビリティを実現
  • L4とL7で機能が大きく異なる
  • 多様な振り分けアルゴリズムから選択
  • ヘルスチェックで障害を自動検知
  • セッション管理の設計が重要
  • クラウドではマネージドサービスが便利

導入を検討すべきタイミング:

  • サーバーが頻繁に過負荷になる
  • ダウンタイムが許されない
  • 将来的なアクセス増加が予想される
  • システムを無停止でメンテナンスしたい

最初は小規模な構成から始めて、システムの成長に合わせて拡張していくのが良いでしょう。

クラウド環境なら、マネージドロードバランサーを使えば、複雑な設定なしで簡単に導入できます。オンプレミスでも、NginxやHAProxyなら無料で高機能なロードバランシングが実現できますよ。

この記事を参考に、あなたのシステムに最適なロードバランサーを導入して、安定性とパフォーマンスを大幅に向上させてください!

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