【風と雨を操る魔法の扇】芭蕉扇(ばしょうせん)とは?その姿・特徴・伝承をやさしく解説!

神話・歴史・伝承

もし一振りで暴風を起こし、二振りで雨雲を呼び、三振りで洪水を起こせる扇があったら、どんな気持ちになるでしょうか?

中国の古典小説『西遊記』に登場する「芭蕉扇(ばしょうせん)」は、まさにそんな途方もない力を持つ魔法の扇なんです。

天候を自在に操り、どんな猛火も消し去ることができるこの宝物は、多くの者が欲しがる伝説の神器として語り継がれてきました。

この記事では、中国神話に登場する最強の扇「芭蕉扇」について、その神秘的な姿や驚くべき能力、そして有名な『西遊記』での戦いの物語を分かりやすくご紹介します。

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概要

芭蕉扇は、中国の古典小説『西遊記』に登場する魔法の扇です。

天地開闢(てんちかいびゃく)の時、つまり世界が生まれた時に崑崙山(こんろんさん)の後ろで自然に生まれた神器とされています。太陽の精気が凝縮してできた葉っぱから作られているため、どんな火でも消すことができるんですね。

この扇を持っているのは、羅刹女(らせつにょ)という女性の仙人。中国では「鉄扇公主(てっせんこうしゅ)」とも呼ばれています。

翠雲山(すいうんざん)の芭蕉洞(ばしょうどう)という場所に住んでいて、この宝物を大切に守っているのですが、その力の大きさから、多くの者に狙われることになりました。

姿・見た目

芭蕉扇の見た目は、私たちがよく知っている日本のうちわとはちょっと違うんです。

芭蕉扇の外観的特徴

  • 素材:芭蕉(バナナの仲間)の葉でできている
  • 形状:南方風の大きな扇の形
  • 大きさ:とても巨大(人が持つのがやっとなくらい)
  • 重さ:見た目に反して軽い(魔法の力のおかげ)
  • :翡翠のような緑色をしている

面白いのは、普段は小さく畳まれていて、使うときに大きくなるという説もあること。まるで現代の折りたたみ傘みたいですよね。

『西遊記』の挿絵では、人の背丈ほどもある巨大な扇として描かれることが多く、その威厳ある姿は、見る者を圧倒します。

特徴

芭蕉扇には、天地を揺るがすほどのすごい力が秘められています。

芭蕉扇の主な能力

天候を操る力

  • 一扇ぎ(ひとあおぎ):巨大な風を起こす
  • 二扇ぎ:雨雲を呼び寄せる
  • 三扇ぎ:大洪水を引き起こす

戦闘での使い方

  • 相手を8万4千里(約42万km)も吹き飛ばせる
  • どんな猛火でも一瞬で消し去る
  • 風の壁を作って攻撃を防ぐ

特別な性質

この扇の最大の特徴は、「陰」の力を持っていることです。

中国の思想では、世界は「陰」と「陽」のバランスでできているとされています。火は「陽」の力なので、「陰」の力を持つ芭蕉扇なら、どんな火でも消せるというわけなんですね。

実際、『西遊記』では、500年間燃え続けている火焔山(かえんざん)の火も、この扇だけが消すことができました。

伝承

芭蕉扇といえば、何といっても『西遊記』での孫悟空との戦いが有名です。

火焔山での大騒動

三蔵法師一行が天竺(てんじく)への旅の途中、800里(約400km)にわたって炎が燃え盛る火焔山に行く手を阻まれました。

この山の火は、実は500年前に孫悟空が天界で大暴れした時、太上老君(たいじょうろうくん)の八卦炉(はっけろ)から飛び散った火が原因だったんです。つまり、悟空にとっては自分がまいた種というわけですね。

羅刹女との戦い

火を消すため、孫悟空は芭蕉扇を借りに羅刹女のもとへ向かいます。

ところが、羅刹女の息子・紅孩児(こうがいじ)を以前懲らしめたことがあったため、彼女は悟空を仇と見なして激怒。青峰(せいほう)の宝剣を振るって戦いを挑んできました。

第一回戦:羅刹女は芭蕉扇で悟空を8万4千里も吹き飛ばしてしまいます。

第二回戦:悟空は霊吉菩薩(れいきつぼさつ)から「定風丹(ていふうたん)」という風を防ぐ薬をもらって再挑戦。今度は小さな虫に変身して羅刹女のお茶に紛れ込み、お腹の中で暴れ回って扇を借りることに成功します。しかし、それは偽物でした。

第三回戦:悟空は羅刹女の夫・牛魔王に化けて本物の扇を騙し取りますが、今度は牛魔王が豚八戒に化けて扇を取り返してしまいます。

最終決戦

ついに天界の神々も巻き込んだ大戦争に発展。哪吒太子(なたたいし)などの天将たちの助けを借りて、ようやく牛魔王を降伏させることに成功しました。

羅刹女も観念して本物の芭蕉扇を貸し、火焔山の火は無事に消されたのです。その後、扇は羅刹女に返され、彼女は修行の道に入ったとされています。

起源

芭蕉扇の物語には、実は『西遊記』以前からの長い歴史があります。

元曲での描写

明代の小説『西遊記』(16世紀)より前の、元代(13-14世紀)の演劇にも芭蕉扇は登場していました。

この頃の物語では、鉄扇公主は風の神々を統べる存在として描かれ、西王母(せいおうぼ)と酒の席で争って天界を追放されたという設定だったんです。

道教との関係

芭蕉扇は道教の思想と深く結びついています。

道教の最高神・太上老君が持つ「芭蕉扇」が原型という説もあり、実際に道教の寺院では、扇が魔除けや浄化の道具として使われていました。

民間信仰への広がり

『西遊記』の人気により、芭蕉扇は中国全土で知られるようになりました。

現在でも新疆ウイグル自治区の火焔山観光地には、羅刹女と牛魔王の巨大な像が建てられ、観光名所となっています。暑い夏に涼を求める風習として、芭蕉扇型のうちわが売られることもあるそうです。

まとめ

芭蕉扇は、天候を自在に操る中国神話最強クラスの魔法の扇です。

重要なポイント

  • 天地開闢の時に生まれた太陽の精気でできた神器
  • 一振りで暴風、二振りで雨雲、三振りで洪水を起こす
  • 羅刹女(鉄扇公主)が所有する宝物
  • 火焔山の火を消せる唯一の道具
  • 『西遊記』で孫悟空との壮絶な戦いが繰り広げられた
  • 道教思想の「陰陽」の原理に基づく力を持つ

芭蕉扇の物語は、単なる魔法の道具の話ではなく、自然の力への畏敬の念と、それを制御しようとする人間の願いが込められた壮大な神話なのです。

もし本当に芭蕉扇があったら、現代の気候変動問題も解決できるかもしれませんね。でも、その強大な力をめぐって、きっと『西遊記』のような争いが起きてしまうのでしょう。

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