もし飼い猫が突然「僕が次の王様だ!」と叫んで家を飛び出したら、どう思いますか?
スコットランドやアイルランドには、そんな不思議な猫の妖精の言い伝えがあるんです。
その名は「ケット・シー」。普通の猫に紛れて暮らしながら、実は二本足で歩き、人間の言葉を話す妖精猫です。しかも猫たちの王国まで持っているという、まさにファンタジーの世界の住人なんです。
この記事では、ケルトの民が語り継いできた神秘的な妖精猫「ケット・シー」について、その驚くべき正体と有名な伝承をご紹介します。
概要

ケット・シー(Cait Sith)は、スコットランドやアイルランドの伝承に登場する妖精猫です。
ケルト語で「ケット」は猫、「シー」は妖精を意味します。つまり「猫の妖精」という、そのままの名前なんですね。
ケット・シーは単なる大きな猫ではありません。人間の言葉を理解して話し、二本足で歩き、時には踊ることもできる知的な存在として描かれています。
しかも、猫たちだけの王国を持ち、王位継承まで行われているという、まるで人間社会のような文明を持つ妖精なんです。
最も興味深いのは、普通の猫たちの中に紛れて暮らしているという点。あなたの家の猫も、もしかしたらケット・シーかもしれません。
姿・見た目
ケット・シーの姿は、一見すると大きな黒猫ですが、よく見ると普通の猫とは違う特徴があります。
ケット・シーの外見的特徴
- 大きさ:犬ほどの大きさ(大型犬サイズ)
- 毛色:漆黒の毛並み
- 胸の模様:白い大きな斑点がある
- 姿勢:背中を弓なりに反らせて威嚇的
- 毛並み:剛毛が逆立っている
人間が見ていないときは二本足で立って歩くのですが、人間に見つかりそうになると四つ足に戻って普通の猫のふりをします。この「変装」がとても上手で、普段は普通の猫として人間と暮らしているケット・シーも多いといわれているんです。
伝承によっては、虎猫や白猫、ぶち猫の姿で描かれることもあり、黒猫だけがケット・シーというわけではないようです。
特徴
ケット・シーは、妖精界でも特に知能が高い存在として知られています。
ケット・シーの能力
- 人語を話す:人間の言葉を完璧に理解し、話すことができる
- 二本足歩行:人間のように立って歩ける
- 変身能力:普通の猫に化けることができる
- 魂を盗む力:死者の魂を奪うことができるという恐ろしい面も
- 予言能力:未来を知ることがあるという説もある
行動と性格
ケット・シーは基本的にプライドが高く、独立心の強い性格です。
普段は普通の猫のふりをして人間と暮らしていますが、うっかり人間の前で話してしまったり、二本足で歩いてしまったりする「おっちょこちょいな一面」もあるといいます。
また、ケット・シーには王制があり、定期的に王様が交代するという社会システムを持っています。中には二カ国語を操る者もいて、かなり高度な教育を受けているようです。
人間との関係
ケット・シーは必ずしも人間の敵ではありません。
ハロウィンの時期(サウィン)に牛乳を皿に入れて置いておくと、その家に一年間の幸運をもたらしてくれます。逆に、もてなさなかった家の牛は乳が出なくなってしまうという、ちょっと意地悪な面もあるんです。
伝承

ケット・シーにまつわる最も有名な物語が「猫の王様」の話です。
猫の王様の伝承
ある農民が満月の夜、家路を急いでいました。
村境の橋を渡ろうとすると、たくさんの猫が集まって何やら儀式をしています。好奇心から物陰に隠れて見ていると、なんと猫たちが人間の言葉で話しているではありませんか!
猫たちは小さな棺を運びながら「猫の王様が死んだ」「ティム・トルドラムが死んだ」と繰り返していました。農民は恐ろしくなって家に逃げ帰りました。
翌日、妻にその不思議な出来事を話していると、暖炉のそばで寝ていた飼い猫のトムが突然飛び起きました。
「なんだって!?ティムが死んだ?それなら僕が次の王様だ!」
猫はそう叫ぶと煙突から飛び出していき、二度と戻ってきませんでした。
魂を盗む猫
もう一つ恐ろしい伝承があります。
スコットランド高地では、人が亡くなると埋葬まで遺体を家に安置していました。この時、ケット・シーが遺体をまたぐと死者の魂を盗んでしまうと信じられていたんです。
そのため、人々は「Late Wake(レイト・ウェイク)」という通夜を行い、音楽やゲーム、踊りでケット・シーの注意をそらしました。また、猫が好む暖かさに引き寄せられないよう、遺体の近くで火を焚かないようにしたといいます。
魔女との関係
一部の伝承では、ケット・シーは妖精ではなく魔女が変身した姿だとされています。
魔女は9回まで猫に変身できますが、9回変身してしまうと永遠にケット・シーのままになってしまうという話があります。アイルランドのバリマリス城には、魔女が変身したケット・シーの姉妹が住んでいたという言い伝えも残されています。
起源
ケット・シーの伝説は、どのようにして生まれたのでしょうか。
実在の動物がモデル?
ケット・シーの起源として最も有力なのが、スコットランドヤマネコ説です。
スコットランドヤマネコは、普通の猫より大型で、胸に白い模様を持つことがあります。また、威嚇するときに背中を弓なりに反らせる姿勢も、ケット・シーの描写と一致しているんです。
さらに興味深いのが「ケラス・キャット」の存在。これはスコットランドにのみ生息する、ヤマネコと飼い猫の雑種です。普通の猫より大きく、黒い毛並みを持つことが多いため、ケット・シーのモデルになった可能性があります。
ケルトの妖精信仰
ケルト民族には古くから妖精信仰があり、動物の姿をした妖精が数多く登場します。
犬の妖精「クー・シー」と対になる存在として、猫の妖精ケット・シーが生まれたという説もあります。クー・シーが妖精の家畜的な存在なのに対し、ケット・シーは独立した知的存在として描かれているのが特徴的です。
猫への畏怖と憧れ
中世のヨーロッパでは、猫は神秘的で不思議な動物として見られていました。
暗闇でも目が光り、音もなく歩き、高いところから落ちても平気な猫は、人々にとって超自然的な力を持つ存在に見えたのでしょう。特に黒猫は魔術と結びつけられることが多く、ケット・シーの伝承もその影響を受けているようです。
まとめ
ケット・シーは、ケルトの人々が猫に抱いた畏敬の念が生み出した妖精猫の伝承です。
重要なポイント
- スコットランド・アイルランドに伝わる妖精猫
- 犬ほどの大きさの黒猫で、胸に白い模様
- 人語を話し、二本足で歩くことができる
- 普通の猫に紛れて人間と暮らしている
- 猫の王国があり、王位継承が行われる
- 死者の魂を盗む恐ろしい一面も持つ
- 魔女が変身した姿という説もある
- スコットランドヤマネコがモデルの可能性
あなたの家の猫が、時々じっと何かを見つめていたり、まるで理解しているような顔をすることはありませんか?
もしかしたら、それはケット・シーが正体を隠しているだけかもしれませんね。
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