荒野から聞こえてくる凶暴な獣の咆哮を聞いたことはありますか?
それは中国神話に登場する、絶対に諦めることを知らない魔獣「檮杌」かもしれません。
人間の顔にトラの体を持ち、死ぬまで戦い続けるという恐ろしい存在なんです。
この記事では、中国の四凶の一つに数えられる魔獣「檮杌」について、その凶悪な姿や特徴、興味深い伝承を分かりやすくご紹介します。
概要

檮杌(とうこつ)は、中国神話に登場する凶悪な魔獣です。
中国には特に恐ろしい4つの怪物がいて、それを四凶(しきょう)と呼びます。檮杌はその一つに数えられるほど恐れられた存在なんですね。
「檮杌」という名前には「教え導くことができない頑固者」という意味があります。まさに名前の通り、誰の言うことも聞かない、手のつけられない暴れ者として知られています。
中国西部の荒野を荒らし回り、人々を恐怖に陥れた伝説の魔獣として、現在でも「頑固で凶暴な性格」を表す言葉として使われることがあるんです。
姿・見た目
檮杌の姿は、まさに悪夢のような合成獣です。
檮杌の外見的特徴
- 顔:人間のような顔
- 体:大きなトラに似た体格
- 毛:全身に約40センチもの長い毛がびっしり
- 牙:イノシシのような鋭い牙
- 尾:一丈八尺(約5.4メートル)もの長い尾
- 大きさ:トラと同じくらい
『神異経』という古い文献では、「西方の荒地にいる獣で、虎に似ており、犬のような長い毛が生えている」と記されています。人間の知性を持ちながら、獣の凶暴さを併せ持つという、とても恐ろしい姿なんです。
人面獣身という組み合わせは、知能が高いのに野蛮という矛盾した性質を表しているといわれています。
特徴

檮杌の最大の特徴は、その異常なまでの頑固さと戦闘への執着です。
檮杌の性格と行動
- 極度の頑固:自分が正しいと信じて疑わない
- 聞く耳を持たない:他人の忠告を一切受け入れない
- 戦闘狂:戦うことだけが生きがい
- 不退転の精神:死ぬまで絶対に引かない
- 破壊衝動:世を乱すことを楽しむ
恐ろしい習性
檮杌は「難訓」(なんくん=教え難い)、「傲狠」(ごうこん=傲慢で狂暴)という別名を持っています。これらの名前が示す通り、どんなに説得しても無駄で、暴力でしか物事を解決しようとしません。
日本の『和漢三才図会』という百科事典には、「戦いで死んでも闘争心を失わないのは檮杌だけ」と記されているほど、その凶暴さは際立っています。
伝承
檮杌にまつわる伝説は、中国の古代神話に深く根ざしています。
顓頊帝の不肖の子
『春秋左氏伝』によると、古代中国の天帝・顓頊(せんぎょく)には出来の悪い子がいました。何度教え諭しても行いを改めず、善悪の区別もつかない。そこで人々はこの子を「檮杌」と呼んだといいます。
一説には、この顓頊の子そのものが檮杌になったともいわれています。天帝の子でありながら、悪行を重ね続けた罰として、魔獣の姿に変えられたというわけです。
四凶としての檮杌
中国の伝説的な聖王・舜(しゅん)が天下を治めた時、四凶と呼ばれる4つの悪しき存在を四方の果てに追放しました。
- 混沌(こんとん)
- 窮奇(きゅうき)
- 檮杌(とうこつ)
- 饕餮(とうてつ)
これらは皆、かつては神や帝の血筋でありながら、悪行によって怪物となった存在だといわれています。
学者を困らせた檮杌
ある伝説では、檮杌に出会った学者が、その凶暴さから逃れるために「どうか私を食べてください」と懇願したといいます。
しかし、つむじ曲がりの檮杌は、あえてその願いを拒否して学者を逃がしたとか。相手の望むことの逆をするという、まさに頑固者の極みですね。
起源

檮杌という存在の起源には、興味深い背景があります。
名前の由来
「檮」は「断ち切られた木」、「杌」は「切り株」を意味します。つまり「檮杌」とは元々「木の切り株」という意味だったんです。
なぜ切り株が怪物の名前になったのか?それは、切り株のように頑固で動かない、教えても無駄という性質を表現したものだと考えられています。
楚国の史書
実は「檮杌」は楚国(そこく)の歴史書の名前でもありました。木の切り株には年輪があり、過去を記録するものという意味から、歴史書の名前になったそうです。
この史書は「悪を懲らしめる」ことを主な目的としており、檮杌という怪物の名前を使うことで、悪行への警告としたといわれています。
まとめ
檮杌は、中国神話が生み出した究極の頑固者であり戦闘狂です。
重要なポイント
- 中国神話の四凶の一つ
- 人間の顔にトラの体という異形
- 約40センチの長い毛と5メートル超の尾
- 死ぬまで戦い続ける凶暴な性格
- 「難訓」「傲狠」という別名
- 顓頊帝の不肖の子という説
- 舜によって追放された
- 元は「木の切り株」という意味
- 現在も頑固者を表す言葉として使われる
檮杌は、ただの怪物ではなく、「教えを聞かない者の末路」を示す教訓的な存在でもあります。ど
んなに強くても、人の話を聞かず、自分の考えに固執する者は、最後には破滅するという中国の知恵が込められているのかもしれませんね。
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