倒しても倒しても生き返る鬼がいたって、信じられますか?
九州の阿蘇と高千穂に伝わる「鬼八(きはち)」は、まさにそんな不死身の鬼なんです。しかも死んだ後も霜を降らせて農作物を枯らし、人々を苦しめ続けたという、なんとも執念深い存在でした。
驚くことに、この鬼を慰めるために、かつては少女を生贄として捧げていた時代もあったというから恐ろしい話ですよね。
この記事では、九州の山岳地帯に語り継がれる不死身の鬼・鬼八について、その特徴や伝承、そして今も続く祭りの起源をわかりやすくご紹介します。
概要
鬼八(きはち)は、九州の阿蘇と高千穂地方に伝わる鬼で、霜の災いをもたらす厄神として恐れられた存在です。
「鬼八法師(きはちほうし)」とも呼ばれ、地域によって「金八」「オンハチボウシ」「鬼八ボシ」など、様々な呼び名があります。
鬼八の基本情報
- 活動地域:熊本県阿蘇地方、宮崎県高千穂地方
- 時代:古代(神話時代)
- 別名:鬼八法師、金八、鬼八ボシなど
- 種族:鬼神
- 特殊能力:不死・再生能力、霜を降らせる力
- 退治した人物:健磐龍命(たけいわたつのみこと)/三毛入野命(みけいりのみこと)
面白いのは、阿蘇と高千穂で全く違う立場として語られていることです。阿蘇では神の家来、高千穂では敵対する豪族として描かれているんですね。
2. 特徴
鬼八の最大の特徴は、その驚異的な再生能力と霜を操る力です。
鬼八の恐るべき能力
不死・再生能力
- 首を切られても元通りにくっつく
- 腕や足を切られても吸い寄せられるように再生
- 体をバラバラにされても復活する
- 夜になるとパワーアップする
この再生能力のせいで、退治するのが本当に大変だったんです。最終的には体を3つに切り分けて、別々の場所に埋めたという話もあります。
霜を操る力
- 死後も霊となって霜を降らせる
- 農作物を枯らす
- 霜の害を自在にコントロール
九州の山岳地帯では、霜による農作物の被害が深刻でした。鬼八はまさに農民たちにとって最も恐ろしい災いの象徴だったんですね。
鬼八の性格
- プライドが高い(主人の矢を足で返すなど)
- 執念深い(死後も恨みを持ち続ける)
- どこか憎めない一面も(真面目に仕事をしていた)
阿蘇の伝承では、99本目まではちゃんと矢を拾っていたというから、基本的には真面目な性格だったのかもしれません。
伝承

鬼八の物語は、阿蘇と高千穂で大きく異なります。
阿蘇の鬼八伝説
阿蘇を開いた神様・健磐龍命には、鬼八法師という優秀な家来がいました。
悲劇の始まり
- 健磐龍命が山の上から遠くの的石に矢を射る遊びをする
- 鬼八は矢を取りに行く役目
- 99本目まで真面目に取ってきた
- 100本目で疲れて、足の指で挟んで投げ返した
- 矢が健磐龍命に当たってしまう
追跡と死
怒った健磐龍命は鬼八を追いかけ、高千穂まで逃げた鬼八を討ち取ります。しかし、鬼八の首は天高く舞い上がり、霜を降らせる祟り神となってしまいました。
高千穂の鬼八伝説
高千穂では、鬼八は最初から悪い鬼として登場します。
三毛入野命との戦い
神武天皇の兄・三毛入野命が東征から帰ると、高千穂は鬼八に荒らされていました。
- 鬼八は乳ヶ岩屋に住む豪族の親分
- 里人を襲い、乱暴の限りを尽くす
- 三毛入野命が退治を決意
- 夜になると強くなる鬼八に苦戦
- 朝日丹部守の呪術で太陽を呼び戻す
- 力を失った鬼八を討ち取る
死後の祟り
どちらの地域でも、鬼八は死後も霜を降らせて農作物を枯らすという祟りをなしました。
霜を鎮める方法
- 阿蘇:霜宮神社で火焚き神事(鬼八の霊を暖める)
- 高千穂:猪掛祭(最初は少女を生贄に、後に猪に変更)
起源
鬼八伝説の起源は、霜の害の擬人化だと考えられています。
自然災害の神格化
九州の山岳地帯では、霜による農作物の被害が深刻でした。
人々は理解できない自然現象を、鬼という存在で説明しようとしたんです。
二つの地域での違い
阿蘇の鬼八
- 弱小民族の象徴
- 支配者(健磐龍命)の家来として描かれる
- 服従しようとしない反抗的な存在
高千穂の鬼八
- 強い勢力の象徴
- 独立した豪族として対抗
- 完全な敵対者として描かれる
この違いは、一つの勢力が土地を支配していく過程を表しているといわれています。
現在も続く祭り
驚くべきことに、鬼八を慰める祭りは今も続いています。
霜宮神社の火焚き神事(阿蘇)
- 旧暦7月7日から9月6日まで
- かつては15歳未満の少女が59日間火を焚き続けた
- 現在は地区住民が交代で火を守る
猪掛祭(高千穂)
- 旧暦12月3日
- 高千穂神社で猪を供える
- 鬼八の霊を慰める神楽を舞う
まとめ
鬼八は、自然の脅威と人間の恐怖が生み出した、九州独特の鬼神です。
鬼八の重要ポイント
- 不死身の再生能力を持つ鬼
- 死後も霜を降らせて祟る執念深さ
- 阿蘇と高千穂で異なる伝承
- 霜の害の擬人化として生まれた
- 現在も祭りで霊を慰め続けている
興味深いのは、どちらの地域も鬼八を大切に祀っていることです。
敵として倒した存在でありながら、その霊を慰め続ける。
これは日本人独特の、自然や怨霊に対する畏れと敬いの心を表しているのかもしれません。
鬼八の墓や首塚は今も大切に守られ、道路工事の際も壊さずに移設されているそうです。
1000年以上前の鬼の話が、今も生きた信仰として続いている。
それが鬼八伝説の最も不思議で魅力的な部分といえるでしょう。
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