ヘッドホンを選ぶとき、スペック表に「32Ω」とか「250Ω」という謎の数字を見たことはありませんか?
これがインピーダンスです。
「難しそう…」と思うかもしれませんが、実はとてもシンプル。
電気の流れやすさを表す数字なんです。
この数字を理解すると、なぜスマホでは音が小さいヘッドホンがあるのか、なぜ高級ヘッドホンにはアンプが必要なのかが分かります。
そして、あなたの使い方に最適なヘッドホンを選べるようになります。
今回は、インピーダンスの基本から、実際の選び方まで、分かりやすく解説していきます。
インピーダンスを水道に例えると一瞬で分かる

電気を水に例えてみよう
インピーダンスを理解する最も簡単な方法は、水道に例えることです。
音楽プレーヤー = 水道の蛇口
電気信号 = 水
ヘッドホン = ホース
インピーダンス = ホースの太さ(の逆)
インピーダンスが低い(16〜32Ω) = 太いホース = 水(電気)が流れやすい = 小さな水圧(電力)でも十分な水量
インピーダンスが高い(250〜600Ω) = 細いホース = 水(電気)が流れにくい = 大きな水圧(電力)が必要
つまり、インピーダンスは「電気の流れにくさ」を表す数値なんです。
Ω(オーム)って何?
Ω(オーム)は、電気抵抗の単位です。
数字が大きいほど電気が流れにくく、小さいほど流れやすいと覚えてください。
16Ω = とても流れやすい
32Ω = 流れやすい
150Ω = やや流れにくい
250Ω = 流れにくい
600Ω = とても流れにくい
インピーダンスの種類と特徴

低インピーダンス(16〜50Ω)
特徴:
- スマホやポータブルプレーヤーで十分な音量
- 電池の消費は多め
- 持ち運び用ヘッドホンに多い
メリット:
✅ アンプなしで使える
✅ どんな機器でも音量が取れる
✅ 価格が手頃なものが多い
デメリット:
❌ ノイズを拾いやすい
❌ 音の解像度が劣る場合がある
❌ バッテリー消費が早い
代表的な製品:
- Audio-Technica ATH-M50x(38Ω)
- Sony WH-1000XM5(48Ω、電源OFF時)
中インピーダンス(50〜150Ω)
特徴:
- バランスが良い
- 家庭用とポータブル両方で使える
- 音質と扱いやすさの両立
メリット:
✅ 汎用性が高い
✅ 音質と駆動しやすさのバランスが良い
✅ 多くの機器で問題なく使える
デメリット:
❌ 特化した性能はない
❌ スマホでは音量がギリギリの場合も
代表的な製品:
- Sennheiser HD 599(50Ω)
- beyerdynamic DT 770 PRO(80Ω版)
- AKG K702(62Ω)
高インピーダンス(150〜600Ω)
特徴:
- プロ用・オーディオマニア向け
- 専用アンプが必要
- 音の解像度が高い
メリット:
✅ 音質が優れている
✅ ノイズに強い
✅ 繊細な音の表現が可能
デメリット:
❌ アンプが必須
❌ 持ち運びに不向き
❌ 初期投資が高い
代表的な製品:
- beyerdynamic DT 880 PRO(250Ω/600Ω)
- Sennheiser HD 650(300Ω)
なぜインピーダンスで音質が変わるのか
低インピーダンスの音の特徴
音の傾向:
- パンチのある低音
- ダイナミックな音
- 迫力重視
理由: 振動板(音を出す部分)を動かしやすいため、低音が出やすく、アタック感のある音になります。
高インピーダンスの音の特徴
音の傾向:
- 繊細で解像度の高い音
- 自然な音の広がり
- 細かい音まで聞こえる
理由: コイルの巻き数が多く、より精密な制御が可能。結果として、細かい音の表現力が上がります。
実際の違いを例えると
低インピーダンス = デジタルカメラ
・明るい場所でもすぐ撮れる
・オートで簡単
・スナップ写真向き
高インピーダンス = 一眼レフカメラ
・設定が必要
・技術が要る
・作品として撮影可能
使用機器別:最適なインピーダンスの選び方
スマートフォン・タブレット
推奨インピーダンス:16〜32Ω
iPhone/Android → 16〜32Ω
iPad → 32〜50Ω程度まで可
ポイント:
・32Ω以下が安全
・50Ω以上は音量不足の可能性
・ワイヤレスなら気にしなくてOK
ノートPC・デスクトップPC
推奨インピーダンス:32〜150Ω
内蔵サウンド → 32〜80Ω
USBサウンドカード → 80〜150Ω
オーディオインターフェース → 250Ωまで可
ポイント:
・PCによって出力が違う
・ゲーミングPCは出力が強い場合が多い
ポータブルプレーヤー(DAP)
推奨インピーダンス:16〜150Ω
エントリーモデル → 16〜50Ω
ミドルクラス → 32〜150Ω
ハイエンド → 600Ωまで可
ポイント:
・高級DAPはアンプ内蔵
・バランス接続なら高インピーダンスも可
ヘッドホンアンプ使用時
推奨インピーダンス:32〜600Ω
ポータブルアンプ → 32〜300Ω
据え置きアンプ → 600Ωまで余裕
ポイント:
・アンプの出力を確認
・高インピーダンスの真価を発揮
実際の選び方:シーン別おすすめ

通勤・通学で使う
最適なインピーダンス:16〜32Ω
理由:
- スマホ直挿しで十分な音量
- 騒音下でも聞こえる
- バッテリー持ちとのバランス
おすすめモデル:
予算1万円以下:
・Audio-Technica ATH-M20x(47Ω)
予算3万円以下:
・Sony WH-1000XM4(16Ω)
・Audio-Technica ATH-M50x(38Ω)
予算5万円以上:
・Sony WH-1000XM5(16Ω)
・Bose QuietComfort Ultra(非公開、推定32Ω)
自宅でじっくり音楽鑑賞
最適なインピーダンス:80〜300Ω
理由:
- 音質重視
- 静かな環境で細かい音も楽しめる
- アンプと組み合わせて高音質
おすすめモデル:
予算2万円以下:
・beyerdynamic DT 770 PRO 80Ω版
予算5万円以下:
・Sennheiser HD 599(50Ω)
・AKG K712 PRO(62Ω)
予算10万円以上:
・Sennheiser HD 800 S(300Ω)
・beyerdynamic T1 3rd(32Ω)※低インピーダンス化
DTM・音楽制作
最適なインピーダンス:32〜250Ω
理由:
- フラットな特性が必要
- 長時間使用での疲れにくさ
- オーディオインターフェースで駆動
おすすめモデル:
定番モデル:
・Sony MDR-CD900ST(63Ω)
・beyerdynamic DT 770 PRO(32/80/250Ω)
・Audio-Technica ATH-M50x(38Ω)
ゲーミング

最適なインピーダンス:32〜80Ω
理由:
- PCやゲーム機で直接使える
- 定位感が重要
- マイク付きが多い
おすすめモデル:
・HyperX Cloud II(60Ω)
・SteelSeries Arctis Pro(32Ω)
・beyerdynamic MMX 300(32Ω)
よくある誤解と真実
誤解1:高インピーダンス = 高音質
真実: 必ずしもそうではありません。32Ωでも素晴らしいヘッドホンはたくさんあります。重要なのはトータルバランスです。
誤解2:低インピーダンスは安物
真実: プロ用モニターヘッドホンにも低インピーダンスモデルは多数。用途に応じた設計です。
誤解3:アンプを使えば何でも鳴る
真実: アンプにも相性があります。出力インピーダンスとのマッチングが重要。
誤解4:インピーダンスが同じなら音も同じ
真実: インピーダンスは一つの要素。ドライバーの種類、筐体設計など、多くの要素が音を決めます。
アンプとの相性:8分の1ルール
理想的なマッチング
8分の1ルール:
ヘッドホンのインピーダンス ÷ 8 = アンプの出力インピーダンス
例:
- 32Ωのヘッドホン → 4Ω以下のアンプ
- 250Ωのヘッドホン → 31Ω以下のアンプ
ミスマッチが起きると
アンプの出力インピーダンスが高すぎる場合:
- 低音が膨らむ
- 音がぼやける
- 制動力が不足
解決策:
- 適切なアンプを選ぶ
- インピーダンスマッチングアダプターを使う
音量の計算方法(参考)
必要な音圧レベル
快適なリスニング:
- 85〜90dB SPL
計算の目安:
感度(dB/mW) + 10×log(出力mW) = 音圧レベル(dB)
例:32Ω、感度96dB/mWのヘッドホン
スマホ出力1mWの場合
96 + 10×log(1) = 96dB → 十分な音量
トラブルシューティング
問題1:音量が小さい
原因と対策:
原因:インピーダンスが高すぎる
対策:
1. ヘッドホンアンプを使う
2. 低インピーダンスモデルに変更
3. プレーヤーの設定を確認
問題2:音が歪む
原因と対策:
原因:出力が強すぎる
対策:
1. 音量を下げる
2. インピーダンスアダプターを使用
3. 高インピーダンスモデルを検討
問題3:ノイズが気になる
原因と対策:
原因:低インピーダンスでノイズを拾いやすい
対策:
1. シールドケーブルを使用
2. ノイズ源から離す
3. バランス接続を試す
まとめ:あなたに最適なインピーダンスを選ぼう
インピーダンスは、ヘッドホン選びの重要な要素ですが、すべてではありません。
選び方のポイント:
✅ 使用機器を確認
- スマホメイン → 16〜32Ω
- PC/DAP → 32〜150Ω
- アンプあり → 150Ω以上も可
✅ 使用シーンを考える
- 外出用 → 低インピーダンス
- 自宅用 → 中〜高インピーダンス
- 両用 → 32〜80Ωがバランス良し
✅ 予算とのバランス
- 低インピーダンス → 本体のみでOK
- 高インピーダンス → アンプ予算も必要
✅ 音の好みで最終決定
- 迫力重視 → 低インピーダンス傾向
- 繊細さ重視 → 高インピーダンス傾向
最も大切なのは、あなたの使い方に合ったヘッドホンを選ぶこと。
インピーダンスの知識を活かして、最高の音楽体験を手に入れてください!
Happy Listening! 🎧
参考情報:
- 一般的なスマホの出力:0.5〜1mW(32Ω時)
- ノートPCの出力:1〜5mW(32Ω時)
- ポータブルアンプ:50〜500mW(32Ω時)
- 据え置きアンプ:100〜5000mW(32Ω時)
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