「山の頂上は必ずどこかにある」
「閉じた部屋の中で一番高い場所と低い場所は必ず存在する」
当たり前のように思えるこの事実、実は数学的に証明された重要な定理なんです。
それが極値定理(最大値・最小値定理)です。
微分積分を学ぶ上で避けて通れないこの定理、実は私たちの日常生活から経済学、工学まで、あらゆる場面で活躍しています。「関数の最大値・最小値が本当に存在するの?」という素朴な疑問に、数学は明確な答えを出しました。
この記事では、極値定理の意味から証明のアイデア、そして実際の応用まで、身近な例とグラフで直感的に理解できるよう解説します。数式は最小限に、でも本質はしっかり押さえていきましょう!
極値定理とは?一言で説明すると

定理の内容
極値定理(Extreme Value Theorem)
「閉区間上の連続関数は、必ず最大値と最小値を持つ」
もっと簡単に言うと:
- 切れ目のないグラフ(連続関数)を
- 端っこがある範囲(閉区間)で見たとき
- 一番高い点と一番低い点が必ず存在する
身近な例で理解する
山登りの例:
- 登山口から山頂まで(閉区間)
- 切れ目のない道(連続)
- 必ず最高地点(山頂)と最低地点がある
気温の変化:
- 今日の0時から24時まで(閉区間)
- 気温は連続的に変化(連続関数)
- 必ず最高気温と最低気温が記録される
株価のグラフ:
- 取引開始から終了まで(閉区間)
- 連続的に変化(実際は離散的だが近似的に連続)
- その日の最高値と最安値が必ず存在
極値定理の3つの重要条件
条件1:閉区間であること
閉区間 [a, b] とは:
- 両端を含む区間
- a ≤ x ≤ b の範囲
- 端っこがきちんとある
なぜ重要?
開区間 (a, b) だと最大値・最小値が存在しないことがある!
例:
- 関数 f(x) = x を区間 (0, 1) で考える
- 最大値は?→ 1に近づくが1は含まない
- 限りなく1に近いが、最大値は存在しない!
条件2:連続関数であること
連続関数とは:
- グラフが切れていない
- 飛び飛びになっていない
- 鉛筆を離さずに描ける
不連続だと何が起きる?
例:階段関数
f(x) = { 1 (0 ≤ x < 0.5)
{ 2 (0.5 ≤ x ≤ 1)
- x = 0.5 で不連続
- でも最大値2、最小値1は存在する
- ただし、これは特殊な例
条件3:有限区間であること
無限区間だとどうなる?
例: f(x) = x² を区間 (-∞, ∞) で考える
- 最小値:0(x = 0のとき)
- 最大値:存在しない(どこまでも大きくなる)
なぜ極値定理が成り立つのか?直感的理解

ハイキングで考える
状況設定:
- A地点からB地点まで歩く(閉区間)
- 道は途切れていない(連続)
- 有限の距離(有限区間)
必然的に:
- どこかで一番高い場所を通る
- どこかで一番低い場所を通る
- それが最大値と最小値!
グラフで視覚的に理解
連続関数の性質:
- 端から端まで繋がっている
- どこかで山になる(または平坦)
- どこかで谷になる(または平坦)
イメージ:
最大値
↓
╱╲╱╲
╱ ╲
╱ ╲___
╱ ╲
╱ ╲
a b
↑
最小値
反例で理解を深める
極値定理が成り立たない例:
1. 開区間の場合
- f(x) = 1/x on (0, 1]
- x → 0 で無限大に発散
- 最大値が存在しない
2. 不連続の場合
- 除去可能な不連続点があると
- その点で最大値・最小値を取れない可能性
3. 無限区間の場合
- f(x) = x on (-∞, ∞)
- 最大値も最小値も存在しない
極値定理の厳密な定義と証明の概要

数学的な定義
定理: 関数 f が閉区間 [a, b] で連続ならば、f は [a, b] において最大値と最小値を持つ。
すなわち、次を満たす c, d ∈ [a, b] が存在する:
- f(c) ≤ f(x) ≤ f(d) for all x ∈ [a, b]
証明のアイデア(概要)
Step 1:有界性の証明
- 連続関数は閉区間で有界
- つまり、ある値より大きくならない
Step 2:上限・下限の存在
- 実数の完備性より
- 上限(sup)と下限(inf)が存在
Step 3:上限・下限が実現される
- ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を使用
- 収束する部分列が存在
- 連続性より、その極限値で最大値・最小値を取る
※完全な証明は実解析の教科書を参照
極値と極値定理の違い
極値(局所的)vs 最大値・最小値(大域的)
極値(Extremum):
- 極大値:近くの点より大きい
- 極小値:近くの点より小さい
- 局所的な山や谷
最大値・最小値:
- 最大値:全体で一番大きい
- 最小値:全体で一番小さい
- 大域的な最高点・最低点
具体例で違いを理解
関数: f(x) = x³ – 3x on [-2, 2]
極値:
- 極大値:f(-1) = 2(局所的な山)
- 極小値:f(1) = -2(局所的な谷)
最大値・最小値:
- 最大値:f(-2) = -2(端点)
- 最小値:f(2) = 2(端点)
ポイント:
- 極値は必ずしも最大値・最小値ではない
- 最大値・最小値は端点にある場合も多い
実際の応用例
1. 最適化問題
例:箱の体積最大化
正方形の紙から箱を作る:
- 紙のサイズ:20cm × 20cm
- 四隅から正方形を切り取る
- 切り取る正方形の一辺:x cm
体積 V(x) = x(20-2x)²
極値定理の保証:
- 定義域:[0, 10](閉区間)
- V(x)は連続関数
- 必ず最大値が存在する!
解:
- V'(x) = 0 を解いて x = 10/3
- 最大体積:V(10/3) ≈ 592.6 cm³
2. 経済学での応用
利潤最大化問題:
利潤関数:P(x) = -x² + 100x – 1000
- x:生産量
- 制約:0 ≤ x ≤ 80
極値定理より:
- 必ず最大利潤が存在
- P'(x) = 0 より x = 50
- 最大利潤:P(50) = 1500
3. 物理学での応用
ポテンシャルエネルギー最小化:
エネルギー関数 E(x) が連続で、有限領域なら:
- 必ず安定点(最小値)が存在
- システムは最小エネルギー状態に落ち着く
ロルの定理との関係

ロルの定理
内容: f が [a, b] で連続、(a, b) で微分可能、f(a) = f(b) ならば、 f'(c) = 0 となる c ∈ (a, b) が存在する。
極値定理との関係
極値定理が土台:
- 極値定理により最大値・最小値が存在
- f(a) = f(b) なので、最大値か最小値は区間内部
- 内部の極値では微分係数が0
- よってロルの定理が成立
つまり: 極値定理 → ロルの定理 → 平均値の定理 → 微分積分学の基本定理
実生活での極値定理
日常に潜む極値定理
1. 一日の気温変化
- 0時〜24時(閉区間)
- 気温は連続変化
- 必ず最高気温と最低気温がある
2. マラソンコース
- スタートからゴール(閉区間)
- 標高は連続変化
- 最高地点と最低地点が必ず存在
3. 商品の価格変動
- 営業開始から終了まで
- 価格は(ほぼ)連続変化
- その日の最高値と最安値
ビジネスでの応用
在庫管理:
- 期間:月初から月末
- 在庫量は連続的に変化
- 最大在庫量と最小在庫量を把握
品質管理:
- 製造工程の開始から終了
- 品質指標の連続測定
- 最良点と最悪点の特定
よくある誤解と注意点
誤解1:開区間でも成り立つ?
誤解: (0, 1) でも最大値・最小値がある
真実:
- f(x) = x on (0, 1)
- 最大値の候補:0.999… → 1(でも1は含まない)
- 最大値は存在しない!
誤解2:不連続でも大丈夫?
誤解: ちょっとくらい不連続でもOK
真実:
- 1点でも不連続だと保証されない
- ただし、有限個の不連続点なら最大値・最小値は存在することが多い
- でも定理の保証はない
誤解3:極値 = 最大値・最小値?
誤解: 極値を求めれば最大値・最小値が分かる
真実:
- 極値は局所的
- 端点も確認必要
- 最大値・最小値は極値または端点
練習問題で理解を深める
問題1:基本問題
関数 f(x) = x² – 4x + 3 を区間 [0, 3] で考える。 最大値と最小値を求めよ。
解答:
- f'(x) = 2x – 4 = 0 より x = 2
- 候補:x = 0, 2, 3(端点と極値)
- f(0) = 3, f(2) = -1, f(3) = 0
- 最大値:3(x = 0)、最小値:-1(x = 2)
問題2:応用問題
半径1の円に内接する長方形の面積の最大値を求めよ。
解答:
- 長方形の頂点:(cosθ, sinθ)
- 面積:S(θ) = 4cosθ・sinθ = 2sin(2θ)
- 定義域:[0, π/2](第1象限)
- S'(θ) = 4cos(2θ) = 0 より θ = π/4
- 最大面積:S(π/4) = 2
問題3:極値定理が使えない例
f(x) = tan(x) を区間 (-π/2, π/2) で考える。 最大値・最小値は存在するか?
解答:
- 開区間なので極値定理の保証なし
- 実際、x → ±π/2 で ±∞ に発散
- 最大値・最小値は存在しない
まとめ
極値定理は、一見当たり前のようで、実は深い意味を持つ定理です。
押さえておくべき3つのポイント:
- 条件を満たせば必ず存在
- 閉区間 ✓
- 連続関数 ✓
- → 最大値・最小値が必ず存在!
- 最適化問題の理論的保証
- 「最適解が存在する」ことを保証
- 実用的な問題解決の土台
- 微分積分学の基礎
- ロルの定理への橋渡し
- 解析学全体を支える重要定理
山には必ず頂上があり、谷には必ず底がある。この自然な直感を、数学は「極値定理」として厳密に証明しました。
日常生活からビジネス、科学技術まで、最大・最小を求める場面は無数にあります。極値定理は、その答えが必ず存在することを保証してくれる、心強い味方なのです。
次に「最大値を求めよ」という問題を見たら、まず極値定理の条件を確認してみてください。条件を満たしていれば、答えは必ず存在します!
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