パソコンの夢から始まった物語 (1975-1985)

1975年、ハーバード大学の19歳の学生ビル・ゲイツと、彼より2歳年上の友人ポール・アレンは、雑誌に載った「Altair 8800」という初期のパソコンキットを見て、人生を変える決断をしました。
2人は高校時代、レイクサイド・スクールでコンピュータに出会い、夢中になって一緒にプログラミングを学んでいました。
マイクロソフト誕生
1975年4月4日、2人はニューメキシコ州アルバカーキでマイクロソフトを設立。
初年度の売上はわずか1万6,005ドル(今の価値で約240万円)でした。
しかし1980年、IBMという大企業がパソコンを作る際にOSが必要となり、マイクロソフトに依頼。ゲイツは素早くシアトル・コンピュータ・プロダクツからQDOSを7万5,000ドルで買収し、これをMS-DOSとして提供しました。
成功への決定的な一手
最も重要だったのは、IBMとの契約でマイクロソフトがMS-DOSを他社にも販売する権利を保持したことです。
この決断が、後の大成功への道を開きました。
1985年には売上が1億4,000万ドルに達し、従業員も900人に増えていました。
Windows革命の時代 (1985-2000)
Windows誕生から95へ
1985年11月20日、最初のWindows 1.0が発売されましたが、動作が遅く、評価は芳しくありませんでした。
しかし1990年のWindows 3.0で大きく改善され、1995年8月24日のWindows 95発売で世界が変わりました。
Windows 95の歴史的成功
Windows 95の発売日は歴史的なイベントとなりました:
- 世界中で深夜販売に長蛇の列
- 初日だけで7億2,000万ドルの売上
- 1年で4,000万本販売
- スタートボタンとタスクバーという今も使われる機能を導入
インターネット戦争と独占禁止法訴訟
1995年、マイクロソフトは当初インターネットを軽視していましたが、Netscapeブラウザの成功を見て方針を急転換。
Internet Explorerを無料でWindowsに同梱し、1995年の0%から2001年には95%のシェアを獲得しました。
独占禁止法違反での訴訟
しかしこの戦略が問題となり、1998年5月18日、米国司法省はマイクロソフトを独占禁止法違反で提訴。
2000年6月7日には会社分割命令が出されましたが、控訴審で分割は取り消され、2001年11月1日に和解が成立しました。
スティーブ・バルマーCEO時代 (2000-2014)

成功と失敗が混在した14年間
2000年1月13日、ビル・ゲイツの大学時代からの友人スティーブ・バルマーがCEOに就任。
ゲイツは会長として技術面を担当する体制となりました。
成功した取り組み
- Windows XP (2001年):史上最長の12年間サポートを受けた安定したOS
- Windows 7 (2009年):Vista失敗後の見事な復活作
- Xbox事業:2001年参入、現在は世界3位のゲーム企業
- 企業向け事業:年間200億ドル規模のビジネスに成長
- 売上高3倍増:250億ドルから770億ドルへ
失敗した分野
- Windows Vista (2006年):動作が重く、不評で短命に終わる
- スマートフォン参入の遅れ:Windows Phoneのシェアは最高でも3.2%
- 検索エンジンBing:110億ドル投資するも、Googleに勝てず
- Nokia買収:72億ドルで買収、76億ドルの損失計上
- 株価低迷:在任中に44%下落
2013年8月23日、バルマーは退任を発表。皮肉にも株価は即座に7-9%上昇しました。
サティア・ナデラ時代の大変革 (2014-現在)
クラウドとAIで復活
2014年2月4日、インド出身のエンジニアサティア・ナデラが3代目CEOに就任。
彼は「クラウドファースト、モバイルファースト」戦略を掲げ、会社を根本から変革しました。
主な成果
- Azure:世界シェア24%(2位)、年間800億ドル規模
- Office 365/Microsoft 365:3億人以上の利用者
- 株価:37ドルから505ドルへ(1,250%上昇)
- 時価総額:3,000億ドルから3兆7,500億ドルへ
AI時代への挑戦
2019年から2023年にかけて、マイクロソフトはOpenAIに130億ドルを投資。
ChatGPTの技術を使ったCopilotは、2023年9月の発売から急速に普及し、1億人以上が利用しています。
主要製品の歴史

Windows
- 1985年 Windows 1.0:最初のグラフィカルOS
- 1995年 Windows 95:スタートメニュー導入
- 2001年 Windows XP:最も長く愛されたOS
- 2015年 Windows 10:10億台突破
- 2021年 Windows 11:最新版
Office
- 1989年:最初のOfficeスイート発売
- 2013年:Office 365サブスクリプション開始
- 2024年:AI機能Copilot統合
Xbox
- 2001年:初代Xbox発売
- 2005年:Xbox 360(8,400万台販売)
- 2020年:Xbox Series X/S発売
- Game Pass:2,500万人以上の会員
Surface
- 2012年:Surface RT/Pro発売(初期は失敗)
- 2014年:Surface Pro 3で黒字化
- 現在:ノートPCとタブレットの融合で成功
主要な買収の歴史
成功した買収
- LinkedIn (2016年):262億ドル、独立運営で成功
- GitHub (2018年):75億ドル、開発者コミュニティ維持
- Minecraft (2014年):25億ドル、3億本以上販売
- Activision Blizzard (2023年):687億ドル、史上最大のゲーム企業買収
失敗した買収
- Nokia携帯事業 (2013年):72億ドルで買収、76億ドル損失
- Skype (2011年):85億ドルで買収、Teamsに置き換えられ2025年5月終了予定
失敗した製品たち
マイクロソフトは多くの挑戦をしましたが、すべてが成功したわけではありません。
- Windows Phone:最高シェア3.2%、アプリ不足で失敗
- Zune:iPodに対抗するも2%のシェアで撤退
- Microsoft Band:Apple Watchに勝てず2年で終了
- Groove Music:SpotifyやApple Musicに敗北
日本でのマイクロソフト
設立と発展
- 1986年2月:日本マイクロソフト設立(従業員18人)
- 現在:約2,400人の従業員
重要な取り組み
- MSX規格 (1983年):日本で500万台販売
- Windows日本語版:漢字変換IMEの開発
- 4日間勤務実験 (2019年8月):生産性39.9%向上
- 2024年:29億ドルのAI投資発表(過去最大)
企業文化の変遷

ゲイツ時代(1975-2000)
技術優先、長時間労働、競争的な文化が特徴でした。
バルマー時代(2000-2014)
スタックランキング制度を導入し、従業員を強制的に5段階評価。
内部競争が激化し、協力関係が破壊されました。この制度は2013年11月に廃止されました。
ナデラ時代(2014-現在)
- 成長マインドセット:「すべてを知る」から「すべてを学ぶ」へ
- オープンソース受け入れ(Linux愛を宣言)
- 多様性と包摂性の推進
- 2030年カーボンネガティブ目標
株価と財務の推移
重要な節目
- 1986年3月13日:IPO(21ドル/株)
- 1999年:時価総額6,140億ドル(ドットコムバブル)
- 2019年:時価総額1兆ドル突破
- 2025年7月:時価総額4兆ドル達成(史上2社目)
現在の状況(2025年9月)
- 株価:約505ドル
- 時価総額:3兆7,500億ドル
- 年間売上:2,817億ドル
- 配当:年3.32ドル/株
2024-2025年の最新動向
AI時代の取り組み
- Copilot:1億人以上が利用
- Azure AI:6万社以上が採用
- AI事業の年間収益:130億ドル(175%成長)
今後の展望
- OpenAIとのStargateプロジェクト開始
- 量子コンピューティング研究
- メタバース技術開発
まとめ:50年の軌跡が示すもの
マイクロソフトは、2人の若者が始めた小さなソフトウェア会社から、世界で最も価値のある企業の1つへと成長しました。
その道のりは平坦ではなく、多くの成功と失敗を経験しました。
3つの時代、3人のCEO
それぞれが異なる強みを発揮:
- ゲイツ:技術革新でパソコン時代を築く
- バルマー:ビジネス拡大で売上3倍増
- ナデラ:文化改革とクラウド・AIで再び頂点へ
変革の重要性
特に注目すべきは、ナデラCEO就任後の変革です。
「すべてを知る」文化から「すべてを学ぶ」文化への転換、ライバルとの協力、オープンソースの受け入れなど、柔軟な姿勢が大きな成功につながりました。
マイクロソフトの歴史は、技術の進歩だけでなく、変化への適応力の重要性を教えてくれます。
失敗を恐れず挑戦し続け、時代に合わせて自らを変革する―それが50年間成長し続ける秘訣なのかもしれません。
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