死んだ後、悪いことをした人が行く場所――それが地獄です。
そこには恐ろしい鬼たちが待ち構えています。
中でも有名なのが、牛の頭と馬の頭を持つ牛頭(ごず)と馬頭(めず)という2体の鬼。
火の車で死者を地獄へ連れて行き、亡者を苦しめる恐ろしい存在なんです。
この記事では、仏教と共に日本に伝わった地獄の鬼「牛頭と馬頭」について、その起源から伝承まで詳しくご紹介します。
概要

牛頭と馬頭は、地獄で亡者を責め苛む獄卒(ごくそつ)として知られる鬼のコンビです。
獄卒とは、地獄で罪人を罰する係の鬼のこと。 牛頭は牛の頭、馬頭は馬の頭を持ち、体は人間の姿をしています。
牛頭と馬頭の基本情報
- 種族:地獄の鬼(獄卒)
- 活動場所:地獄
- 別名:牛頭鬼馬頭鬼(ごずき・めずき)、牛頭馬面(中国での呼び名)
- 役割:死者を地獄へ運び、亡者を責める
この2体は必ずセットで語られることが多く、地獄の獄卒鬼たちのリーダー的存在とされています。
姿・見た目
牛頭と馬頭の姿は、まさに名前の通りです。
牛頭の外見
- 頭部:牛の頭
- 体:筋骨隆々の人間の体
- 武器:鉄の棒や鎖を持つことも
- 特徴:牛頭には女性型(牛頭女)もいる
馬頭の外見
- 頭部:馬の頭
- 体:筋骨隆々の人間の体
- 武器:様々な拷問道具
- 特徴:長い顔が印象的
どちらも怪力を持ち、亡者を簡単に引き裂くほどの力があるといわれています。
『地獄草紙』や『六道輪廻図』などの絵画では、この2体が恐ろしい形相で描かれており、見る者を震え上がらせました。
特徴

牛頭と馬頭には、地獄の鬼ならではの恐ろしい特徴があります。
主な役割と能力
死者の連行:
- 火車(燃える火のついた車)で死者を地獄へ運ぶ
- 閻魔大王の命令で動く
- 逃げようとする亡者を捕まえる
地獄での拷問:
- 生前に牛を殺した者は牛頭が罰する
- 生前に馬を殺した者は馬頭が罰する
- 苦しむ顔を見るのが大好きという残酷な性格
地獄の階層システム
仏教では地獄は地下8階まであり、罪が重いほど下の階へ落ちます。
最下層の「阿鼻地獄」が最も恐ろしく、牛頭と馬頭は各階層で亡者を苦しめる役割を担っています。
伝承
牛頭と馬頭は、様々な説話や文献に登場します。
『今昔物語集』の牛頭鬼
但馬の古寺に、老若2人の僧が泊まったときの話です。
夜中、牛のような鼻息を荒くした何かが襲ってきました。 それは牛頭鬼で、老僧は引き裂かれて食べられてしまいます。
若い僧は必死に法華経を唱えながら逃げ、毘沙門天像の腰に抱きつきました。 すると突然、牛頭鬼が倒れます。 朝になって見ると、牛頭鬼は3つに斬られており、毘沙門天の鉾には血がついていたといいます。
『宇治拾遺物語』の馬頭鬼
ある嵐の夜、一条大路の桟敷屋に男女がいました。
外から「諸行無常」と唱える声が聞こえ、見ると馬の頭をした巨大な鬼が立っています。 馬頭鬼は窓から長い顔を突き出して「よくごらんじろな」と繰り返しました。
男は太刀を抜いて震えていましたが、馬頭鬼は満足したのか去っていきます。 これは百鬼夜行の一員として現れた馬頭鬼だったといわれています。
牛頭天王との違い
「牛頭天王」という似た名前の神がいますが、これは全く別の存在です。
牛頭天王は:
- 疫病除けの神様
- 京都の八坂神社(祇園さん)の祭神
- スサノオと同一視される
- 鬼ではなく神
名前は似ていても、地獄の牛頭鬼とは関係がありません。
地上への出現
牛頭と馬頭は普段は地獄にいますが、時として地上に現れることがあります。
出現場所の特徴:
- 人里離れた古寺
- 夜中の街道
- 荒れ果てた場所
多くの場合、理由もなく人を襲い、殺すという恐ろしい性質を持っています。
起源

牛頭と馬頭は、もともと仏教から生まれた存在です。
サンスクリット語から漢字へ
実は「牛頭馬頭」という名前は漢訳語なんです。
元のサンスクリット名:
- 牛頭:ゴシールシャ(gośīrṣa)
- 馬頭:アシュヴァシールシャ(aśvaśīrṣa)
仏教がインドから中国を経て日本に伝わる過程で、この恐ろしい鬼たちも一緒にやってきました。
なぜ牛と馬の頭なのか?
仏教の考えでは、牛や馬は人間より劣る生物とされていました。
生きている間に悪いことをした人は、死後の罰として:
- これらの動物に生まれ変わる
- または動物の姿をした鬼に苦しめられる
この考えから、地獄の鬼が牛や馬の頭を持つ姿で描かれるようになったんです。
また、別の説では「牛頭と馬頭の正体は、実は鬼ではなく牛や馬の頭にされてしまった罪人」ともいわれています。
まとめ
牛頭と馬頭は、仏教と共に日本に伝わった地獄の鬼コンビです。
牛頭と馬頭の重要ポイント
- 牛の頭と馬の頭を持つ地獄の獄卒
- 仏教由来でインドから伝来
- 火車で死者を地獄へ運ぶ
- 亡者を責め苛むのが仕事
- 2体セットで語られることが多い
- 獄卒鬼のリーダー的存在
- 時に地上に現れて人を襲う
- 『今昔物語集』『宇治拾遺物語』などに登場
この恐ろしい鬼たちは、「悪いことをすれば地獄で苦しむ」という仏教の教えを具現化した存在です。
牛頭と馬頭の物語は、単に人を怖がらせるためだけのものではありません。
生きている間の行いの大切さを教え、悪事を戒める役割を持っていたんです。
現代では地獄絵図でしか見ることのない牛頭と馬頭ですが、かつては人々の心に「正しく生きよう」という思いを植え付ける、重要な存在だったのかもしれませんね。
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