ローレンツ曲線:不平等を見える化する経済のグラフ

数学

経済的な不平等を一目で理解できる強力なツール、それがローレンツ曲線です。

所得や富の分配における不平等を、誰でも理解できる形で視覚化することができるこのグラフは、1905年にアメリカの経済学者マックス・O・ローレンツによって開発されました。

中学生でも理解できるように言えば、【クラスのお小遣いやピザの分け方が公平かどうかを示すグラフ】なんです。

この曲線は、単に学問的な概念にとどまらず、現代の日本や世界各国の経済政策の基礎となる重要な分析ツールとして活用されています。


スポンサーリンク

ピザで理解する基本概念:なぜ曲線が必要なのか

■ 100人で100切れのピザを分ける場面を想像してみよう

ローレンツ曲線を理解する最も簡単な方法は、以下のような場面を想像することです:

【完全に平等な世界】

→ 全員が1切れずつもらう

【現実の世界】

→ 最も裕福な1人が80切れを取る → 残りの99人で20切れを分け合う

この不平等な分配を正確に表現するために、ローレンツ曲線が生まれました。

■ グラフの見方(意外と簡単!)

📍 横軸:「人口の累積割合」 (貧しい人から順番に並べた人々の割合)

📍 縦軸:「所得の累積割合」
(その人々が持つ所得の合計割合)

例:「下位20%の人々が全体の所得の5%しか持っていない」 → これがグラフ上の1つの点として表される

これらの点を結んだ曲線が、その社会の不平等の程度を示すんです。

■ 重要な「45度線」とは?

特に重要なのが「45度線」と呼ばれる対角線です。

  • 別名:「完全平等線」
  • 意味:全員が同じ所得を得ている理想的な状態
  • 判断基準:実際の曲線がこの線から離れるほど不平等が大きい

1905年、金ぴか時代の終わりに生まれた革新

■ マックス・オットー・ローレンツ(1876-1959)

📌 出身:ドイツ系移民の子(アイオワ州生まれ)
📌 年齢:わずか29歳の大学院生だった
📌 時代背景:「金ぴか時代」という極端な経済格差の時代

■ 当時のアメリカの状況

【富裕層】

  • ロックフェラーやカーネギーなど
  • 巨万の富を築く

【労働者】

  • 40%が貧困線以下で生活
  • 厳しい労働条件

■ ローレンツの革新ポイント

彼の指導教授たちは「ウィスコンシン学派」と呼ばれ、現実の社会問題を解決するための経済学を推進していました。

ローレンツの革新は: → 数字の羅列でしか表現できなかった不平等を → 誰もが理解できるグラフで表現したこと

💡 興味深い事実:「ローレンツ曲線」という名前は、7年後の1912年に別の経済学者によって名付けられた


ジニ係数との密接な関係:曲線から数字へ

■ ジニ係数とは?

ローレンツ曲線から直接計算される最も重要な指標です。

数値の範囲

  • 0 = 完全平等(全員が同じ)
  • 1 = 完全不平等(1人が独占)

クラスの例

  • 全員が同じお小遣い → ジニ係数は0
  • 1人が全て独占 → ジニ係数は1

■ 日本のジニ係数の現状

【労働所得ベース】

  • 日本:約0.33
  • アメリカ:0.45 → 日本は比較的平等な社会

【時系列の変化(1984年→2019年)】

  • 所得ジニ係数:0.32 → 0.36
  • 富のジニ係数:0.58 → 0.67 → 格差が徐々に拡大している

日本と世界の実例:数字で見る格差の現実

■ 2024年の日本の状況

富の集中度

  • 最も裕福な1%の保有割合:12.7%
  • 中間層(1,000万円〜1億円):人口の53%

■ 世界各国との比較(上位1%の富の保有割合)

🇺🇸 アメリカ:42.5%
🇩🇪 ドイツ:23.7%
🇬🇧 イギリス:20.5%
🇫🇷 フランス:18.6%
🇯🇵 日本:12.7%
🇮🇹 イタリア:11.7%

■ 日本の格差が比較的小さい理由

✅ 相続税率が55%と高い
✅ 中間層が比較的厚い
✅ 企業間格差が主要因(個人間格差は小さめ)

💡 興味深い変化:1980年には日本はスウェーデンやアメリカよりも不平等な国だったが、2017年までに改善した


身近な例で理解を深める:学校生活での応用

■ クラスのテストの点数分布

【完全平等の場合】

→ 全員が同じ点数 → ローレンツ曲線は45度の直線

【実際の場合】

→ 上位20%の生徒が全体の点数の40%を占める → 典型的な曲線の形に

■ 身の回りの不平等の例

📱 YouTubeの登録者数

  • 1〜2人が登録者の大部分を集める
  • 多くの人はほとんど登録者がいない

📊 その他の例

  • 部活動の参加時間
  • お小遣いの金額
  • SNSのフォロワー数
  • ゲームのスコア

これらの例を通じて、【不平等は特別なことではなく、日常的に存在する現象】だということが理解できるんです。


所得分配を超えた幅広い活用分野

■ 医療分野での活用

デンマークの研究例: → 鎮痛剤使用者の1%が全体消費量の19.3%を占める

■ その他の活用分野

【生態学】

  • 生物多様性の測定
  • 少数の種が個体数の大部分を占めているか分析

【ビジネス】

  • 顧客からの収益の集中度を分析
  • 最も価値の高い顧客層を特定

【AI・機械学習】

  • アルゴリズムの公平性を評価
  • ローン承認AIが特定グループに偏っていないか確認

グラフの作り方と読み方:実践的なステップ

■ 実際に作ってみよう!

【例】5人の月のお小遣い

2,000円、3,000円、5,000円、8,000円、10,000円

【作成手順】

1️⃣ 少ない順に並べる → 2,000円、3,000円、5,000円…

2️⃣ 累積の人口割合を計算 → 20%、40%、60%、80%、100%

3️⃣ 累積の所得割合を計算 → 7.14%、17.86%、35.71%、64.29%、100%

4️⃣ グラフにプロット → 点を結んで曲線を作る → 45度の対角線も忘れずに!

■ グラフの読み方のコツ

「下位○%の人が全体の△%を持っている」という形で解釈

例:「下位40%の人が全体の17.86%しか持っていない」


⚠️ 知っておくべき限界と注意点

■ ローレンツ曲線が示さないもの

【絶対的な豊かさ】

  • 全員が貧しい国でも
  • 全員が豊かな国でも → 分配が平等なら同じ曲線

【社会的流動性】

  • 若い人は収入が少ない
  • 経験を積むと増える → 人生の変化は反映されない

【地域差】

  • 東京で月5万円
  • 地方で月5万円 → 実際の生活水準は違うが、曲線上では同じ

【公的サービス】

  • 医療
  • 教育 → これらの価値は含まれない

📊 関連する経済指標:より深い理解のために

■ パルマ比率

計算式:上位10%の所得 ÷ 下位40%の所得
  • 1以下:比較的平等
  • 2超:不平等が大きい

■ 十分位分配率

最も豊かな10%と最も貧しい10%の所得比

  • 日本:約5倍
  • アメリカ:10倍超

■ タイル指数

全体の不平等を分解できる特殊な指標:

  • グループ内の不平等
  • グループ間の不平等

→ 都市と地方の格差などを分析する際に有用


まとめ

ローレンツ曲線は、複雑な経済的不平等を誰もが理解できる形で視覚化する画期的なツールです。

■ 押さえておきたいポイント

✅ 1905年の開発から120年近く経った今でも重要
✅ 日本の格差は国際的には小さいが、徐々に拡大
✅ 完全な平等が必ずしも理想ではない
✅ 過度な不平等は社会の安定を損なう

コメント

タイトルとURLをコピーしました