もしあなたが夜中に巨大なクモに糸で絡めとられそうになったら、どう思うでしょうか?
平安時代の京都の人々にとって、それは現実の恐怖でした。
それは人を病気にさせ、糸で捕らえて食べてしまう「土蜘蛛(つちぐも)」という恐ろしい妖怪の仕業だったのです。
この記事では、源頼光による退治伝説で有名な巨大妖怪「土蜘蛛」について詳しくご紹介します。
基本情報

土蜘蛛(つちぐも) は、日本の古典文学に登場する巨大なクモの妖怪です。
『平家物語』の「剣巻」や絵巻物『土蜘蛛草紙』、能の『土蜘蛛』などに記録され、特に源頼光による退治伝説で有名になりました。
土蜘蛛の基本情報
- 分類:クモ系の巨大妖怪
- 出典:『平家物語』『土蜘蛛草紙』『土蜘蛛(能)』など
- 活動場所:山間部、洞窟、古い屋敷
- 有名な退治者:源頼光と四天王
- 関連する刀:膝丸(のちの蜘蛛切り)
土蜘蛛は、単なる妖怪ではなく、深い歴史的背景を持っています。
元々は古代の大和朝廷に反抗した部族の名前でしたが、時代が進むにつれて巨大なクモの妖怪として語られるようになったんです。
この興味深い変化の過程も含めて、土蜘蛛の正体に迫っていきましょう。
姿・見た目
土蜘蛛の姿は、文献によって様々に描かれています。
基本的な外見
土蜘蛛の最も特徴的な姿は、複数の動物を組み合わせた異形な姿です。
土蜘蛛の体の構成
- 顔:鬼のような恐ろしい顔
- 胴体:トラのような太くて力強い体
- 手足:クモのように長い足が複数本
- 糸:口から強力な糸を吐く
驚異的な大きさ
土蜘蛛の大きさは、記録によって異なりますが、どれも人間をはるかに超える巨大さです。
サイズの記録
- 全長4尺(約1.2メートル):『平家物語』での記録
- 全長20丈(約60メートル):『土蜘蛛草紙』での記録
- 身長7尺(約2.1メートル):人に化けた時の大きさ
化身能力
土蜘蛛の恐ろしい特徴の一つが、人間の姿に化ける能力です。
化ける姿
- 怪しい法師:背の高い坊さんの姿
- 美しい女性:目くらましのための美女
- 影のような黒い人影:不気味な人型
内部の恐ろしい秘密
『土蜘蛛草紙』によると、土蜘蛛の体内には驚くべきものが入っていました。
体内から出てきたもの
- 1990個もの死人の首
- 無数の子グモ
- 約20個の小さな髑髏
この記述からは、土蜘蛛がどれほど多くの人を食べてきたかが分かります。
それでは、この恐ろしい妖怪がどのような能力を持っているのか見ていきましょう。
特徴

土蜘蛛には、他の妖怪とは一線を画す恐ろしい能力があります。
糸を使った攻撃
土蜘蛛の最も特徴的な攻撃方法が、糸を使った捕獲です。
糸攻撃の特徴
- 千筋の糸を一度に投げかける
- 人を 絡めとって動けなくする
- 糸は非常に強く、簡単には切れない
- 捕らえた後に 食べてしまう
病気を引き起こす能力
土蜘蛛は、人を直接攻撃するだけでなく、病気にさせる恐ろしい力も持っています。
病気の症状
- 原因不明の高熱
- マラリアのような症状
- 頭痛と発熱が続く
- 何をしても治らない病気
源頼光も、土蜘蛛の呪いによって数日間寝込んでしまいました。
妖術と超自然的能力
土蜘蛛は様々な妖術を使いこなします。
使用する妖術
- 毒の息を吐く
- 目くらましの術
- 幻術で人を惑わす
- 髑髏を空中に飛ばす
住処と生活パターン
土蜘蛛は特定の場所を好んで住処にします。
好む住処
- 山間部の洞窟
- 古びた屋敷
- 人里離れた場所
- 塚の中
活動パターン
- 主に 夜間に活動
- 旅人や通行人を狙う
- 糸で捕らえて食べる
- 長期間同じ場所に住み続ける
弱点と対処法
恐ろしい土蜘蛛にも、いくつかの弱点があります。
土蜘蛛の弱点
- 名刀による攻撃に弱い
- 朝になると力が弱くなる
- 血を流すと逃げる
- 正体がばれると弱くなる
これらの特徴を踏まえて、土蜘蛛退治の伝説を見ていきましょう。
伝承

土蜘蛛については、複数の有名な退治伝説が残されています。
源頼光の病床での戦い
最も有名なのが、源頼光が病気の時に起きた出来事です。
病床での遭遇
- 頼光がマラリアのような病気で寝込む
- 夜更けに 身長7尺の怪しい法師 が現れる
- 法師が 千筋の糸を投げかけて 頼光を絡めとろうとする
- 頼光が 名刀・膝丸で斬りつける
- 法師は煙のように消えて血痕を残す
翌日の追跡
- 四天王と共に血痕を追跡
- 北野神社裏手の塚 に到着
- 塚を掘り崩すと 全長4尺の巨大な土蜘蛛 を発見
- 一同で寄ってたかって斬り伏せる
- 頼光の病気はすぐに回復
『土蜘蛛草紙』の壮大な物語
14世紀頃の絵巻物『土蜘蛛草紙』には、より詳しい退治の物語があります。
蓮台野での不可思議な出来事
- 頼光と渡辺綱が 京都の蓮台野 に向かう
- 空を飛ぶ髑髏 に遭遇
- 髑髏を追って 古びた屋敷 に到着
- 様々な異形の妖怪 が現れて攻撃
美女との戦いと正体発見
- 夜明けに 怪しい美女 が現れる
- 美女が目くらましをかけてくる
- 頼光が刀で斬りかかると 美女の姿が消える
- 白い血痕 が山奥の洞窟まで続く
最終決戦
- 洞窟で 約60メートルの巨大な土蜘蛛 と遭遇
- 激しい戦いの末に首を刎ねる
- 腹から 1990個の死人の首 が出現
- 脇腹から 無数の子グモ が飛び出す
能『土蜘蛛』での設定
能の『土蜘蛛』では、土蜘蛛の正体について興味深い説明があります。
土蜘蛛の正体
- 「葛城山に年を経し土蜘蛛の精魂なり」
- 奈良県の葛城山に古くから住んでいた
- 数百年にわたって生き続けてきた
- 神武天皇時代に征伐された土蜘蛛の怨念
各地の土蜘蛛塚
土蜘蛛退治の伝説は、現在でも各地に史跡として残されています。
主な土蜘蛛関連の場所
- 奈良県葛城山:葛城一言主神社の土蜘蛛塚
- 京都市北区:上品蓮台寺の源頼光朝臣塚
- 京都市上京区:一条通の土蜘蛛の塚
- 東向観音寺:蜘蛛灯籠の奉納場所
歴史的背景
土蜘蛛の物語には、深い歴史的背景があります。
元々の土蜘蛛
- 大和朝廷に反抗した 古代の部族
- 縄文文化を維持 していた先住民族
- 穴居生活 をしていたとされる
- 手足が長く背の低い 人々
妖怪化の過程
- 朝廷軍に次々と征服される
- 征服された人々の怨念
- 源頼光の父・満仲との複雑な関係
- 安和の変での裏切り が背景
これらの伝承から、土蜘蛛が単なる怪物ではないことが分かります。
まとめ
土蜘蛛は、日本の妖怪の中でも特に歴史的深度を持つ存在です。
土蜘蛛の重要ポイント
基本情報
- 鬼の顔、トラの胴体、クモの足を持つ巨大妖怪
- 源頼光による退治伝説で有名
- 『平家物語』『土蜘蛛草紙』などに記録
恐ろしい能力
- 千筋の糸で人を絡めとって食べる
- 人を病気にさせる呪いの力
- 毒の息や妖術を使いこなす
- 人間の姿に化ける変身能力
歴史的意義
- 元々は古代の反朝廷部族の名前
- 征服された人々の怨念が妖怪化
- 日本の古代史と密接な関係
- 政治的背景を持つ珍しい妖怪
文化的影響
- 能、浄瑠璃、歌舞伎の題材として愛される
- 名刀「蜘蛛切り」の由来
- 各地に土蜘蛛塚などの史跡が残る
- 日本の古典文学の重要な要素
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