「鬼」と聞くと、どうしても恐ろしい化け物を想像してしまいますが、もし親切で働き者の鬼がいたとしたらどうでしょうか?
秋田県の太平山には、そんな常識を覆すような不思議な「鬼」の話が古くから伝わっています。
それが「三吉鬼(さんきちおに)」です。
三吉鬼は、鬼でありながら神様でもあるという珍しい存在で、お酒を飲ませてくれた人には必ずお礼をして、力仕事も喜んで手伝ってくれる、とても親切な存在として愛されてきました。
恐怖の対象ではなく、地域の人々にとって頼りになる存在だったのです。
この記事では、秋田県太平山に伝わる親切な鬼神「三吉鬼」について、その不思議な立ち位置から心温まる人々との交流、そして神様としての側面まで、詳しくご紹介します。
三吉鬼ってどんな存在なの?

三吉鬼(さんきちおに)は、秋田県太平山に伝わる不思議な「鬼神」のような存在なんです。
“鬼”と呼ばれるものの、実態は妖怪と神さまのあいだ――神であり妖怪でもあるような存在とされています。
この珍しい立ち位置が、三吉鬼の大きな特徴ですね。
また、三吉鬼は酒好きで、お酒をあげると力仕事を手伝ってくれる親切な妖怪です。
伝承
昔々、ある酒屋に毎晩のように一人の男がやって来るようになりました。
この男は酒を飲むと、そのまま何も言わずに帰ろうとします。最初のうち、酒屋の主人が「お代をいただきます」と請求すると、必ず店に災いが降りかかりました。
ところが、ある時から主人は黙って酒を振る舞うようにしました。すると不思議なことに、翌朝になると門の前に酒代の十倍ほどの値打ちがある薪が、きれいに積み上げられているではありませんか。
それからというもの、その男が来ると誰もが快く酒を飲ませるようになりました。すると必ず夜中のうちに、お代の代わりとなる品物が置かれているのです。いつしか人々は、この不思議な男を「三吉鬼」と呼ぶようになりました。
やがて人々は、三吉鬼にお願い事をするようになりました。「どこそこの山の大きな松の木を、うちの庭に移してください」と酒樽を供えて頼むと、酒はきれいになくなり、一晩のうちに立派な松の木が庭に植えられていました。
大名様でさえ、人の力では動かせないような重い物を運んでもらいたい時は、酒を供えて三吉鬼にお願いしたものです。すると必ず願いを叶えてくれるのでした。
「三吉鬼、三吉鬼」と人々は親しみを込めて呼び、頼りにしていました。
しかし、文化年間(1804-1818年)から三、四十年ほど前のこと、三吉鬼はぱったりと人里に姿を現さなくなってしまいました。
神との関連
三吉鬼には、太平山の鬼神・三吉様(みよしさま)が大きく関わっています。
一説では、鬼神・三吉様が人里に現れる時の名が、三吉鬼(さんきちおに)なのだそうです。
まとめ
三吉鬼は、日本の妖怪や鬼の概念を覆す、非常にユニークで温かい存在です。
重要なポイント
- 鬼でありながら神様でもある特殊な存在
- 秋田県太平山の鬼神・三吉様との深い関連
- お酒を愛し、感謝の気持ちを形で示す
- 超人的な力で人々の願いを叶える
- 江戸時代後期に姿を消した謎めいた存在
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