Microsoft Wordの「プロパティ(メタデータ)」には、作成者名・最終更新者・会社名・コメント・変更履歴など、意図しない個人情報が含まれることがあります。文書を外部に共有する際、これらの情報が漏洩してしまうリスクがあります。
この記事では、Wordのプロパティ(メタデータ)を確実に削除する方法を、初心者にもわかりやすく解説します。
プロパティ(メタデータ)とは?

基本的な定義
メタデータとは、文書ファイルに自動的に記録される「データについてのデータ」のことです。文書の内容とは別に、作成過程や編集履歴などの情報が保存されています。
含まれる情報の種類
基本プロパティ
一般的に記録される情報:
- 作成者名:文書を最初に作成した人の名前
- 最終更新者:最後に編集・保存した人の名前
- 会社名:Officeに登録されている組織情報
- 作成日時:ファイルが作成された日時
- 最終保存日時:最後に保存された日時
詳細プロパティ
より詳細な情報:
- 編集時間の合計:実際に編集に費やした時間
- リビジョン番号:保存された回数
- テンプレート名:使用されたテンプレートの情報
- カテゴリ・キーワード:分類用のタグ情報
- コメント:ファイルの説明文
隠された情報
見えにくい情報:
- 変更履歴:編集過程の詳細記録
- コメント:レビュー時の指摘事項
- 削除されたテキスト:一見削除されたように見える文字
- 非表示テキスト:画面に表示されない文字
メタデータが残るリスク
情報漏洩の危険性
個人情報の露出
漏洩する可能性のある情報:
- 実名:本名や担当者名の特定
- 組織情報:会社名や部署名
- 作業時間:業務効率や働き方の推測
- 編集過程:試行錯誤の内容や機密情報
ビジネスでの影響
考えられる問題:
- 競合他社への情報提供:社内の議論過程が露出
- 契約交渉での不利:検討過程や価格情報の漏洩
- プライバシー侵害:個人情報保護法への抵触
- 企業イメージの損失:情報管理の不備による信頼失墜
具体的な事例
よくある情報漏洩パターン
実際に起こりうる問題:
- 提案書に前の顧客名が残っている
- 契約書に内部の価格検討履歴が含まれる
- 公開資料に社内限定のコメントが残存
- 履歴書に前職の会社情報が含まれる
方法①:Wordの「ドキュメント検査」を使って削除
基本手順
ステップ1:安全な準備
- 文書を開き、念のため別名で保存
- データを失う恐れがあるので元ファイルは残すのがおすすめ
- 「ファイル」→「名前を付けて保存」で複製作成
ステップ2:ドキュメント検査の実行
- 「ファイル」→「情報」→「問題のチェック」→「ドキュメント検査」を選択
- 検査項目の選択画面が表示される
- 「ドキュメントのプロパティと個人情報」にチェックを入れて「検査」をクリック
ステップ3:検出結果の確認と削除
- 検査結果画面で検出された項目を確認
- 検出された情報の「すべて削除」をクリック
- 「閉じる」ボタンで画面を閉じる
- ファイルを保存または名前を付けて保存して完了
詳細な検査項目
削除可能な項目一覧
ドキュメント検査で対応できる項目:
- コメント、校正、バージョン、注釈
- ドキュメントのプロパティと個人情報
- カスタムXMLデータ
- ヘッダー、フッター、透かし
- 非表示のテキスト
- 非表示のワークシートとセル(Excel統合オブジェクト)
検査結果の見方
結果表示の解釈:
- 緑色のチェック:問題なし、該当項目なし
- 赤い感嘆符:問題発見、削除推奨
- 黄色の警告:注意が必要、確認推奨
この方法のメリット・デメリット
メリット
- 包括的な削除:文書内全項目を一括処理
- 確実性:Wordの公式機能で安全
- 詳細確認:削除前に内容を確認可能
- 復元可能性:バックアップがあれば元に戻せる
デメリット
- Word起動必要:アプリケーションを開く必要
- 時間がかかる:大きなファイルでは処理時間が長い
- 一部制限:クラウドファイルでは削除できない項目あり
方法②:エクスプローラーのプロパティから削除(Windows限定)
基本手順
ステップ1:ファイルの選択
- 対象のWordファイルを右クリック → 「プロパティ」
- プロパティダイアログが開く
ステップ2:プロパティ削除の実行
- 「詳細」タブをクリック
- 「プロパティや個人情報を削除」をクリック
- 削除オプションの選択画面が表示
ステップ3:削除方法の選択
オプション1:コピーを作成
- **「可能なすべてのプロパティを削除してコピーを作成」**を選択
- 元ファイルを保持したまま、クリーンなコピーを作成
オプション2:直接削除
- **「このファイルから次のプロパティを削除」**を選択
- 削除したい項目(作成者/最終保存者など)をチェック
- 「OK」をクリックして実行
削除可能なプロパティ
基本的な項目
削除対象のプロパティ:
- 作成者
- 最終保存者
- 会社
- マネージャー
- カテゴリ
- キーワード
- コメント
- テンプレート
削除されない項目
残存する可能性のある情報:
- 文書内の変更履歴
- コメント機能で追加されたメモ
- 非表示テキスト
- カスタムプロパティ
この方法のメリット・デメリット
メリット
- 手軽さ:ファイルを開かずにメタデータだけ削除可能
- 高速処理:大量ファイルの一括処理に適している
- Windowsネイティブ:特別なソフト不要
デメリット
- 削除範囲の制限:ドキュメント検査より削除項目が限定される
- Windows限定:他のOSでは使用不可
- 詳細確認不可:削除前に内容を確認できない
高度な削除テクニック
完全削除のためのコンビネーション
段階的削除アプローチ
推奨手順:
- 第1段階:エクスプローラーでの基本プロパティ削除
- 第2段階:Wordドキュメント検査での詳細削除
- 第3段階:手動での最終確認
- 第4段階:PDF化での最終チェック
特殊な状況での対応
クラウドファイルでの注意点
OneDrive・SharePointでの制限:
- 一部のメタデータは削除できない場合がある
- 共有設定によっては削除が制限される
- バージョン履歴がクラウド上に残存する可能性
対策方法:
- ローカルにダウンロードしてから削除実行
- 新規ファイルとして内容をコピー&ペースト
- PDF化してから再度Word化
- プレーンテキスト経由での内容移行
自動化とバッチ処理
PowerShellスクリプトの活用
大量ファイル処理用スクリプト例:
# 複数ファイルのメタデータ一括削除
Get-ChildItem "C:\Documents\*.docx" | ForEach-Object {
# プロパティ削除処理
$file = $_.FullName
# メタデータ削除実行
}
VBAマクロでの自動化
Word内でのマクロ処理:
- ドキュメント検査の自動実行
- 複数ファイルの一括処理
- 定型作業の自動化
バージョン別・環境別の対応
Mac版Wordでの削除方法
基本的な手順
Mac版での操作:
- 「ファイル」→「プロパティ」
- 「概要」タブで基本情報を削除
- 「カスタム」タブでカスタムプロパティを削除
- Finderでの「情報を見る」でも一部削除可能
Mac特有の注意点
macOS環境での制限:
- Windows版ほど包括的でない
- 一部メタデータは手動削除が必要
- サードパーティツールの活用も検討
オンライン版(Word Online)
Web版での制限
Word Onlineでの削除:
- 基本的なメタデータ削除は限定的
- デスクトップアプリでの処理を推奨
- ダウンロード→処理→アップロードの流れ
モバイル版での対応
スマートフォン・タブレット
モバイル環境での制限:
- メタデータ削除機能は非常に限定的
- 重要文書はPC環境での処理を推奨
- 閲覧専用として活用
削除後の確認方法

削除結果の検証
基本的な確認手順
削除確認の方法:
- 再度ドキュメント検査を実行
- エクスプローラーでプロパティを確認
- Wordの「情報」タブで確認
- 他のPCでファイルを開いて確認
第三者ツールでの確認
専用ツールでの検証:
- メタデータ解析ソフトウェア
- フォレンジックツール
- オンライン解析サービス
削除漏れの対処
よくある削除漏れ
見落としがちな項目:
- カスタムプロパティ
- 埋め込みオブジェクトのメタデータ
- 画像ファイルのExif情報
- リンクされた外部ファイル情報
完全削除の最終手段:
- 内容を新規文書にコピー&ペースト
- 書式を「プレーンテキスト」で一度保存
- 画像は別途加工してから再挿入
- 完全新規作成での内容移行
セキュリティベストプラクティス
組織での運用ルール
社内ガイドライン
推奨する社内ルール:
- 外部共有前の必須チェック項目化
- メタデータ削除の手順書作成
- 定期的な教育・研修の実施
- チェックリストの活用
自動化の導入
システムレベルでの対策:
- メール送信時の自動チェック
- ファイルサーバーでの自動処理
- DLP(データ漏洩防止)システム連携
- 監査ログの記録・分析
個人での注意事項
日常的な対策
習慣化すべき行動:
- 文書作成時の初期設定確認
- 定期的なメタデータチェック
- バックアップとセキュリティのバランス
- 最新のセキュリティ情報の収集
よくある質問と対処法
Q:削除したメタデータを復元したい
A:バックアップファイルがあれば復元可能です。
復元方法:
- 事前に作成したバックアップファイルを開く
- 必要な情報を確認・コピー
- 削除済みファイルに必要に応じて情報を追加
- ただし、セキュリティ上の理由で復元は慎重に判断
Q:PDF化すればメタデータは削除される?
A:PDFにもメタデータは含まれるため、追加の対策が必要です。
PDF化時の注意点:
- WordのメタデータがPDFに引き継がれる
- PDF作成ソフトの情報も追加される
- PDF専用のメタデータ削除が必要
- Acrobat Proなどの専用ツールを使用
Q:Googleドキュメントにコピーすれば安全?
A:完全ではありませんが、多くのメタデータは除去されます。
Googleドキュメント経由の効果:
- 多くのWordメタデータが除去される
- ただし、Googleアカウント情報が新たに追加
- 文書の編集履歴は別途管理される
- 完全な匿名化ではない点に注意
まとめ
効果的な削除方法の選択
状況別の推奨方法:
状況 | 推奨方法 | 理由 |
---|---|---|
1つのファイルを確実に | ドキュメント検査 | 包括的で確実 |
大量ファイルを効率的に | エクスプローラー | 高速処理可能 |
最高レベルのセキュリティ | 両方法の併用 | 多層防御 |
重要な注意事項
必ず守るべきポイント:
- 元に戻せない可能性があるため、必ずバックアップを残す
- WordやExcel、PowerPointなどOffice文書すべて共通の方法
- クラウド文書では削除できない項目がある場合があるので確認が必要
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