「GIMPで写真の人物だけを切り抜きたい」
「背景を透明にして合成したい」
「商品写真の背景を消したい」
そんな作業で悩んでいませんか?
この記事では、無料の画像編集ソフトGIMPを使って、選択範囲の切り抜きを完璧にマスターする方法を、初心者にもわかりやすく詳しく解説します。
選択範囲切り抜きの基本概念

切り抜きとは何か
画像の切り抜きとは、必要な部分だけを取り出して、不要な部分を除去する作業です。
例えば、人物写真から人だけを取り出したり、商品写真から商品のみを抽出したりする際に使用します。
GIMPでの切り抜きの仕組み
GIMPでは「選択範囲」という概念を使って切り抜きを行います。
まず目的の部分を選択範囲として指定し、その後で切り抜き処理を実行します。
切り抜きが必要になる場面
- 人物写真の背景を変更したい時
- 商品写真の背景を透明にしたい時
- 複数の画像を合成したい時
- Web用に軽量な画像を作りたい時
- SNS投稿用に特定の部分だけ使いたい時
切り抜きの種類
- 完全切り抜き:選択した部分以外をすべて削除
- 背景削除:背景のみを削除して透明化
- マスク切り抜き:非破壊編集で可逆的な切り抜き
GIMPの選択ツール完全解説
基本的な選択ツール
矩形選択ツール(Rectangle Select Tool)
基本的な使い方
- ツールボックスから矩形選択ツールを選択
- 画像上でドラッグして四角形を描く
- 選択範囲が点線で表示される
便利なオプション
- 固定比率:正方形や特定の比率で選択
- 固定サイズ:決まったピクセル数で選択
- 中心から展開:中心点から外側に向かって選択
ショートカットキー
R
:矩形選択ツールに切り替えShift + ドラッグ
:正方形で選択Ctrl + ドラッグ
:中心から展開
楕円選択ツール(Ellipse Select Tool)
基本的な使い方
- ツールボックスから楕円選択ツールを選択
- 画像上でドラッグして楕円を描く
- 完全な円が必要な場合はShiftキーを押しながらドラッグ
実用例
- 顔の輪郭に沿った選択
- 丸い商品の選択
- 月や太陽の選択
ショートカットキー
E
:楕円選択ツールに切り替えShift + ドラッグ
:正円で選択
高度な選択ツール
自由選択ツール(Free Select Tool / なげなわツール)
基本的な使い方
- ツールボックスから自由選択ツールを選択
- 画像上でクリック&ドラッグして自由な形を描く
- 開始点に戻って閉じると選択範囲が確定
上手に使うコツ
- ゆっくりと正確にドラッグする
- 複雑な形状は複数回に分けて選択
- 拡大表示して細かい部分を選択
実用例
- 人物の髪の毛の選択
- 建物の複雑な輪郭
- 手描きイラストの特定部分
ファジー選択ツール(Fuzzy Select Tool / 魔法の杖)
基本的な仕組み
同じような色の部分を自動的に選択するツールです。背景が単色の場合に威力を発揮します。
基本的な使い方
- ツールボックスからファジー選択ツールを選択
- 選択したい色の部分をクリック
- 似た色の領域が自動的に選択される
重要な設定項目
- しきい値:色の類似度を調整(0-100)
- 隣接領域の選択:つながった部分のみ選択
- すべてのレイヤーを対象:複数レイヤーから選択
ショートカットキー
U
:ファジー選択ツールに切り替え
色域選択ツール(Select by Color Tool)
ファジー選択との違い 色域選択は画像全体から同じ色を選択し、ファジー選択は隣接した同色部分のみを選択します。
使用場面
- 単色背景の完全削除
- 同じ色のオブジェクトを一括選択
- グラデーション背景の一部選択
パスツールによる精密選択
パス(ベジェ)ツールの特徴
最も精密で美しい選択範囲を作成できるツールです。曲線も直線も自由自在に描けます。
基本的な使い方
- ツールボックスからパスツールを選択
- 画像上をクリックしてアンカーポイントを配置
- ハンドルを調整して曲線を作成
- パスを閉じる
- パスを選択範囲に変換
パスの操作方法
- 直線:クリックのみでアンカーポイントを配置
- 曲線:クリック&ドラッグでハンドルを調整
- 編集:アンカーポイントやハンドルをドラッグで移動
- 選択変換:パスメニューから「選択範囲に変換」
ショートカットキー
B
:パスツールに切り替えEnter
:パスを選択範囲に変換
選択範囲の調整と改善

選択範囲の演算
選択範囲の追加
Shift + 選択
:既存の選択範囲に追加- 複数の部分を選択したい場合に便利
選択範囲の削除
Ctrl + 選択
:既存の選択範囲から削除- 選択しすぎた部分を除外
選択範囲の交差
Shift + Ctrl + 選択
:重複部分のみ選択- 複雑な条件での選択に使用
選択範囲の境界調整
境界をぼかす
選択 → 境界をぼかす
- 切り抜き境界を自然に見せる
- 合成時の違和感を軽減
- 通常3-5ピクセル程度が適切
境界の拡張・縮小
選択 → 境界の変更 → 拡張/縮小
- 選択範囲を微調整
- 境界線の細かい調整に使用
境界を滑らかに
選択 → 境界の変更 → 滑らかに
- ギザギザした選択範囲を滑らかに
- 自動選択ツール使用後の調整に最適
実践的な切り抜き手順
方法1:選択範囲を反転して削除
適用場面 元の画像を直接編集して、不要な部分を削除したい場合
詳細手順
- アルファチャンネルの追加
レイヤー → 透明部分 → アルファチャンネルの追加
これを忘れると透明部分が白くなってしまいます。 - 選択範囲の作成
- 適切な選択ツールで必要な部分を選択
- 境界を調整(ぼかし、拡張など)
- 選択範囲の反転
選択 → 反転(Ctrl + I)
- 不要部分の削除
Delete
キーを押す- または「編集 → 消去」
- 選択解除
選択 → 選択を解除(Shift + Ctrl + A)
メリット・デメリット
- メリット:作業が早い、元ファイルサイズが小さくなる
- デメリット:元に戻せない、やり直しが困難
方法2:コピーして新規画像に貼り付け
適用場面 元の画像を保持しつつ、切り抜いた部分だけの新しい画像を作りたい場合
詳細手順
- 選択範囲の作成
- 切り抜きたい部分を正確に選択
- 選択範囲をコピー
編集 → コピー(Ctrl + C)
- 新規画像を作成
ファイル → 新規作成(Ctrl + N)
- 幅・高さはクリップボードからの自動設定を選択
- 塗りつぶし色は「透明」を選択
- 貼り付け
編集 → 貼り付け(Ctrl + V)
- フローティングレイヤーを固定
レイヤー → レイヤーの固定(Ctrl + H)
またはレイヤー → 新しいレイヤー
メリット・デメリット
- メリット:元画像が保持される、やり直しが可能
- デメリット:複数ファイルの管理が必要
方法3:レイヤーマスクを使用(推奨)
レイヤーマスクの利点
- 非破壊編集(元画像は保持される)
- いつでも修正・調整可能
- プロフェッショナルな仕上がり
詳細手順
- 選択範囲の作成
- 切り抜きたい部分を選択
- レイヤーマスクの追加
レイヤー → マスク → レイヤーマスクの追加
- 「選択範囲」を選択
- 「選択範囲を反転」のチェックは外す
- マスクの調整
- 白い部分:表示される部分
- 黒い部分:隠される部分
- グレー:半透明
- マスクの編集
- マスクを選択してブラシで修正
- 白ブラシで表示部分を追加
- 黒ブラシで隠し部分を追加
複雑な形状の切り抜きテクニック

髪の毛など繊細な部分の切り抜き
前景抽出ツールの活用
- 前景抽出ツールを選択
ツール → 選択ツール → 前景抽出
- 大まかな選択
- おおまかに切り抜きたい範囲を囲む
- 前景の指定
- 残したい部分(前景)にストロークを描く
- 青い線で前景をマーク
- 背景の指定
- 削除したい部分(背景)にストロークを描く
- 赤い線で背景をマーク
- プレビューと調整
- Enterキーで処理実行
- 必要に応じて調整を繰り返し
成功のコツ
- 前景と背景のコントラストが重要
- 細かい部分は拡大して作業
- 何度かに分けて段階的に調整
透明・半透明部分の処理
ガラスや水の切り抜き
- チャンネル分解を活用
色 → チャンネル分解
- 最もコントラストの高いチャンネルを選択
- RGB各チャンネルを確認
- 最もはっきり見えるチャンネルを使用
- レベル調整
色 → レベル
- コントラストを高める
- 白黒をはっきりさせる
- 選択範囲に変換
- 調整したチャンネルから選択範囲を作成
毛皮やファーの切り抜き
ブラシによる手動調整
- 基本的な切り抜きを実行
- 大まかな形状で切り抜き
- マスクで細部調整
- レイヤーマスクを追加
- 小さなブラシで境界を調整
- 特殊ブラシの活用
- 毛先ブラシやランダムブラシ使用
- 不透明度を下げて段階的に調整
色域による自動切り抜き
単色背景の一括削除
白背景の商品写真の場合
- 色域選択ツールを使用
ツール → 選択ツール → 色域選択
- 背景色をクリック
- しきい値を調整
- 「隣接領域の選択」をオフ
- 選択範囲の調整
選択 → 境界の変更 → 拡張
- 1-2ピクセル拡張して境界線を含める
- 削除実行
- アルファチャンネル追加後にDelete
グラデーション背景の処理
段階的な背景削除
- マスクによる段階的処理
- グラデーションマスクを作成
- 背景の濃淡に合わせて調整
- 複数の色域選択
- 明るい部分から暗い部分まで段階的に選択
- 各段階で異なるしきい値を使用
エッジの仕上げとアンチエイリアス
滑らかな境界の作成
アンチエイリアスの設定 選択ツール使用時に「境界をぼかす」オプションを有効にすることで、ギザギザのない滑らかな境界を作成できます。
境界の後処理
フィルター → ぼかし → ガウシアンぼかし
- 境界部分のみに適用
- 0.5-1.0ピクセル程度の軽いぼかし
フリンジの除去
白いフリンジの対処
色 → 色境界の除去
- 白背景由来のフリンジを自動除去
手動でのフリンジ除去
- 境界部分を拡大表示
- 小さなブラシで手動修正
- スポイトツールで周辺色を取得して塗りつぶし
保存形式と透明度の保持

PNG形式での保存
透明度を保持する保存方法
ファイル → エクスポート → PNG形式を選択
重要な設定
- 「透明度の保存」をチェック
- 「メタデータの保存」は用途に応じて設定
その他の対応形式
GIF形式
- 透明度は1bit(完全透明or完全不透明)
- Web用軽量ファイルに適している
TIFF形式
- 高品質な透明度保持
- 印刷用途に適している
WebP形式
- 新しい形式で高圧縮
- ブラウザ対応要確認
よくある問題と解決方法
切り抜きがガタガタになる
原因と対策
- アンチエイリアスがオフ
- 選択ツールのオプションでアンチエイリアスを有効
- 解像度が低い
- より高解像度の画像を使用
- 拡大表示して細かく作業
- 不適切なツール選択
- パスツールで精密な選択を作成
境界が不自然
解決方法
- 境界をぼかす
選択 → 境界をぼかす(1-3ピクセル)
- フェザーの追加
- レイヤーマスクにグラデーション適用
- 手動修正
- 小さなブラシで境界を手直し
透明部分が白くなる
原因 アルファチャンネルが追加されていない
解決方法
レイヤー → 透明部分 → アルファチャンネルの追加
選択範囲が消える
原因と対策
- 他のツールを選択した
- 選択ツールに戻る
Shift + Ctrl + A
で選択解除されていないか確認
- 画像を移動した
Ctrl + Z
で元に戻す
- レイヤーが変わった
- 正しいレイヤーを選択
まとめ
GIMPでの選択範囲切り抜きは、適切なツールと手法を選ぶことで、プロフェッショナルな結果を得ることができます:
初心者向けの推奨手順
- 簡単な形状:矩形・楕円選択ツール
- 複雑な形状:自由選択ツール
- 単色背景:ファジー選択・色域選択
- 精密作業:パスツール
上級者向けテクニック
- レイヤーマスクによる非破壊編集
- チャンネル分解による高精度選択
- 前景抽出ツールによる自動切り抜き
- バッチ処理による効率化
重要なポイント
- アルファチャンネルの追加を忘れずに
- 適切な保存形式(PNG)を選択
- 境界の調整で自然な仕上がりに
- レイヤーマスクで後からの修正を可能に
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