「堕天使(だてんし)」という言葉を聞いたことはありますか?
映画やアニメ、ゲームなどでよく登場する神秘的な存在ですが、その起源は古代のキリスト教・ユダヤ教の宗教文献にあります。
堕天使とは、もともとは神に仕える美しい天使だったが、何らかの理由で天界から追放された存在のことです。
単純な「悪者」ではなく、それぞれに深い物語と象徴的な意味を持った複雑な存在として描かれています。
この記事では、キリスト教・ユダヤ教圏に登場する代表的な堕天使たちと種類について、初心者にもわかりやすく詳しく説明します。
堕天使とは?基本的な概念を理解しよう

堕天使の定義
堕天使(英語:Fallen Angel)とは、天界で神に仕えていた天使が、何らかの罪を犯して天から追放された存在のことです。
基本的な特徴
- もともとは美しく神聖な天使だった
- 自由意志によって神に反逆した
- 天界から地上や地獄に追放された
- 悪魔や悪霊として活動するようになった
なぜ天使が堕落するの?
主な堕落の理由
- 高慢(プライド):神と同等になろうとした
- 嫉妬:人間への神の愛を妬んだ
- 知識の伝授:人間に禁じられた知識を教えた
- 不従順:神の命令に背いた
- 人間との交わり:人間と関係を持った
悪の存在理由
- 世の中に悪が存在している
- なぜ神は悪を作ったのか?
- 作ったわけではなく、善から悪に落ちた
- もしくは意図的に悪の存在を作り、人間を試した
権力
- 唯一神で他の神を認めたくないので、他宗教の神を堕天使や悪魔として扱った
- 天使の影響が強くなりすぎないように、堕天使にした
その他の関わり
旧約聖書の影響
- 『創世記』のエデンの園の蛇
- 『イザヤ書』の「明けの明星」への言及
- 『エゼキエル書』の「ケルビム」の堕落
外典・偽典の影響
- 『エノク書』:詳しい堕天使の記述
- 『ユビリー書』:監視者たちの物語
- 『ライフ・オブ・アダム・アンド・イブ』
後世の発展
- 中世キリスト教神学での体系化
- ダンテの『神曲』での描写
- 民間伝承での拡大解釈
最も有名な堕天使たち
ルシファー(Lucifer)|光をもたらす者から闇の王へ

基本情報
- 名前の意味:「光をもたらす者」「明けの明星」
- 元の地位:熾天使(セラフィム)の長
- 現在の役割:サタン、悪魔の王
- 象徴:高慢、反逆、知性
ルシファーの物語
ルシファーは、すべての天使の中で最も美しく、最も知恵のある存在でした。
神の右腕として活動していましたが、自分の美しさと知恵に酔い、「神と等しくなりたい」と考えるようになります。
堕落の経緯
- 高慢の芽生え:自分の完璧さに陶酔
- 反逆の決意:神の地位を奪おうと計画
- 天界での戦争:三分の一の天使を率いて反乱
- 敗北と追放:大天使ミカエルに敗れ、地獄に落とされる
現代での影響
- 文学作品(ミルトンの『失楽園』など)
- 映画・アニメ・ゲームでの「魅力的な悪役」
- 「堕ちた英雄」の原型
アザゼル(Azazel)|禁じられた知識の教師

基本情報
- 名前の意味:「神が強くなる」または「神の力」
- 元の地位:監視者(ウォッチャー)の指導者
- 罪:人間に武器製造と装飾技術を教えた
- 罰:デューダエルの荒野に永遠に縛られる
アザゼルの罪と影響 『エノク書』によると、アザゼルは人間に以下のことを教えました:
- 武器の製造方法:剣、槍、盾の作り方
- 金属加工技術:青銅や鉄の精錬
- 化粧法:目の塗料、宝石の使い方
- 占術:星占いや魔術
なぜこれが罪なのか? 古代の思想では、これらの知識は「神だけが知るべきもの」とされていました。人間がこれらを知ることで:
- 戦争が激化した
- 虚栄心が生まれた
- 神への畏敬の念が薄れた
サマエル(Samael)|死の天使・告発者

基本情報
- 名前の意味:「神の毒」または「神の左手」
- 役割:死の天使、サタンの別名
- 特徴:正義の執行者でもあり破壊者でもある
- 象徴:死、裁き、告発
サマエルの複雑な性格 サマエルは、他の堕天使とは少し異なる存在です:
- 神の意志の執行者:神の命令で人間を試す
- 告発者:人間の罪を神に報告する
- 死の管理者:人間の死の時を決める
エデンの園の蛇 一部の伝承では、サマエルがエデンの園で蛇の姿となってイブを誘惑したとされています。
シェムハザ|監視者たちのリーダー

基本情報
- 地位:200人の監視者たちの長
- 罪:人間の女性と結婚し、巨人を生んだ
- 結果:大洪水の原因を作った
監視者たちの大きな罪 『エノク書』によると、サミヤザが率いる監視者たちは:
- 人間の女性と結婚:神に禁じられていた行為
- 巨人ネフィリムの誕生:人間と天使の混血児
- 世界の混乱:巨人たちが地上を荒らした
- 神の怒り:結果として大洪水が起こった
その他の代表的な堕天使たち

七大悪魔クラスの堕天使
ベルゼブブ(Beelzebub)|蝿の王
- 地位:地獄の大公、サタンに次ぐ第2位
- 元の名前:バアル・ゼブブ(蝿の主)
- 専門:高慢、偶像崇拝
- 特徴:政治的権力と支配
レビヤタン(Leviathan)|海の怪物
- 象徴:嫉妬、不信仰
- 姿:巨大な海蛇または海竜
- 役割:信仰心を破壊する
- 起源:旧約聖書の海の怪物
アスモデウス(Asmodeus)|破壊の悪魔
- 専門:色欲、結婚の破壊
- 特徴:3つの頭を持つ(牛、人間、羊)
- 活動:夫婦関係の破綻を引き起こす
- 起源:ゾロアスター教のアエーシュマ
特殊な役割を持つ堕天使
アバドン(Abaddon)|破壊の天使
- 名前の意味:「破壊」「奈落」
- 役割:終末の時の破壊者
- 特徴:イナゴの軍団を率いる
- 登場:『黙示録』で重要な役割
マモン(Mammon)|貪欲の化身
- 専門:富への執着、強欲
- 役割:地獄の財宝管理
- 影響:人間の物質欲を刺激
- 現代的解釈:資本主義の象徴
アスタロト(Astaroth)|怠惰の公爵
- 地位:地獄の大公爵
- 専門:怠惰、無気力
- 特徴:美しい姿で人を誘惑
- 起源:古代中東の女神アシュタルテ
監視者(ウォッチャー)|特別な堕天使集団

監視者とは何か?
監視者(ウォッチャー、グリゴリ、Grigori)は、神から人間を見守るよう命じられた特別な天使集団でした。
しかし、彼らは使命を逸脱し、人間界に直接介入してしまいます。
監視者たちの罪
禁じられた結婚
- 人間の女性の美しさに心を奪われた
- 神の許可なく結婚関係を結んだ
- 天使と人間の境界を破った
巨人ネフィリムの誕生
- 天使と人間の間に生まれた巨人族
- 身長が3000キュビット(約1400メートル)
- 地上で暴虐の限りを尽くした
禁じられた知識の伝授 各監視者が人間に教えた専門知識:
- アラキエル:地上の諸相、天文学
- ガドレエル:武器製造、戦争術
- シェムヤザ:呪文、魔術
- ウリエル:雷と地震の引き起こし方
監視者たちの処罰
集団処罰
- 縛り付け:大天使によって地底に縛られる
- 永続的な苦痛:最後の審判まで苦しみ続ける
- 子孫の抹殺:巨人ネフィリムは互いに殺し合う運命
- 大洪水:地上の汚れを清めるための浄化
堕天使の階級と組織

地獄の階級制度
王・皇帝クラス
- ルシファー:地獄の皇帝
- ベルゼブブ:地獄の大公
- アスタロト:地獄の大公爵
公爵・伯爵クラス
- アスモデウス:公爵
- マルファス:大総統
- ダンタリオン:公爵
軍団長クラス
- バアル:軍団長(66個軍団)
- プルフラス:軍団長(26個軍団)
- ビフロンス:軍団長(6個軍団)
『ゴエティア』の悪魔学
中世の魔術書『ゴエティア』(『レメゲトン』の一部)では、72体の悪魔が詳しく分類されています。
これらの多くは元天使とされています。
主要な特徴
- 各悪魔の階級と権限
- 召喚方法と契約条件
- 得意な能力と専門分野
- 配下の軍団数
堕天使が表現する人間の内面
七つの大罪との関連
堕天使は、キリスト教の「七つの大罪」と深く関連しています:
高慢(Pride):ルシファー
- 自分の能力への過信
- 神への挑戦
- 謙遜の欠如
嫉妬(Envy):レビヤタン
- 他者への妬み
- 不満と恨み
- 破壊的感情
怒り(Wrath):サタン
- 制御できない怒り
- 復讐心
- 暴力的衝動
怠惰(Sloth):ベルフェゴール
- 無気力
- 責任回避
- 霊的な怠慢
強欲(Greed):マモン
- 物質的欲望
- 他者からの搾取
- 満足することのない欲求
暴食(Gluttony):ベルゼブブ
- 過度な欲望
- 節制の欠如
- 精神的な飢餓
色欲(Lust):アスモデウス
- 性的逸脱
- 関係の破壊
- 純粋性の喪失
堕天使と文化・芸術

文学作品での描写
古典文学
- ダンテ『神曲』地獄篇:地獄の詳細な描写
- ミルトン『失楽園』:ルシファーの英雄的描写
- ゲーテ『ファウスト』:メフィストフェレスとの契約
現代文学
- 映画『コンスタンティン』:現代的な天使と悪魔
- アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』:使徒という天使的存在
- ゲーム『ペルソナ』シリーズ:悪魔召喚システム
よくある質問と答え
Q: 堕天使と悪魔は同じものですか?
A: 基本的には同じですが、堕天使は「元天使」という起源を強調する呼び方です。
悪魔は広く悪い霊的存在を指す場合もあります。
Q: なぜこんなにたくさんの堕天使がいるのですか?
A: 様々な時代・地域・文献で異なる伝承が発達し、それらが統合されて複雑な体系になったためです。
Q: 堕天使の数は正確には何体いるのですか?
A: 『エノク書』では200体の監視者、『ゴエティア』では72体の悪魔など、文献によって異なります。正確な総数は不明です。
まとめ
キリスト教・ユダヤ教圏の堕天使は、単純な悪役ではなく、人間の内面や社会の問題を映し出す複雑で深い象徴的存在です。
古代から現代まで、私たちの文化や思想に大きな影響を与え続けています。
主要な堕天使とその役割
- ルシファー:高慢と反逆の象徴、悪魔の王
- アザゼル:禁じられた知識の教師、技術と装飾の伝授者
- サマエル:死と裁きの執行者、告発者
- サミヤザ:監視者の長、人間との境界を破った者
堕天使の分類
- 反逆者グループ:神に直接反抗した者たち
- 監視者グループ:人間に知識を教えた者たち
- 七大悪魔:人間の罪を誘発する者たち
- 特殊能力者:死、破壊、誘惑などの専門家
文化的影響
- 西洋文学の重要なモチーフ
- 現代ポップカルチャーの源泉
- 宗教的・哲学的思索の対象
- 芸術表現の豊かな素材
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