「人間はなぜ生まれてきたの?」
「死んだら人はどうなるの?」
「なぜ世の中には辛いことがあるの?」
こうした疑問は、現代の私たちだけでなく、はるか昔の人々も同じように抱いていました。
そして約6000年前、メソポタミア地域(今のイラク南部)に住んでいたシュメール人という人々が、これらの疑問に答えようとして作り上げたのがシュメール神話です。
これは人類最古の神話体系で、後の宗教や文学、さらには現代の映画や小説にまで影響を与え続けています。
この記事では、シュメール神話の魅力的な物語をわかりやすく紹介します。
ギルガメシュ叙事詩:史上最古の友情と冒険の物語

ギルガメシュって誰?
ギルガメシュの基本情報
- 身分:古代都市ウルクの王
- 特徴:神と人間の血を引く半神半人
- 性格:勇敢だが傲慢、でも成長していく
- 時代:紀元前2700年頃(実在した可能性が高い)
どんな人物? 最初のギルガメシュは、とても強いけれど傲慢で、民衆を苦しめる暴君でした。
現代で言えば、才能はあるけれど自分勝手な権力者のような感じです。
エンキドゥとの運命的な出会い
エンキドゥの誕生 神々は、ギルガメシュの暴政に困った民衆の祈りを聞いて、彼と対等に戦える存在を作りました。それがエンキドゥです。
エンキドゥの特徴
- 出身:神々が泥から作り出した
- 見た目:野生動物のような毛深い体
- 性格:純粋で力強い、自然と共に生きる
- 能力:ギルガメシュと互角の戦闘力
友情の始まり 二人は最初は敵として戦いますが、お互いの強さを認め合って親友になります。これは現代の「ライバルから親友になる」物語の原型です。
二人の大冒険
フンババ退治
- 敵:杉の森を守る巨大な怪物フンババ
- 目的:名声を得るため、森の資源を手に入れるため
- 結果:協力してフンババを倒すが、自然破壊への罪悪感も
天の牛の討伐
- きっかけ:女神イシュタルの求婚をギルガメシュが拒否
- 結果:イシュタルが怒って天の牛を送り、二人で倒す
- 代償:神々の怒りを買ってしまう
親友の死と悲しみ
神々は、ギルガメシュとエンキドゥが調子に乗りすぎたと判断し、エンキドゥに死の呪いをかけます。
エンキドゥの死
- 長期間の病気で徐々に弱っていく
- ギルガメシュは必死に看病するが、救えない
- 親友の死を目の当たりにして、ギルガメシュは深く変わる
ギルガメシュの変化 親友を失ったギルガメシュは、初めて「死」というものを実感し、自分もいつか死ぬことに恐怖を覚えます。
不死を求める旅
ウトナピシュティムとの出会い ギルガメシュは、大洪水を生き延びて不死を得たと言われるウトナピシュティムを探して旅に出ます。
不死の薬草 ウトナピシュティムは、海の底にある不死の薬草の存在を教えてくれます。ギルガメシュは必死の思いでその薬草を手に入れますが…
最後の教訓 帰り道で休憩していた時、蛇が薬草を食べてしまいます。
ギルガメシュは不死を失いますが、大切なことを学びます。
物語の教え
- 人間は不死になれないが・・・
- 大切なのは永遠に生きることではなく、どう生きるか
イナンナの冥界下り:愛と復活の神秘

イナンナって誰?
イナンナの基本情報
- 別名:アッカド語ではイシュタル、ギリシャのアフロディーテの原型
- 担当:愛、美、戦争、豊穣
- 性格:情熱的で勇敢、時には残酷
- 象徴:金星(明けの明星・宵の明星)
冥界への危険な旅
なぜ冥界に? イナンナが冥界に向かった理由には諸説ありますが、最も有名なのは「姉のエレシュキガル(冥界の女王)に会いに行く」というものです。
7つの門での試練 冥界には7つの門があり、イナンナは通過するたびに身につけているものを脱がなければなりません。
失うもの一覧
- 王冠:権力の象徴
- 首飾り:美しさの象徴
- 胸飾り:愛の象徴
- 指輪:契約の象徴
- 腰帯:生命力の象徴
- 腕輪:行動力の象徴
- 衣装:最後の守り
最後は何も身につけていない、無力な状態で冥界の奥へ進みます。
死と復活の物語
- イナンナの死 冥界の女王エレシュキガルは、イナンナを死の目で見つめ、彼女は肉の塊となって釘に吊るされます。
- 地上の異変 イナンナが死ぬと、地上から愛と豊穣が失われます。動物は交尾をやめ、植物は枯れ、人間は恋をしなくなります。
- 神々の救出計画 困った神々は、知恵の神エンキに助けを求めます。エンキは特別な存在を作って冥界に送り、イナンナを蘇らせることに成功します。
- 身代わりの必要 しかし、冥界から帰るには身代わりが必要でした。イナンナは恋人のドゥムジを身代わりにしますが、後に半年ずつ交代することになります。
人間創造の物語:なぜ人間は生まれたのか?

神々の悩み
シュメール神話では、最初は神々だけが存在していました。
でも、神々にも悩みがありました。
神々の問題
- 重労働:川を掘ったり、畑を耕したりする大変な作業
- 疲労:神様でも肉体労働は疲れる
- 不満:下級の神々が上級の神々に不満を持つ
- 反乱:ついに下級神が労働をボイコット
人間誕生のアイデア
知恵の神エンキと母なる女神ニンマハが、解決策を考えました。
人間創造の材料
- 粘土:大地の象徴
- 神の血:神性と知恵を与える
- 神の息:生命力を吹き込む
人間の設計思想
- 神々の労働を代わりにする
- でも、神ほど強くはない(反乱を防ぐため)
- 知恵は与えるが、永遠の命は与えない
人間の役割と意味
シュメール人が考えた人間の存在意義
- 神々への奉仕:労働と祭祀を通じて
- 文明の発展:技術と知識の継承
- 自然との調和:大地を耕し、動物を育てる
- 社会の構築:協力して生きる
大洪水伝説:ノアの箱舟の本当の起源

シュメール版「ノアの箱舟」
旧約聖書のノアの箱舟の話は有名ですが、実はその原型がシュメール神話にあります。
主人公:ウトナピシュティム
- 身分:敬虔な王または神官
- 特徴:神々を敬い、正しい行いをしている
- 役割:人類と動物を救う使命を負う
神々が洪水を起こした理由
シュメール版の理由
- 騒音問題:人間が増えすぎて、その騒音で神々が眠れない
- 道徳の乱れ:人間が神々を忘れ、悪いことばかりしている
箱舟建造のプロジェクト
神エンキの秘密の警告 主神エンリルは人類を滅ぼそうとしますが、知恵の神エンキはこっそりウトナピシュティムに警告します。
建造仕様
- 大きさ:正方形の巨大な船(約60m四方)
- 構造:7層建て、区画で仕切られている
- 材料:ヤシの木、アスファルト、油
- 工期:7日間で完成
乗船者
- ウトナピシュティムと家族
- すべての動物のつがい
- 職人とその家族(文明を継承するため)
- 大量の食料と生活用品
洪水とその後
洪水の規模
- 期間:7日7晩の大雨
- 範囲:世界全体(当時の人々の認識では)
- 破壊力:山をも覆うほどの水位
漂流と上陸
- 船は山の頂上に座礁
- 鳩を飛ばして陸地を確認
- 祭壇を築いて神々に感謝
最後に
シュメール神話は、6000年前の古代人が残してくれた貴重な物語。
古代シュメール人が星空を見上げながら考えた疑問は、現代の私たちも同じように抱いています。
技術は進歩しましたが、人間の本質的な悩みや喜びは変わりません。
彼らが残してくれた物語を読むことで、私たちは「人間らしく生きる」ということの意味を改めて考えることができます。
コメント