Arch Linuxといえば、「軽量」「高速」「カスタマイズ性が高い」といった特徴で人気ですが、その一方で「ソフトのインストールが難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか?
特に、公式リポジトリにないソフトウェアをインストールしたいとき、手動でAURからビルドするのは初心者には敷居が高いものです。
そんな悩みを解決してくれるのが、AUR(Arch User Repository)ヘルパーの一つであるyay
(Yet Another Yaourt)です。
この記事では、yayの導入方法から使い方、セキュリティ注意点、実用的なコマンド例、pacmanとの違いまで、初心者にもわかりやすく徹底解説します!
yayとは何か?AURって何?基礎知識を理解しよう

yayとは?
yay
は、Arch Linuxの公式リポジトリとAUR(Arch User Repository)の両方からパッケージをインストールできるAURヘルパーです。
特徴 | 説明 |
---|---|
統合管理 | pacman + AURの両方に対応 |
高速動作 | Go言語で書かれており、非常に高速 |
直感的操作 | pacmanとほぼ同じコマンド体系 |
後継ツール | 古いyaourt の現代的な代替 |
AUR(Arch User Repository)とは?
AURは、Archユーザーが管理するコミュニティ主導の非公式パッケージリポジトリです。
AURの特徴:
- 豊富なソフトウェア:公式リポジトリにない最新ソフトやニッチなツールが数万個
- コミュニティ維持:ユーザーがPKGBUILDスクリプトを提供・維持
- ソースビルド:ソースコードからビルドするため、最適化された実行ファイルが作成
- 自己責任:セキュリティや安定性は利用者の判断が必要
公式リポジトリとAURの違い
項目 | 公式リポジトリ | AUR |
---|---|---|
管理者 | Arch開発チーム | コミュニティユーザー |
インストール方法 | pacman -S | AURヘルパーまたは手動ビルド |
パッケージ形式 | プリビルドバイナリ | ソースコード(PKGBUILD) |
セキュリティ | 公式チェック済み | 利用者が確認する必要 |
更新頻度 | 安定志向 | 最新版が早期提供 |
なぜAURヘルパーが必要なのか?
手動でAURパッケージをインストールする場合:
- AURページからPKGBUILDをダウンロード
- 依存関係を手動で確認・インストール
makepkg
でビルドpacman -U
でインストール
yayを使う場合:
yay -S パッケージ名
この1行で全て完了!
ポイント: yayは、AURパッケージを安全かつ簡単に管理できる便利なツールです。
yayのインストール方法

前提条件の確認
yayをインストールする前に、必要なパッケージがインストールされているか確認しましょう。
必要パッケージのインストール:
sudo pacman -S --needed base-devel git
各パッケージの役割:
- base-devel:ビルドに必要なツール群(gcc、make、patchなど)
- git:AURからソースコードを取得するため
インストール確認:
# gitが使えるか確認
git --version
# makeが使えるか確認
make --version
# gccが使えるか確認
gcc --version
yayのインストール手順
手順1:作業ディレクトリに移動
cd /tmp
手順2:yayのソースコードを取得
git clone https://aur.archlinux.org/yay.git
手順3:ビルドディレクトリに移動
cd yay
手順4:PKGBUILDの内容を確認(セキュリティ重要)
# PKGBUILDファイルの内容を確認
cat PKGBUILD
# .SRCINFOファイルも確認
cat .SRCINFO
重要:セキュリティチェック
- PKGBUILDの内容を理解できる範囲で確認
- 怪しいコマンドやダウンロード先がないかチェック
- 疑問がある場合は経験者に相談
手順5:ビルドとインストール
makepkg -si
オプションの説明:
-s
:依存関係を自動でインストール-i
:ビルド後に自動でインストール
手順6:インストール確認
# yayがインストールされたか確認
yay --version
# ヘルプを表示
yay --help
インストール後のクリーンアップ
# 作業ディレクトリを削除(オプション)
rm -rf /tmp/yay
ポイント: yayは一度インストールすれば、以降はpacman
のように簡単に使えるようになります。
yayの基本的な使い方・コマンド一覧

基本操作コマンド
操作内容 | コマンド例 | 説明 |
---|---|---|
パッケージ検索 | yay パッケージ名 | AUR+公式リポジトリを同時検索 |
インストール | yay -S パッケージ名 | pacman -Sと同じ感覚で使用 |
システム更新 | yay -Syu | システム全体+AURを一括更新 |
AURのみ更新 | yay -Sua | AURパッケージのみ更新 |
パッケージ削除 | yay -R パッケージ名 | pacman -Rと同様 |
詳細削除 | yay -Rns パッケージ名 | 設定ファイル・依存関係も削除 |
情報確認コマンド
操作内容 | コマンド例 | 説明 |
---|---|---|
パッケージ詳細 | yay -Si パッケージ名 | パッケージの詳細情報を表示 |
インストール済み | yay -Q | 全インストール済みパッケージ |
明示的インストール | yay -Qe | 手動でインストールしたパッケージ |
外来パッケージ | yay -Qm | AURからインストールしたパッケージ |
孤立パッケージ | yay -Qtd | 不要になった依存パッケージ |
メンテナンス用コマンド
操作内容 | コマンド例 | 説明 |
---|---|---|
キャッシュクリア | yay -Sc | 古いパッケージファイルを削除 |
完全キャッシュクリア | yay -Scc | 全キャッシュファイルを削除 |
孤立パッケージ削除 | yay -Rns $(yay -Qtdq) | 不要な依存関係を一括削除 |
システムクリーンアップ | yay -Yc | yay専用のクリーンアップ |
実用的な使用例
例1:Visual Studio Codeのインストール
# 検索
yay visual-studio-code
# インストール
yay -S visual-studio-code-bin
例2:Google Chromeのインストール
yay -S google-chrome
例3:Discord の最新版をインストール
yay -S discord
例4:開発環境の一括セットアップ
# 複数パッケージを一度にインストール
yay -S code firefox google-chrome discord slack-desktop zoom
例5:システム全体の更新
# 公式リポジトリ + AUR の一括更新
yay -Syu
ポイント: yayはpacman
とほぼ同じ操作感で使えるため、初心者にも扱いやすいのが魅力です。
yayの便利な使い方・応用テクニック

対話モードの制御
自動承諾モード:
yay -S パッケージ名 --noconfirm
用途: スクリプトや自動化での利用に便利
PKGBUILD確認をスキップ:
yay -S パッケージ名 --noedit
注意: セキュリティ上推奨されませんが、信頼できるパッケージの場合のみ
ビルドオプション
強制再ビルド:
yay -S パッケージ名 --rebuild
用途: カーネル更新後やライブラリ更新後に必要
依存関係も再ビルド:
yay -S パッケージ名 --rebuildall
ビルドファイルの保持:
yay -S パッケージ名 --save
詳細な検索とフィルタリング
詳細検索:
# 特定の文字列を含むパッケージを検索
yay -Ss keyword
# インストール済みパッケージから検索
yay -Qs keyword
# 孤立パッケージの詳細表示
yay -Qtd
統計情報の表示:
# yayの統計情報
yay -Ps
# システム統計
yay -P --stats
ログとトラブルシューティング
yayの操作ログ確認:
# yayのビルドログを確認
ls ~/.cache/yay/
# 特定パッケージのビルドログ
cat ~/.cache/yay/パッケージ名/
設定ファイルの確認:
# yayの設定ファイル
cat ~/.config/yay/config.json
デバッグモード:
yay -S パッケージ名 --debug
yayの設定カスタマイズ
設定ファイルの編集:
# 設定ディレクトリの作成(存在しない場合)
mkdir -p ~/.config/yay
# 設定ファイルの作成
yay --save --cleanafter --answerclean All --answerdiff None
よく使う設定オプション:
{
"aururl": "https://aur.archlinux.org",
"buildDir": "/tmp/yay",
"editor": "",
"editorflags": "",
"makepkgbin": "makepkg",
"makepkgconf": "",
"pacmanbin": "pacman",
"pacmanconf": "/etc/pacman.conf",
"redownload": "no",
"rebuild": "no",
"answerclean": "All",
"answerdiff": "None",
"answerupgrade": "None",
"gitbin": "git",
"gpgbin": "gpg",
"gpgflags": "",
"mflags": "",
"sudobin": "sudo",
"sudoflags": "",
"requestsplitn": 150,
"sortby": "votes",
"searchby": "name-desc",
"gitflags": "",
"removemake": "ask",
"sudobin": "sudo",
"sudoflags": "",
"version": "12.0.0"
}
便利なエイリアス設定
bashrcまたはzshrcに追加:
# ~/.bashrc または ~/.zshrc に追加
alias yup='yay -Syu' # システム更新
alias yin='yay -S' # インストール
alias yrem='yay -Rns' # 完全削除
alias yser='yay -Ss' # 検索
alias yinfo='yay -Si' # 詳細情報
alias yclean='yay -Sc && yay -Yc' # クリーンアップ
使用例:
# 設定後は短いコマンドで実行可能
yup # yay -Syu と同じ
yin firefox # yay -S firefox と同じ
セキュリティとベストプラクティス

AURパッケージのセキュリティチェック
インストール前の確認事項:
- パッケージの人気度と維持状況
# AURページで確認すべき項目
# - 投票数 (Votes)
# - 人気度 (Popularity)
# - 最終更新日 (Last Updated)
# - メンテナー (Maintainer)
- PKGBUILDファイルの内容確認
# インストール前にPKGBUILDを必ず確認
yay -G パッケージ名 # PKGBUILDをダウンロードのみ
cd パッケージ名
cat PKGBUILD # 内容を確認
- コメントとフラグをチェック
- AURページのコメント欄で問題報告がないか確認
- Out-of-dateフラグが立っていないか確認
安全な使用のためのルール
DO(推奨すること):
- PKGBUILDの内容を理解できる範囲で確認
- 人気があり、よくメンテナンスされているパッケージを選ぶ
- 定期的にシステムを更新する
- バックアップを定期的に取る
DON’T(避けるべきこと):
- PKGBUILDを確認せずに
--noedit
を多用する --noconfirm
を安易に使う- 作者不明のパッケージを無闇にインストールする
- システムクリティカルなパッケージをAURから入れる
トラブル時の対処法
よくある問題と解決法:
問題1:ビルドエラーが発生
# 依存関係を確認
yay -Si パッケージ名
# 手動で依存関係をインストール
yay -S 依存パッケージ名
# キャッシュをクリアして再試行
yay -Sc
yay -S パッケージ名
問題2:GPGキーエラー
# GPGキーをインポート
gpg --recv-keys キーID
# または
yay -S パッケージ名 --skippgpcheck # 非推奨
問題3:パッケージが見つからない
# データベースを更新
yay -Sy
# 検索してみる
yay -Ss 部分的な名前
バックアップとロールバック
システムスナップショット(推奨):
# timeshiftを使ったシステムバックアップ
sudo pacman -S timeshift
sudo timeshift --create --comments "yay install前"
パッケージレベルでのロールバック:
# キャッシュから古いバージョンを再インストール
ls /var/cache/pacman/pkg/ | grep パッケージ名
sudo pacman -U /var/cache/pacman/pkg/package-old-version.pkg.tar.xz
他のAURヘルパーとの比較
主要なAURヘルパー比較
ツール | 言語 | 速度 | 機能 | 開発状況 |
---|---|---|---|---|
yay | Go | 高速 | 多機能 | 活発 |
paru | Rust | 高速 | yay互換 | 活発 |
trizen | Perl | 中程度 | 軽量 | 安定 |
pakku | Nim | 高速 | シンプル | 活発 |
yaourt | Bash | 遅い | 多機能 | 開発停止 |
yayの優位点
利点:
- pacmanとの高い互換性
- 豊富な機能とオプション
- 活発な開発とコミュニティサポート
- Go言語による高速な動作
- 豊富なドキュメント
欠点:
- やや多機能すぎる場合がある
- 初期学習コストがある
paruとの違い
paru(yayの代替として人気):
# paruのインストール(yayの代わりに使いたい場合)
yay -S paru
# 基本的な使用法はyayと同じ
paru -Syu
paru -S パッケージ名
主な違い:
- パフォーマンス:paruの方がわずかに高速
- 機能:yayの方が豊富な機能
- 互換性:両方ともpacman互換
よくある質問と回答

Q: yayは公式ツールですか?
A: いいえ、コミュニティ製のサードパーティツールです
yayはArch Linuxの公式ツールではありませんが、非常に多くのユーザーに愛用されている信頼性の高いツールです。
Q: yayとpacmanはどちらを使うべき?
A: 用途に応じて使い分けてください
- 公式リポジトリのパッケージ:pacmanを推奨
- AURパッケージ:yayが必須
- システム全体の更新:yayが便利(AURも同時更新)
Q: yayは安全ですか?
A: ツール自体は安全ですが、AURパッケージは自己責任
yay自体は安全なツールですが、AURパッケージはコミュニティが維持しているため、各パッケージの安全性は利用者が判断する必要があります。
Q: エラーが出た場合はどうすれば?
A: 段階的なトラブルシューティングを行ってください
- エラーメッセージを詳しく読む
- 依存関係を確認する
- キャッシュをクリアする
- Arch Wikiやフォーラムで検索する
- 必要に応じてパッケージメンテナーに報告
Q: システムが不安定になった場合は?
A: バックアップからの復旧を検討してください
定期的なシステムバックアップ(timeshift等)を取っておくことが重要です。問題のあるパッケージを特定して削除することも可能です。
まとめ:Arch Linuxを使うならyayは必須ツール!
今回学んだ重要なポイント:
- 基本概念:yayはAURパッケージを簡単に管理できる強力なツール
- インストール方法:一度の手動ビルドで永続的に利用可能
- 基本操作:pacmanとほぼ同じコマンド体系で直感的
- セキュリティ:PKGBUILDの確認とバックアップが重要
- 応用機能:カスタマイズやスクリプト化にも対応
実際に使ってみよう:
- 基本的なパッケージ検索・インストールから始める
- システム更新(
yay -Syu
)を定期的に実行 - セキュリティチェックの習慣を身につける
- 必要に応じてカスタマイズを行う
Arch Linuxでは、公式リポジトリにない便利なソフトを使いたいとき、AURは欠かせない存在です。
そのAURを手軽に操作できるyayは、パッケージ管理を一段と快適にする強力なツールです。
yayの主な利点:
pacman
と同じ操作感でAURも扱える- 公式+非公式リポジトリの一括更新が可能
- シンプルながら多機能で、スクリプトにも使える
- 活発な開発とコミュニティサポート
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