Excelで数値の「差」や「距離」を計算していると、マイナスの値を無視して「正の値」として扱いたいことがあります。
例えば、「予算と実績の差はいくら?」「目標からどれくらい離れている?」といった場面です。
そんな時に便利なのがABS
(アブソリュート)関数です。
この記事では、ABS関数の使い方と具体的な活用例、よくある注意点まで、初心者にもわかりやすく紹介します。
ABS関数ってなに?

ABS関数の役割
ABS
関数は、数値の絶対値を返すExcelの関数です。
絶対値とは、数直線上の0からの距離のことで、常に正の数または0になります。
絶対値って何?
絶対値は、数字の「大きさ」だけを表す値です。プラスもマイナスも関係なく、0からどれだけ離れているかを示します。
数直線で考えてみよう:
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
←——————————————————————————————————————————→
5の距離 5の距離
-5も+5も、どちらも0から5離れているので、絶対値は両方とも5になります。
基本的な書き方
=ABS(数値)
簡単な使用例
=ABS(-10) → 結果:10
=ABS(5) → 結果:5
=ABS(0) → 結果:0
=ABS(-3.5) → 結果:3.5
セル参照での使用例
A列 | B列(=ABS(A列)) |
---|---|
-15 | 15 |
8 | 8 |
-22 | 22 |
0 | 0 |
こんな時に使います
- 差を計算したい時:「予算500万円、実績480万円、差は20万円」
- 距離を知りたい時:「目標100個、実績85個、15個足りない」
- 誤差を調べたい時:「予測値と実際の値がどれくらい違う?」
ポイント
- マイナスの数字も自動的にプラスになる
- プラスの数字はそのまま
- 0は0のまま
- とてもシンプルで覚えやすい関数
マイナスを取り除きたい場面で役立つこの関数、次は実務的な使い方を見ていきましょう。
実務で役立つABS関数の使い方を覚えよう

予算と実績の差を計算
基本的な差の計算
=ABS(B2 - C2)
データ例:
A列(項目) | B列(予算) | C列(実績) | D列(差額) |
---|---|---|---|
売上 | 1000 | 950 | =ABS(B2-C2) → 50 |
経費 | 200 | 230 | =ABS(B3-C3) → 30 |
どちらが大きくても、差は正の値で表示されます。
より詳しい分析
=ABS(B2-C2)&"円の差"
結果:「50円の差」のように、わかりやすく表示できます。
目標達成度の分析
目標からの距離
=ABS(実績 - 目標)
応用例:
// 目標100に対して、どれくらい離れているか
=ABS(A2 - 100)
実績 | 目標からの距離 |
---|---|
95 | 5 |
105 | 5 |
88 | 12 |
前年同月比の変化量
=ABS(今年 - 去年)
データ例:
月 | 今年 | 去年 | 変化量 |
---|---|---|---|
1月 | 120 | 100 | =ABS(B2-C2) → 20 |
2月 | 90 | 110 | =ABS(B3-C3) → 20 |
在庫管理での活用
適正在庫からの乖離
=ABS(現在庫 - 適正在庫)
応用例:
// 適正在庫50個からどれくらい離れているか
=ABS(A2 - 50)
成績や評価での差分
平均点からの差
=ABS(個人の点数 - 平均点)
データ例:
生徒名 | 点数 | 平均からの差 |
---|---|---|
田中 | 85 | =ABS(B2-80) → 5 |
佐藤 | 72 | =ABS(B3-80) → 8 |
時間の差を計算
予定時刻と実際の差
=ABS(予定時刻 - 実際時刻) * 24 * 60
結果を分単位で表示できます。
価格比較での活用
定価からの値引き額
=ABS(定価 - 売価)
データ例:
商品 | 定価 | 売価 | 値引き額 |
---|---|---|---|
商品A | 1000 | 800 | =ABS(B2-C2) → 200 |
商品B | 500 | 520 | =ABS(B3-C3) → 20 |
ポイント
- 「どちらが大きいか」を気にせず差を計算
- 常にプラスの値なので見やすい
- グラフや分析で使いやすいデータになる
数値の差を見やすくするために、ABS関数はとても便利です。次は、他の関数と組み合わせた活用法を紹介します。
他の関数と組み合わせて使ってみよう

IF関数との組み合わせ
誤差の大きさで判定
=IF(ABS(B2 - C2) > 10, "差が大きい", "OK")
データ例:
予測値 | 実績値 | 判定 |
---|---|---|
100 | 95 | OK |
100 | 85 | 差が大きい |
より詳しい判定
=IF(ABS(B2-C2) <= 5, "良好", IF(ABS(B2-C2) <= 15, "注意", "要改善"))
AVERAGE関数との組み合わせ
平均誤差の計算
=AVERAGE(ABS(B2:B10 - C2:C10))
※Excel 365またはExcel 2021で使用可能
従来のバージョンでの計算
=(ABS(B2-C2) + ABS(B3-C3) + ABS(B4-C4)) / 3
SUMPRODUCT関数との組み合わせ
合計誤差の計算
=SUMPRODUCT(ABS(B2:B10 - C2:C10))
MAX・MIN関数との組み合わせ
最大誤差を見つける
=MAX(ABS(B2:B10 - C2:C10))
最小誤差を見つける
=MIN(ABS(B2:B10 - C2:C10))
COUNTIF関数との組み合わせ
大きな誤差の件数を数える
=SUMPRODUCT((ABS(B2:B10 - C2:C10) > 10) * 1)
条件付き書式との組み合わせ
誤差が大きいセルに色を付ける
- 範囲を選択
- ホーム→条件付き書式→新しいルール
- 数式を使用:
=ABS($B2-$C2)>10
- 書式を設定
ROUND関数との組み合わせ
小数点を整理した絶対値
=ROUND(ABS(B2 - C2), 2)
小数点以下2桁で表示されます。
CONCATENATE(結合)との組み合わせ
わかりやすいメッセージ
="誤差は" & ABS(B2-C2) & "です"
結果:「誤差は15です」
実用的な組み合わせ例
品質管理レポート
=IF(ABS(測定値-基準値) <= 許容誤差, "合格", "不合格")
売上分析
=IF(ABS(今月売上-先月売上)/先月売上 > 0.1, "大幅変動", "通常範囲")
在庫アラート
=IF(ABS(現在庫-適正在庫) > 警告レベル, "要発注", "適正")
ポイント
- IF文で条件分岐を作れる
- 他の計算関数と組み合わせて集計
- 条件付き書式で視覚的にわかりやすく
- 文字列結合でメッセージ化
ABSは他の関数と組み合わせて使うことで、実用性が一気に高まります。最後に注意点を見ておきましょう。
ABS関数の注意点と制限を知っておこう

よくあるエラーパターン
エラー1:数値以外を指定した場合
=ABS("abc") → #VALUE! エラー
=ABS("123abc") → #VALUE! エラー
=ABS("") → #VALUE! エラー
対処法:データが数値かどうか確認
=IF(ISNUMBER(A1), ABS(A1), "数値ではありません")
エラー2:空白セルを参照した場合
=ABS(A1) // A1が空白の場合 → 0
空白セルは0として扱われるので、エラーにはなりませんが注意が必要です。
データ型による注意点
文字列として保存された数値
問題:見た目は数値だが、文字列として保存されている
確認方法:
- セルの左上に緑の三角マーク
- 左寄せで表示される
対処法:
=ABS(VALUE(A1)) // VALUE関数で数値に変換
日付・時刻データ
=ABS(DATE(2024,12,31) - DATE(2024,1,1)) → 365
日付も内部的には数値なので、ABS関数が使えます。
符号情報の損失
元の符号がわからなくなる
// 元のデータ
A1: -50
B1: 50
// ABS関数適用後
=ABS(A1) → 50
=ABS(B1) → 50
どちらも50になり、元がマイナスだったかわからなくなります。
符号を保持したい場合
=IF(A1 < 0, "-" & ABS(A1), ABS(A1))
または、別の列に符号を保存:
=IF(A1 < 0, "マイナス", "プラス")
計算精度の問題
浮動小数点の誤差
=ABS(0.1 + 0.2 - 0.3) → 5.55112E-17 (ほぼ0だが完全な0ではない)
対処法:ROUND関数と組み合わせ
=ABS(ROUND(0.1 + 0.2 - 0.3, 10)) → 0
パフォーマンスへの影響
大量データでの使用
// 10万行のデータに適用
=ABS(A1:A100000 - B1:B100000)
配列数式として処理されるため、計算に時間がかかる場合があります。
よくある勘違い
「絶対値 = 正の数」の思い込み
=ABS(0) → 0 (正の数ではなく0)
0の絶対値は0です。
「ABS関数で必ず大きくなる」の誤解
=ABS(5) → 5 (変わらない)
=ABS(-5) → 5 (大きくなる)
エラーを防ぐチェックポイント
1. データ型の確認
=IF(ISNUMBER(A1), ABS(A1), "エラー:数値ではありません")
2. 空白セルの対応
=IF(A1="", "", ABS(A1))
3. エラー値の処理
=IFERROR(ABS(A1), "計算できません")
デバッグのコツ
ステップバイステップで確認
- 元データの確認:数値型かどうか
- 計算式の確認:参照先が正しいか
- 結果の妥当性:期待する値と一致するか
中間結果の表示
// 計算過程を分解
B1: =A1-C1 // 差を計算
D1: =ABS(B1) // 絶対値を計算
ポイント
- 数値以外はエラーになる
- 元の符号情報は失われる
- 空白セルは0として処理される
- エラーハンドリングを組み込むと安全
計算元のデータ型や処理目的を考慮して使うことが大切です。
まとめ
ExcelのABS関数は、数値の絶対値を求めるシンプルながらも非常に便利な関数です。
覚えるべきポイント
- 基本構文:
=ABS(数値)
- 役割:マイナスをプラスに変換、プラスはそのまま
- 用途:差の計算、誤差の分析、距離の測定
- 注意点:数値以外はエラー、符号情報は失われる
実務での活用場面
- 予算管理:予算と実績の差額計算
- 品質管理:基準値からの誤差測定
- 売上分析:前年同期比の変化量
- 在庫管理:適正在庫からの乖離
よく使われるパターン
// 基本的な差の計算
=ABS(A1 - B1)
// 条件付きの判定
=IF(ABS(A1 - B1) > 10, "要注意", "正常")
// 平均誤差の計算
=AVERAGE(ABS(A1:A10 - B1:B10))
// エラー対応版
=IFERROR(ABS(A1 - B1), "計算不可")
他の関数との組み合わせ
- IF関数:条件分岐での活用
- AVERAGE関数:平均誤差の計算
- MAX/MIN関数:最大・最小誤差の特定
- 条件付き書式:視覚的な表現
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