古代メソポタミア神話の中で、特に重要な神のひとりであるエンリル。
世界最古の神話体系であるシュメール・アッカド神話において、「支配者」として君臨していた超重要な存在です。
この記事では、そんなエンリルについて詳しく解説していきます。
名前の意味

まずは名前から見ていきましょう。エンリル(Enlil)という名前は、シュメール語で書くと「EN.LIL」です。
- 「EN」= 主(あるじ)、王
- 「LIL」= 風
つまり、エンリルとは「風の主(王)」という意味になります。
この名前からもわかるように、エンリルは風・空気・嵐と深い関わりがある神であり、自然の力を支配する存在として、古代の人びとから非常に畏れられていました。
系譜(家系図)

神話の神々には、基本的に「家族」や「血筋」があります。
エンリルも例外ではありません。
- 父:アン(天の神) – 天空をつかさどる神で、シュメール神話の最上位に位置します
- 母:キ(地の女神) – 大地の女神で、アンと対になる存在
- 妻:ニンリル(穀物の女神)、アシュナン(穀物の女神)、ニントゥ(豊穣神)
- 子:ナンナ(シン/月の神)、ネルガル(冥界の神)など
このように、エンリルは天と地の神の子どもとして生まれ、自らも支配者としての地位を得ていくのです。
姿・見た目

実は、エンリルの見た目については明確な記録が少ないのです。
古代メソポタミアでは神の姿を具体的に描くことが少なく、神は象徴的な存在としてあつかわれていました。
でも、次のような特徴が推測されています:
- 人間に近い姿
- 角の生えた冠をかぶっている
- 王者が着るような衣
- 神々の運命を記した天命の粘土板「トゥプシマティ」を手に持っている
- 長い髭がある
神格・神性

エンリルの持つ力や役割には、次のようなものがあります。
- 大気・風・嵐の支配者
- 法律と秩序を守る神
- 至高神
- 王権の神
エンリルは至高神として、神々と人間のあいだで重要な役割を果たしていました。
また、神々のなかでも「最高評議会」のリーダーのような立ち位置で、他の神々の行動にも指示を出せる存在でした。
神話でのエピソード

エンリルが登場する神話は、数多く残されており、以下はその一部。
- 人類創造とつるはしの神話 – 人間を神々のために働く存在として創造する話
- エンリルとニンリル – 若いエンリルの過ちとその結果、そして最終的な復権を描いた神話 。エンリルの短絡的な部分が如実に表れている。
- ギルガメシュ叙事詩 – フンババを守人にしたり、会議によってエンキドゥを処罰したりして冷酷で非情な一面を見せる
- 大洪水伝説 – 人類を滅ぼそうとするが、エンキの機転によって防がられる物語
ここからなかでも有名なものを見ていきます。
ノアの洪水の原型「アトラ・ハシース神話」
この神話では、エンリルが洪水を起こして人類を滅ぼそうとします。
でも、エンキがこっそり人間のひとりに警告して、箱舟を作らせて助けます。
ニンリルへの恋
若いころのエンリルは、まだ神々の都市ニップルにいたとき、ニンリルに一目惚れします。
それで勢いに任せてニンリルと無理やり行為に及びます。
ニンリルは月の神シンを妊娠します。
犯罪を犯したので、エンリルは罰として冥界(地下世界)に追放されてしまいます。
子を妊娠したことでエンリルを意識したニンリルは、彼を追って冥界に行きます。
エンリルが誘い、またもやニンリルと交わる。
ニンリルは、数柱の神を産むことになる。
この後、エンリルは復権する。
まとめ
エンリルは、シュメール・アッカド神話の中でもとくに重要な神で、
- 「風と空気の主」として自然の力を支配
- 天と地をつなぐ中心的な存在
- 厳格な秩序と王権の象徴でもある
- 短絡的で激情家
- 神話では破壊的で暴力的、冷酷な面が目立っている
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