「相手が何をするか読めないとき、自分はどう動けばいいんだろう?」
ビジネスの世界でも日常生活でも、こんな場面に遭遇したことはありませんか?
実はこの疑問に答えを出すのが「ナッシュ均衡」という考え方なんです。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、経済学やビジネス戦略の世界では超重要な概念として知られています。
この記事では、ナッシュ均衡の基本から具体例まで、誰でもわかるように解説していきます。
ナッシュ均衡とは何か?
結論から言うと、ナッシュ均衡とは「誰も自分の戦略を変えたくない状態」のことです。
もう少し詳しく説明すると、複数の人(プレイヤー)がいる状況で、全員が「相手がその戦略を続けるなら、自分も今の戦略を変える理由がない」と考えている状態を指します。
この状態では、誰か一人だけが戦略を変えても得にならないんです。
だから「均衡(バランスが取れた状態)」と呼ばれているんですね。
ゲーム理論とナッシュ均衡の関係
ナッシュ均衡を理解するには、まずゲーム理論について知っておく必要があります。
ゲーム理論とは、利害関係を持つ相手がいる状況で、自分と相手の利益を考えながら最適な行動を決めるための理論です。
ここで言う「ゲーム」とは、チェスや将棋のことだけではありません。
ビジネスでの競争、政治での駆け引き、さらには日常生活での選択まで、すべて「ゲーム」として分析できるんです。
ナッシュ均衡は、このゲーム理論の中でも特に「非協力ゲーム」という分野で使われる中心的な概念です。
非協力ゲームとは、プレイヤー同士が協力せず、それぞれが自分の利益を最大化しようとする状況のことを指します。
具体例で理解するナッシュ均衡
理論的な説明だけでは分かりにくいので、実際の例を見ていきましょう。
囚人のジレンマ
ナッシュ均衡を説明する際に最も有名なのが「囚人のジレンマ」という例です。
共同で犯罪を犯した疑いで逮捕された2人の容疑者、AさんとBさんがいます。
警察は2人を別々の部屋で尋問し、それぞれに取引を持ちかけます。
- 2人とも黙秘:2人とも懲役1年
- 1人だけ自白:自白した人は釈放、黙秘した人は懲役5年
- 2人とも自白:2人とも懲役3年
さて、あなたがAさんだったらどうしますか?
もしBさんが黙秘したら、自分だけ自白すれば釈放されます。
もしBさんが自白したら、自分も自白しないと懲役5年になってしまいます。
どちらの場合でも「自白する」のが得策なんです。
Bさんも同じように考えるので、結果として「2人とも自白」という状態がナッシュ均衡になります。
ここが面白いところなんですが、2人とも黙秘すれば懲役1年ずつで済むのに、それぞれが合理的に考えた結果、懲役3年ずつという悪い結果になってしまうんですね。
価格競争
もう一つ、ビジネスの世界でよくある例を見てみましょう。
2つの企業A社とB社が同じ商品を販売しているとします。
どちらも「高価格」か「低価格」かを選択できます。
- 両社とも高価格:それぞれ利益10億円
- 片方だけ低価格:低価格の企業は15億円、高価格の企業は2億円
- 両社とも低価格:それぞれ利益5億円
この場合、相手が高価格を選んでも、自分が低価格にすれば15億円の利益が得られます。
相手が低価格を選んだら、自分も低価格にしないと2億円に減ってしまいます。
結果として、両社とも「低価格」を選ぶのがナッシュ均衡です。
本来なら両社が高価格を維持すれば10億円ずつ得られたのに、価格競争に突入してしまい5億円ずつしか得られない——これがナッシュ均衡の典型的なパターンなんです。
ジョン・ナッシュという人物
このナッシュ均衡を考え出したのが、アメリカの数学者ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアです。
ナッシュは1928年6月13日にウェストバージニア州で生まれました。
プリンストン大学で博士号を取得したのは、なんと22歳のとき。
1950年に発表した博士論文でナッシュ均衡の概念を確立し、1994年にはその功績が認められてノーベル経済学賞を受賞しています。
2015年には数学界で最高の栄誉とされるアベル賞も受賞しました。
ナッシュの人生は波乱に満ちたものでした。
30歳頃から統合失調症を患い、約30年間にわたって精神疾患と闘いました。
しかし驚くべきことに、彼は治療と自己努力によって回復し、研究に復帰したんです。
彼の人生は『ビューティフル・マインド』という映画にもなり、世界中の人々に感動を与えました。
残念ながら、2015年5月23日、ナッシュは妻のアリシアとともに交通事故で亡くなりました。
アベル賞授賞式からの帰国途中での悲劇的な出来事でした。
ナッシュ均衡の特徴と注意点
メリット:予測可能な安定状態
ナッシュ均衡の最大のメリットは、相手の行動を論理的に予測できることです。
「相手がこう動くなら、自分はこうすべき」という戦略を立てられるので、ビジネスでも政治でも、意思決定の強力なツールになります。
また、誰も戦略を変える動機がないため、安定した結果が予測できるんです。
デメリット:必ずしも最善ではない
一方で、ナッシュ均衡には重要な欠点があります。
囚人のジレンマや価格競争の例でも見たように、ナッシュ均衡は全体にとって最善の結果とは限りません。
各プレイヤーが自分の利益を追求した結果、全員にとって損な状況に陥ることがあるんです。
複数の均衡が存在する場合
もう一つ注意すべき点は、ナッシュ均衡が一つとは限らないことです。
例えば、友達と待ち合わせする場所を決めるとき、「図書館」で会うのも「水族館」で会うのも、どちらもナッシュ均衡になり得ます。
この場合、実際にどちらが選ばれるかは、2人の関係性やコミュニケーションに依存します。
まとめ
ナッシュ均衡について、重要なポイントをまとめます。
- ナッシュ均衡とは、誰も自分の戦略を変えたくない安定した状態のこと
- ゲーム理論の非協力ゲームにおける中心的な概念
- 必ずしも全体にとって最善の結果にはならない(囚人のジレンマ)
- 複数の均衡が存在する場合もある
- ビジネス戦略や経済分析に広く応用されている
ナッシュ均衡は一見難しそうに見えますが、実は私たちの日常生活のあちこちに潜んでいる考え方です。
競争相手がいる状況で「相手がどう動くか」を考えながら自分の行動を決めるとき、無意識のうちにナッシュ均衡的な思考をしているかもしれませんね。


コメント