「一寸法師」「一升瓶」「一坪」——これらの言葉、普段何気なく使っていませんか?
実はこれらすべて、日本で古くから使われてきた「尺貫法(しゃっかんほう)」という単位系から生まれた言葉なんです。メートル法が主流の現代でも、私たちの生活の中に深く根付いている尺貫法。この記事では、その歴史から具体的な単位の換算方法、そして今も使われている場面まで、詳しく解説していきます。
読み終わる頃には、時代劇で出てくる単位も、不動産広告の「坪」も、すらすら理解できるようになっているはずです!
尺貫法とは何か?基本を押さえよう

尺貫法の定義と起源
尺貫法(しゃっかんほう)とは、長さ・面積・体積・重さなどを測るための伝統的な単位系のこと。
この名前は、長さの単位である「尺(しゃく)」と、重さの単位である「貫(かん)」を組み合わせたものなんです。
尺貫法の起源は中国にあります。紀元前13世紀頃に生まれ、紀元前10世紀には安定化しました。その後、中国から日本、韓国、東南アジアへと広がっていったわけですね。
日本では701年の大宝律令(たいほうりつりょう)で正式に採用され、それ以来1300年以上にわたって使われてきました。
尺貫法の3つの基本単位
尺貫法には3つの基本となる単位があります:
長さ = 尺(しゃく)
約30.3cmの長さを表します。
人の前腕の長さ(肘から手首までの長さ)が由来と言われているんです。
重さ = 貫(かん)
約3.75kgの重さを表す単位。
実は貫という単位は日本独自のもので、中国では「斤(きん)」を使っていました。
体積 = 升(しょう)
約1.8リットルの体積を表します。お米を計るときの「一升」がこれですね。
この3つを基準に、さらに細かい単位や大きな単位が作られていきました。
尺貫法の歴史を辿る
古代から江戸時代まで
日本に尺貫法が伝わったのは、701年の大宝律令のとき。中国の唐の制度を参考にして導入されました。
ただし、当時は地域や用途によって単位の大きさがバラバラだったんです。
京都で使われる「京目(きょうめ)」、地方で使われる「田舎目(いなかめ)」など、様々な基準が存在していました。
江戸時代に入ると、徳川幕府が税の徴収や商業取引のために、度量衡(どりょうこう、つまり計量の単位)の統一を進めます。
升(お米を計る容器)の製造を江戸と京都の2つの工房だけに許可し、全国で統一された基準を使えるようにしました。
明治時代の大改革
1875年(明治8年)、明治政府が全国で統一された尺貫法を制定しました。
「尺貫法」という名前がつけられたのも、実はこのときなんです。
同じ1875年、国際的には「メートル条約」がパリで締結されます。
日本は1885年(明治18年)にこの条約に加盟し、1891年(明治24年)には度量衡法を制定しました。
この法律で、尺貫法の各単位がメートル法との関係で明確に定義されたんです:
- 1尺 = 10/33メートル(約30.303cm)
- 1貫 = 15/4キログラム(3.75kg)
- 1升 = 約1.8039リットル
つまり、メートル法を基準にして尺貫法を定義し直したわけですね。
昭和時代の廃止とその後
1959年(昭和34年)1月1日、計量法により尺貫法は原則として使用禁止になりました。
1966年(昭和41年)4月1日には、土地や建物の計量についても禁止が完全施行され、尺貫法は正式に廃止されることに。
違反すると50万円以下の罰金が課せられる法律です。ただし、伝統的な分野では事実上黙認されているのが実情なんですよ。
長さの単位を詳しく見てみよう

基本の単位系
尺貫法の長さは、すべて「尺」を基準に10進法で構成されています:
小さい順に:
- 毛(もう) = 1/10,000尺 ≈ 0.003mm
- 厘(りん) = 1/1,000尺 ≈ 0.03mm
- 分(ぶ) = 1/10尺 ≈ 3.03mm
- 寸(すん) = 1/10尺 ≈ 3.03cm
- 尺(しゃく) = 基準単位 ≈ 30.3cm
大きい順に:
- 丈(じょう) = 10尺 ≈ 3.03m
- 間(けん) = 6尺 ≈ 1.82m
- 町(ちょう) = 60間 ≈ 109m
- 里(り) = 36町 ≈ 3.93km
「一寸法師」は本当に小さかった
昔話の「一寸法師」。
一寸とは約3cmですから、本当に指の幅くらいの大きさだったんですね。
「一寸先は闇」という慣用句もあります。これは「わずか3cm先も見えない=将来のことは全く分からない」という意味。昔の人にとって、3cmは「すぐそこ」を表す身近な長さだったわけです。
曲尺と鯨尺の違い
実は尺には2種類あるんです。
曲尺(かねじゃく)
大工さんが使う尺で、1尺 = 約30.3cm。
建築や一般的な長さ測定に使われます。「かねじゃく」は「直角定規」という意味もあるんですよ。
鯨尺(くじらじゃく)
着物を作るときに使う尺で、曲尺の1.25倍の長さ。つまり1尺 = 約37.88cm。
なぜ「鯨」なのかというと、クジラのヒゲ(鯨髭、げいし)で作った定規を使っていたからなんです。
間(けん)は日本建築の基本
「間」は日本建築で特に重要な単位です。
1間 = 6尺 = 約182cm
これは柱と柱の間の距離の基準なんですね。和室の畳も、長辺が1間(約182cm)、短辺が半間(約91cm)で設計されています。
ただし、地域によって違いがあって:
- 江戸間 = 6尺(約176cm)
- 京間(関西間) = 6尺5寸(約197cm)
京間の方が広いので、同じ6畳でも京間の方が広く感じるんです。
重さの単位を理解する

匁(もんめ)から貫(かん)まで
重さの単位は「匁(もんめ)」を基準に考えると分かりやすいです。
小さい順に:
- 分(ふん) = 1/10匁 ≈ 0.375g
- 匁(もんめ) = 基準単位 ≈ 3.75g
- 両(りょう) = 10匁 ≈ 37.5g
- 斤(きん) = 160匁 ≈ 600g
- 貫(かん) = 1,000匁 ≈ 3.75kg
匁の由来が面白い
「匁」という単位、実は中国の銭貨(せんか、つまり硬貨)1枚の重さから来ているんです。
唐の時代の「開元通宝(かいげんつうほう)」という硬貨1枚が約3.75gで、これが重さの基準になりました。
日本では「一文銭(いちもんせん)の目方」を略して「文目(もんめ)」と呼ばれ、後に「匁」という漢字が作られたんですね。
5円玉の重さがちょうど1匁(3.75g)なので、手元にあればぜひ持ってみてください。これが匁の重さです!
貫は1,000枚の銭貨
「貫」は「銭貨1,000枚を紐で貫いた重さ」が由来。
昔は穴の開いた硬貨を紐に通して持ち運んでいました。それを1,000枚まとめたときの重さが「一貫」なんですね。ちなみに「一貫目」という言い方もありますが、これは「一貫の目方」という意味です。
食パンの「一斤(いっきん)」という単位も尺貫法から来ていて、本来は600gを指していました。ただし現在の食パンの一斤は、公正競争規約で340g以上と定められています。
匁は今も現役!真珠の国際単位
実は「匁」、現代でも使われているんです。
真珠の取引では、世界共通の単位として「momme」が採用されています。
もともと真珠は、直径をセンチメートル、ネックレスの長さをインチ、重さをグラムと、バラバラの単位で取引されていました。
ところが日本が世界の真珠取引の中心になったため、日本の「匁」が国際標準になったんですよ。
国際的な単位記号は「mom」で、1mom = 3.75gと定義されています。
計量法で禁止されている尺貫法の中で、唯一公式に使用が認められている単位なんです。
体積・容積の単位を知る
升(しょう)を基準とした単位系
体積の単位は「升」を中心に構成されています:
小さい順に:
- 勺(しゃく) = 1/10合 ≈ 18mL
- 合(ごう) = 1/10升 ≈ 180mL
- 升(しょう) = 基準単位 ≈ 1.8L
- 斗(と) = 10升 ≈ 18L
- 石(こく) = 10斗 ≈ 180L
合(ごう)は料理の必須単位
「合」は現代でも最もよく使われる尺貫法の単位でしょう。
1合 = 約180mL
お米を炊くとき、「2合炊き」「5合炊き」という表現を聞きますよね。炊飯器の容量も、実は尺貫法を基準に設計されているんです。
たとえば炊飯器の取扱説明書に「0.63L(3.5合相当)」と書いてあったら、これは尺貫法が基準になっているという証拠。
1合のお米は約150gで、炊き上がると約350g(お茶碗約2杯分)になります。昔から「1人1食で1合」が目安とされてきました。
一升瓶は1.8リットル
日本酒の「一升瓶(いっしょうびん)」。
1升 = 約1.8L
ペットボトルで言えば、2Lよりちょっと少ないくらいですね。最近は4合瓶(720mL)も人気があります。これは冷蔵庫に入れやすいサイズだからなんです。
一斗缶は18リットル
「一斗缶(いっとかん)」という言葉も尺貫法から来ています。
1斗 = 10升 = 約18L
灯油を買うときに使う缶が、ちょうどこの大きさですね。
石高(こくだか)は領地の豊かさの指標
江戸時代、大名の領地の広さは「石高」で表されました。
1石 = 10斗 = 約180L
これは「大人1人が1年間に食べるお米の量」が基準なんです。つまり「加賀百万石」と言えば、100万人が1年間食べられるお米が取れる領地、という意味なんですね。
面積の単位も押さえよう

面積の単位は、長さの単位を2回掛け合わせて作られています。
坪(つぼ)は不動産でよく使う
坪(つぼ)は、現代でも最もよく使われる尺貫法の面積単位です。
1坪 = 1間 × 1間 = 約3.31平方メートル
畳2枚分の広さと覚えておくと分かりやすいでしょう。不動産広告で「土地面積50坪」などと書いてあるのを見たことがありませんか?
計量法では正式な取引での使用は禁止されているんですが、実際には「参考値」として広く使われているのが実情です。
畳(じょう)は部屋の広さの基準
畳(じょう)または帖(じょう)は、部屋の広さを表すときに使います。
1畳 = 半坪 = 約1.65平方メートル
ただし、これも地域によって違いがあります:
- 江戸間 = 約1.55m²
- 京間 = 約1.82m²
だから同じ「6畳」でも、京間の方が広いんですね。
尺貫法のメートル法換算表
ここで、よく使う単位の換算表をまとめておきます。
長さの換算
| 尺貫法 | メートル法 |
|---|---|
| 1分(ぶ) | 約3.03mm |
| 1寸(すん) | 約3.03cm |
| 1尺(しゃく) | 約30.3cm |
| 1間(けん) | 約1.82m |
| 1町(ちょう) | 約109m |
| 1里(り) | 約3.93km |
重さの換算
| 尺貫法 | メートル法 |
|---|---|
| 1分(ふん) | 約0.375g |
| 1匁(もんめ) | 約3.75g |
| 1両(りょう) | 約37.5g |
| 1斤(きん) | 約600g |
| 1貫(かん) | 約3.75kg |
体積の換算
| 尺貫法 | メートル法 |
|---|---|
| 1勺(しゃく) | 約18mL |
| 1合(ごう) | 約180mL |
| 1升(しょう) | 約1.8L |
| 1斗(と) | 約18L |
| 1石(こく) | 約180L |
面積の換算
| 尺貫法 | メートル法 |
|---|---|
| 1畳(じょう) | 約1.65m² |
| 1坪(つぼ) | 約3.31m² |
| 1畝(せ) | 約99.2m² |
| 1反(たん) | 約991.7m² |
| 1町(ちょう) | 約9,917m² |
現代での尺貫法の使われ方
尺貫法は公式には廃止されましたが、実は今でも色々な場面で使われています。
建築・不動産業界
建築現場では、尺貫法が今も重要な役割を果たしています。
日本の住宅は「尺モジュール」という設計基準で作られることが多いんです。これは910mm × 910mm(3尺 × 3尺)を1マスとする考え方。
柱の太さも「4寸角(約12cm × 12cm)」「5寸角(約15cm × 15cm)」と表現されます。屋根の傾斜は「4寸勾配」「5寸勾配」という言い方をするんですよ。
合板(ベニヤ板)のサイズも「サブロク板(3尺 × 6尺 = 約91cm × 182cm)」という尺貫法由来の名前で呼ばれています。
不動産広告では「参考値」として坪数が併記されることが多いですね。「100m²(約30坪)」という表記を見かけたことがあるはずです。
料理・食品業界
米を炊くときの「合」は、今も現役バリバリです。
炊飯器は尺貫法を基準に設計されているので、「3合炊き」「1升炊き」という表現が当たり前に使われています。
日本酒も「一升瓶」「四合瓶」という呼び方が定着していますね。居酒屋で「熱燗一合」と注文するのも、尺貫法なんです。
伝統工芸・武道
伝統的な分野では、尺貫法が文化そのものになっています。
剣道の竹刀(しない)は「三八(さぶはち = 3尺8寸 = 約115cm)」「三九(さぶく = 3尺9寸 = 約118cm)」と呼ばれます。
尺八(しゃくはち)という楽器の名前も、「長さが1尺8寸」から来ているんです。
着物の反物(たんもの)は鯨尺で測られ、和裁では今も鯨尺が使われています。
弓道の弓の長さも「七尺三寸」などと尺貫法で表現されるんですよ。
日常会話での慣用表現
尺貫法は、言葉の中にも深く根付いています。
- 「一寸先は闇」 = わずかな先のことも分からない
- 「一尺の虫にも五分の魂」 = 小さな者にも意地がある
- 「百聞は一見に如かず」 = 聞くより見る方が良い
- 「千里の道も一歩から」 = 大きなことも小さなことから始まる
これらの表現から、尺貫法が日本文化にどれほど深く影響しているかが分かりますね。
尺貫法とメートル法の使い分けのコツ
現代の日本では、尺貫法とメートル法が混在しているのが実情です。上手に使い分けるコツをお伝えします。
公式な場面ではメートル法
契約書、公的書類、商品表示など、公式な場面では必ずメートル法を使いましょう。
尺貫法の使用は計量法で禁止されているため、正式な文書では使えません。
会話や参考値では尺貫法もOK
ただし、会話の中で「この部屋は8畳くらいかな」と言うのは全く問題ありません。
不動産広告でも「参考値」として坪数を併記するのは一般的です。「120m²(約36坪)」という表記なら、違法にはならないんですね。
伝統的な分野では尺貫法が主流
建築、料理、武道、伝統工芸など、伝統的な分野では今も尺貫法が使われています。
これらの分野では、尺貫法を知らないと困る場面も多いはず。大工さんと話すときや、着物を仕立てるときなど、基本的な単位を知っておくと便利ですよ。
よくある質問と誤解
Q. 尺貫法はもう使ってはいけないの?
公式な取引や証明では使用禁止ですが、日常会話や伝統的な分野では今も使われています。
罰則があるのは、商品の計量や公的な証明書に尺貫法を使った場合。普段の生活で「この部屋は6畳」と言ったり、「お米を2合炊く」と言ったりするのは全く問題ありません。
Q. 坪と平方メートル、どっちが大きい?
1坪 = 約3.31m²なので、坪の方が大きいです。
簡単な換算方法として「平方メートル ÷ 3.3 = 坪」と覚えておくと便利。たとえば100m²なら、100 ÷ 3.3 = 約30坪となります。
Q. 江戸間と京間、どっちが広い?
京間(関西間)の方が広いです。
- 江戸間の1畳 = 約1.55m²
- 京間の1畳 = 約1.82m²
だから同じ6畳でも、京間の6畳は江戸間の7畳くらいの広さがあるんですよ。
Q. 曲尺と鯨尺、どう使い分ける?
- 曲尺(かねじゃく) = 建築、一般的な長さ(1尺 = 約30.3cm)
- 鯨尺(くじらじゃく) = 着物、布地(1尺 = 約37.88cm)
着物を作るときは鯨尺、家を建てるときは曲尺を使います。「尺」と言われたら、基本的には曲尺のことを指すと考えていいでしょう。
まとめ:尺貫法は日本文化の一部
尺貫法について、たくさんのことをお伝えしてきました。最後に重要なポイントをまとめます。
尺貫法の基本
- 長さ = 尺(約30.3cm)
- 重さ = 貫(約3.75kg)
- 体積 = 升(約1.8L)
歴史のポイント
- 701年の大宝律令で日本に導入
- 1891年にメートル法との対応を定義
- 1959年に原則廃止、1966年に完全廃止
現代での使われ方
- 建築業界では尺モジュールとして使用
- 料理では「合」が現役
- 不動産では「坪」が参考値として表示
- 伝統工芸や武道では今も主流
覚えておくと便利な換算
- 1尺 ≈ 30cm
- 1間 ≈ 1.8m
- 1坪 ≈ 3.3m²
- 1合 ≈ 180mL
- 1匁 ≈ 3.75g
尺貫法は単なる古い単位系ではありません。日本人の体格や生活様式に合わせて1300年以上かけて磨き上げられた、実用的で文化的な遺産なんです。
メートル法が主流の現代でも、尺貫法の知識があれば:
- 不動産広告の坪数が実感できる
- お米を炊くときに迷わない
- 時代劇や歴史小説がより楽しめる
- 伝統文化への理解が深まる
「一寸」「一合」「一坪」——これらの言葉に込められた歴史と文化を知ることで、日本の伝統がより身近に感じられるはずです。
尺貫法、思っていたより面白いと思いませんか?

コメント