「ジレンマに陥る」「ジレンマを抱えている」——こんな表現を聞いたことはありませんか?
仕事でもプライベートでも、どちらを選んでも困る……という場面は意外と多いものです。
この記事では、ジレンマの意味や語源、似た言葉との違い、そして「囚人のジレンマ」「ヤマアラシのジレンマ」といった有名な具体例までわかりやすく解説します。
ジレンマの意味
ジレンマとは、2つの選択肢があり、どちらを選んでも何らかの不利益や問題が生じる状態のことです。
「板挟み」「進退両難」などと言い換えることもできます。
たとえば「今の会社で楽に働き続けるか、給料の高い会社に転職して忙しくなるか」という状況。
どちらを選んでも何かを犠牲にしなければならない——これがまさにジレンマです。
単に「迷っている」状態とは少し違います。
ジレンマの特徴は、どちらを選んでも完全には満足できないという点にあるんですね。
ジレンマの語源
ジレンマは英語の「dilemma」をそのままカタカナにした外来語です。
もともとはギリシャ語に由来しています。
「di」は「2つ」を意味し、「lemma」は「前提」や「仮定」を意味します。
つまり「dilemma」は、直訳すると「2つの前提」という意味なんです。
古代ギリシャの哲学者たちは、論理的な議論の中でこの概念を使っていました。
「AでもBでも、どちらの前提を選んでも困った結論にたどり着く」という論法を指していたんですね。
ちなみに、選択肢が3つある場合は「トリレンマ(trilemma)」と呼びます。
「tri」は「3つ」を意味するので、覚えやすいですね。
ジレンマと似た言葉
ジレンマに似た言葉はいくつかあります。
それぞれ微妙にニュアンスが違うので、整理しておきましょう。
板挟み
2つの対立する意見や立場の間に挟まれて身動きが取れない状態です。
ジレンマが「選択肢」に焦点を当てているのに対し、板挟みは「人間関係」や「立場」に焦点が当たることが多いですね。
葛藤
心の中で相反する気持ちがぶつかり合っている状態です。
ジレンマは外部の選択肢に関する問題ですが、葛藤は内面的な感情のせめぎ合いを強調します。
窮地
追い詰められて逃げ場がない状態のことです。
ジレンマには一応「選択肢」がありますが、窮地は選択肢すらないような厳しい状況を指します。
進退両難
進むことも退くことも難しい状態を表す四字熟語です。
ジレンマとほぼ同じ意味で使えます。
ジレンマの対義語
ジレンマの対義語としては「カタルシス」が挙げられることがあります。
カタルシスとは、心のわだかまりや緊張が解放されてスッキリする状態のこと。
ジレンマで悩んでいた状態から解放されたとき、カタルシスを感じると言えますね。
有名なジレンマの具体例
ジレンマという言葉は、さまざまな分野で使われています。
ここでは特に有名な3つの「ジレンマ」を紹介します。
囚人のジレンマ
囚人のジレンマは、ゲーム理論の分野で最も有名な例です。
1950年に数学者のアルバート・タッカーが考案しました。
設定はこうです。
2人の容疑者が別々の部屋で取り調べを受けています。
お互いに連絡を取ることはできません。
取り調べでは、こんな条件が提示されます。
- 2人とも黙秘すれば、両方とも懲役2年
- 1人だけが自白すれば、自白した方は無罪、黙秘した方は懲役10年
- 2人とも自白すれば、両方とも懲役5年
最善の結果は何でしょうか?
2人にとって一番いいのは「お互いに黙秘して懲役2年」です。
でも、相手が裏切って自白したら自分だけ10年になってしまう……。
そう考えると、自分を守るために自白したくなりますよね。
結果として、お互いが自白して懲役5年という、最善ではない結果に落ち着いてしまいます。
これが囚人のジレンマの核心です。
個人にとって合理的な判断が、全体にとっては最善の結果にならない。
この矛盾は、ビジネスの価格競争や環境問題など、現実社会のさまざまな場面に当てはまります。
ヤマアラシのジレンマ
ヤマアラシのジレンマは、人間関係における距離感の難しさを表した心理学用語です。
この言葉のもとになったのは、ドイツの哲学者ショーペンハウアーの寓話です。
寓話の内容はこうです。
寒い冬の日、2匹のヤマアラシが暖を取ろうとして寄り添いました。
でも、近づきすぎるとお互いの針が刺さって痛い。
かといって離れると寒い。
くっついては離れ、また近づいては離れ……を繰り返すうちに、ヤマアラシたちは「ちょうどいい距離」を見つけました。
人間関係も同じです。
親しくなりたいと思って距離を縮めると、相手の嫌なところが見えてきたり、傷つけ合ったりすることがあります。
でも、離れすぎると孤独を感じる。
「もっと仲良くなりたいけど、傷つくのが怖い」という心理的な板挟み。
これがヤマアラシのジレンマなんですね。
ちなみに、実際のヤマアラシは針を寝かせることができるので、寄り添っても刺さることはないそうです。
あくまで「たとえ話」として受け止めてくださいね。
トロッコ問題
トロッコ問題は、倫理学の分野で最も議論されている思考実験の一つです。
1967年にイギリスの哲学者フィリッパ・フットが提唱しました。
問題の設定はこうです。
暴走するトロッコが線路を走っています。
このまま進むと、線路上にいる5人の作業員が轢かれてしまいます。
あなたの目の前には、線路の分岐レバーがあります。
レバーを引けばトロッコは別の線路に逸れますが、そちらには1人の作業員がいます。
あなたならどうしますか?
レバーを引けば5人は助かりますが、1人を犠牲にすることになります。
何もしなければ5人が亡くなりますが、あなたは「傍観者」のままでいられます。
「5人を救うために1人を犠牲にするのは正しいのか?」
「数の多さで命の重さを決めていいのか?」
この問題には正解がありません。
だからこそ、自分の倫理観や価値観を見つめ直すきっかけになるんですね。
近年では、自動運転車のAIに「事故が避けられないとき、どう判断させるべきか」という文脈でも議論されています。
日常生活でのジレンマの例
学問的なジレンマだけでなく、私たちの日常にもジレンマはたくさんあります。
仕事のジレンマ
やりがいのある今の仕事を続けるか、給料の高い会社に転職するか。
どちらを選んでも何かを手放すことになりますよね。
人間関係のジレンマ
友人に本当のことを言うべきか、傷つけないために黙っておくべきか。
正直でいることと優しさの間で揺れ動くことがあります。
買い物のジレンマ
欲しいものを買って満足するか、節約してお金を貯めるか。
どちらを選んでも「もう一方を選んでおけばよかった」と思うかもしれません。
時間の使い方のジレンマ
仕事を優先するか、家族との時間を大切にするか。
限られた時間の中で、何を優先するかは永遠のテーマです。
ジレンマの使い方・例文
ジレンマという言葉は、いくつかの定番フレーズと一緒に使われます。
「ジレンマに陥る」
選択肢のどちらを選んでもうまくいかない状態に追い込まれることです。
昇進のオファーを受けたが、転勤が条件だったため、キャリアと家族の間でジレンマに陥っている。
「ジレンマを抱える」
解決できない板挟みの状態を抱え続けていることを表します。
値上げをすれば客離れが心配だし、据え置きでは利益が出ない。経営陣はジレンマを抱えている。
「ジレンマを解消する」
板挟みの状態から抜け出すことです。
新しい事業モデルの導入により、コスト削減と品質維持のジレンマを解消できた。
「ジレンマと戦う」
板挟みの状態から抜け出そうと奮闘している様子を表します。
環境保護と経済成長のジレンマと戦い続けることが、現代社会の課題だ。
ジレンマの関連用語一覧
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ジレンマ | 2つの選択肢があり、どちらを選んでも不利益が生じる状態 |
| トリレンマ | 3つの選択肢があり、どれを選んでも問題が生じる状態 |
| 囚人のジレンマ | 個人の合理的な判断が全体の最善にならないゲーム理論のモデル |
| ヤマアラシのジレンマ | 近づきたいのに傷つくことを恐れて距離が縮められない心理状態 |
| トロッコ問題 | 少数を犠牲にして多数を救うことの是非を問う倫理学の思考実験 |
| 板挟み | 対立する意見や立場の間に挟まれて身動きが取れない状態 |
| 葛藤 | 心の中で相反する気持ちがぶつかり合っている状態 |
| 窮地 | 追い詰められて逃げ場がない状態 |
| 進退両難 | 進むことも退くことも難しい状態 |
| カタルシス | 心のわだかまりや緊張が解放されてスッキリする状態(ジレンマの対義語) |
| パレート最適 | 誰も不利益を被ることなく全体の利益が最大化された状態 |
| ナッシュ均衡 | 各プレイヤーが戦略を変える動機を持たない安定した状態 |
まとめ
ジレンマについて解説してきました。
最後にポイントを整理しておきましょう。
- ジレンマとは、2つの選択肢があり、どちらを選んでも不利益が生じる状態のこと
- 語源はギリシャ語で「2つの前提」を意味する「dilemma」
- 囚人のジレンマ、ヤマアラシのジレンマ、トロッコ問題など、さまざまな分野で有名な具体例がある
- 日常生活でも仕事や人間関係、お金の使い方などでジレンマに直面することは多い
- 「ジレンマに陥る」「ジレンマを抱える」「ジレンマを解消する」などの表現で使う
ジレンマは誰しもが経験するものです。
大切なのは、どちらかを選んだあとに後悔しすぎないこと。
そして、ときには「第三の選択肢」を探してみることかもしれませんね。


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