「VPNを使いたいけど、L2TPとかIKEv2とか、何が違うの?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
在宅勤務やリモートワークが増えた今、VPN(仮想プライベートネットワーク)を使う機会も増えています。でも、VPNの設定画面を開くと、L2TP、IKEv2、IPSecといった専門用語が並んでいて、何を選べばいいのか迷ってしまいますよね。
この記事では、これらのVPNプロトコルの違いを、初心者の方でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
VPNプロトコルとは?基本を理解しよう
まず、VPNプロトコルとは何かを簡単に説明しましょう。
VPNプロトコルとは、インターネット上でデータを安全に送受信するための「通信のルール」のことです。
郵便で例えるなら、プロトコルは「郵便物の送り方のルール」みたいなものですね。
VPNプロトコルが重要な理由
VPNプロトコルによって、以下の点が大きく変わります。
- 通信速度:どれくらい速くデータをやり取りできるか
- セキュリティ:どれくらい安全に通信できるか
- 安定性:接続が途切れにくいか
- 対応デバイス:どんな端末で使えるか
つまり、適切なプロトコルを選ぶことが、快適で安全なVPN接続の鍵になるんです。
IPSecとは?暗号化の基礎となる技術
まず最初に理解しておきたいのが、IPSec(Internet Protocol Security)です。
IPSecの役割
IPSecは、インターネット上でデータを安全に送るための暗号化技術です。
具体的には、以下の3つの機能を提供します。
- 暗号化:データの内容を読めなくする
- 認証:通信相手が本物か確認する
- 完全性の保護:データが改ざんされていないか確認する
IPSecの特徴
メリット
- ネットワーク層(レイヤー3)で動作するため、高い安全性を確保できる
- 企業の拠点間接続に広く使われている実績がある
- 強力な暗号化技術を使用している
デメリット
- 単独では使いにくく、他のプロトコルと組み合わせる必要がある
- 設定が複雑になりがち
- ファイアウォールとの相性問題が起こることがある
IPSecの重要性
IPSecは、それ自体がVPNプロトコルというよりも、他のプロトコルと組み合わせて使う「暗号化エンジン」のような存在です。
L2TPやIKEv2といったプロトコルは、このIPSecと組み合わせることで、初めて実用的なVPN接続を実現できるんです。
L2TP(L2TP/IPSec)とは?安定性重視のプロトコル
次に、L2TP(Layer 2 Tunneling Protocol)について説明します。
L2TPの基本
L2TPは、CiscoとMicrosoftが共同で開発したトンネリングプロトコルです。
「トンネリング」とは、インターネット上に仮想的な通信経路(トンネル)を作ることを指します。
重要なポイント:L2TP単体では暗号化機能がありません。
そのため、実際の利用では必ずIPSecと組み合わせて使われ、「L2TP/IPSec」と呼ばれます。
L2TP/IPSecの仕組み
L2TP/IPSecでは、データが2段階で処理されます。
- L2TPによるトンネリング:データをL2TP形式にカプセル化(包み込み)
- IPSecによる暗号化:さらにIPSecで暗号化してセキュリティを強化
この二重カプセル化により、高いセキュリティが実現されています。
L2TP/IPSecの特徴
メリット
- 幅広いデバイスで標準サポートされている(Windows、Mac、iOS、Androidなど)
- 追加ソフトのインストールが不要な場合が多い
- PPTPより安全性が高い
- 複数のセッション(同時接続)に対応
デメリット
- 二重カプセル化のため、通信速度が遅くなりがち
- ファイアウォールにブロックされやすい(UDP 500、4500ポートを使用)
- モバイル利用時の安定性に欠ける
- NSA(米国家安全保障局)による監視の可能性が指摘されている
L2TP/IPSecの用途
以下のような場面で使われます。
- 企業のリモートアクセスVPN
- 古いデバイスでのVPN接続
- OpenVPNなどが利用できない環境
IKEv2(IKEv2/IPSec)とは?モバイル向けの最新プロトコル
IKEv2(Internet Key Exchange version 2)は、L2TPの後継として開発された、より現代的なプロトコルです。
IKEv2の基本
IKEv2もCiscoとMicrosoftが共同で開発したプロトコルで、2005年にリリースされました。
IKEv2は鍵交換と認証を専門に行うプロトコルで、やはりIPSecと組み合わせて「IKEv2/IPSec」として使われます。
L2TPとの大きな違い
ここが重要なポイントです。
L2TP/IPSec
- IPSecの上にL2TP、その中にPPPという三重構造
- トンネリングにL2TPを使い、暗号化にIPSecを使う
IKEv2/IPSec
- IPSecだけで認証から暗号化まで完結
- L2TPやPPPのような仲介プロトコルが不要
つまり、IKEv2/IPSecは構造がシンプルで、その分処理が速いんです。
IKEv2/IPSecの特徴
メリット
- 通信速度が速い:単一のプロトコルで処理が完結するため高速
- モバイルに最適:MOBIKE機能により、Wi-Fiとモバイルデータの切り替えがスムーズ
- 自動再接続機能:接続が一時的に切れても自動的に復旧
- 高いセキュリティ:最新の暗号化技術に対応
- CPU負荷が低い:バッテリー消費が少ない
デメリット
- 比較的新しいため、古いデバイスでは対応していない場合がある
- 設定がやや複雑(証明書の管理など)
- L2TPほど広くサポートされていない
- Android 12以降では、L2TP/IPSecの代わりにIKEv2が推奨されている
IKEv2/IPSecの用途
以下のような場面で特に力を発揮します。
- スマートフォンやタブレットでのVPN利用
- 移動中の接続(電車、車など)
- Wi-Fiとモバイルデータを頻繁に切り替える状況
- BlackBerry端末(IKEv2は数少ない対応プロトコル)
L2TP、IKEv2、IPSecの違いを比較表で確認
ここで、3つのプロトコルの違いを表で整理してみましょう。
| 項目 | IPSec | L2TP/IPSec | IKEv2/IPSec |
|---|---|---|---|
| 役割 | 暗号化・認証 | トンネリング+暗号化 | 鍵交換+暗号化 |
| 開発時期 | 1990年代後半 | 1999年 | 2005年 |
| 通信速度 | 中程度 | 遅い | 速い |
| モバイル対応 | △ | △ | ◎ |
| 安定性 | ○ | △ | ◎ |
| セキュリティ | ◎ | ○ | ◎ |
| 設定の簡単さ | △ | ○ | △ |
| デバイス対応 | 広い | 非常に広い | やや狭い |
| ファイアウォール通過 | △ | △ | ○ |
| 主な用途 | 拠点間VPN | リモートアクセス | モバイルVPN |
どのプロトコルを選ぶべき?用途別おすすめ
それぞれのプロトコルには得意分野があります。用途に応じて選びましょう。
スマートフォンやタブレットで使う場合
おすすめ:IKEv2/IPSec
理由:
- 移動中でも接続が安定している
- Wi-Fiとモバイルデータの切り替えがスムーズ
- バッテリー消費が少ない
- 通信速度が速い
古いパソコンや対応デバイスが限られる場合
おすすめ:L2TP/IPSec
理由:
- ほぼすべてのデバイスで標準サポート
- 追加ソフトのインストールが不要
- 設定が比較的簡単
企業の拠点間接続の場合
おすすめ:IPSec(単体)
理由:
- 最も安全性が高い
- 拠点間接続に特化している
- シングルセッションで設定がシンプル
リモートワークで複数人が同時接続する場合
おすすめ:L2TP/IPSecまたはIKEv2/IPSec
理由:
- マルチセッションに対応
- ユーザーごとの認証が可能
- 柔軟な管理ができる
セキュリティ面での注意点
VPNを使う上で、セキュリティは最も重要な要素です。
IPSecの脆弱性について
IPSecは基本的に安全なプロトコルですが、いくつか注意点があります。
NSAによる監視の懸念
エドワード・スノーデンが公開した資料によると、NSA(米国家安全保障局)がIPSecの解読に取り組んでいたことが明らかになっています。
ただし、これは設定が適切でない場合の話で、強力な暗号化を使用していれば、現実的な脅威ではないとされています。
PFS(Perfect Forward Secrecy)機能
IKEv2/IPSecには、PFS(完全転送秘匿性)という機能があります。
これは、セッションごとに独立した暗号鍵を生成する仕組みで、万が一1つのセッションの鍵が漏れても、過去や未来のセッションは保護されます。
L2TP/IPSecでは、この機能が標準でオフになっている場合が多く、手動でオンにする必要があります。
暗号化アルゴリズム
現代のVPNでは、以下の暗号化アルゴリズムが使われています。
- AES-256:最も強力な暗号化方式(推奨)
- AES-128:やや軽量だが十分に安全
- 3DES:古い方式で、現在は非推奨
通信速度の違いを理解しよう
VPNを使うと、通常のインターネット接続より速度が遅くなることがあります。
なぜ速度が落ちるのか?
VPN接続で速度が低下する主な理由は以下の通りです。
- 暗号化処理:データを暗号化・復号化する時間がかかる
- カプセル化:データを追加のヘッダーで包む必要がある
- 経由ポイント:VPNサーバーを経由するため、距離が伸びる
プロトコル別の速度比較
IKEv2/IPSec:最も速い
- 単一プロトコルで処理が完結
- CPU負荷が低い
- モバイル環境でも高速
L2TP/IPSec:やや遅い
- 二重カプセル化によるオーバーヘッド
- 2つのプロトコルを処理する必要がある
IPSec(単体):中程度
- 暗号化処理のみに集中できる
- 拠点間接続では安定した速度
実際の設定方法の違い
各プロトコルの設定方法には、違いがあります。
L2TP/IPSecの設定
Windows、Mac、iOS、Androidすべてで標準サポート
設定項目:
- サーバーアドレス
- アカウント名
- パスワード
- 事前共有キー(PSK)
設定は比較的簡単で、多くの場合、これらの情報を入力するだけでOKです。
IKEv2/IPSecの設定
Windows 7以降、iOS、macOS、Androidで対応
設定項目:
- サーバーアドレス
- 認証方式の選択(証明書またはユーザー名/パスワード)
- 証明書のインストール(証明書認証の場合)
証明書を使う場合は、設定がやや複雑になります。
どちらが簡単?
初心者には L2TP/IPSec がおすすめ
理由:
- 設定項目が少ない
- 追加ファイル(証明書など)のインストールが不要な場合が多い
- トラブルシューティングの情報が豊富
古いプロトコルPPTPについて
VPNプロトコルの話題では、PPTP(Point-to-Point Tunneling Protocol)についても触れておく必要があります。
PPTPとは?
PPTPは、Microsoftが開発した最も古いVPNプロトコルの1つです。
特徴
- 設定が非常に簡単
- 通信速度が速い
- ほぼすべてのデバイスで対応
一見良さそうに見えますが、重大な問題があります。
PPTPは使うべきではない
セキュリティ上の深刻な欠陥
PPTPには複数の脆弱性が発見されており、現在では安全性が低すぎるとされています。
開発元のMicrosoft自身が、PPTPの使用を推奨していません。
代わりに何を使うべき?
- L2TP/IPSec
- IKEv2/IPSec
- OpenVPN
- WireGuard
これらの中から選びましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1:IPSecは単体で使えないの?
使えます。
企業の拠点間VPNでは、IPSec単体(IPSec VPN)が広く使われています。
ただし、リモートアクセス(個人端末からの接続)の場合は、L2TPやIKEv2と組み合わせた方が便利です。
Q2:どのプロトコルが一番安全?
セキュリティの高さ順
- IKEv2/IPSec(最新の暗号化技術、PFS対応)
- IPSec単体(設定次第で非常に強固)
- L2TP/IPSec(適切に設定すれば安全)
ただし、いずれも適切な設定が重要です。弱い暗号化を使ったり、PFSをオフにしたりすると、セキュリティレベルが下がります。
Q3:L2TPとIKEv2、初心者にはどちらがおすすめ?
一般的にはL2TP/IPSecがおすすめです。
理由:
- 設定が簡単
- ほぼすべてのデバイスで標準サポート
- トラブル時の情報が豊富
ただし、スマートフォンやタブレットでの利用がメインなら、IKEv2/IPSecの方が快適です。
Q4:Androidで使うならどれが良い?
Android 12以降の場合
IKEv2/IPSecが推奨されています。
Android 12以降では、L2TP/IPSecが非推奨となり、標準機能から削除されました。
Android 11以前の場合
L2TP/IPSecもIKEv2/IPSecも使えますが、IKEv2の方が安定性と速度で優れています。
Q5:会社のVPNに接続できないのはなぜ?
いくつかの原因が考えられます。
ファイアウォールの問題
L2TP/IPSecやIPSecは、特定のポート(UDP 500、4500、ESPプロトコル)を使います。会社や公共のWi-Fiでこれらがブロックされていると接続できません。
解決策
- IKEv2/IPSecを試す(ファイアウォールを通過しやすい)
- 会社のIT部門に相談する
- モバイルデータ回線(4G/5G)で試してみる
Q6:VPNを使うと速度が遅くなるのは普通?
ある程度の速度低下は避けられません。
一般的な速度低下の目安
- IKEv2/IPSec:10〜20%の低下
- L2TP/IPSec:20〜40%の低下
これ以上の大幅な速度低下がある場合は、以下を確認してください。
- VPNサーバーの場所(遠いほど遅い)
- 使用している暗号化レベル
- インターネット接続の品質
- VPNサーバーの混雑状況
Q7:無料VPNと有料VPN、プロトコルに違いはある?
プロトコル自体は同じですが、以下の点で差が出ます。
有料VPN
- 最新プロトコル(IKEv2、WireGuardなど)に対応
- サーバーの品質が高く、速度が安定
- セキュリティ設定が適切
無料VPN
- 古いプロトコル(PPTPなど)しか使えない場合がある
- サーバーが混雑して速度が遅い
- セキュリティ設定が不十分な場合がある
重要なデータを扱う場合は、信頼できる有料VPNの利用を検討しましょう。
まとめ:あなたに最適なVPNプロトコルは?
ここまで、L2TP、IKEv2、IPSecの違いについて詳しく解説してきました。
重要なポイントをおさらいしましょう。
各プロトコルの特徴まとめ
IPSec
- 暗号化の基礎となる技術
- 単体でも使えるが、通常は他のプロトコルと組み合わせる
- 企業の拠点間VPNに最適
L2TP/IPSec
- 幅広いデバイスで標準サポート
- 設定が簡単
- 速度はやや遅いが、安定性がある
- 古いデバイスでも使える
IKEv2/IPSec
- モバイル利用に最適
- 通信速度が速い
- 自動再接続機能が優秀
- 比較的新しく、一部の古いデバイスでは非対応
選び方のポイント
スマホ・タブレット利用が多い
→ IKEv2/IPSec
パソコンでの利用がメイン
→ L2TP/IPSecまたはIKEv2/IPSec
古い端末でも使いたい
→ L2TP/IPSec
とにかく簡単に設定したい
→ L2TP/IPSec
最高速度が欲しい
→ IKEv2/IPSec
最後に
VPNプロトコルの選択は、通信速度、セキュリティ、利用デバイスなど、さまざまな要因を考慮する必要があります。
迷ったら、まずはL2TP/IPSecを試してみて、モバイル利用が多い場合はIKEv2/IPSecに切り替える、という方法がおすすめです。
最も重要なのは、PPTPなど古くて脆弱なプロトコルを避け、適切なセキュリティ設定を行うことです。安全で快適なVPN接続を実現しましょう。


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