「こんぴらさん」という名前を聞いたことはありませんか?
香川県の金刀比羅宮を思い浮かべる方も多いでしょう。
実はあの「金毘羅」の正体が、今回紹介する宮毘羅(くびら)なんです。
仏教の十二神将の中でもトップに挙げられる存在で、古代インドのワニの神様がルーツという、なかなかユニークな来歴を持っています。
この記事では、宮毘羅の名前の意味から十二神将としての役割、金毘羅信仰との関係まで、わかりやすく解説していきます。
宮毘羅とは
宮毘羅は薬師如来を守護する十二神将の筆頭として知られる仏教の守護神です。
「宮毘羅」という名前は、サンスクリット語の「クンビーラ(Kumbhīra)」を音写したもの。
元々はインドのガンジス川に棲むワニを神格化した水神でした。
ワニの神様というと少し意外かもしれません。
でも考えてみれば、ガンジス川は古代インドの人々にとって聖なる川。その川に棲む強大なワニは、まさに水の力を象徴する存在だったわけですね。
この神様が仏教に取り入れられ、薬師如来の眷属として日本に伝わりました。
日本では「金毘羅」「宮比羅」「金比羅」とも表記され、「こんぴらさん」の愛称で親しまれています。
名前の意味と由来
宮毘羅の名前の由来には、いくつかの説があります。
サンスクリット語での意味
最も一般的なのは、サンスクリット語の「クンビーラ(Kumbhīra)」がワニを意味するという説です。
具体的には、ガンジス川に生息するガビアル(細長い口を持つワニの一種)を指していたとされています。
もう一つの説として、「キンビーラ(Kimbhīra)」という発音があり、こちらは「何を恐れることがあろう」という意味を持つとも言われています。
守護神としての勇敢さを表す、なかなかカッコいい意味ですよね。
漢字表記のバリエーション
宮毘羅の漢字表記は複数あります。
「宮毘羅」「宮比羅」「金毘羅」「金比羅」「禁毘羅」など、すべて同じ神様を指しています。
「金」の字が使われるようになったのは、日本で信仰が広まる過程で定着したものとされています。
宮毘羅の姿と持ち物
十二神将像として造形される宮毘羅は、甲冑を身にまとった武将の姿で表されます。
基本的な姿
宮毘羅は他の十二神将と同様に、忿怒相(ふんぬそう)と呼ばれる怒りの表情をしています。
これは仏敵を退散させ、人々の悪い心を戒めるため。見た目は怖いですが、私たちを守ってくれている証拠なんです。
持ち物
宮毘羅が手に持つのは太刀(たち)です。
剣を持つ姿で描かれることもあり、いずれも邪悪な力を断ち切る象徴とされています。
頭上の動物
平安時代以降に作られた十二神将像では、頭上に干支の動物を乗せているものが多くなります。
宮毘羅の場合は亥(いのしし)。頭にイノシシを乗せた姿は、なかなか個性的ですよね。
ただし、奈良時代に作られた新薬師寺の像など古い作例では、十二支の動物は表現されていません。
動物がないものを「古様(こよう)」、あるものを「新様」と呼んで区別します。
十二神将の筆頭としての役割
宮毘羅は十二神将の中で筆頭に位置づけられています。
十二神将とは
十二神将は、薬師如来とその教えを信じる人々を守護する12体の武神です。
「十二薬叉大将(じゅうにやくしゃたいしょう)」「十二神王」とも呼ばれます。
元々は「夜叉(やしゃ)」という鬼神の類でしたが、仏の教えに帰依して善神となりました。
各神将は7000の眷属(部下)を率いており、合計で8万4000もの大軍団を形成しています。この数は、人間の持つ煩悩の数に対応しているとされています。
薬師如来との関係
『薬師瑠璃光如来本願功徳経』という経典では、宮毘羅は十二神将の最初に名前が挙げられています。
これは宮毘羅が筆頭格の存在であることを示しています。
十二神将は、薬師如来が人々を救うために立てた「十二の大願」に応じて現れたとされ、それぞれが昼夜の十二の時間、十二の月、十二の方角を守護しています。
干支と本地仏
宮毘羅に配当される干支は亥(いのしし)、本地仏(化身前の本来の姿)は弥勒菩薩です。
亥年生まれの人にとっては、宮毘羅が守護神ということになりますね。
金毘羅信仰と「こんぴらさん」
宮毘羅は日本で独自の発展を遂げ、「金毘羅大権現」として広く信仰されるようになりました。
金刀比羅宮との関係
香川県琴平町にある金刀比羅宮(ことひらぐう)は、全国に約600社ある金毘羅神社の総本宮です。
ここで祀られる「金毘羅」は、まさに十二神将の宮毘羅に由来しています。
金刀比羅宮のある山は「象頭山(ぞうずさん)」と呼ばれますが、これはインドの霊鷲山にある象頭山に見立てたもの。仏教との深いつながりを感じさせます。
海上交通の守護神
宮毘羅はもともとガンジス川のワニの神様であり、水神としての性格を持っています。
また、川の女神ガンガーの乗り物(ヴァーハナ)でもあったことから、日本では海上交通や漁業の守護神として信仰されるようになりました。
江戸時代には廻船(かいせん)の発達とともに金毘羅信仰が全国に広まり、港を見下ろす山の上に金毘羅宮が次々と建てられました。
現在も漁師や船員から篤い信仰を集めています。
神仏分離後の変化
明治時代の神仏分離によって、金刀比羅宮の祭神は大物主神(おおものぬしのみこと)に変更されました。
しかし、「こんぴらさん」という愛称は今も残り、仏教と神道が融合した独特の信仰形態を今に伝えています。
宮毘羅の有名な仏像
全国各地で宮毘羅を含む十二神将像を見ることができます。
特に有名なものをいくつか紹介しましょう。
新薬師寺(奈良県)
奈良時代(8世紀)に作られた塑造(土で作った像)の十二神将像は、日本最古の十二神将像として知られています。
11体が国宝に指定されており(宮毘羅像は1931年の補作)、写実的で迫力のある表情が特徴です。
円形の仏壇の周囲をぐるりと囲むように配置された姿は圧巻。
薬師如来を守るために集結した8万4000の軍団の気迫が伝わってくるようです。
興福寺東金堂(奈良県)
鎌倉時代に作られた木造の十二神将像で、こちらも国宝です。
運慶周辺の仏師による作品とされ、躍動感のある姿が見事。頭上に十二支の動物を乗せた「新様」の代表的な作例です。
室生寺(奈良県)
平安時代後期から鎌倉時代にかけて作られた十二神将像があります。
頭に干支の動物を乗せたユーモラスな姿が特徴で、親しみやすい印象を受けます。
東寺(京都府)
真言宗の総本山である東寺の十二神将像は、薬師如来を支える台座の下に配置されるという珍しい様式。
まるで薬師如来をかついで持ち上げているように見える独特の光景が印象的です。
宮毘羅 基本情報一覧
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | くびら(こんぴら) |
| サンスクリット名 | クンビーラ(Kumbhīra) |
| 別表記 | 宮比羅、金毘羅、金比羅、禁毘羅 |
| 種子(梵字) | ヨー |
| 分類 | 十二神将(十二薬叉大将)・天部 |
| 役割 | 薬師如来と信者の守護、水運の守護 |
| 眷属の数 | 7000 |
| 干支 | 亥(いのしし) |
| 本地仏 | 弥勒菩薩 |
| 持ち物 | 太刀(剣) |
| ルーツ | ガンジス川のワニを神格化した水神 |
| 関連する経典 | 『薬師瑠璃光如来本願功徳経』『金光明経』 |
十二神将一覧表
| 名前 | 読み方 | 干支 | 本地仏 | 持ち物 |
|---|---|---|---|---|
| 宮毘羅大将 | くびら | 亥 | 弥勒菩薩 | 太刀 |
| 伐折羅大将 | ばさら | 戌 | 勢至菩薩 | 剣 |
| 迷企羅大将 | めきら | 酉 | 阿弥陀如来 | 独鈷 |
| 安底羅大将 | あんちら | 申 | 観音菩薩 | 宝珠 |
| 頞儞羅大将 | あにら | 未 | 如意輪観音 | 矢 |
| 珊底羅大将 | さんちら | 午 | 虚空蔵菩薩 | 螺貝 |
| 因達羅大将 | いんだら | 巳 | 地蔵菩薩 | 鉾 |
| 波夷羅大将 | はいら | 辰 | 文殊菩薩 | 弓矢 |
| 摩虎羅大将 | まこら | 卯 | 大威徳明王 | 斧 |
| 真達羅大将 | しんだら | 寅 | 普賢菩薩 | 宝珠・宝棒 |
| 招杜羅大将 | しょうとら | 丑 | 大日如来 | 太刀 |
| 毘羯羅大将 | びから | 子 | 釈迦如来 | 三鈷杵 |
※干支と本地仏の配当には諸説あります。
まとめ
宮毘羅についてのポイントをおさらいしましょう。
- 薬師如来を守護する十二神将の筆頭
- サンスクリット語「クンビーラ」はワニを意味する
- 元々はガンジス川のワニを神格化したインドの水神
- 日本では「こんぴらさん」として海上交通の守護神に
- 干支は亥、本地仏は弥勒菩薩
- 持ち物は太刀、甲冑姿の武将として表現される
- 新薬師寺や興福寺東金堂などで国宝の十二神将像が見られる
ガンジス川のワニから始まり、仏教の守護神を経て、海の神様「こんぴらさん」へ。
宮毘羅の歴史をたどると、インドから日本へと続く信仰の旅路が見えてきます。
亥年生まれの方は、ぜひ自分の守護神として宮毘羅を覚えておいてくださいね。
参考情報
- 『薬師瑠璃光如来本願功徳経』
- 『金光明経』
- 新薬師寺 公式サイト
- 金刀比羅宮 公式サイト
- 興福寺 公式サイト
- コトバンク「十二神将」


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