【中国神話】五竜とは?東西南北と中央を守護する神聖な竜たちの伝承を解説

神話・歴史・伝承

中国の神話には、東西南北と中央の五つの方角をそれぞれ守る「五竜」と呼ばれる神聖な竜たちがいることをご存知でしょうか?

青・赤・白・黒・黄という五つの色を持つこれらの竜は、古代中国の哲学である「五行思想」と深く結びついており、季節や自然の力を象徴する存在として崇められてきました。

この記事では、中国神話における五竜の特徴や伝承、そして日本への影響までを分かりやすくご紹介します。


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概要

五竜とは、中国の五行思想に基づいて、五つの方角と色に対応する神聖な竜たちのことです。

五竜の構成

  • 青竜(せいりゅう):東方・春・青(緑)色
  • 赤竜(せきりゅう):南方・夏・赤色
  • 白竜(はくりゅう):西方・秋・白色
  • 黒竜(こくりゅう):北方・冬・黒色
  • 黄竜(こうりゅう):中央・土用・黄色

これらの竜は単なる想像上の生き物ではありません。雲をおこし雨を降らせる力を持ち、天候や水を司る神として、古代から人々の信仰の対象となってきました。

特に黄竜は「五竜の長」とされ、他の四竜を統べる最も尊い存在として位置づけられています。


五行思想と五竜の関係

五竜を理解するには、まず「五行思想」について知っておく必要があります。

五行思想とは、この世界のあらゆるものが「木・火・土・金・水」という五つの要素から成り立っているという古代中国の考え方のこと。この思想では、方角や色、季節なども五つに分類されるんですね。

五行と五竜の対応関係

五行方角季節
青(緑)青竜
赤竜
西白竜
黒竜
中央土用黄竜

つまり五竜とは、五行思想の世界観を「竜」という神聖な生き物に当てはめたものなのです。

ちなみに「土用」というのは、各季節の変わり目にあたる約18日間のこと。日本では「土用の丑の日」でおなじみですよね。


東方を守護する青竜

青竜は、五竜の中でも最もよく知られている存在でしょう。

「四神」という言葉を聞いたことがある方も多いはず。青竜・朱雀・白虎・玄武という四つの霊獣が東西南北を守るという考え方で、青竜はその中で東方の守護者として描かれています。

青竜の特徴

  • 別名は「蒼竜(そうりゅう)」
  • 春の季節を司る
  • 道教では「孟章(もうしょう)神君」という名を持つ
  • 竜族の始祖とされることも

「青」という色には少し注意が必要です。現代日本語では青といえばブルーを思い浮かべますが、古代中国における「青」は植物の緑色を指していました。そのため青竜は、春に芽吹く草木の生命力を象徴しているとも考えられています。

天文学的には、青竜は二十八宿(古代中国の星座)のうち東方七宿に対応しており、これらの星を繋げると竜の姿に見えることから名付けられたという説もあります。


南方を守護する赤竜

赤竜は、南の方角と夏を司る竜です。

全身が真っ赤な鱗で覆われており、太陽や火山から生まれたといわれています。口からは炎を吐き出すという、いかにも「火」の竜らしい特徴を持っているんですね。

赤竜にまつわる伝説

赤竜といえば、前漢を建国した劉邦(りゅうほう)の誕生伝説が有名です。

劉邦の母親が眠っているとき、その体の上に赤竜が乗る夢を見た後に劉邦が生まれた、という言い伝えがあります。つまり劉邦は「赤竜の子」だというわけです。皇帝の権威を示すために、竜との関係が語られた典型的な例といえるでしょう。

また、五行思想では南方を守護するのは朱雀(すざく)という霊鳥ですが、赤竜を朱雀と同様に南方の守護者とする異説も存在しています。


西方を守護する白竜

白竜は、西の方角と秋を司る竜です。

その名の通り全身の鱗が白く、天帝(天上界の皇帝)に仕える竜とされています。

白竜の特徴

  • 空を飛ぶ速度が非常に速い
  • 他の竜に追いつかれないほどの俊足
  • ときおり魚に化けて地上の泉で泳ぐ

江戸時代の読本『南総里見八犬伝』にも白竜が登場し、光を放ちながら南の方へ飛んでいく場面が描かれています。また、白竜が吐き出したものは地面に入ると金になるという興味深い解説もつけられているんです。

五行思想では西方を守護するのは白虎ですが、白竜を白虎と同様に西方の守護者とする説もあります。


北方を守護する黒竜

黒竜は、北の方角と冬を司る竜です。

「驪竜(りりゅう)」という別名も持っており、この驪竜は顎の下に貴重な珠(たま)を持っているとされています。

五行思想において黒は水に対応するため、黒竜は水の力と深く結びついた存在。玄武(げんぶ)という亀と蛇が合体した霊獣が北方の守護者として有名ですが、黒竜も同様に「北方を守護する神聖な竜」として信仰されてきました。

日本における黒竜信仰

日本でも黒竜は各地で祀られています。

  • 黒龍神社(福井市):日本古来の四大明神の一社とされる
  • 竹生島の黒龍堂:八大龍王の一尊として祀られる
  • 堀越神社(大阪市):境内に黒龍社がある

特に福井の黒龍神社は、国家鎮護と治水の守護神として古くから崇敬を集めてきました。


中央に君臨する黄竜

黄竜は、五竜の中で最も尊い存在とされています。

東西南北の四方ではなく中央を守護し、他の四竜を統べる「五竜の長」としての地位を持っているんです。

黄竜の特徴

  • 四霊(応竜・麒麟・霊亀・鳳凰)の長とも呼ばれる
  • 皇帝の権威を象徴する竜
  • 「老いた応竜は黄竜と呼ばれる」という説も
  • 後に麒麟と同一視されることも

『瑞応記』という古典には「黄竜は神の精、四竜の長なり」と記されており、その神聖さが強調されています。

中国では瑞獣(めでたい獣)の出現を記念して元号を変えることがありましたが、黄竜が現れたことで「黄龍」という元号に改められた時代もありました。日本でも、宇多天皇(887年即位)の時代に黄竜が出現したという記録が残っています。


四神との違いは?

ここで「五竜と四神って何が違うの?」と疑問に思った方もいるかもしれませんね。

四神とは、青竜・朱雀・白虎・玄武という四つの霊獣が東西南北を守護するという考え方のこと。一方、五竜は五行思想に基づいて五つの方角に竜を配置した概念です。

四神と五竜の比較

方角四神五竜
青竜青竜
朱雀赤竜
西白虎白竜
玄武黒竜
中央(黄竜/麒麟)黄竜

四神に中央の黄竜(または麒麟)を加えて「五神」や「五獣」と呼ぶこともあります。つまり、四神と五竜は別々の概念というより、重なり合いながら発展してきた考え方といえるでしょう。


日本への伝来と影響

五竜の信仰は、仏教や道教とともに日本にも伝わりました。

古墳時代の遺物

奈良県の高松塚古墳やキトラ古墳には、四神の壁画が描かれています。これらは高句麗様式の影響を受けたもので、青竜の姿もしっかりと確認できます。

各地の五竜信仰

日本では青竜・赤竜・白竜・黒竜・黄竜それぞれを祀る神社仏閣が各地に存在します。

  • 青竜:秩父神社の「つなぎの竜」、清瀧権現
  • 赤竜(紅竜):七面山の七面天女
  • 白竜:箱根神社、龍田大社
  • 黒竜:黒龍神社(福井)、伊奈波神社の境内社
  • 黄竜:黄龍寺(愛知県名古屋市)

また、日本の陰陽道では「五龍祭」という儀式が平安時代から行われており、陰陽師たちによって五方の竜神が祀られてきました。


まとめ

五竜は、古代中国の五行思想に基づいて生まれた、五つの方角を守護する神聖な竜たちです。

五竜のポイント

  • 青竜:東方・春を司り、四神の一つとしても有名
  • 赤竜:南方・夏を司り、炎を吐く火の竜
  • 白竜:西方・秋を司り、俊足で天を駆ける
  • 黒竜:北方・冬を司り、水の力と結びつく
  • 黄竜:中央を守護し、五竜の長として君臨

これらの竜は単なる神話上の存在ではなく、天候を司る神として人々の生活と深く関わってきました。雨乞いの儀式では竜に祈りを捧げ、皇帝は竜の権威を借りて統治を正当化したのです。

五行思想という壮大な世界観の中で、五竜は今も東アジアの文化に息づいています。神社やお寺を訪れた際には、そこに祀られている竜がどの色・どの方角の守護者なのか、ぜひ注目してみてください。

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