サンタクロースが良い子にプレゼントを配る裏で、悪い子を地獄に引きずり込む怪物がいることをご存知でしょうか?
その名は「クランプス」。
半分ヤギ、半分悪魔という異形の姿で、クリスマスシーズンにヨーロッパの街を練り歩く恐怖の存在です。
日本ではあまり馴染みがありませんが、オーストリアやドイツでは子どもたちを震え上がらせる伝説として数百年にわたって語り継がれてきました。
近年はハリウッド映画の影響もあり、世界中で注目を集めています。
この記事では、クリスマスの闇の使者クランプスの正体、恐ろしい伝承、そして現代での復活について紹介します。
クランプスの姿|悪夢のようなビジュアル

クランプスの見た目は、一度見たら忘れられないほど強烈です。
頭には大きく曲がった2本の角が生え、口からは異常に長い舌がダラリと垂れ下がっています。
全身は黒や茶色の毛で覆われ、足は片方が人間、もう片方がヤギの蹄という奇妙な姿。
手には錆びた鎖と鐘、そして悪い子を打つための樺(カバ)の枝の束を持っています。
さらに恐ろしいのは、背中に背負った大きな籠。これは悪い子どもを詰め込んで地獄へ連れ去るためのものなんです。
まさに悪魔そのものといった風貌ですね。
名前の由来|「鉤爪」を意味するドイツ語
「クランプス(Krampus)」という名前は、古高ドイツ語の「Krampen(クランペン)」に由来するとされています。
この言葉は「鉤爪(かぎづめ)」を意味しており、鋭い爪で子どもを捕まえる姿を表しているのかもしれません。
一説には、ドイツ語で「干からびた」「しなびた」を意味する方言に由来するという説もあります。
冬の到来とともに現れる、生命力のない恐ろしい存在というイメージですね。
クランプスの起源|キリスト教以前の闇
クランプスの起源については諸説あり、はっきりとしたことはわかっていません。
よく言われるのは、キリスト教がヨーロッパに広まる以前の古代アルプス地方の異教信仰に由来するという説です。
冬至の時期に悪霊を追い払うための儀式があり、そこで登場した悪魔的な存在がクランプスの原型になったと考えられています。
また、北欧神話の冥界の女神「ヘル」の息子だという伝説もあります。
ただし、この説については確かな文献的裏付けがなく、後世に作られた話という指摘もあります。
歴史的な記録として確認できるのは16世紀以降のこと。
中世のドイツでは、悪魔の仮面をつけた人々が騒々しく練り歩く風習があり、これがクランプスの行列の原型になったようです。
17世紀頃になると、クランプスは聖ニコラウス(サンタクロースの原型となった聖人)のお供として定着しました。
聖人が罰を与えるのはふさわしくないため、「悪い子の担当」としてクランプスが役割を分担するようになったわけです。
クランプスナハト|恐怖の12月5日
クランプスが現れるのは、12月5日の夜。
この日は「クランプスナハト(Krampusnacht)」、つまり「クランプスの夜」と呼ばれています。
翌日の12月6日は「聖ニコラウスの日」で、ドイツ語圏では子どもたちが靴やブーツをドアの外に置いておく習慣があります。
良い子の靴にはお菓子やプレゼントが入り、悪い子の靴には樺の枝の鞭が入れられるのです。
最悪の場合、クランプスに袋に詰められて連れ去られ、地獄で食べられてしまうという恐ろしい言い伝えもあります。
この夜、オーストリアやドイツ南部の街では「クランプスラウフ(Krampuslauf)」と呼ばれるパレードが行われます。
若者たちがクランプスの衣装を身にまとい、鎖と鐘を鳴らしながら街を練り歩くのです。
参加者は本気で観客を怖がらせようとするため、樺の枝で叩かれることも珍しくありません。
大人でも思わず後ずさりしてしまうほどの迫力だといいます。
弾圧の歴史|禁止されたクランプス
クランプスは長い歴史の中で、何度も弾圧を受けてきました。
中世にはカトリック教会が悪魔崇拝に繋がるとしてクランプスの祭りを禁止しようとしました。
しかし、アルプス地方の山奥では取り締まりが行き届かず、伝統は密かに続けられたのです。
20世紀に入ると、さらに厳しい弾圧がありました。
1934年から1938年にかけて、オーストリアがファシスト政権下にあった時代、クランプスの伝統は公式に禁止されています。
当時の政権はクランプスを「罪の象徴」「反キリスト教的」として問題視しました。
興味深いことに、社会民主党がクランプスの祭りを支持していたため、政治的な理由も禁止の背景にあったようです。
1950年代にも、オーストリア政府は「クランプスは悪い男だ」というパンフレットを配布し、子どもの精神衛生上よくないと警告しました。
しかし、こうした弾圧にもかかわらず、クランプスの伝統は消えることなく、20世紀末には見事に復活を遂げたのです。
世界に広がるクランプス|21世紀の復活
クランプスが世界的に知られるようになったのは、21世紀に入ってからのことです。
2004年、アメリカのアートディレクター、モンテ・ボーシャンが19世紀から20世紀初頭のクランプスの絵葉書を集めた本を出版しました。
これがきっかけで、アメリカでもクランプスへの関心が高まっていきます。
決定的だったのは、2015年公開のホラーコメディ映画『クランプス 魔物の儀式』でしょう。
アダム・スコットやトニ・コレットが出演したこの映画は、公開初日に興行収入1位を記録する大ヒットとなりました。
映画の影響で、アメリカ各地でもクランプスのパレードやイベントが開催されるようになっています。
ロサンゼルス、フィラデルフィア、ニューヨークなど、ヨーロッパとは縁のなかった街でもクランプスが練り歩くようになりました。
甘くて明るいだけのクリスマスに飽きた人々が、ダークで刺激的な「裏クリスマス」を求めているのかもしれませんね。
日本のなまはげとの類似点
クランプスの話を聞いて、「なまはげに似ている」と思った人もいるのではないでしょうか。
実際、両者には驚くほど多くの共通点があります。
まず、恐ろしい見た目で子どもを怖がらせるという点。
「悪い子はいねがー!」と叫ぶなまはげと、悪い子を鞭で打つクランプスは、役割がそっくりです。
また、年末年始の時期に村や街を訪れるという点も共通しています。
民俗学では、こうした存在を「来訪神」と呼び、世界各地に類似の伝承があることが知られています。
日本では2015年に東京でもクランプスのパレードが行われ、「西洋版なまはげ」として話題になりました。
遠く離れた土地で、似たような伝統が生まれているのは興味深いですね。
クランプスの仲間たち|ヨーロッパ各地の類似存在
クランプスに似た存在は、ヨーロッパ各地に存在します。
オーストリアとバイエルン地方には「ペルヒテン」という精霊がいます。
クランプスと混同されることも多いですが、本来は冬至から1月6日までの期間に現れる別の存在です。
「美しいペルヒテン」と「醜いペルヒテン」の2種類がおり、どちらも鈴を鳴らして冬を追い払う役割を持っています。
ドイツには「クネヒト・ルプレヒト」という聖ニコラウスの従者がいます。
フランスには「ペール・フエタール」、オランダには「ズワルト・ピート」という類似のキャラクターが存在します。
いずれも「良い子には褒美、悪い子には罰」という二元論的な世界観を体現した存在といえるでしょう。
まとめ
クランプスについてのポイントをまとめます。
- クランプスは半分ヤギ、半分悪魔の姿をした中央ヨーロッパの伝説の怪物
- 聖ニコラウス(サンタクロースの原型)のお供として、悪い子を罰する役割を担う
- 12月5日の「クランプスナハト」に現れ、悪い子を鞭で打ったり、地獄に連れ去ったりする
- 起源はキリスト教以前の異教信仰にあるとされるが、詳細は不明
- 20世紀にファシスト政権によって禁止されたが、現在は世界中で人気が復活している
- 日本のなまはげと多くの共通点を持つ「来訪神」の一種
クリスマスといえば、サンタクロースやトナカイ、きらびやかなイルミネーションを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、その裏側には鎖を鳴らしながら悪い子を探し回る恐ろしい存在がいることを、今年のクリスマスは思い出してみてください。
今夜、あなたの靴の中に何が入っているか——確認する勇気はありますか?


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