中国の龍とは?神話に登場する神聖な霊獣の姿・種類・伝承を徹底解説!

神話・歴史・伝承

「龍」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?

西洋のドラゴンのように、火を吐いて人を襲う恐ろしい怪物でしょうか。実は、中国の龍はまったく違う存在なんです。

中国では、龍は雨を降らせ、幸運をもたらす神聖な霊獣として、数千年にわたって大切にされてきました。皇帝の象徴であり、中国人は今でも自分たちを「龍の子孫」と呼ぶほど、深い愛着を持っています。

この記事では、中国神話における龍の姿や種類、四海龍王や龍生九子といった興味深い伝承について、詳しくご紹介します。


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概要

中国の龍は、古代から伝わる神話上の霊獣です。

麒麟(きりん)・鳳凰(ほうおう)・霊亀(れいき)とともに「四霊」と呼ばれ、最も霊力の高い生き物として崇められてきました。

西洋のドラゴンが悪の象徴として描かれるのに対し、中国の龍は雲を呼び、雨を降らせる力を持つ縁起の良い存在。農耕が盛んだった古代中国では、雨をもたらす龍は人々の暮らしに欠かせない守り神だったのです。

また、龍は皇帝の権力と強さを象徴する生き物でもありました。皇帝だけが身につけられる「五爪の龍」の衣装は、その権威を示すものだったんですね。

日常的な中国語でも、実力や気品のある人々は龍に喩えられます。「望子成龍(自分の息子が龍になることを望む)」ということわざは、子供の出世を願う親心を表しているんです。


龍の起源——古代中国から続く信仰

中国における龍の信仰は、驚くほど古い時代まで遡ります。

考古学的な発見

龍の存在は、紀元前5千年紀の仰韶文化(ぎょうしょうぶんか)まで遡ることができます。1987年に河南省で発見された数千年前の龍の像は、この信仰の古さを物語っています。

さらに古い紅山文化(紀元前4700年〜紀元前2900年頃)の遺跡からは、コイル状のヒスイの龍の装飾品が出土しています。「玉龍(ぎょくりゅう)」と呼ばれるこれらの遺物は、龍が円形にとぐろを巻いた姿で彫られており、すでに龍への崇拝が確立していたことを示しているんですね。

龍の起源に関する諸説

龍がどのようにして生まれたのか、いくつかの説があります。

  • トーテム合成説:古典学者の聞一多(ぶんいった)は、古代の部族抗争の過程で、蛇など複数のトーテムが吸収・合成されて龍が創りだされたと主張しました
  • ワニ起源説:古代に長江や漢水に生息していたワニの一種が、寒冷化や狩猟により絶滅した後に伝説化したという説
  • 恐竜化石説:恐竜など大型動物の骨や化石の発見が龍の伝承につながったという説
  • 自然現象説:竜巻や稲妻の形状が龍のイメージに影響を与えたという説

『山海経』という古代の地理書には、蛇を手に持つ巫女が雨乞いをする記述があります。蛇は雨を呼ぶ呪物として用いられていたようで、この蛇への信仰が神秘化されて龍になったとも考えられているんです。


中国の龍の姿と特徴

では、中国の龍はどんな姿をしているのでしょうか。

九似説——9つの動物の特徴を持つ合成獣

後漢時代の学者・王符(おうふ)がまとめた「九似説」によると、龍は9種類の動物の特徴を併せ持っているとされています。

部位似ている動物
ラクダ
鹿
鬼(または兎)
蜃(しん・大ハマグリ)

口元には長いひげがあり、顎の下には光り輝く宝珠を持っています。この宝珠は「明珠(めいしゅ)」と呼ばれ、龍が大切にしているものです。

博山——龍が飛ぶための秘密

中国の龍は翼を持たないのに、なぜ空を飛べるのでしょうか。

その秘密は頭の上にある「博山(はくざん)」という山状の突起にあります。唐代の書物『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』によると、この突起がなければ龍は飛ぶことができないとされています。

龍は秋になると淵の中に潜み、春になると天に昇るという習性を持つと言われていました。もしかすると、博山は季節に応じて膨らんだり縮んだりする器官だったのかもしれません。

鱗と逆鱗

龍の背中には81枚の鱗があります。81という数字は9×9で、中国で天の数とされる9を二乗した神聖な数なんですね。

そして喉の下には1枚だけ逆向きに生えた「逆鱗(げきりん)」があるとされています。この逆鱗は約30センチほどの大きさで、ここに触れると龍は激怒し、触った者を必ず殺すと言われていました。

「逆鱗に触れる」という慣用句は、この伝承から生まれたもの。もともとは韓非(かんぴ)という思想家が、君主に適切に進言する方法を説くために使った言葉だったんです。

龍の雌雄

龍には雄と雌の区別があり、外見から判別できるとされています。

  • 雄龍:角が太く波のような形状、鼻筋がまっすぐ、たてがみが柔らかい、尾が太い
  • 雌龍:角が細く、鼻が丸みを帯びている

龍の能力と習性

龍には、地の精霊ならではの特別な能力があります。

天候を操る力

龍の最も重要な能力は、雲を呼び雨を降らせることです。

龍は体内から気を生じさせ、それを雲に変える力を持っていたとされています。龍が雲をまとった絵をよく見かけますが、あの雲は龍が自らの身を隠すために生じさせたものなんですね。

この雲を自在に水(雨)や火に変化させることもできました。干ばつが続くと、人々は龍に祈りを捧げ、雨乞いの儀式を行ったのです。

龍の好物と苦手なもの

龍にも好き嫌いがあります。

好物

  • 美しい玉(ぎょく)
  • 空青(くうせい)という青い石
  • 燕(つばめ)の肉

燕の肉を食べた人は龍に襲われるため、水を渡ってはならないとされていました。逆に雨乞いの際には、燕の肉を供えて龍を呼び寄せたそうです。

苦手なもの

  • センダンの葉(楝葉)
  • ムカデ
  • 五色の絹糸
  • サンザシの葉

屈原(くつげん)という詩人を祀るために川に投げ入れる粽(ちまき)は、センダンの葉で包み五色の糸で縛るのが習わし。これは水中の龍が粽を食べてしまわないようにするためだったんですね。

龍の繁殖

龍は卵で子を産みます。

面白いのは、龍は卵を温めないということ。代わりに「思抱(しほう)」といって、強い念の力で卵を抱くのです。雄は風上から、雌は風下から鳴き声を上げ、風に乗った声が卵の孵化を促すとされています。

しかも、龍の卵が孵化するには1000年もの歳月がかかるという説もあるんです。


龍の成長過程——蛇から龍への変態

龍は最初から龍の姿をしているわけではありません。

『述異記』という書物によると、龍は長い年月をかけて成長・変態していくとされています。

龍の成長段階

段階名称経過年数特徴
1虺(き)水に棲む蛇のような姿
2蛟(こう)500年後鯉のような頭を獲得
3龍(りゅう)さらに1000年後四本足と龍の頭、髭を持つ
4角龍(かくりゅう)さらに500年後立派な角が発達
5応龍(おうりゅう)さらに1000年後翼を持つ完全体

つまり、水蛇から応龍になるまでには3000年もの歳月が必要ということになります。

さらに年老いた応龍は「黄龍」と呼ばれ、四龍の長として最も高貴な存在になるとされています。

この成長過程は「鯉が滝を昇ると龍になる」という「登竜門」の故事にも通じるもの。努力を重ねて出世することを「登竜門をくぐる」と言いますが、この言葉の背景には龍への変態という古い信仰があったんですね。


中国の龍の種類一覧

中国の古典や神話には、実に多くの種類の龍が登場します。言語学者マイケル・カーは、中国の古典に記されている100以上の龍の名前を分析しています。

ここでは、代表的な龍の種類をご紹介しましょう。

主要な龍の種類

蛟龍(こうりゅう)

蛟龍は龍の若い段階にあたる存在で、鱗を持つ水棲の龍です。

『本草綱目』によると、蛟龍は蛇に似た体に4本の足を持ち、頭は小さく首は細い。首の周りには白い模様があり、大きいものは体長3メートル以上にもなるとされています。

空を飛ぶときには数多くの魚を引き連れているとも言われ、池の魚が3600匹になると蛟龍がやってきて魚たちのボスとなり、子分の魚を連れて飛び去ってしまうという伝承もあります。

虬龍(きゅうりゅう)

虬龍は角を持つ龍で、蛟龍よりも成長した段階にあたります。「虬」という字には「渦巻く」という意味があり、螺旋状の角を持っているとも考えられています。

螭龍(ちりゅう)

螭龍は角を持たない龍で、赤・白・青の色をしているとされます。宮殿の柱に巻きついている龍の彫刻は、この螭龍であることが多いんです。まだ飛ぶ能力を獲得していない地龍の一種とも考えられています。

応龍(おうりゅう)

応龍は翼を持つ龍で、龍の中でも最も高位の存在です。四霊の一つにも数えられています。

『山海経』によると、応龍はかつて黄帝に仕え、蚩尤(しゆう)との戦いで水を飲んで人々を救ったとされています。しかし戦いで殺生を行ったため天に帰れなくなり、以降は中国南方の地に棲んでいるとか。このため南方には雨が多く、それ以外の場所は旱魃に悩まされるようになったと伝えられています。

また応龍は尾で地面に線を引き、河川を作る力も持っていたとされ、大禹(だいう)の治水事業を助けたという伝説もあります。

燭龍(しょくりゅう)・燭陰(しょくいん)

燭龍は北西の海の向こうにある章尾山に住む龍神です。

顔は人間、体は蛇で、全身が赤く光り輝く鱗で覆われています。食べることも寝ることもしない不思議な存在で、以下のような能力を持っていたとされます。

  • 目を閉じると昼が夜に変わる
  • 目を開けると夜が昼になる
  • 息を吐くと冬になる
  • 息を吸うと夏になる
  • 風を呼び、雨を降らせ、四季を操る

天候と昼夜を司る、まさに宇宙的なスケールの龍神ですね。

蟠龍(ばんりゅう)

蟠龍はとぐろを巻いた龍で、天に昇っていない地上の龍を指します。「蟠」には「うずくまる」「曲がりくねる」という意味があります。柱や天井に描かれる、螺旋状にとぐろを巻いた龍の図案として見られます。

驪龍(りりゅう)

驪龍は黒い龍で、顎の下に貴重な珠を持っているとされます。「驪珠(りしゅ)」と呼ばれるこの珠は、龍の宝物として知られています。「驪竜の頷(あご)の珠」という言葉は、危険を冒して貴重なものを得ることの喩えとして使われます。

五色の龍(五方龍王)

五行思想に基づく5つの方角に対応する龍たちです。

方角龍の名前季節五行守護する領域
青龍(せいりゅう)青・緑東方
赤龍(せきりゅう)南方
西白龍(はくりゅう)西方
黒龍(こくりゅう)北方
中央黄龍(こうりゅう)土用中央

青龍は四神の一つとして最も有名で、東の方角を守護し春を司ります。「蒼龍(そうりゅう)」とも呼ばれ、日本でも広く知られています。

黄龍は五龍の中心に位置し、「四龍の長」とも呼ばれる最も高貴な存在。皇帝と同一視されることもありました。『瑞応記』には「黄龍は神の精、四龍の長なり」と記されています。

その他の龍

虹蜺(こうげい)

虹になるとされた龍の一種。虹そのものが龍であり、雄を「虹(こう)」、雌を「蜺(げい)」と呼びます。空から頭を下げて地上にやって来ることもあり、ある人の家の釜の水を飲み始め、酒を振る舞うと黄金を残して去っていったという話も残っています。

火龍(かりゅう)

火を司る龍。南方の赤龍と関連づけられることもあります。

雲龍(うんりゅう)

雲をまとった龍、または雲の中を飛ぶ龍の姿を指します。絵画や工芸品のモチーフとして広く用いられています。

水龍(すいりゅう)

淵や湖に潜む蛇に似た龍。四本の足があり、水の神として信仰されました。

飛龍(ひりゅう)

翼を持って空を飛ぶ龍。応龍と同一視されることもあります。『淮南子』には「飛龍は鳳凰を生む」という記述があります。


四神——四方を守護する霊獣

龍は「四神(ししん)」と呼ばれる四方を守護する霊獣の一つとしても重要な存在です。

四神とは

方角霊獣季節五行
青龍(せいりゅう)
朱雀(すざく)
西白虎(びゃっこ)
玄武(げんぶ)

中央には黄龍または麒麟が置かれることもあり、その場合は「五獣」と呼ばれます。

天文学との関係

四神は中国の天文学とも深く結びついています。

中国では天球を赤道帯に沿って東・北・西・南の四区画に分け、それぞれに四神を対応させました。これを「東方青龍」「北方玄武」「西方白虎」「南方朱雀」と呼びます。

各方角には7つの星宿(二十八宿を4分割したもの)が属しており、これらの星座を組み合わせた形が龍・亀・虎・鳥の姿に見立てられたのです。

青龍の七宿

  • 角宿(かくしゅく):龍の角
  • 亢宿(こうしゅく):龍の首
  • 氐宿(ていしゅく):龍の胸
  • 房宿(ぼうしゅく):龍の腹
  • 心宿(しんしゅく):龍の心臓
  • 尾宿(びしゅく):龍の尾
  • 箕宿(きしゅく):龍の尾の先

日本への伝播

四神の思想は日本にも伝わり、キトラ古墳や高松塚古墳の壁画に描かれています。

平安京の都市設計にも「四神相応」の考え方が取り入れられました。東の鴨川が青龍、南の巨椋池が朱雀、西の山陰道が白虎、北の船岡山が玄武に対応するとされ、四方を霊獣に守られた理想的な土地として選ばれたのです。


龍王——四海を治める神々

龍が人格化され、王として神格を持った存在が龍王(りゅうおう)です。

龍王の起源

龍王は、インド神話の蛇神「ナーガ」が仏教を通じて中国に伝わり、中国古来の龍と融合して生まれました。

インドのナーガはコブラを神格化した蛇神でしたが、コブラが生息しない中国では、漢訳経典において「龍」や「龍王」と訳されたのです。

龍王は雲を起こし、雨を降らせ、河や海を支配する力を持つとされています。しかし、その力は無制限ではありません。龍王は玉皇大帝(天帝)の支配下にあり、その命令に従って降雨を行っていました。

四海龍王

特に有名なのが、東西南北の四つの海を統べる「四海龍王」です。

方角龍王名別名・称号支配する海域
敖広(ごうこう)広徳王東シナ海・太平洋
敖欽(ごうきん)広利王南シナ海
西敖閏(ごうじゅん)広潤王青海湖・インド洋
敖順(ごうじゅん)広沢王バイカル湖・北極海

四海龍王は人間のような身体に龍の頭を持ち、皇帝の装束を身にまとっています。海底の豪華な水晶宮殿から各海を治め、エビやカニなどの海の生物と夜叉(やしゃ)を従えているんですね。

唐の玄宗皇帝は751年に四海の神にそれぞれ王の称号を授けており、国家的な祭祀の対象となっていました。

龍王が登場する物語

西遊記』では、孫悟空が東海龍王・敖広の竜宮に乗り込み、「海の重り」として置いてあった如意金箍棒(にょいきんこぼう)を奪い取る場面が描かれています。四海の龍王は相談して玉帝に悟空の悪行を訴えますが、結局はやり込められてしまいます。

また、西海龍王の三男である玉龍(ぎょくりゅう)は、宝珠を焼いた罪で死罪を言い渡されますが、観世音菩薩のとりなしで助けられ、三蔵法師の馬として旅に同行することになります。

封神演義』では、哪吒(なた)が水浴びの際に強力な呪具をつけたまま入ったため、東海龍王の宮殿まで揺れて倒壊寸前になります。調査に来た夜叉や龍王の息子・敖丙(ごうへい)を哪吒が殺してしまい、大騒動に発展する場面が描かれています。

命令に背いた龍王の伝説

龍王は天帝の許可なく勝手に雨を降らせることはできませんでした。しかし、人々の苦しみを見かねて命令に背いた龍王の伝説が各地に残っています。

浙江省の「玉柱峰」の伝承では、玉皇大帝が3年間の降雨禁止を命じたにもかかわらず、九龍鼎の玉柱龍が人々のために雨を降らせ、地上に1000年間落とされる罰を受けています。

陝西省の「龍擡頭」にまつわる伝説でも、玉皇大帝の命令に背いて雨を降らせた龍が地上の山に閉じ込められたとされています。


仏教と龍——八大龍王

中国の龍は、仏教の龍王信仰とも深く結びついています。

ナーガラージャと八大龍王

仏教において、龍王は仏法を守護する存在として位置づけられています。

『法華経』の序品には、釈迦の説法を聴いた8人の龍王が登場します。これを「八大龍王」と呼びます。

龍王名(漢訳)サンスクリット名特徴
難陀(なんだ)ナンダ護法龍王の上長
跋難陀(ばつなんだ)ウパナンダ難陀の弟
娑伽羅(しゃがら)サーガラ雨乞いの本尊として崇拝
和修吉(わしゅきつ)ヴァースキ多頭の龍王
徳叉迦(とくしゃか)タクシャカ多舌で視線に毒がある
阿那婆達多(あなばだった)アナヴァタプタ馬形の龍
摩那斯(まなし)マナスヴィンヒキガエル形で徳に優れる
優鉢羅(うはつら)ウッパラカ青蓮華の龍

龍と仏陀の関係

龍は仏陀の人生の重要な場面で登場しています。

  • 誕生時:ナンダとウパナンダという二匹の龍王が現れ、冷たい水と温かい水を振りかけて誕生を祝福した
  • 悟りを開く時:スジャータという娘が乳粥を差し出したが、実は龍王の娘だった
  • 瞑想中:ムチャリンダという龍王が七日間続いた嵐から仏陀を守った
  • 入滅時:仏舎利を納める塔を建設する際、龍王が守護した

『法華経』提婆達多品では、娑伽羅龍王の8歳の娘が成仏を遂げる場面が描かれています。龍女は仏陀に宝珠を捧げ、文殊菩薩や観世音菩薩の説法を聞いて悟りを開いたとされています。


龍生九子——龍が生んだ9人の息子たち

「龍は龍を生まず」という言葉をご存知でしょうか。

龍には9人の息子がいますが、どれも父親とは異なる姿と性格を持っているんです。この「龍生九子(りゅうせいきゅうし)」は明代の書物に記され、それぞれが建築や工芸品の装飾に使われてきました。

『懐麓堂集』による龍生九子

順位名前読み方好むもの姿・特徴見られる場所
長男囚牛しゅうぎゅう音楽黄色い小さな龍琴や胡弓の頭部
二男睚眦がいし殺戮・戦い龍頭に狼のような体刀剣のつばや柄
三男嘲風ちょうふう高い場所・遠望鳳凰に似た姿屋根の軒先
四男蒲牢ほろう大声で叫ぶ小さな臆病な龍鐘の上部の取っ手
五男狻猊さんげい煙と火獅子に似た姿香炉の足や仏座
六男贔屓ひいき重いものを背負う亀に似た姿石碑の台座
七男狴犴へいかん訴訟・正義虎に似た姿牢獄の門や裁判所
八男負屭ふき文学・書道龍身で獅子頭石碑の側面
末子螭吻ちふん水・飲み込む魚に似た龍屋根の大棟の両端

『升庵外集』による別の説

李東陽の『懐麓堂集』とは別に、楊慎の『升庵外集』では異なる9人の息子が挙げられています。

名前読み方好むもの見られる場所
贔屓ひいき重いものを背負う石碑の台座
螭吻ちふん飲み込むこと屋根の大棟
蒲牢ほろう吼えること鐘の取っ手
狴犴へいかん力が強い牢獄の門
饕餮とうてつ飲食鼎の蓋
𧈢𧏡はか橋の柱
睚眦がいし殺すこと刀の柄
金猊きんげい火と煙香炉
椒図しょうず閉じること門の取っ手

「贔屓」の由来

「贔屓(ひいき)」という日本語は、実はこの龍の息子の名前が由来なんです。

贔屓は重いものを背負うことを好む力持ちで、かつて8つの山脈を持ち上げて遊んでいたほど。あまりに暴れると水害が起こるので、禹(う)という伝説の帝王が石碑を背負わせて動けなくしたという伝承があります。

功績を刻んだ石碑を背負わせることで贔屓はゆっくりとしか動けなくなり、今でも中国の古い寺院などで石碑を背負う亀のような生き物を見かけたら、それが贔屓です。

蒲牢と鐘

四男の蒲牢は臆病な龍で、特に巨大な鯨を恐れていました。鯨が近づくと大声で叫ぶため、鐘の取っ手に蒲牢の像を彫り、鯨の形をした槌で叩くと、大きく響き渡る音が出るとされています。


龍と皇帝——権力の象徴として

中国において、龍は単なる神話の生き物ではありませんでした。

それは皇帝そのものを意味する、最も重要なシンボルだったのです。

龍と皇帝のつながり

皇帝にまつわるものには「龍」の字がつくことが多くありました。

  • 龍顔(りゅうがん):皇帝の顔
  • 龍体(りゅうたい):皇帝の身体
  • 龍袍(りゅうほう):皇帝の衣服
  • 龍座(りゅうざ):皇帝の玉座
  • 龍車(りゅうしゃ):皇帝の乗り物
  • 龍種(りゅうしゅ):皇帝の子孫
  • 龍影(りゅうえい):皇帝の姿

皇帝と龍の伝説

多くの皇帝には、龍との関わりを示す伝説がありました。

  • 伏羲(ふっき):龍の体を持つ伝説の帝王
  • 黄帝:龍の体を持つとされ、死後は黄龍となって天に昇った
  • 劉邦(りゅうほう):漢の高祖。母が龍と交わって生まれた「龍の子」という伝説を持つ

こうした伝説は、皇帝が普通の人間ではなく、龍と対等な神聖な存在であることを示すためのものでした。

爪の数——厳格な階級制度

特に重要だったのが龍の爪の数です。明代以降、龍の爪の数は厳格に規定されていました。

爪の数使用できる身分
五爪皇帝専用
四爪貴族・高級官吏
三爪下級官吏・一般大衆

五爪の龍を無断で使用した者は、一族もろとも処刑される反逆罪とされました。皇帝自身も、9匹の龍が描かれた衣服を着ましたが、そのうち1匹は見えないように隠されていたそうです。

ただし、民間でも龍の意匠は人気があり、明末清初には密かに五爪龍の陶器が作られていました。結局、乾隆帝は龍文の独占を諦める詔を出すことになったんですね。

清朝と国旗

1862年から1912年までの清国国旗には、青い五爪の龍が描かれていました。これは皇帝の権威を示すと同時に、国家の象徴としての龍の地位を表しています。

帝政が終わった現代では、龍は特定の個人ではなく、中華民族全体のシンボルへと回帰しています。中国人が「龍の子孫(龍的傳人)」と自称するのは、この民族的アイデンティティの表れなんですね。


龍にまつわる風習と文化

龍は中国の日常生活にも深く根付いています。

龍舞(りゅうぶ)

中国の旧正月や開店、新築祝いなどのお祭りでは、龍の人形の踊りがよく催されます。布と木でできた龍の人形を複数の人が操り、太鼓などの音楽に合わせて動かします。

龍舞はもともと雨乞いの儀式から発展したもの。「雲は龍に従い、風は虎に従う」という故事にちなみ、龍の動きを真似ることで雨を呼ぶと信じられていました。

ドラゴンボートレース

毎年旧暦5月5日の端午節(たんごせつ)には、龍の形をした船でレースを行う「龍船祭り」が開催されます。

これは詩人・屈原(くつげん)を偲ぶ行事です。伝説によると、屈原を祀るために川に投げ入れた粽(ちまき)が龍に食べられてしまうため、センダンの葉で包み五色の糸で縛るようになったとか。龍船レースは、屈原の亡骸を探し求めた人々の行為に由来するとも言われています。

雨乞いの儀式

古来、干ばつが続くと龍王に雨を祈る儀式が行われました。

『春秋繁露』には、季節ごとに色の異なる土製の龍を祭壇に並べて雨乞いをする作法が記されています。春は青い龍、夏は赤い龍、秋は白い龍、冬は黒い龍、そして中央には黄色い龍を置きました。

農村では龍王の像を車に乗せ、太鼓や銅鑼を鳴らしながら行列を作って川に向かい、水を汲んで帰ってきたそうです。3日から5日以内に雨が降れば盛大なお祭りを行い、降らなければ祭りは中止になりました。

9の数字との関係

9は中国で天の数とされ、龍は頻繁に9の数に関連づけられます。

  • 龍は9つの動物の特徴を持つ(九似説)
  • 背中には81枚(9×9)の鱗がある
  • 9人の息子がいる(龍生九子)
  • 九龍壁には9匹の龍が描かれる

最高位の官吏だけが9匹の龍があしらわれた衣服を着ることができました。皇帝自身も9匹の龍の衣服を着ましたが、謙遜のためか1匹は隠されていたそうです。


龍にまつわることわざ・慣用句

龍は中国語の表現にも数多く登場します。

ことわざ・慣用句意味
望子成龍(ぼうしせいりゅう)自分の息子が龍になることを望む=子供の出世を願う
龍頭蛇尾(りゅうとうだび)頭は龍で尾は蛇=始めは勢いがあるが終わりは尻すぼみ
画龍点睛(がりょうてんせい)龍を描いて最後に瞳を入れる=仕上げが肝心
蛟龍得水(こうりゅうとくすい)龍が水を得る=不遇だった者が機会を得て飛躍する
龍虎(りゅうこ)龍と虎=実力が拮抗する二人の英雄
登龍門(とうりゅうもん)龍門を登る=出世の関門を突破する
逆鱗に触れる龍の逆鱗に触る=目上の人の怒りを買う

「登龍門」は、黄河上流にある龍門という急流を鯉が登りきると龍に変身するという故事に由来します。科挙(官吏登用試験)に合格することを「登龍門」と呼んだことから、現在でも人生の重要な試験や関門を指す言葉として使われています。


まとめ

中国の龍は、西洋のドラゴンとはまったく異なる、神聖で縁起の良い霊獣です。

重要なポイント

  • 麒麟・鳳凰・霊亀とともに「四霊」と呼ばれる最高位の霊獣
  • 雲を呼び雨を降らせる力を持ち、農耕社会で深く崇拝された
  • 9種類の動物の特徴を併せ持つ合成獣として描かれる(九似説)
  • 蛇から始まり、3000年かけて応龍へと成長・変態する
  • 五行思想に基づく五色の龍があり、青龍は四神の一つ
  • 四海龍王は東西南北の海を統べる龍の王
  • 仏教の八大龍王とも習合し、仏法の守護者となった
  • 龍生九子は9人の息子で、それぞれ建築装飾に用いられる
  • 皇帝の象徴であり、五爪の龍は皇帝だけが使用できた
  • 龍舞やドラゴンボートレースなど、現代まで続く文化がある

中国人が「龍の子孫」と自称するように、龍は今も中国文化の根幹に息づいています。その姿は時代とともに変化してきましたが、人々に幸運と繁栄をもたらす神聖な存在という本質は、数千年の時を超えて受け継がれているんですね。

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