アラビアンナイトとは?千夜一夜物語の起源から有名な物語の意外な真実まで徹底解説

「アラジンと魔法のランプ」「アリババと40人の盗賊」「船乗りシンドバッドの冒険」。
これらの名前を聞いたことがない人は、ほとんどいないのではないでしょうか?

実はこれらの物語、ある驚きの共通点があるんです。
その秘密も含めて、今回は世界中で愛される『アラビアンナイト(千夜一夜物語)』について詳しく解説します。

この記事では、アラビアンナイトの起源や構成、有名な物語の意外な真実、そして後世への影響まで、わかりやすく紹介していきます。


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アラビアンナイトってどんな物語集?

『アラビアンナイト』は、中東や南アジアの民話・伝承を集めた説話集です。
正式名称は『千夜一夜物語(せんやいちやものがたり)』といいます。

アラビア語では「アルフ・ライラ・ワ・ライラ(ألف ليلة وليلة)」。
直訳すると「千夜と一夜」という意味になります。

ちなみに「アラビアンナイト」という呼び名は、1706年にイギリスで出版された英語版『The Arabian Nights’ Entertainment』からきています。
つまり、もともと西洋でつけられた愛称なんですね。

この説話集の最大の特徴は「枠物語」という構成にあります。
大きな物語の中に、たくさんの小さな物語が入れ子構造で収められているんです。


物語を紡ぐ女性、シェヘラザード

アラビアンナイト全体を貫く「枠」となっているのが、シェヘラザードという女性の物語です。

発端:女性不信に陥った王

むかしむかし、サーサーン朝ペルシャにシャフリヤールという王がいました。
ある日、王は妃が奴隷たちと不貞を働いているのを目撃します。

深く傷ついた王は妃と奴隷たちを処刑し、すべての女性を信じられなくなってしまいました。
そして、とんでもない暴挙に出るのです。

毎晩、街から若い処女を宮殿に呼び、一夜を過ごしては翌朝に処刑する——。
こうして街からは次々と若い女性がいなくなっていきました。

立ち上がった大臣の娘

このとき、名乗り出たのが大臣の娘シェヘラザードです。
彼女は父親の反対を押し切り、自ら王のもとへ嫁ぐことを決意します。

シェヘラザードには作戦がありました。
夜が明ける前、彼女は王に不思議な物語を語り始めます。

話が佳境に差し掛かったところで「続きはまた明日」と打ち切るのです。
続きが気になった王は、彼女を殺すことができません。

物語の力で王を変えた

こうして毎晩、シェヘラザードは王に物語を語り続けました。
傍らには妹のドゥンヤザードがいて、「もっと聞きたい!」と盛り上げ役を演じます。

千と一夜が過ぎる頃、王の心は少しずつ変わっていきました。
物語を通じて人間の弱さや美しさに触れ、怒りと悲しみに囚われた心がほぐれていったのです。

最終的に王はシェヘラザードを正式な妃として迎え入れ、悪習を止めました。
物語の力で暴君を改心させた女性——それがシェヘラザードなのです。


アラビアンナイトはどこから来たのか?

アラビアンナイトの起源は非常に複雑で、単一の作者や成立時期を特定することはできません。
しかし、学者たちの研究によって、おおよその歴史は明らかになっています。

ペルシャからアラビアへ

物語の原型は8世紀頃に遡ります。
ペルシャ語の物語集『ヘザール・アフサーン(千の物語)』がアラビア語に翻訳され、『アルフ・ライラ(千夜)』という題名で広まりました。

当時のアッバース朝バグダードで、この物語集に各地の説話が加えられていきます。
インド、ペルシャ、アラビア、ギリシャ、エジプト——さまざまな地域の物語が混ざり合いました。

何世紀もかけて成長した物語集

9世紀から10世紀にかけて、有名なカリフ、ハールーン・アッラシードにまつわる物語などが追加されます。
さらに13世紀以降、シリアやエジプトで新たな物語が加わりました。

興味深いのは、現存するアラビア語写本では、実際に1001夜分の物語があるわけではないという点です。
「千夜」という言葉は、もともと「たくさんの夜」という意味だったと考えられています。

ヨーロッパへの伝播

1704年、フランスの東洋学者アントワーヌ・ガランがフランス語に翻訳し、ヨーロッパで大流行しました。
ゲーテ、ディケンズ、ポー、ワイルドなど、多くの作家がこの物語集に魅了されています。


驚きの事実!最も有名な3つの物語は「孤児」だった

ここで、アラビアンナイトにまつわる意外な真実をお伝えしましょう。

「アラジンと魔法のランプ」「アリババと40人の盗賊」「船乗りシンドバッドの冒険」。
実はこの3つの物語、アラビア語の原典には含まれていません

ガランが聞き取った物語

アラジンとアリババの物語は、フランス語訳者のアントワーヌ・ガランが1709年にパリで出会ったシリア人の語り部、ハンナ・ディヤーブから聞いた話でした。
ガランはこれらを自分の翻訳版に加えましたが、ディヤーブの名前をクレジットしませんでした。

シンドバッドの物語も、もともと独立した物語として存在しており、後からアラビアンナイトに組み込まれたものです。

「孤児物語」と呼ばれる理由

学者たちはこれらの物語を「orphan tales(孤児物語)」と呼んでいます。
アラビア語の写本には親(原典)が見つからないからです。

皮肉なことに、アラビアンナイトで最も有名な3つの物語が、すべて「孤児」なのです。
しかし、これらの物語が中東の民話であることは間違いありません。
今ではアラビアンナイトの代名詞として、世界中で愛されています。

アラジンの舞台は「中国」だった

さらに意外なことに、アラジンの物語の舞台は中国として設定されていました。
ガランのフランス語版でも、19世紀のバートンによる英語版でも、アラジンは「中国のある都市に住む少年」として描かれています。

もっとも、当時の「中国」は「遥か東方の異国」を指す漠然とした表現だったと考えられています。
20世紀に入り、映画などで描かれるようになると、舞台は徐々に中東へと移っていきました。


さまざまな翻訳版

アラビアンナイトには複数の有名な翻訳版があり、それぞれに特徴があります。

ガラン版(1704-1717年)

フランスの東洋学者アントワーヌ・ガランによる、ヨーロッパ初の翻訳です。
子供向けにリライトされた部分も多く、比較的マイルドな内容になっています。

アラジンやアリババを含むのはこの版からです。
全12巻で、現在でも最も広く読まれている版の一つです。

バートン版(1885-1888年)

イギリスの探検家リチャード・フランシス・バートンによる英語訳です。
全16巻に及び、官能的な表現や詳細な注釈が特徴です。

ヴィクトリア朝の厳格な出版規制を避けるため、私家版として限定出版されました。

マルドリュス版(1899-1904年)

フランスのジョゼフ=シャルル・マルドリュスによるフランス語訳です。
「完訳」を謳っていますが、実際にはマルドリュス独自の編纂と加筆が多く含まれています。

官能的な要素を強調する傾向があり、フランスの文学者から高い評価を受けました。

日本語訳

日本では1875年(明治8年)に初めて翻訳されました。
現在は岩波書店の『ガラン版 千一夜物語』や、ちくま文庫の『バートン版 千夜一夜物語』などで読むことができます。


後世への影響

アラビアンナイトは世界文学に計り知れない影響を与えました。

「枠物語」という手法

物語の中で別の物語が語られ、さらにその中でまた別の物語が始まる——。
この入れ子構造は、ボッカッチョの『デカメロン』やチョーサーの『カンタベリー物語』など、後世の文学に大きな影響を与えています。

近代以降では、ボルヘス、カフカ、三島由紀夫など、物語の構造自体に意識的な作家たちにも影響を及ぼしました。

ポップカルチャーへの浸透

ジーニー(魔人)、魔法の絨毯、魔法のランプ、バハムート——。
これらはすべてアラビアンナイトに由来する要素で、現代のファンタジー作品に欠かせないものとなっています。

ディズニー映画『アラジン』(1992年、2019年)は、この物語を世界的に有名にしました。
日本でも手塚治虫の虫プロダクションが1969年にアニメ映画『千夜一夜物語』を制作しています。

音楽への影響

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフは、交響組曲『シェヘラザード』(1888年)を作曲しました。
物語の入れ子構造を音楽で巧みに表現した名作として知られています。


代表的な物語一覧

物語名概要
シェヘラザードと王の物語全体を貫く「枠物語」。語り部シェヘラザードが暴君を改心させる
アラジンと魔法のランプ貧しい少年がランプの魔人の力で成功を収める ※孤児物語
アリババと40人の盗賊木こりが「開けゴマ!」で盗賊の財宝を発見 ※孤児物語
船乗りシンドバッドの冒険7つの航海で怪物や危険と戦う冒険譚 ※孤児物語
漁夫と魔人の物語壺から解き放たれた魔人と漁師の駆け引き
三つのリンゴの物語最古の推理小説とも呼ばれるミステリー
荷担ぎ屋と三人の娘の物語バグダードを舞台にした連作短編
カマルッザマーン王子とブドゥール姫の物語妖精のいたずらで出会う王子と姫のロマンス

まとめ

アラビアンナイト(千夜一夜物語)についてのポイントをおさらいしましょう。

  • ペルシャやインドの物語が8世紀頃にアラビア語に翻訳され、何世紀もかけて成長した説話集
  • シェヘラザードが暴君の王に毎夜物語を語る「枠物語」形式が特徴
  • 最も有名なアラジン、アリババ、シンドバッドは実は原典に含まれない「孤児物語」
  • 1704年のガラン版がきっかけでヨーロッパに広まり、世界文学に大きな影響を与えた
  • 現代のファンタジー作品にも、ジーニーや魔法の絨毯など多くの要素が受け継がれている

物語の力で人の心を変える——シェヘラザードが体現したこのテーマは、今も色褪せることがありません。
何世紀も語り継がれてきた不思議な物語の世界に、ぜひ触れてみてください。

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