ウェブブラウザのFirefoxには、通常版とは別に「ESR」というバージョンが存在します。
企業や教育機関では、このESR版を採用しているケースが多くあります。
この記事では、Firefox ESRの正式名称や特徴、通常版との違い、どのような人に向いているのかを詳しく解説します。
導入を検討している企業の担当者や、安定したブラウザを求める個人ユーザーにも役立つ内容です。
Firefox ESRの正式名称と意味

ESRとは「Extended Support Release」の略称です。
日本語では「延長サポート版」または「法人向け延長サポート版」と呼ばれています。
Mozillaが公式に提供しているFirefoxの特別なバージョンで、長期的な運用を必要とする組織向けに設計されています。
通常版のFirefoxとは異なるリリースサイクルを採用しており、安定性を重視した運用が可能です。
Firefox ESRが生まれた背景
Firefox ESRは2012年から提供が始まりました。
その背景には、Firefoxのリリース方式の変更があります。
2011年、Mozillaは新機能を素早くユーザーに届けるため、ラピッドリリース方式を採用しました。
これにより、約4週間ごとにメジャーアップデートがリリースされるようになったのです。
しかし、頻繁な更新は企業にとって大きな負担となりました。
社内システムとの互換性確認や、従業員への操作説明など、アップデートのたびに対応が必要になったからです。
こうした法人ユーザーの要望に応える形で、Firefox ESRが誕生しました。
通常版とESR版の主な違い
通常版とESR版には、リリースサイクルと更新内容に大きな違いがあります。
更新頻度の違い
通常版(ラピッドリリース版)
約4週間ごとにメジャーアップデートがリリースされます。
新機能の追加、パフォーマンス改善、デザイン変更などが含まれます。
ESR版
約52週間(約1年)に1回のメジャーアップデートです。
その間は、セキュリティ修正のみを含むマイナーアップデートが4〜6週間ごとに提供されます。
通常版のFirefox 134、135、136…と続く間、ESR版はFirefox ESR 128.1、128.2、128.3…という形で更新されます。
ESR版は、新機能の追加を抑えながら、セキュリティだけは常に最新の状態を保ちます。
機能面での違い
基本的な機能は通常版とESR版で同じです。
例えば、Firefox 128とFirefox ESR 128は、リリース時点では実質的に同じものです。
ただし、ESR版では一部の新機能がデフォルトで無効になっていることがあります。
十分に安定していないと判断された機能は、ESR版では慎重に扱われるのです。
通常版で追加された新機能は、次のESRメジャーバージョンまで導入されません。
例えば、Firefox 129で追加された機能は、Firefox ESR 128では使えず、次のESR 140まで待つ必要があります。
サポート期間の違い
通常版
次のバージョンがリリースされた時点で、前のバージョンのサポートは終了します。
実質的なサポート期間は約4週間です。
ESR版
各メジャーバージョンは約1年間サポートされます。
さらに、新旧バージョンの重複期間として12〜16週間が設けられています。
この重複期間により、新バージョンの検証を行いながら、計画的に移行できます。
Firefox ESRの対象ユーザー
Firefox ESRは主に以下のような組織や個人に向いています。
企業・組織
大規模な導入が必要な組織
数百台、数千台のパソコンにFirefoxを導入する場合、頻繁な更新は大きな負担です。
ESR版なら年1回の更新で済むため、運用コストを大幅に削減できます。
社内システムを運用している組織
社内のウェブシステムがFirefoxに依存している場合、頻繁な更新は動作確認の負担になります。
ESR版なら、システムとの互換性を長期間維持できます。
セキュリティを重視する組織
金融機関、医療機関、政府機関など、セキュリティが最重要の環境に適しています。
最新のセキュリティ対策を維持しながら、予期しない変更を避けられます。
教育機関
大学や専門学校では、多数のパソコンを管理する必要があります。
ESR版なら、学期の途中で突然操作方法が変わるリスクを避けられます。
個人ユーザー
安定性を重視する人
最新機能よりも、安定した動作を優先したい人に向いています。
拡張機能の互換性を重視する人
頻繁な更新で拡張機能が使えなくなるリスクを減らせます。
変化を好まない人
使い慣れたインターフェースを長く使い続けたい人にも適しています。
Firefox ESRのメリット
運用コストの削減
年1回のメジャーアップデートにより、以下の作業負担が大幅に減ります。
- 更新内容の確認と検証
- 社内システムとの互換性テスト
- ユーザーへの操作説明や教育
- トラブル対応
情報システム部門の負担が軽減され、他の業務に時間を使えるようになります。
高い安定性
新機能の追加が抑えられているため、予期しない不具合が発生するリスクが低くなります。
通常版では新機能のバグ修正が頻繁に行われますが、ESR版ではそうした修正パッチが不要です。
セキュリティの維持
セキュリティアップデートは通常版と同時にリリースされます。
緊急のゼロデイ脆弱性にも、定例外の緊急リリースで対応します。
使い勝手が変わらない状態で、常に最新のセキュリティが保たれるのです。
計画的な更新が可能
新旧バージョンの重複期間(12〜16週間)を活用して、余裕を持って移行できます。
この期間中に新バージョンの動作確認を行い、問題がないことを確認してから切り替えられます。
法人向けの追加機能
ESR版には、企業での運用に便利な機能があります。
MSIインストーラー
Active Directoryを使った大規模展開に対応しています。
グループポリシー対応
Windowsのグループポリシーで、ブラウザの設定を一元管理できます。
拡張機能の署名不要
社内専用の拡張機能を、署名なしでインストールできます。
Firefox ESRのデメリット

最新機能の導入が遅い
通常版で追加された新機能は、次のESRメジャーバージョンまで使えません。
最新のウェブ技術をすぐに試したい人には向きません。
例えば、通常版のFirefox 129で追加された機能は、ESR版では次のESR 140まで約1年待つ必要があります。
一部の機能がデフォルトで無効
実験的な機能や十分に安定していない機能は、デフォルトで無効化されています。
必要な場合は手動で有効化できますが、手間がかかります。
日本語の公式サポートがない
Mozillaは日本語での技術サポートを公式には提供していません。
コミュニティによる相互サポートやFAQはありますが、有償サポートを受けるには日本国内のサポート企業と契約する必要があります。
最新のウェブ標準への対応が遅れる
新しいウェブ技術や標準仕様への対応が、通常版より遅れることがあります。
最新のウェブアプリケーションを使う場合、稀に互換性の問題が発生する可能性があります。
現在のFirefox ESRバージョン
2025年1月時点では、以下のESRバージョンが提供されています。
Firefox ESR 128系
2024年7月にリリースされ、2025年9月頃までサポート予定です。
Firefox ESR 140系
2025年にリリースされる予定の新しいESR系列です。
各ESRバージョンは、約1年間のサポート期間があります。
サポート期間の終了が近づくと、自動的に次のESRバージョンへのアップデートが提供されます。
Firefox ESRの入手方法
Firefox ESRは、Mozillaの公式サイトから無料でダウンロードできます。
法人向けとされていますが、個人ユーザーも自由に使用できます。
注意点
Firefox ESRをインストールすると、既存の通常版Firefoxは上書きされます。
通常版とESR版を同時に使いたい場合は、別々のディレクトリにインストールし、異なるプロファイルを使用する必要があります。
ただし、この方法は手順が複雑なため、初心者には推奨されません。
Firefox ESRと他のブラウザの比較
ChromeやEdgeにはESRのような長期サポート版はありません。
これらのブラウザは、数週間ごとに自動的にメジャーアップデートが行われます。
企業向けとして、以下のような選択肢もあります。
Google Chrome Enterprise
管理機能は充実していますが、更新頻度は通常版と同じです。
ESRのような長期サポート版はありません。
Microsoft Edge
企業向け管理機能はありますが、こちらも更新頻度は高いままです。
現時点では、「使い勝手を変えずに、セキュリティだけを最新に保つ」という運用ができるのは、Firefox ESRだけと言えます。
どちらを選ぶべきか
以下の基準で判断するとよいでしょう。
通常版を選ぶべき人
- 最新機能をすぐに使いたい
- 個人で使用しており、更新の手間が気にならない
- 新しいウェブ技術を試したい
- 頻繁な変化を楽しめる
ESR版を選ぶべき人
- 企業や教育機関で大規模に導入する
- 社内システムとの互換性を重視する
- 安定性を最優先する
- 更新作業の負担を減らしたい
- 使い慣れた環境を長く維持したい
個人ユーザーの場合、通常版の利用をMozillaは推奨しています。
ただし、安定性を重視するなら、ESR版を選ぶのも一つの選択肢です。
まとめ
Firefox ESR(Extended Support Release)は、長期的な運用を必要とする組織向けの延長サポート版です。
約1年に1回のメジャーアップデートと、セキュリティのみのマイナーアップデートにより、安定した環境を提供します。
Firefox ESRの特徴
- 年1回のメジャーアップデート(通常版は月1回)
- セキュリティは常に最新
- 新機能の追加は最小限
- 運用コストの削減
- 法人向けの管理機能
企業での導入や、安定性を重視する個人ユーザーにとって、Firefox ESRは有力な選択肢となります。
自分の利用環境や目的に合わせて、通常版とESR版を使い分けましょう。


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