毘羯羅とは?十二神将で唯一の「女神由来」を持つ守護神を解説

神話・歴史・文化

「毘羯羅」という名前を聞いたことはありますか?
お寺で十二神将を見たことがある方も、一体一体の名前まではなかなか覚えていないかもしれません。

実はこの毘羯羅、十二神将の中でもかなり異色の存在なんです。
なんと、元をたどるとインドの戦闘女神ドゥルガーに由来するというのですから驚きですよね。

この記事では、毘羯羅の名前の意味から由来、十二神将としての役割、そして有名な仏像まで詳しく紹介していきます。


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毘羯羅の基本情報

毘羯羅は、薬師如来を守護する十二神将の一尊です。

「びから」と読むのが一般的ですが、新薬師寺では「びぎゃら」と読まれています。
読み方が寺院や文献によって異なるのは、古い時代に中国から日本へ伝わる過程で音が変化したためなんですね。

項目内容
名前毘羯羅(びから / びぎゃら)
梵名ヴィカラーラ(Vikarālā)
名前の意味「恐るべき者」
分類十二神将(天部)
本地仏釈迦如来
対応する干支子(ね)または亥(い)※諸説あり
主な持物三鈷杵(さんこしょ)

名前の意味と由来

毘羯羅の梵名「ヴィカラーラ(Vikarālā)」は、サンスクリット語で「恐るべき者」という意味を持っています。

興味深いのは、この「ヴィカラーラ」がインド神話の女神ドゥルガーの別名だということ。
ドゥルガーは、シヴァ神の妃とされる戦いの女神です。

ドゥルガーってどんな神様?

ドゥルガーは「近づきがたい者」という意味の名を持ち、インド神話でも指折りの強さを誇る女神です。

神話によると、魔神マヒシャ率いるアスラ軍に追い詰められた神々が、怒りの光を放ち、その光が集まって生まれたのがドゥルガーでした。
彼女は神々から授かった武器を手に戦い、見事にマヒシャを討ち取ったと伝えられています。

そんな恐るべき戦闘女神の別名が、仏教に取り入れられて毘羯羅になったわけです。


十二神将で唯一の「女神起源」

毘羯羅は、十二神将の中で唯一、女神を起源とする存在とされています。

十二神将の多くは、インドの夜叉(やしゃ)や鬼神がルーツ。
その中で女神ドゥルガーに由来する毘羯羅は、かなり特殊な出自を持っているんですね。

ただし仏教に取り入れられてからは、他の十二神将と同じく武装した男性の武将として表現されるようになりました。
元が女神だったとは、仏像を見ただけでは想像もつかないかもしれません。


十二神将とは?

毘羯羅が所属する十二神将について、少し整理しておきましょう。

十二神将は、薬師如来を守護する12の武神です。
元々はインドの夜叉(鬼神)でしたが、釈迦の説法を聞いて心を改め、仏法を守る善神となったと伝えられています。

十二神将の特徴

  • 薬師如来の「十二の大願」に応じて現れた守護神
  • 各神将が7,000の眷属(部下)を従える
  • 総勢8万4,000もの軍団を形成
  • 昼夜十二時・十二の方角を守護
  • 中国・日本では十二支と結びつけられた

薬師如来を信仰する人々を病気や災難から守るのが、十二神将の役目というわけです。


毘羯羅と干支の関係

十二神将と十二支の対応については、実は諸説あります

毘羯羅は一般的に子(ね・ねずみ)に対応するとされていますが、資料によっては亥(い・いのしし)と記載されているものもあります。

なぜこんな違いが生まれたのでしょうか?

対応がズレた理由

そもそも十二神将と十二支の対応は、仏教の経典には記載されていません。
後の時代に中国や日本で結びつけられたものなんですね。

そのため、宮毘羅大将を「子」とする説と「亥」とする説があり、それに伴って他の神将の干支もズレてしまうことがあります。

新薬師寺では毘羯羅を子(ね)の守護神としていますが、これも後世の対応付けによるものです。


本地仏は釈迦如来

毘羯羅の本地仏(本来の仏としての姿)は釈迦如来とされています。

本地仏とは、仏教における「本地垂迹説」に基づく考え方。
神々は仏や菩薩が衆生を救うために姿を変えて現れたもの、という思想です。

つまり毘羯羅は、釈迦如来が衆生を守るために武将の姿で現れた存在と考えられているんですね。


新薬師寺の毘羯羅大将像

毘羯羅の仏像として最も有名なのが、奈良・新薬師寺の十二神将立像です。

国宝・十二神将立像

新薬師寺の十二神将像は、天平時代(8世紀)に作られた塑像(粘土で作った像)で、日本最古・最大級の十二神将像として知られています。

項目内容
所在地奈良県奈良市 新薬師寺
制作時代奈良時代(8世紀)
素材・技法塑造(粘土による造像)
像高約160cm
文化財指定国宝(11躯)

12躯のうち1躯は江戸時代末期の地震で倒壊し、昭和6年(1931年)に補作されたため、国宝指定は11躯となっています。

毘羯羅大将像の特徴

新薬師寺の毘羯羅大将像は、逆立った髪の毛が印象的な荒々しい像容が特徴です。

手には三鈷杵(さんこしょ)という武器を持ち、忿怒の表情で薬師如来を守護しています。
元々は赤・青・緑などの極彩色が施されていたとされますが、現在は経年により色が落ちた状態となっています。


他の十二神将との比較

毘羯羅は十二神将の中でどのような位置づけなのでしょうか。
他の神将と比較してみましょう。

神将名読み干支本地仏特徴
宮毘羅くびら弥勒菩薩十二神将の筆頭、金毘羅様と同一視
伐折羅ばさら阿弥陀如来新薬師寺像が切手のデザインに採用
迷企羅めきら勢至菩薩知恵を象徴
安底羅あんてら観音菩薩健康と寿命の守護
頞儞羅あにら如意輪観音矢を持つ姿が特徴的
珊底羅さんてら虚空蔵菩薩水と財産の守護
因達羅いんだら地蔵菩薩インドラ神が由来
波夷羅はいら文殊菩薩弓を持つ俊敏な姿
摩虎羅まこら大威徳明王蛇神マホーラガが由来
真達羅しんだら普賢菩薩策略的な姿
招杜羅しょうとら大日如来刀を持つ戦闘態勢
毘羯羅びから釈迦如来唯一の女神由来、三鈷杵を持つ

※干支の対応は新薬師寺に準拠。資料により異なる場合があります。


毘羯羅が見られる寺院

毘羯羅を含む十二神将像は、全国の薬師如来を本尊とする寺院で拝観できます。

主な寺院

  • 新薬師寺(奈良県奈良市):国宝の塑造十二神将像、日本最古・最大級
  • 興福寺 東金堂(奈良県奈良市):国宝の木造十二神将像、鎌倉時代の作
  • 広隆寺(京都府京都市):国宝の木造十二神将像、平安時代の作
  • 室生寺(奈良県宇陀市):頭上に干支の動物を乗せた十二神将像

それぞれ制作時代や表現が異なるので、見比べてみるのも面白いですよ。


まとめ

毘羯羅について、この記事で紹介した内容をまとめます。

  • 毘羯羅(びから)は薬師如来を守護する十二神将の一尊
  • 梵名「ヴィカラーラ」は「恐るべき者」の意味
  • インド神話の戦闘女神ドゥルガーの別名が由来
  • 十二神将の中で唯一の女神起源を持つ
  • 本地仏は釈迦如来、干支は子(ね)に対応
  • 新薬師寺の十二神将像(国宝)で有名

元が女神でありながら、仏教では猛々しい武将として描かれる毘羯羅。
その変遷をたどると、インドから中国、そして日本へと仏教が伝わる中で、神々の姿がどのように変化していったかが見えてきます。

新薬師寺を訪れる機会があれば、ぜひ毘羯羅大将像の前で足を止めてみてください。
逆立った髪と荒々しい表情の奥に、インドの女神の面影を感じられるかもしれません。


参考情報

  • 新薬師寺 公式ホームページ(https://www.shinyakushiji.or.jp/)
  • 興福寺 公式ホームページ(https://www.kohfukuji.com/)
  • 『薬師瑠璃光如来本願功徳経』(玄奘訳)
  • Wikipedia「十二神将」「ドゥルガー」「新薬師寺」

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