「開けゴマ!」
この呪文を聞いたことがない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
そう、アラビアンナイトの代表作『アリババと40人の盗賊』に登場する魔法の言葉です。
でも実は、この物語にはあまり知られていない驚きの事実がいくつも隠されています。
この記事では、アリババの物語の全貌から「開けゴマ」の謎、そして現代への影響までわかりやすく解説します。
アリババってどんな人?
アリババは、ペルシャ(現在のイランあたり)に住む貧しい木こりです。
毎日ロバを連れて山へ行き、薪を集めて町で売る——そんな地道な生活を送っていました。
ちなみに「アリババ」という名前、ちょっと不思議な響きですよね。
「ババ」はアラビア語で「お父さん」という意味があります。
つまり「アリおじさん」「善良なアリ」といったニュアンスで、素朴で心のまっすぐな人物であることを示す呼び名なんです。
アリババには裕福な兄カシムがいました。
カシムは金持ちの女性と結婚して財産を受け継ぎ、贅沢三昧の暮らし。
一方のアリババは質素な生活を続けていました。
この兄弟の対比が、物語の大きなポイントになってきます。
物語のあらすじ
偶然目撃した盗賊の秘密
ある日、アリババがいつものように山で薪を集めていると、40人の盗賊団がやってきました。
慌てて木の上に隠れたアリババは、信じられない光景を目にします。
盗賊の頭領が岩の前に立ち、こう叫んだのです。
「開けゴマ!」
すると、巨大な岩の扉がゴゴゴ……と開き、盗賊たちは中へ消えていきました。
しばらくして出てくると、今度は「閉じろゴマ」と唱えて扉を閉め、どこかへ去っていったのです。
宝を手に入れたアリババ
盗賊が去った後、アリババも同じ呪文を唱えてみました。
すると岩の扉が開き、中には目もくらむような金銀財宝の山が!
アリババは欲張らず、ロバに積める分だけ金貨を持ち帰りました。
この「控えめな行動」が、後に彼の命を救うことになります。
強欲な兄カシムの悲劇
ところが、アリババの急な金回りの良さを怪しんだ兄カシムが、秘密を聞き出してしまいます。
カシムは自分も宝を手に入れようと洞窟に忍び込みました。
しかし、財宝に夢中になりすぎて大失敗。
扉を開ける呪文を忘れてしまったのです。
「開け、ムギ!」「開け、アワ!」
いくら叫んでも扉は開きません。
そうこうしているうちに盗賊たちが戻ってきて、カシムは見つかり、無残にも殺されてしまいました。
真の主人公・モルジアナの活躍
ここからが、この物語の本当に面白いところです。
カシムの死体を持ち帰ったアリババは、カシムの家に仕えていた女奴隷・モルジアナと相談します。
モルジアナは非常に聡明な女性で、ここから彼女の大活躍が始まるのです。
まず、カシムがバラバラにされた遺体を密かに仕立屋に縫い合わせてもらい、「病死した」ことにして葬儀を済ませました。
一方、盗賊たちは「秘密を知る者がまだいる」と気づきます。
彼らは何度もアリババを暗殺しようと刺客を送り込みました。
しかし、そのすべてをモルジアナが見破り、返り討ちにしたのです。
油壺に隠れた盗賊たちの末路
特に有名なのが「油壺事件」。
盗賊の頭領は油商人に変装し、39人の手下を大きな油壺の中に隠してアリババの家に泊まりました。
真夜中に襲撃する計画だったのです。
しかし、油を取りに行ったモルジアナは、壺の中から「そろそろか?」という声を聞いてしまいます。
彼女は冷静に状況を把握すると、本物の油が入った壺を見つけ出し、その油を大鍋で沸騰させました。
そして、煮えたぎった油を39個の壺に次々と注ぎ込んだのです。
こうして39人の盗賊は、一人残らず倒されました。
最後の決戦
頭領は一人で逃げ出しましたが、復讐を諦めません。
今度は宝石商に変装してカシムの息子と親しくなり、アリババの家に招かれる機会を作りました。
服の下には短剣を隠し持っていたのですが、またしてもモルジアナに見破られてしまいます。
彼女は「余興に踊りを披露します」と言い、短剣を持って舞い始めました。
そして、隙を見て頭領を刺し殺したのです。
かくして40人の盗賊は全滅。
この功績によって、アリババは奴隷の身分から彼女を解放し、息子の妻として迎えました。
洞窟に残っていた財宝は国中の貧しい人々に分け与えられ、アリババの一族は末永く栄えたのでした。
登場人物一覧
| 名前 | 読み方 | 説明 |
|---|---|---|
| アリババ | アリババ | 物語の主人公。貧しいが真面目な木こり |
| カシム | カシム | アリババの兄。裕福だが強欲で、盗賊に殺される |
| モルジアナ | モルジアナ | カシムの家の女奴隷。聡明で勇敢、物語の真の立役者 |
| 盗賊の頭領 | — | 40人の盗賊団を率いる。何度も変装してアリババを狙う |
| 仕立屋の老人 | — | カシムの遺体を縫い合わせた職人。目隠しで連れてこられた |
「開けゴマ」の謎——なぜゴマなのか?
物語で最も有名な呪文「開けゴマ」。
英語では「Open Sesame(オープン・セサミ)」と言います。
でも、なぜ「ゴマ」なのでしょうか?
実は、これには諸説あって、決定的な答えは見つかっていません。
説1:ゴマの鞘が開く様子から
ゴマは熟すと鞘がパカッと開いて種が飛び出します。
農民たちは収穫を心待ちにしながら「ゴマよ、早く開いておくれ」と祈っていたそうです。
この願いが呪文になった、という説があります。
説2:ゴマの神秘的な力
古代バビロニアでは、ゴマ油が魔術の儀式に使われていました。
ゴマには神秘的な力が宿ると信じられていたため、呪文に使われたのかもしれません。
説3:ゴマは当時の重要な食材だった
中東ではゴマは非常に貴重な食材でした。
宝物に見立てて「ゴマよ、開け」と言った可能性もあります。
説4:言葉自体に霊力が宿る
アラビア語でゴマは「シムシム(simsim)」と発音します。
この言葉の響き自体に魔力があると考えられた説もあります。
正確なところは不明ですが、それがまたこの呪文の神秘的な魅力を高めているのかもしれませんね。
アラビアンナイトとの意外な関係
『アリババと40人の盗賊』は、誰もが「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」の一編だと思っています。
しかし、驚くべきことに、アラビア語の原典には存在しない物語なのです。
この物語を世に広めたのは、18世紀フランスの東洋学者アントワーヌ・ガランでした。
ガランは『千夜一夜物語』をフランス語に翻訳していましたが、原典の物語だけでは足りないと感じていました。
そこで、シリアのアレッポ出身の語り部ハンナ・ディヤーブから聞いた話を翻訳に加えたのです。
このときに追加されたのが、『アリババと40人の盗賊』や『アラジンと魔法のランプ』といった有名な物語でした。
つまり、世界中で愛されているこれらの物語は、18世紀にフランスで初めて文字になったというわけです。
学術的には「orphan stories(孤児の物語)」と呼ばれています。
現代への影響
セサミストリートの名前の由来
子ども向け教育番組「セサミストリート」の名前は、実はこの「開けゴマ」に由来しています。
「宝物が隠されている洞窟が『開けゴマ』の呪文で開いたように、この番組で子どもたちに新しい世界の扉を開いてほしい」
そんな願いが込められているそうです。
漫画・アニメ・ゲーム
大高忍の漫画『マギ』には、アリババ・サルージャとモルジアナというキャラクターが登場します。
原典をモチーフにしつつも、独自の解釈で人気を集めました。
1971年には東映動画が『アリババと40匹の盗賊』というアニメ映画を制作。
善悪を逆転させたユニークな設定で、宮崎駿が原画を担当したことでも知られています。
IT企業「アリババ」
中国の巨大IT企業「アリババ・グループ」の社名も、この物語に由来しています。
創業者のジャック・マーは「アリババの名前は世界中の誰もが知っている。世界に羽ばたく会社にしたい」という思いで命名したそうです。
ちなみに、アリババ・グループの信用情報システム「芝麻信用(ジーマ信用)」の「芝麻」は中国語でゴマのこと。
「開けゴマ」にちなんだ命名というわけです。
まとめ
- アリババは貧しいが真面目な木こり。「ババ」はアラビア語で「お父さん」の意味
- 「開けゴマ」の呪文で盗賊の宝を発見するが、真の主人公は女奴隷モルジアナ
- モルジアナは39人の盗賊を煮えたぎった油で倒し、頭領を短剣で刺殺した
- 「開けゴマ」の由来は諸説あるが、決定的な答えは見つかっていない
- 実はアラビア語原典には存在せず、18世紀にフランス人翻訳者が追加した物語
- セサミストリートやIT企業アリババなど、現代にも大きな影響を与えている
タイトルこそ「アリババ」ですが、物語を読み進めるとモルジアナこそが真の英雄だということがわかります。
奴隷という最も低い身分から、機転と勇気で一族を救い、自由と幸せを勝ち取った彼女の活躍は、何百年経っても色褪せることがありません。
「開けゴマ」という呪文は、今でも新しい可能性への扉を開く象徴として使われています。
あなたも何か新しいことを始めるとき、心の中でこの呪文を唱えてみてはいかがでしょうか。


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