有名なジレンマ一覧|答えのない問題が教えてくれること

雑学

「5人を救うために1人を犠牲にしていいのか?」
「愛する人を助けるために法律を破っていいのか?」

こんな究極の二択を突きつけられたら、あなたならどうしますか?

どちらを選んでもスッキリしない、そんな板挟みの状態を「ジレンマ」と呼びます。
哲学や心理学、経済学の世界には、人々を何千年も悩ませてきた有名なジレンマがたくさんあるんです。

この記事では、世界的に知られるジレンマを一覧で紹介します。
「正解」を探すというより、「なぜ人は迷うのか」を一緒に考えてみましょう。


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ジレンマとは? 言葉の意味をおさらい

ジレンマ(dilemma)は、ギリシャ語の「di(2つの)」と「lemma(前提・命題)」を組み合わせた言葉です。
つまり、2つの選択肢があって、どちらを選んでも何らかの不利益が生じる状況のこと。

日本語では「板挟み」「進退両難」なんて訳されることもありますね。

ちなみに、選択肢が3つある場合は「トリレンマ(trilemma)」と呼ばれます。


哲学・倫理学の有名なジレンマ

トロッコ問題(トロリー問題)

おそらく世界で最も有名な思考実験です。

暴走するトロッコが線路を走っていて、その先には5人の作業員がいます。
あなたの目の前にはレバーがあり、引けばトロッコを別の線路に切り替えられます。
ただし、その別の線路には1人の作業員がいます。

レバーを引けば5人が助かり、1人が死ぬ。
何もしなければ5人が死に、1人は助かる。

あなたならどうしますか?

この問題は、1967年にイギリスの哲学者フィリッパ・フットが論文の中で提示しました。
「トロッコ問題」という呼び名は、1976年にアメリカの哲学者ジュディス・ジャービス・トムソンが名付けたものです。

面白いのは、このトロッコ問題には「太った男」バージョンもあるということ。
橋の上からトロッコを止めるために、隣にいる太った男を突き落とせば5人が助かる——という設定です。

レバーを引くのと、人を突き落とすのでは、結果は同じ「1人の犠牲で5人が助かる」なのに、多くの人が後者には抵抗を感じます。
なぜそう感じるのか、その違いこそがこの思考実験の核心なんですね。


テセウスの船

ギリシャ神話の英雄テセウスが怪物ミノタウロスを倒して帰還した船の話です。

アテネの人々はこの船を記念として保存していました。
しかし、時が経つにつれて木材が朽ちていきます。
そこで、傷んだ部品は少しずつ新しい木材に交換されていきました。

そして、ついにすべての部品が入れ替わったとき——
この船は、まだ「テセウスの船」と言えるのでしょうか?

さらに難しいのは、こんなケース。
交換された古い部品を集めて、別の船を組み立てたとしたら?
どちらが「本物のテセウスの船」なのでしょうか?

このパラドックスは、紀元1世紀頃に歴史家プルタルコスが記録したもの。
「同一性」という哲学的テーマを考えるための、古典的な問いかけです。

身近な例で考えてみましょう。
メンバーが全員入れ替わったアイドルグループ、何度も建て替えられた神社仏閣、代々つぎ足してきた秘伝のタレ。
これらは「同じもの」と言えるのか——私たちの日常にも、テセウスの船は潜んでいます。


ソフィーの選択

1979年のウィリアム・スタイロンの小説、および1982年の映画で有名になったジレンマです。

第二次世界大戦中、ポーランド人女性ソフィーはナチスの強制収容所に送られます。
そこでナチス将校から、残酷な選択を迫られました。

「2人の子どものうち、どちらかを選べ。選ばなければ2人とも殺す」

これは「どちらを選んでも取り返しがつかない」という、最も過酷な形のジレンマです。
正解など存在しない。
だからこそ、この物語は人々の心に深く刺さり続けています。


心理学・道徳発達のジレンマ

ハインツのジレンマ

心理学者ローレンス・コールバーグが、道徳性の発達を研究するために考案した問題です。

ハインツの妻は重い病気で、死に瀕しています。
命を救える薬を開発した薬剤師がいますが、製造費の10倍もの値段をつけています。
ハインツは必死にお金を集めましたが、半額しか用意できませんでした。

薬剤師に事情を説明して値引きを頼みましたが、「自分が儲けるために作った薬だ」と断られてしまいます。
追い詰められたハインツは、夜中に薬局に忍び込み、薬を盗みました。

ハインツの行動は、正しかったのでしょうか?

コールバーグは、この問題への回答の「理由」に注目しました。
「盗むと捕まるから悪い」という人と、「法律より命が大切だから正しい」という人では、道徳性の発達段階が異なるという考え方です。

この研究は、子どもから大人への道徳観の成長を6段階で説明する理論につながりました。


経済学・ゲーム理論のジレンマ

囚人のジレンマ

ゲーム理論で最も有名な概念のひとつです。

2人の共犯者が逮捕され、別々の部屋で取り調べを受けています。
警察は2人にこんな取引を持ちかけました。

  • 2人とも黙秘 → 2人とも懲役2年
  • 2人とも自白 → 2人とも懲役5年
  • 1人が自白、1人が黙秘 → 自白した方は釈放、黙秘した方は懲役10年

2人にとって最善の結果は「2人とも黙秘」で、合計4年の刑で済みます。
でも、自分だけの利益を考えると「自白」を選んでしまう。

「お互いに協力すればみんな得をするのに、自己利益を追求するとみんな損をする」

これが囚人のジレンマの本質です。
国際関係や環境問題、ビジネスの競争など、現実社会のあらゆる場面に当てはまる構造なんですね。


イノベーションのジレンマ

ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が1997年に提唱した概念です。

成功している大企業が、なぜ新興企業に負けてしまうのか?

大企業は既存の顧客を大切にするあまり、最初は小さな市場しかない「破壊的イノベーション」を軽視してしまいます。
その間に新興企業が新技術を磨き上げ、気づいたときには市場を奪われている——

「今の顧客の声を聞くこと」が、「将来の顧客を逃すこと」につながる。

優良企業であればあるほど陥りやすい、皮肉なジレンマです。


共有地の悲劇

1968年に生態学者ギャレット・ハーディンが発表した概念です。

みんなで共有している牧草地があるとします。
各牧場主は「自分だけもう1頭増やしても大丈夫だろう」と考えます。
でも全員がそう考えると、牧草地は荒廃してしまう。

個人の合理的な行動が、全体の破滅につながる。

環境問題、漁業資源の枯渇、公共サービスの過剰利用など、現代社会の多くの問題がこの構造を持っています。


人間関係・心理のジレンマ

ヤマアラシのジレンマ(ハリネズミのジレンマ)

ドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーが19世紀に語った寓話です。

寒い冬の日、ヤマアラシたちは暖を取るために身を寄せ合おうとします。
でも、近づきすぎるとお互いのトゲで傷つけてしまう。
かといって離れすぎると寒い。

近づきたいけど、近づきすぎると傷つく。

この寓話は人間関係の縮図として、心理学でよく引用されます。
友人関係、恋愛関係、職場の人間関係——適切な距離感を見つけることの難しさを表しています。

アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』でも「ハリネズミのジレンマ」として登場し、日本でも広く知られるようになりました。


有名なジレンマ一覧表

名前分野概要提唱者・出典
トロッコ問題哲学・倫理学5人を救うために1人を犠牲にしていいかフィリッパ・フット(1967年)
テセウスの船哲学全部品を交換した船は同じ船かプルタルコス(紀元1世紀頃)
ソフィーの選択文学・倫理学2人の子どものうち1人を選ぶ残酷な選択ウィリアム・スタイロン(1979年)
ハインツのジレンマ心理学妻を救うために薬を盗むのは正しいかローレンス・コールバーグ
囚人のジレンマゲーム理論協力と裏切りの最適解を問うメリル・フラッドとメルビン・ドレシャー(1950年)
イノベーションのジレンマ経営学成功企業が破壊的イノベーションに負ける理由クレイトン・クリステンセン(1997年)
共有地の悲劇経済学・環境学個人の合理的行動が共有資源を枯渇させるギャレット・ハーディン(1968年)
ヤマアラシのジレンマ心理学近づきたいけど近づきすぎると傷つく関係アルトゥル・ショーペンハウアー(19世紀)
寛容のパラドックス政治哲学不寛容な者に対しても寛容であるべきかカール・ポパー(1945年)
経験マシン哲学完璧な幸福を体験できる機械に入るかロバート・ノージック(1974年)
オメラスのジレンマ文学・倫理学1人の子どもの犠牲で成り立つユートピアアーシュラ・K・ル=グウィン(1973年)
救命ボートの倫理倫理学限られた資源を誰に分配するかギャレット・ハーディン(1974年)
安全保障のジレンマ国際政治学自国の安全追求が他国の脅威になるジョン・ハーツ(1950年)
二重結果の原則倫理学意図した害と予見された害の道徳的違いトマス・アクィナス(13世紀)

まとめ

  • ジレンマとは、どちらを選んでも何らかの不利益が生じる二者択一の状況
  • 哲学、心理学、経済学など、さまざまな分野で有名なジレンマが研究されている
  • 「正解」を出すことより、なぜ人は迷うのかを考えるプロセスに価値がある
  • トロッコ問題、囚人のジレンマ、テセウスの船などは、現代社会の問題を考えるヒントにもなる

ジレンマには明確な答えがありません。
でも、だからこそ面白い。

「自分ならどうするか」を考えることで、自分の価値観や判断基準が見えてきます。
ぜひ友人や家族と、これらのジレンマについて語り合ってみてください。
きっと、お互いの意外な一面が発見できるはずです。

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