「ADB」という言葉を聞いたことはありますか?
Android開発やカスタマイズに興味がある方なら、一度は目にしたことがあるかもしれません。
ADBは、パソコンからAndroidスマホやタブレットを操作できる強力なツールです。アプリのインストール、ファイル転送、デバッグ作業など、さまざまな操作が可能になります。
この記事では、ADBとは何か、何ができるのか、どうやって使うのかを、初心者の方にも分かりやすく解説します。
ADBとは?基本を理解しよう

ADB(エーディービー)は、Android Debug Bridge(アンドロイド デバッグ ブリッジ)の略称です。
ADBの定義
ADBは、パソコンとAndroid端末の間で通信を行うためのコマンドラインツールです。
コマンドラインとは、文字でコマンド(命令)を入力してパソコンやスマホを操作する方法のことです。マウスでクリックするのではなく、キーボードで「adb install アプリ名.apk」のように文字を打ち込んで操作します。
なぜ「Bridge(橋)」なのか?
名前に「Bridge(橋)」と付いているのは、パソコンとAndroid端末をつなぐ橋のような役割を果たすからです。
通常、Androidスマホはそれ単体で動作しますが、ADBを使うことで、パソコンから直接Android端末を操作できるようになるんです。
ADBはどこに含まれている?
ADBは、Android SDK(Software Development Kit)という開発ツールセットに含まれています。
具体的には、Platform-Toolsというフォルダの中に入っています。Android Studioをインストールすると、自動的にADBも使えるようになります。
ADBの3つの構成要素
ADBは、以下の3つの主要コンポーネント(部品)で構成されています。
1. クライアント(Client)
クライアントは、パソコン上で動作するプログラムです。
あなたがコマンドを入力すると、クライアントがそのコマンドを受け取って、サーバーに送信します。
動作場所: パソコン(開発マシン)
2. サーバー(Server)
サーバーは、パソコンのバックグラウンド(裏側)で動作するプログラムです。
クライアントから受け取ったコマンドを、Android端末に中継する役割を果たします。
動作場所: パソコン(開発マシン)
使用ポート: ローカルTCPポート 5037
3. デーモン(Daemon / adbd)
デーモンは、Android端末側で動作するプログラムです。
サーバーから送られてきたコマンドを実際に実行します。
動作場所: Android端末(スマホ・タブレット)
正式名称: adbd(adb daemon)
3つの関係性
- あなたがパソコンでコマンドを入力
- クライアントがコマンドを受け取る
- サーバーがコマンドをAndroid端末に送信
- デーモンがAndroid端末でコマンドを実行
- 結果がサーバー経由でパソコンに返ってくる
この仕組みによって、パソコンからAndroid端末を操作できるんですね。
ADBでできること10選
ADBを使うと、通常の操作ではできないさまざまなことが可能になります。
1. アプリのインストール・アンインストール
APKファイル(Androidアプリのインストールファイル)を、パソコンから直接Android端末にインストールできます。
Google Playストアを経由せずに、開発中のアプリやテスト版アプリをインストールするのに便利です。
2. ファイルの転送
パソコンとAndroid端末の間で、ファイルを双方向に転送できます。
写真、動画、ドキュメントなど、どんなファイルでも転送可能です。
3. ログの取得
アプリの動作ログやシステムログを取得できます。
アプリがクラッシュ(強制終了)した時の原因を調べたり、バグを見つけたりするのに役立ちます。
4. スクリーンショットの撮影
コマンド一つで、Android端末の画面をキャプチャしてパソコンに保存できます。
5. 画面録画
Android端末の画面を動画で記録できます。
アプリの操作手順を説明する動画を作る時などに便利です。
6. シェルコマンドの実行
Android端末のシェル(コマンド入力環境)にアクセスして、Linuxコマンドを実行できます。
より高度な操作や、システム情報の取得が可能になります。
7. デバイス情報の確認
接続されているAndroid端末の一覧や、端末の詳細情報を確認できます。
8. システムアプリの無効化
通常は削除できないプリインストールアプリ(最初から入っているアプリ)を無効化できます。
注意: ただし、重要なシステムアプリを無効化すると、端末が正常に動作しなくなる可能性があるので注意が必要です。
9. 画面解像度の変更
Android端末の表示解像度を変更できます。
開発時に異なる解像度でのテストを行う際に使います。
10. バックアップとリストア
アプリのデータをバックアップしたり、復元したりできます。
ADBを使うための準備
ADBを使い始めるには、いくつかの準備が必要です。
パソコン側の準備
必要なもの
- パソコン(Windows、Mac、Linuxのいずれか)
- Android Studio または Platform-Tools
インストール方法
方法1: Android Studioをインストールする(推奨)
- Android Developers公式サイトにアクセス
- Android Studioをダウンロード
- インストール手順に従ってインストール
- 自動的にADBも使えるようになります
方法2: Platform-Toolsのみをインストールする
- Platform-Toolsダウンロードページにアクセス
- お使いのOS用のファイルをダウンロード
- ダウンロードしたファイルを解凍
- 環境変数にパスを追加(後述)
環境変数の設定(Windows)
ADBをどこからでも使えるようにするため、パスを通す必要があります。
手順
- 「システム環境変数の編集」を開く(検索バーで検索)
- 「環境変数」をクリック
- 「ユーザー環境変数」の「Path」を選択して「編集」
- 「新規」をクリック
- Platform-Toolsフォルダのパスを追加
- 標準的な場所:
C:\Users\(ユーザー名)\AppData\Local\Android\Sdk\platform-tools
- 「OK」で閉じる
パスが通っているか確認
コマンドプロンプト(Windowsの場合)またはターミナル(Macの場合)を開いて、以下のコマンドを入力してください。
adb version
バージョン情報が表示されれば、正しくインストールされています。
Android端末側の準備
開発者向けオプションを有効にする
手順
- 「設定」アプリを開く
- 「デバイス情報」または「端末情報」を開く
- 「ビルド番号」を7回連続でタップ
- 「これでデベロッパーになりました!」と表示される
機種によって場所が異なる場合があります。
- Pixel: 設定 → デバイス情報 → ビルド番号
- Galaxy: 設定 → 端末情報 → ソフトウェア情報 → ビルド番号
- Xperia: 設定 → システム → 端末情報 → ビルド番号
USBデバッグを有効にする
- 「設定」アプリを開く
- 「システム」→「詳細設定」→「開発者向けオプション」
(機種によっては「設定」直下に「開発者向けオプション」が表示される) - 「開発者向けオプション」をオンにする
- 「USBデバッグ」をオンにする
- 確認ダイアログで「OK」をタップ
ADBの接続方法
ADBでAndroid端末に接続する方法は2つあります。
方法1: USBケーブルで接続(基本)
最も一般的で確実な方法です。
手順
- USBケーブルでパソコンとAndroid端末を接続
- Android端末に「USBデバッグを許可しますか?」と表示される
- 「このコンピューターを常に許可」にチェック
- 「許可」または「OK」をタップ
- パソコンで以下のコマンドを実行
adb devices
- 接続されている端末が表示されればOK
表示例
List of devices attached
AB1234CDEF device
「AB1234CDEF」のような文字列がシリアル番号です。
方法2: Wi-Fi(ワイヤレス)で接続
Android 11以降では、USBケーブルなしでワイヤレス接続できます。
前提条件
- Android 11(APIレベル30)以降
- パソコンとAndroid端末が同じWi-Fiネットワークに接続されている
手順(ペアリング)
- Android端末で「開発者向けオプション」を開く
- 「ワイヤレスデバッグ」をオンにする
- 「ワイヤレスデバッグ」をタップ
- 「ペア設定コードによるデバイスのペア設定」をタップ
- 表示される「ペアリングコード」と「IPアドレス:ポート番号」をメモ
- パソコンで以下のコマンドを実行
adb pair IPアドレス:ポート番号
例:
adb pair 192.168.1.100:12345
- ペアリングコードを入力
- ペアリング完了
接続する
ペアリング後は、以下のコマンドで接続できます。
- Android端末の「ワイヤレスデバッグ」画面に表示されている「IPアドレスとポート」を確認
- 「ペアリングコード」画面とは別のポート番号です
- パソコンで以下のコマンドを実行
adb connect IPアドレス:ポート番号
例:
adb connect 192.168.1.100:5555
- 接続されたことを確認
adb devices
よく使うADBコマンド一覧

ここでは、実際によく使われるADBコマンドを紹介します。
デバイスの確認
adb devices
接続されているAndroid端末の一覧を表示します。
アプリのインストール
adb install アプリ名.apk
APKファイルをAndroid端末にインストールします。
例
adb install MyApp.apk
既存アプリを上書きしてインストール
adb install -r MyApp.apk
アプリのアンインストール
adb uninstall パッケージ名
例
adb uninstall com.example.myapp
ファイルをAndroid端末に送る
adb push パソコン側のパス Android端末側のパス
例
adb push photo.jpg /sdcard/Pictures/
ファイルをパソコンに取得
adb pull Android端末側のパス パソコン側のパス
例
adb pull /sdcard/Pictures/photo.jpg ./
./ は現在のフォルダを意味します。
スクリーンショットを撮る
Android端末に保存
adb shell screencap /sdcard/screenshot.png
パソコンに直接保存
adb shell screencap /sdcard/screenshot.png
adb pull /sdcard/screenshot.png ./
画面を録画する
adb shell screenrecord /sdcard/video.mp4
録画を止めるには、Ctrl+C を押します。
録画時間を指定(秒単位)
adb shell screenrecord --time-limit 30 /sdcard/video.mp4
30秒間録画します。
ログを表示する
adb logcat
リアルタイムでログが表示され続けます。止めるには Ctrl+C を押します。
特定のアプリのログだけ表示
adb logcat | grep アプリ名
シェルに入る
adb shell
Android端末のシェル(コマンド実行環境)に入ります。
シェル内では、Linuxコマンドが使えます。
シェルから抜ける
exit
端末を再起動する
adb reboot
Android端末を再起動します。
リカバリーモードで再起動
adb reboot recovery
ブートローダーモードで再起動
adb reboot bootloader
システムアプリを無効化する
adb shell pm disable-user --user 0 パッケージ名
例
adb shell pm disable-user --user 0 com.example.bloatware
注意: 重要なシステムアプリを無効化すると、端末が正常に動作しなくなる可能性があります。
無効化したアプリを有効化する
adb shell pm enable パッケージ名
ADBサーバーを再起動する
adb kill-server
adb start-server
接続がうまくいかない時に試すと解決することがあります。
複数のAndroid端末を接続している場合
複数のAndroid端末やエミュレータを同時に接続している場合、どの端末に対してコマンドを実行するか指定する必要があります。
端末を指定する方法
シリアル番号で指定
adb -s シリアル番号 コマンド
例
adb -s AB1234CDEF install MyApp.apk
シリアル番号は adb devices で確認できます。
USB接続の端末を指定
adb -d コマンド
エミュレータを指定
adb -e コマンド
ADBを使う際の注意点
セキュリティ上の注意
- USBデバッグは使わない時はオフにする
- USBデバッグをオンにしたままだと、悪意のあるアプリがデバッグ機能を悪用する可能性があります
- 信頼できないパソコンに接続しない
- 公共の場所にあるパソコンなど、信頼できないパソコンにUSBデバッグで接続するのは避けましょう
- RSAキーの指紋を確認する
- 初めて接続するパソコンの場合、RSAキーの指紋が表示されます
- 信頼できるパソコンであることを確認してから「許可」してください
トラブルシューティング
「adb: command not found」と表示される
原因: ADBのパスが通っていない
解決方法
- 環境変数の設定を確認
- コマンドプロンプト/ターミナルを再起動
- Platform-Toolsフォルダに移動してからコマンドを実行
「no devices/emulators found」と表示される
原因: Android端末が認識されていない
解決方法
- USBケーブルを抜き差しする
- USBデバッグが有効になっているか確認
- USBデバッグの許可ダイアログで「許可」を押したか確認
- 別のUSBポートを試す
- ADBサーバーを再起動(
adb kill-server→adb start-server)
「device unauthorized」と表示される
原因: USBデバッグの許可をしていない
解決方法
- Android端末の画面を確認
- 「USBデバッグを許可しますか?」のダイアログが表示されているはず
- 「許可」または「OK」をタップ
「???????????? no permissions」と表示される(Linux/Mac)
原因: ADBサーバーが適切な権限で起動していない
解決方法
adb kill-server
sudo adb start-server
ADBの活用シーン
開発者向け
- アプリのデバッグとテスト
- 開発中のアプリを実機にインストール
- ログを取得してバグを調査
- 自動テストの実行
一般ユーザー向け
- 不要なプリインストールアプリの無効化
- スクリーンショットや画面録画の取得
- ファイルのバックアップ
- 画面が壊れた端末からデータを取り出す
IT管理者向け
- 企業で使用する端末の一括設定
- アプリの一括インストール
- ログ収集と問題診断
- テスト自動化
よくある質問
Q1: ADBを使うとroot権限が必要ですか?
いいえ、基本的なADB機能の使用にroot権限は必要ありません。
ただし、一部の高度な操作(システムファイルの変更など)にはroot権限が必要な場合があります。
Q2: ADBは安全ですか?
正しく使えば安全です。
ただし、USBデバッグをオンにしたままにしたり、信頼できないパソコンに接続したりすると、セキュリティリスクがあります。
使わない時はUSBデバッグをオフにすることをおすすめします。
Q3: iPhoneでもADBは使えますか?
いいえ、ADBはAndroid専用のツールです。
iPhoneやiPadでは使えません。iOSには別のツール(Xcodeなど)があります。
Q4: ADBでAndroid端末が壊れることはありますか?
基本的なコマンドを使う分には、端末が壊れることはありません。
ただし、システムファイルを削除したり、重要なシステムアプリを無効化したりすると、端末が正常に動作しなくなる可能性があります。
よく分からないコマンドは実行しないようにしましょう。
Q5: Wi-Fi接続とUSB接続、どちらが良いですか?
USB接続のメリット:
- 安定している
- 速度が速い
- 設定が簡単
Wi-Fi接続のメリット:
- ケーブル不要で便利
- 物理的な距離があっても使える
- 複数の端末を同時に接続しやすい
初心者の方は、まずUSB接続から始めることをおすすめします。
Q6: ADBコマンドが失敗した時はどうすればいいですか?
- エラーメッセージをよく読む
- 端末が正しく接続されているか確認(
adb devices) - コマンドの入力ミスがないか確認
- ADBサーバーを再起動してみる
- 端末を再接続してみる
Q7: Android Studioをインストールしたくない場合は?
Platform-Toolsのみをダウンロードすることで、Android StudioなしでもADBを使えます。
ファイルサイズも小さく、インストールも簡単です。
まとめ: ADBは開発からカスタマイズまで幅広く使える便利ツール
この記事では、ADB(Android Debug Bridge)について詳しく解説してきました。
重要ポイントのおさらい
- ADBとは: パソコンとAndroid端末を接続して操作するコマンドラインツール
- 構成要素: クライアント、サーバー、デーモンの3つで構成
- 主な用途: アプリのインストール、ファイル転送、ログ取得、スクリーンショット、画面録画など
- 接続方法: USBケーブルまたはWi-Fi(ワイヤレス)
- 必要な準備: パソコン側にPlatform-Tools、Android側でUSBデバッグを有効化
ADBを使うメリット
- 開発中のアプリを簡単にテストできる
- 通常の操作では削除できないアプリを無効化できる
- パソコンからAndroid端末を効率的に操作できる
- 画面が壊れた端末からデータを救出できる
- 自動化やバッチ処理が可能になる
安全に使うためのポイント
- 使わない時はUSBデバッグをオフにする
- 信頼できるパソコンのみに接続する
- よく分からないコマンドは実行しない
- 重要なシステムアプリを無効化しない
ADBは、最初は難しく感じるかもしれませんが、基本的なコマンドを覚えれば、とても便利に使えるツールです。
Android開発者だけでなく、一般ユーザーでも、不要なアプリの無効化や画面録画など、実用的な場面で活用できます。
まずは adb devices で端末が認識されるか確認することから始めて、少しずつできることを増やしていきましょう。
この記事が、ADBを使い始める第一歩のお役に立てれば幸いです!

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